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ドキュメント内 兵庫北部に分布するブナ林の動態 (ページ 37-55)

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 一方,当年生実生とギャップとの関連は,今回の調査では強い相関があると は思えない.ブナの種子はあまり遠くへ飛散しないことを考慮に入れれば,た

くさん結実したブナの樹冠の下に最もたくさんの実生が発芽するはずである.

図7−IAは昨秋の種子散布後のネズミなどの小動物による食害と,今年の梅 雨時期における昆虫の幼虫や小動物による食害・枯死による減少を経た結果で あるものの,やはり実生が集中しているのはブナの林冠の下であってギャップ には顕著な集中部分がないことを示している.

 2m以下のブナ稚樹は全体的に均一に分布する一方で,ところどころはっき りと集中した部分がある.とりわけ紅血1m未満の稚樹は左下の小さなギャッ プにおける集中が著しい.このギャップは「第6章 ブナ稚樹」の結果で触れ たとおり,林冠層は欠いているものの3m前後の低木類(オオカメノキ,リョ ウブ)がかなりの密度で生育しており光環境は極めて良くない.この稚樹の集 中部分は中静(1984),原(1992>が言うところの「実生バンク」と考えら

れる.

 中静(1984)によれば,通常「実生バンク」はギャップ形成前の林床で多 く見られるもので,十分な数の実生が待機しているところにギャップが形成さ れると生長が加速され更新が進行するとしている.ところが,それらの実生バ ンクもギャップが形成されず,林冠が閉鎖したままであれば10〜15年しかブ ナ稚樹は生存できないらしい.確かに今回の扇ノ山での実生バンク(ブナ稚樹 集中部分)でも,最長の稚樹は70cmでそれより大きな個体は全く存在してい ない.そこに生育する62本の稚樹の内8割に当たる50本は20cm以下の約20年 未満の個体であった.つまり,皇恩層に小さなギャップは形成されたものの,

低木類との生存競争で優勢になることができず,20年までの稚樹が回転する にとどまっているようである.山本(1990)は小さなギャップの形成はブナ の成長に結びつかず,すでに存在していた周囲のブナが枝を広げる側方伸長成 長によりそのギャップを埋めてしまうと述べている.今後の変化が注目される.

 樹長lmを越える稚樹や, DBHlOcm未満のブナ小径木は各所のギャップ やギャップ近くの林冠の外縁部に分布する傾向が明らかに強い.逆に言えば,

ブナ林冠の下にはほとんど小径木は存在していない.とりわけ小径木が集中す るのはコドラート中央のギャップ付近である.ギャップに位置するブナ個体が 樹高3mを越えると低木層から抜け出し,光を十分受けることができるように

なって伸長成長と肥大成長が加速される.しかし,ブナ小径木が集中している 場合は,ブナ同士の問で競争が起こる.最終的に高木となって林心密に樹冠を 広げられるブナ個体はごくわずかである.

 大きなブナの樹冠の広がりや隣…のブナとの重なりを観察すると,林冠木は決

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して互いに枝が入り組んだりせず,必ず空間的にすみわけている.樹冠投影図 の平面図上で林冠の外縁部が重なっていても,空間的には必ず両者は上か下か にずれている.また,1本のブナに限って葉の分布を見てみると,直射日光の 当たる林冠層だけでなく,中間層の光があまり当たらないところにも枝が伸び て葉はついている.しかもその葉は空間的に互いに距離を取り,均一に存在す る.つまり林冠層を占めるブナはその葉群を中間層にまで広げていて,空間的 にかなりの層を占有している.従って,下層より後継樹が成長してきても上層 に空所ができない限り雨冠層へは決して割り込めない.このように考えれば,

ブナが「ギャップ更新」するのは必然的なものでそれ以外の方法での更新はあ

り得ない.

