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世代跳躍移転税

ドキュメント内 米国における富の移転課税(2・完) (ページ 36-101)

 遺産税および贈与税は、富の所有者、あるいは富の所有権を他者に対して 合理的に帰属させた者によって行われた富の無償の移転に適用される。例え ば、信託財産の所有あるいは信託財産の享受を他の者に帰属させた状態で、

既存の信託から受益者への分配(distribution)の際、信託の終了もしくは 信託受益者の利益の終了(termination)の時に生じる単なる利益の変更に、

遺産税および贈与税は適用されない。それゆえ、長年にわたり、富の移転に 関して、多くのエステートプランナーは、それらの税を回避する目的で、信

税務執行面の困難さから、この一定期間が設定されている(米山・前掲注(258)100-101 頁、宮脇・前掲注(258)487-489頁)。一方、米国において、贈与税は生涯累積課税であり、

その上で、遺産税法で、死亡前3年以内の贈与に関する規定が制定されている。よって、

わが国における生前贈与加算の規定の趣旨が、一定期間累積課税であるとするならば、こ の規定は、米国遺産税法上の3年規定とは性格を異にするものといえるであろう。平成15 年、わが国において、相続時精算課税制度が導入された(相税21条の9から21条の18)。

この制度では、特別控除(2,500万円)を超える贈与があった場合、その超過分に対して 20%の一定税率で贈与税を暦年単位で納付することになる。この制度の適用期間は、一生 涯とされる。この制度の下、贈与者が死亡した際、この制度の下で行われた贈与の総額は、

受贈者が取得した財産として、被相続人の総遺産に加算される。この制度では、贈与税は、

暦年で納付したことになるが、最終的に相続税として課税され、精算されることになる。

これは、適用期間が、一生涯であること、また、贈与者の死亡時に相続税で精算されるこ と等により、一生涯累積課税としての性格を有するという見解もある(岩佐・前掲注(258)

408頁)。

託またはそれと同等の手法を利用してきた(755)。そこで用いられた手法は、遺産 税および贈与税では捕えることのできない、世代を跳躍した財産の移転

(generation–skipping transfer)であった(756)。この代表的な例が、永続信託

(perpetual trust)である。永続信託は、財産が、世代から世代へ移転する 信託である。信託設定後、信託所得と元本の一部は、譲渡者の子の生涯にわ たり与えられる。子の死亡後は、譲渡者の2世代下の孫に対し、生涯の間、

信託所得および元本の一部が与えられる。このような財産の移転が、信託元 本が枯渇するまで、あるいは州法で定められた永久拘束禁止則(rule

against perpetuate)

(757)の下で許容される期間まで繰り返されることになる(758)。  このような背景の下、1976年の税制改正で、議会は、信託および信託と 同等の手段からの利益の終了および分配を含む世代跳躍移転に対し税を課す こととした(759)。この当時の課税の対象となる世代跳躍移転とは、信託譲渡者よ

(755) Plant and Wintriss, supra note 161, at 271 ; Ira M. Bloom, Transfer Tax Avoidance: The Impact of Perpetuities Restrictions Before and After Generation–Skipping Taxation, 45 ALB. L. REV. 261 (1981); Gilbert P. Verbit, Annals of Tax Reform: The Generation–Skipping Transfer, 25 UCLA. L. REV. 700 (1978); RICHARD B. COVEY, GENERATION–SKIPPING TRANSFERS IN

TRUST 1 (1976); Reonald Levin and Michael Mulroney, The Rule Against Perpetuities and The Generation–Skipping Tax: Do We Need Both?, 35 BILL. L. REV. 333 (1990); Ira M.

Bloom, The Generation–Skipping Loophole: Narrowed, But Not Closed, By The Tax Reform Act of 1976, 53 WASH. L. REV. 31 (1977).

(756)CAROL A. HARRINGTON, GENERATION–SKIPPING TRANSFER TAX, BNA Tax Mgmt. No. 850-2d (2010).

