• 配偶者特別控除:配偶者の年収が 103 万円から 141 万 円未満の場合,給与所得 ( 給与所得控除適用後の年収 ) が 1 千万円以下の納税者に適用.
所得税は 38 万円から控除額が 9 段階で減少
住民税は 33 万円から控除額が 9 段階で減少
30
配偶者控除と配偶者特別控除
31
Y:
配偶者の給与所得金額
E:
配偶者の所得金額
(給与所得控除後) 所得税 地方住民税所得割 配偶者控除
Y < 1,030 E < 380 380 330
配偶者特別控除
1,030 Y < 1,050 380 E < 400 380 330
1,050 Y < 1,100 400 E < 450 360 330
1,100 Y < 1,150 450 E < 500 310 310
1,150 Y < 1,200 500 E < 550 260 260
1,200 Y < 1,250 550 E < 600 210 210
1,250 Y < 1,300 600 E < 650 160 160
1,300 Y < 1,350 650 E < 700 110 110
1,350 Y < 1,400 700 E < 750 60 60
1,400 Y < 1,410 750 E < 760 30 30
1,410 Y 760 E 0 0
ポイント
①
配偶者の住民税の課税が始まる100
万円(住民税均等割と所得割で非課税 限度額が同一と仮定)←課税最低限②
配偶者の所得税の課税が始まる103
万円←配偶者控除ではなく課税最低限 の問題.③
配偶者特別控除の減額が始まる105
万円④
住民税の配偶者特別控除の減額が始まる110
万円⑤
社会保険料の自己負担が始まる130
万円(H28
に一部106
万円へ減額)⑥
配偶者特別控除が消滅する141
万円•
うち配偶者に対する控除の影響は,③,④,⑥(103
万円ではない!).•
配偶者が独自に社会保険料を負担し始める年収130
万円という金額のほう が重要.•
この所得水準は一部に対しては平成28
年から年収106
万円未満に引き下げ→さらなる就労抑制効果?
32
配偶者手当を給付する事業所の従業員数 の割合
配偶者手当の有無 比率 制限の有無 比率
[
制限あり]
内訳配偶者手当あり
69.1%
配偶者の収
入制限あり
58.7%
103
万円40.4%
130
万円15.1%
その他
3.2%
配偶者の収
入制限なし
10.4%
配偶者手当なし
30.9%
33
資料:人事院「平成27年職種別民間給与実態調査」等に基づく政府税制調査会配付資料より算出
世帯モデル
• 世帯の効用
• 夫の労働供給(と労働所得)は固定
• 妻の労働供給は可変
• 家計の予算制約
•
34
予算線への影響
35
36
家計の選択
37
配偶者控除の効果
• 配偶者控除の改正は「働き方改革」の柱として,
「女性の社会進出」を後押しし,「すべての女性が 輝く社会」を実現する狙いをもって進められてきた
.
• 配偶者控除が労働供給に与える限定的.
– 数量的に小さい
– 最低賃金付近での労働供給量の増加
• したがって,配偶者控除(と配偶者特別控除)の改 定は「女性の社会進出」や「すべての女性が輝く社 会」を実現するために貢献できるとは思えない.
38
配偶者控除の就業増に対する効果は小さ い
39
配偶者控除をなくすことで,
100
万円付近の分布の「こぶ」を均す→労働供給量が 増える→図から明らかなようにその量はたかがしれている?「パートタイム労働者総合実態調査」
40
就業調整の理由 割合
自分の所得税の非課税限度額(
103
万円)を超えると税金を支払わなければならないから
60.3
一定額を超えると配偶者の税制上の配偶者控除がなくなり,配偶者特別控除
が少なくなるから
37.7
一定額を超えると配偶者の会社の配偶者手当がもらえなくなるから
20.6
一定額(130
)万円を超えると配偶者の健康保険,厚生年金等の被扶養者からはずれ,自分で加入しなければならないから
49.3
労働時間が週の所定労働時間20
時間以上になると雇用保険に加入しなければならないから
2.8
正社員の所定労働時間の
3/4
以上になると健康保険,厚生年金等に加入しなければならないから
4.3
会社の都合により雇用保険,厚生年金等の加入要件に該当しないようにして
いるため
2.6
現在支給されている年金の減額率を抑える又は減額を避けるため
0.4
その他
6.2
「パートタイム労働者総合実態調査」
• 2010 年 6 月から 2011 年 5 月までの期間を 対象
• 就業調整をしていると答えた有配偶者女性 パート労働者が全労働者に占める割合 2.9%
.
• 全労働者の 2.9% を占める有配偶者の女性 パート労働者の 37.0% ,つまり,全労働者 の約 1% ( 0.29×0.37 )が配偶者控除の影 響を受けていることになる.
41
配偶者控除撤廃の効果
静学構造推定による behavioral simulation 結果
• 実際,配偶者控除に関する複数の研究( Akabayashi 2006 ,高橋 201 0 , Bessho and Hayashi 2014,
足立・金田2016 )では,現行の配偶者 控除が有配偶者女性の労働供給に与える部分は非常に限定的である と示されている .