 今回の調査で明らかになった結果からブナの更新において重要と思われる2 つの点を指摘したい.一つ目は,実生バンクと呼ばれるブナ稚樹集団をいかに 成立・維持させるかである.閉鎖林冠下の弱光のもとでは,昆虫や小動物の食 害と菌類などによる枯死をまぬがれない限り数年に一度の豊作による多量の種 子供給も全く無駄となってしまう.長寿命のブナにとって発芽後の数年間こそ が極めて重大で林の存亡を左右する大事な期間と言える.二つ目に,ギャップ の形成とともに始まる低木類との生存競争であって,実生バンクで控えていた ブナ稚樹がどのように低木層を追い抜き忙種層へ達するかである.中静

(1984)はブナ個体群に限定した図でブナ林の更新過程を説明したが,実際 のブナ林は他種樹木も共存している.閉鎖林がギャップ形成を経てもとの閉鎖 林に戻る過程を他種樹木を加味して新たに模式図を作成した(図7−2).閉 鎖林において林冠木の枯死によりギャップが形成されると,その下層で控えて いた樹木の生長が加速される.しかし,低木層のクロモジ・リョウブ・オオカ メノキや亜高木層のカエデ類はそれぞれ種として伸長生長に限界がある.一方,

ブナの生長は著しく,他の低木類や亜高木類を抜き出て,ギャップを埋めなが らもとのブナ林に戻っていく.地域により異なっているが,ブナ林内ではブナ と高木層を求め競争する樹種は数種に限られている.その樹種間での競争より も,林冠層に至る前の段階の低木類を追い越すまでが最も過酷な時期であり,

「ギャップ説」という考えだけで片づけられるものではない.

7−2.チシマザサの影響

 日本のブナ林は林床にササを伴うことが多い.氷ノ山では林床が3mにも及 ぶチシマザサに完全におおわれ,他の低木樹種がほとんど生育できない.場所 によっては完全にササ原と化している.

 ブナ林の中を歩いても後継樹となるブナの小径木はほとんど見られない.毎

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〈←ブナ

ii 4一他種樹木

極相林(閉鎖林〉

ギヤツプ形 1再生過程

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ギャップ形成

図7−2.ブナ更新過程の模式図       原田(1995)

閉鎖林において林冠木の枯死によりギャップが形成されると,その下層 で控えていた樹木の生長が加速される.中でもブナ後継樹の生長は著し

く,他の低木類や亜高木類を抜き出て,もとのブナ林に戻っていく・

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表7−1.再編成したブナ後継樹の本数

氷ノ山(6500㎡) 扇ノ山(2275㎡)

当年生実生( 94,10月末)

 稚樹(50cm以下〉

 稚樹(2m以下)

小径木(DBHIOcm以下)

10本以下  4本  2本

 3本

1187本 260本

27本 27本

木調査した氷ノ山6500㎡と扇ノ山2275㎡で確認された後継樹の個体群を討論 のために再編成した(表7−1>.

 当年生実生の個体数は,そもそもの結実量が調べられていないので単純な比 較はできない。しかし,両地域とも1994年に全く開花・結実しなかったこと から考えれば,昨年1993年がどちらも豊作年であったと判断できる. 「第5 章 当年生実生」でふれたとおり,1m2あたりの総発芽数は氷ノ山2.5本に対

し,扇ノ山24.0本であった.約10倍の差があるけれども,その原因が結実量,

種子段階での食害,発芽率のどこにあるのかは調査していないので全く分から ない.しかし,発芽後の実生の消長では梅雨以降の減少に差があり,最終的に 10月末で扇ノ山では総発芽数の6%が生き残ったのに対し,氷ノ山では1%

しか生き残らなかった.1ヘク目凹あたりに換算すると,生き残った当年生実生 は氷ノ山で15本,扇ノ山で5218本である.確かに1994年の1年限りの数値で あるということを考慮に入れても,林を維持する上で子孫である実生の供給量 は極めて重要で,この差の原因としてはチシマザサの存在が最有力である.両 地域におけるブナ稚樹や小径木の個体数差は,同様の実生供給がこれまでに繰 り返された結果として当然の数字である.さらに図3−5に示したブナのサイ ズ分布は,今後の両地域におけるブナ林の動態を如実に物語る.

 扇ノ山では次世代であるブナ稚樹がそろっているので,順次置き換わりブナ 林は維持されていくであろう.一方,氷ノ山では,寿命や台風などの強風によ

り大半木のブナが倒れてギャップができても前節で述べた低木類の競争が起き ることはない.ましてやそれらの低木の下で待機するブナ稚樹などはほとんど 存在しない.老齢のブナ大木が枯死することにギャップ面積が拡大し,ササ原 が徐々に広がっていくであろう.

 氷ノ山のブナ林の変化を調べるため,過去に撮影された航空写真をできる限 り集めてみた.その中で最も古いのは,米軍が1947年11月に撮影したもので あった.写真技術の関係で鮮明なものではないが,おおまかな様子は判別でき

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