(757)米国における永久拘束禁止則は、州法で定められており、州によってはこの規定が存在 しない州もある。そのような州で信託を設定すると無制限の期間、遺産税および贈与税が 課されることはなかった。

(758)Grayson M. P. McCouch, Who Killed Rule Against Perpetuities ?, 40 PEPP. L. REV. 1291, 1294 (2013); Ira M. Bloom, The GST Tax Tail Is Killing the Rule Against Perpetuities, 87 TAX NOTES 569 (2000); Jesse Dukeminier and James E. Krier, The Rise of the Perpetual Trust, 50 UCLA. L. REV. 1303 (2003); Max M. Schanzenbach and Robert H. Sitkoff, Perpetuities or Taxes? Explaining The Rise of the Perpetual Trust, 27 CARDOZO. L. REV. 2465 (2006); Robert H. Sitkoff and Max M. Schanzenbach, Jurisdictional Competition for Trust Funds: An Empirical Analysis of Perpetuities and Taxes, 115 YALE L. J. 356 (2005); Mary Louisefellows, Why the Generation–Skipping Transfer Tax Sparked Perpetual Trusts, 27 CARDOZO. L. REV. 2511 (2006). 1986年、GSTの改正が行われた後、永久拘束禁止 則を廃止する州が増加した。永久拘束禁止則と世代跳躍移転税との関係は、現在もなお、

課題が残されている。

(759)BITTKERAND LOKKEN, supra note 127,¶133.1. 本稿第1章参照。

りも、少なくとも2世代以上若い受益者に移転されるものをいうと定義され ていた。要するに、孫およびそれより若い世代に対する富の移転のみが、世 代跳躍移転税の対象とされていた。その後、1986年の税制改正で、その課 税の適用範囲が拡大された(760)。信託譲渡者よりも若い世代の直系卑属への跳躍 移転に加え、信託譲渡者の配偶者の祖父母の世代からみた直系卑属の世代も、

世代跳躍移転の範囲に含まれた。例えば、譲渡者が、配偶者の兄弟の孫およ びそれより若い世代に財産を移転することは、世代跳躍移転である。また、

譲渡者が配偶者の従妹の孫およびそれより若い世代に財産を移転すること も、世代跳躍移転となる。この改正により、配偶者の祖父母を基準とした直 系卑属の世代を含むことによって、譲渡者の祖先系統以外の譲渡者とは血縁 のない範囲まで、その移転の対象は拡張されたことになる。また、課税終了 および課税分配に加え、新たに直接スキップ(direct skip)による世代移転 も世代跳躍移転税の課税対象となった(761)

 その後、2012年のアメリカ納税者救済法(American Taxpayer Relief Act

of 2012

(762))で、世代跳躍移転税は、遺産税および贈与税と統一化されること になる。この改正で、世代跳躍移転税、遺産税および贈与税の税率は、一律 40%と同じ税率となった。また、インフレーションで調整された基礎控除額 が、世代跳躍、遺産税および贈与税を合わせて、525万ドルに設定された。

このように、富の移転に関わる3つの税は、税率および基礎控除の取扱いに 対して、事実上、統一化されたこととなる。また、2012年の改正で、2010

(763)

に制定された配偶者間のポータビリティー制度(DSUE)(764)が恒久化された。

(760)Tax Reform Act of 1986, Pub. L. No. 99-514.§1433(a), 100 Stat. 2085, 2731 (1986); HOUSE REPORT 3838, 99th Cong., Pub. L. 99-514, General Explanation of the Tax Reform Act of 1986 (May 4, 1987); Plant and Wintriss, supra note 161, at 264.

(761)ADAMESAND SMITH, supra note 259,¶13.02 [4][a].

(762)Pub.L. 112-240, 126 Stat. 2313 (2013).

(763)Tax Relief, Unemployment Insurance Reauthorization, and Job Creation Act of 2010, supra note 188.

(764)I.R.C.§2010(c). 本稿第2章第3節参照。

これにより、婚姻関係にある者は、遺産税および贈与税を合わせて、最大で、

1,050万ドルの基礎控除を利用することができる。ただし、現時点で、この ポータビリティー制度は、世代跳躍移転税には適用されない。

 本章では、現行の世代跳躍移転税について概観する(765)

第1節 用語の定義

 世代跳躍移転税法で用いられる用語の定義は、所得税法とは異なり、また 他の移転税法である遺産税および贈与税とも異なる(766)。そこで、本節では、主 な用語の定義について検討する。