• 配偶者控除の全廃による妻の労働供給増加 : 配偶者控除の全廃によっ て有配偶者女性の労働供給は増加するものの,その量は微少
– Akabayashi (2006): 1.91
~5.53%
–
高橋(2010): 0.7%
– Bessho and Hayashi (2014): 0.19%
–
足立・金田(2016): 0.64%
• Bessho and Hayashi (2014)
労働市場への参加に固定費用(労働時間にかかわらず勤労によって発生する金 銭的・時間的・心理的費用)が存在する場合,配偶者控除を全廃することで既 に働いている女性有配偶者が働くことを全く止める可能性.
42
配偶者控除および配偶者特別控除の改定
• 配偶者控除
– 適用基準となる控除対象配偶者(=従たる収入を得る配偶 者)の上限収入額は現行と同額のまま,納税者(=主たる収 入を得る配偶者)の収入により同控除を減額もしくは撤廃す る.
• 配偶者特別控除
– 配偶者控除と同額を保つ上限収入額(=配偶者特別控除が減 額を始める控除対象配偶者の収入額)が大きく増額される.
• 平成 30 年( 2018 年)分の所得から適用
– 所得税:平成 30 年( 2018 年)以降に適用
– 個人住民税:平成 31 年( 2019 年)以降に適用(個人住民税 は前年に発生した収入に基づいて課税)
43
納税者の所得により配偶者控除額は逓減 もしくは不適用
44
= 38 or 33
配偶者控除額(
万円)
配偶者控除と配偶者特別控除
控除対象配偶者の 収入
納税義務者の合計所得金額(Y)および給与収入*(M)
Y 900 900 < Y 950 950 < Y 1,000
S 1,120 1,120 < S 1,170 1,170 < S 1,220 合計所得金額
(E) 給与収入*
(S) 所得税 個人住民税
所得割 所得税 個人住民税
所得割 所得税 個人住民税 所得割 配偶
者 控除
E 38 S 103 38 33 26 22 13 11
配 偶 者特 別 控除
38 < E 85 103 < S 150 38
33 26
22 13
85 < E 90 150 < S 155 36 24 12 11
90 < E 95 155 < S 160 31 31 21 21 11
95 < E 100 160 < S 167 26 26 18 18 9 9
100 < E 105 167 < S 175 21 21 14 14 7 7
105 < E 110 175 < S 183 16 16 11 11 6 6
110 < E 115 183 < S 190 11 11 8 8 4 4
115 < E 120 190 < S 197 6 6 4 4 2 2
120 < E 123 197 < S 201 3 3 2 2 1 1
123 < E 201 < S 0 0 0 0 0 0
注: (1) *「給与収入」とは給与所得しか存在しない場合の給与所得控除前の収入を意味している. (2) 合計所得金額
45
1,000万円超(給与収入1,220万円超)の場合,配偶者控除は適用されない.
46
個人住民税所得割 所得税
105 (40)
110(45) 155
(90 )
評価
•
税収中立という制約を所与とすると,就業調整の緩和という観点からは実に理に 適った改定.•
もし配偶者控除や配偶者所得控除の仕組みにより100
万円付近で就業調整されて いるならば,当該閾値を150
万円付近にすることで,論理的には,100
万円付近 の就業調整を回避できる.もちろん150
万円付近で就業調整が起こる可能性はあ るが,その程度は100
万円付近の就業調整よりははるかに小さいと予測できる.•
配偶者特別控除の閾値を社会保険料の閾値(106
万円,130
万円)
より十分高くす ることによって,就業調整の責を税制から社会保険制度へ預けることになった.•
配偶者控除にかかる批判として「専業主婦の優遇」が喧伝されている.その是非 の判断には精査が必要だが,少なくとも今回の改正で高所得世帯の専業主婦は「優遇」されなくなった.つまり,所得制限が設けられることにより,個人所得 税制の再分配機能が強化されたとも評価できる.
47
評価 : 夫婦控除との関連
•
代替案として報道されていた「配偶者控除・配偶者特別控除の廃止」+「夫婦控除の創設」と比較しても,就業調整に関しての本質的な違いはな い.
•
夫婦控除は,世帯収入に制限がある限り,必ずしも就業調整問題の解決に はつながらない .•
全夫婦を対象とする夫婦控除の創設には多額の財源が必要とされる.した がって税収中立という制約の下では,今回の配偶者控除よりも厳しい収入 制限が必要である.•
例えば,控除の適用上限を世帯収入700
万円とし,夫の年収を600
万円と しよう.この場合,妻の収入が100
万円を超えると夫婦控除が適用されな くなる.となると,この妻が現行の配偶者控除のもとで就業調整している のであれば,この新しい夫婦控除のもとでも同様に就業調整を行う筈.48
評価 : 若干の懸念
• 大綱による「『 103 万円』という水準が企業の配偶者手当 制度等の支給基準に影響されている」( p.3 )との指摘に 関して,今回の改正は一貫性を欠いている.
• 配偶者控除の閾値を 103 万円から引き離すことで企業の配 偶者手当の支給基準に影響を与えるという意図が推測され る.
• しかし,今回改正されたのは,配偶者控除の閾値ではなく 配偶者特別控除減額の閾値である.前者は現行の 103 万円 のまま変更されていないから,配偶者控除が重要ならば,
今回の改正が企業の配偶者手当に影響を与えることは難し いかもしれない.
49
貯蓄
課税と経済主体の反応
50