第 3 章 中国における豚肉生産の拡大が飼料用トウモロコシ需要に及ぼす影響
第 2 節 中国における養豚生産構造と飼料構造
1. 養豚の生産構造
中国の養豚業は、経営規模によって零細な養豚農家と大規模経営養豚農家に分けられる。
また、経営形態別によって大規模経営養豚農家を専業養豚農家と商業的大規模養豚経営に
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分けることができる。具体的には、零細な養豚農家は、年間出荷頭数が50頭以下の養豚農 家を指しており、穀物や油糧作物を耕作しながら副業として養豚を行い、家禽、牛、羊な どの畜種も飼育する自家労働型農家である。こうした養豚農家は動物性栄養源や有機肥料 源の自給など、家計補充的な性格を持っている。専業養豚農家は、年間出荷頭数が50頭以 上~10,000頭以下の養豚農家を指す。こうした養豚農家は養豚を主たる収入源にしており、
零細な養豚農家より品質の良い赤身の豚肉を提供する。商業的大規模養豚経営は、年間
10,000頭以上出荷する企業経営的な養豚農家を指す。こうした商業的大規模な養豚農家は、
大都市近郊に多く存在しており、良質の赤身の豚肉を提供する26。
表3-1は、中国における規模別養豚経営の戸数の推移を示しているが、依然として零細 な養豚農家の数が9割以上を占めている。
表 3-1 中国における規模別養豚経営の戸数の推移(単位:1,000戸)
1~49頭 50~9,999頭 10,000頭~ Total
2002 104,332,671 99% 1,033,953 1% 890 0% 105,367,514 2003 106,779,375 99% 1,137,677 1% 941 0% 107,917,993 2007 80,104,750 97% 2,242,447 3% 1,853 0% 82,349,050 2008 69,960,452 97% 2,418,877 3% 2,501 0% 72,381,830 2009 64,599,143 96% 2,534,861 4% 3,179 0% 67,137,183 2010 59,086,923 96% 2,644,738 4% 3,679 0% 61,735,340 資料:中国牧畜業年鑑(2003-2011)
その一方で、図3-1は、中国における規模別養豚経営の年間出荷頭数の推移を示してい る。これによると、2003年を境に、零細な養豚農家による年間出荷頭数は急激に減少する 一方、大規模経営が増加している。その理由として、出稼ぎ農村労働人口の増加による低 賃金労働力の増加や穀物飼料の長期間にわたる価格高騰に伴う収益減、消費者の食生活の
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高度化による高品質の豚肉需要拡大などが挙げられる。さらに、年間数万頭出荷する商業 的な大規模養豚経営も近年増えている27。しかし、依然として零細な養豚農家による出荷 が半分以上を占めており、零細な養豚経営が中国の養豚業を支えていることに注意する必 要がある。
図 3-1 中国における規模別養豚経営の年間出荷頭数の推移 資料:中国統計年鑑(2012)、中国畜牧業年鑑(1999-2011)
中国の畜産物の産地はトウモロコシの産地と必ずしも一致していない(表 3-2)。トウ モロコシの主産地である吉林省と黒龍江省における豚肉生産量の割合は非常に低く、10%
に至っていない。山東省における豚肉生産量の割合は他の4省に比べると高いが、それも 10%前後で動いている。こうした畜産物とトウモロコシの産地が異なっていることから、
中国の養豚業において、飼料資源の利用と豚肉生産の効率などの問題が指摘される。
0 100 200 300 400 500 600 700 800
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 商業的養豚(10,000頭以上) 専業養豚(50~9,999頭) 零細養豚(~50頭) 百万頭
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表 3-2 中国における豚肉の地域別生産量の推移(単位:1,000トン)
吉林省 黒龍江省 山東省 河南省 河北省 総生産量 1993 483 2% 543 2% 2,027 7% 1,376 5% 1,366 5% 28,544 1994 618 2% 656 2% 2,239 7% 1,658 5% 1,641 5% 32,048 1995 773 2% 801 2% 2,677 7% 2,104 6% 1,874 5% 36,484 1996 510 2% 711 2% 1,565 5% 2,256 7% 1,870 6% 31,580 1997 1,107 3% 741 2% 2,389 7% 2,561 7% 2,003 6% 35,963 1998 1,172 3% 835 2% 2,666 7% 2,979 8% 2,191 6% 38,837 1999 1,217 3% 890 2% 2,725 7% 3,140 8% 2,265 6% 40,056 2000 955 2% 871 2% 2,859 7% 3,229 8% 2,428 6% 39,660 2001 686 2% 731 2% 2,987 7% 3,438 8% 2,603 6% 40,517 2002 756 2% 824 2% 3,148 8% 3,665 9% 2,652 6% 41,231 2003 845 2% 856 2% 3,326 8% 3,860 9% 2,903 7% 42,386 2004 985 2% 939 2% 3,464 8% 4,103 9% 3,134 7% 43,410 2005 1,082 2% 1,004 2% 3,671 8% 4,408 10% 3,374 7% 45,553 2006 1,094 2% 995 2% 3,618 8% 3,913 8% 2,468 5% 46,505 2007 964 2% 921 2% 3,001 7% 3,390 8% 2,255 5% 42,878 2008 1,046 2% 966 2% 3,213 7% 3,671 8% 2,458 5% 46,205 資料:新中国農業60年統計資料(1949~2009)