1 譲渡者

 世代跳躍移転税は、遺産税あるいは贈与税の課税対象となる移転に対して 適用される。また、それら移転の基となる設定された信託上の権利の変更に 対しても世代跳躍移転税が適用される。「譲渡者(transferor)」は、財産の 移転が遺産税の課税対象となるのであれば、それは故人(decedent)となり、

また、贈与税の課税対象となるのであれば提供者(donor)となる(767)。内国歳

(765)渋谷雅弘「相続税・贈与税の一体化課税の是非」税研151号48頁(2010年)。わが国には、

米国における世代跳躍移転税のような規定は存在しない。相続税法18条では、相続税額の 加算が規定されている。この規定によれば、相続または遺贈により財産を取得した者が、

被相続人の一親等の血族および配偶者以外の者である場合に、その算出税額に20%加算し た税額を納付することとしている。これは、孫への遺贈のように、財産の世代跳躍が行わ れたときに、相続税が1世代分跳躍してしまうことを調整するという趣旨等である。なお、

この2割加算制度は、贈与税には存在しない。わが国において、この税額加算の制度は、

世代跳躍移転による節税を制限している(渋谷・前掲注(109)1347頁)。とはいえ、この 規定は、1世代に1課税という課税理念によるものとはいえないであろう。なぜならば、

同額の財産を孫に遺贈したとしても、あるいはそれより下の世代に遺贈したとしても、そ こに生じる相続税の税額は、移転された世代に関係なく、全て同額となるからである。

(766)ADAMSAND SMITH, supra note 259,¶1.04.

(767)I.R.C.§2652 (a)(1); Treas. Reg.§26.2652-1 (a)(2). BITTKERAND LOKKEN, supra note 127,

¶133.2.2; ADAMESAND SMITH, supra note 259,¶17.02. 贈与税が実際に課されたか否かに関わ らず、贈与が完全な移転である場合には、提供者は譲渡者となる。

入法典2513条の下、夫婦が贈与分割を選択した場合、それぞれの配偶者は、

世代跳躍移転税の目的に関し、その贈与財産の半分に対して譲渡者となる(768)。  仮に、移転した財産が、故人または提供者以外の他の者の総遺産あるいは 課税贈与に含まれる場合、その者は、たとえ財産が実際に移転しなかったと しても、「譲渡者」であるとみなされる(769)。例えば、母親が、息子の生涯の間、

所得を支払い、息子の死亡後は息子の子(孫)の利益となるよう財産を信託 に遺贈したとする。また、その信託契約で、息子は遺言によって信託元本の 取得者を指名する一般指名権を与えられたものとする。この場合、息子によ る一般指名権の行使の有無に関わらず、内国歳入法典2041条の下、信託元 本は息子の総遺産に含まれることになる。息子がその権限を行使せず、信託 が息子の子(孫)の便益になるのであれば、この状況は、息子が実際に財産 を移転しなかったにも関わらず、息子は死亡の際、子に対する譲渡者である とみなされる。なお、この事例で息子が死亡した場合、世代跳躍移転税は生 じない。これは、2041条の下、息子は世代跳躍しない者である理由による。

これとは対照的に、息子が死亡の際に遺産税の課税対象とはならない特別指 名権を有していたのならば、母親は、息子の死亡後も、その財産についての 譲渡者であり続けることになる。息子が、自らのため、あるいは自分よりも 上の世代の者のために指名権を行使する場合を除き、息子の死亡によって課 税終了が生じ、その時において、信託元本は遺産税ではなく世代跳躍移転税 の課税対象となる(770)

 指名権は、権限保有者の生涯の間に失効する。この状況は、権限保有者の 生涯の間、行使されず失効する一般指名権の対象となる財産に対する課税に 影響を及ぼすことになる。そのような失効は、通常、権限の放棄として取り 扱われる。権限保有者は、権限を行使しなかった場合の受取人に対し、その

(768)I.R.C.§2652 (a)(2); Treas. Reg.§§26.2652-1 (a)(5), 26.2652-1 (a)(6) Ex. 2. 夫婦が、

§2513の下で贈与分割を選択し、孫に無条件で10万ドルを与えた場合、配偶者はそれぞれ 5万ドルを贈与した譲渡者となる。

(769)Treas. Reg.§26.2652-1 (a)(1).

(770)BITTKERAND LOKKEN, supra note 127,¶133.2.2.

ドキュメント内 米国における富の移転課税(2・完) (ページ 36-101)

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