2. 経営規模別飼料の利用構造
豚の飼料は、栄養成分によって大きくエネルギー飼料とタンパク質飼料に分けられる[趙 克斌(2006)]。エネルギー飼料は穀物で構成されており、中国で用いられるエネルギー飼 料の主なものはトウモロコシとコムギ、高粱などで、タンパク質飼料の主なものはダイズ
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粕と魚粉である。表3-3は、中国における100g当たりの飼料別栄養成分を示しているが、
炭水化物がエネルギーの成分であり、一番高いのがトウモロコシで、次がコムギである。
トウモロコシとコムギの成分はほぼ似ているが、コムギは消化効率が悪いので、その代替 効果は畜種ごとに限界がある[中国花生信息網(2011)]。タンパク質の中で一番多いのが 魚粉であるが、中国では半分以上を中南米から輸入しており、ダイズ粕よりコストが高い ため、ダイズ粕の代替財として利用している[中国農博網(2006)]。一般に、豚の配合飼 料はタンパク質飼料が20~35%、エネルギー飼料は50~70%という割合で構成されているが
28、飼料原料の価格や豚の月齢、雌雄、育成段階、季節、気候などの要因によって多少異 なる。また、機能によって大きく配合飼料、濃厚飼料、添加剤混合飼料に分けられる29。
表 3-3 100g当たりの飼料別栄養成分表
トウモロコシ コムギ 高粱 ダイズ粕 魚粉 タンパク質 7.1 11.2 10.4 42.6 59.0 炭水化物 73.0 71.5 70.4 30.2 -
脂肪 3.3 1.5 3.1 2.1 12.5
水分 10.1 12.7 10.3 11.5 10.0
繊維 5.4 2.1 4.3 7.6 -
その他 1.1 1.0 1.5 6.0 18.5
エネルギー 341 344 351 310 300 資料:佟屏亜(2003)、中国農博網(2006)、中国食物成分表(2010)
注:エネルギーの単位はkCalで、それ以外はgである。
胡浩他(1997)は中国江蘇省塩城市における67戸の養豚農家に対して現地調査を行った。
67戸のうち、飼育頭数が10頭以下である養豚農家が62戸、平均飼育頭数は3.7頭、1頭 当たり穀物給与量(ほぼ大麦である)は 116.0kg であった。なお、全調査農家のうち、配
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合飼料を購入する農家はわずか7戸で、1頭当たり給与量は11.4kgであり、主に子豚と肥 育豚の補充飼料として使われている。また、ほとんどの養豚農家では配合飼料を買わずに、
自家産大麦、糠、家庭残滓、草、野菜などを飼料として使用していることが示された。Zhang
(1998)は中国の養豚業は零細な庭先養豚農家が8割以上で、イモ類の茎、穀物残渣、食 卓残滓、青刈飼料などを主な飼料として使い、配合飼料や濃厚飼料はサプリメントとして 利用していると述べている。王醒男他(2000)は中国の食糧主産地である吉林省の38戸農 家養豚農家を対象とし考察を行ったが、38戸の中で1~3頭母豚を持つ繁殖農家が20戸、
繁殖と肥育農家が 13戸、4~10頭の肥育豚を持つ飼育農家が5戸という構造で、彼らが養 豚をする目的としては副業とした販売目的が第1位、余剰食糧や生活残滓を利用する目的 が第2位であった。王奎(2010)30は零細な養豚農家は数の上で9割以上を占めており、
自家産青刈飼料を主に用いる一方、配合飼料は補助用として利用していることを明らかに した。また、こうした農家は、油糧作物や穀物を耕作しながら少量の家禽・牛・羊など畜 種も飼育していると記している。
一方で、長瀬誠他(2001)は、中国の養豚業では 94%が飼育頭数 10 頭以下の伝統的な 小規模経営であり、そこでの飼料は、飼料用野菜、イモ、残飯などが主体となっている。
一方で、年間出荷規模が数百から数千頭を超える中・大規模養豚経営では、ほぼすべてが 配合飼料によって賄われている。清水徹朗(2011)は、中国には農家による零細な畜産経 営も多くあるが、大規模な畜産経営が徐々に増加しつつあり(養豚では大規模経営の生産 割合が 4~5 割を占める)、この傾向はさらに進む見込みであるとしている。また、小規模 な畜産農家は自家飼料を使うことが多いが、大規模畜産では配合飼料に依存する割合が高 く、大規模畜産の拡大や家禽生産の増大に伴って配合飼料需要が急増していると記してい る。日本農畜産業振興機構(2012)は、中国の広東省と四川省において年間数百以上出荷 する専業養豚農家と数万頭を出荷する商業的大規模養豚経営に対して聞き取り調査を行っ た。こうした養豚農家は配合飼料のみを使用しており、衛生面の管理や糞尿処理施設を備 えることで、高品質の豚肉の提供を心掛けている。
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このように経営規模の相違によって飼料のやり方は大きく異なっており、経営形態の違 いを無視して飼料用トウモロコシの需要量を見通すことは、実態との違いをもたらしかね ない。従って、中国の飼料用トウモロコシの需要を究明するには、養豚業の経営規模を考 慮に入れることが重要である。以下では、養豚農家の中でも配合飼料の依存度が高い大規 模養豚経営におけるトウモロコシ需要量について考察を行う。これより、今後零細農家の 減少と大規模農家の増加が見込まれる中、トウモロコシの需要がどの程度増加するのかを より正確に把握できると思われるからである。