5.5 試作アンテナの構造と特性
5.5.1 試作アンテナの構造
L帯(1.6/1.5GHz帯)において,目標利得7dBiで設計したスイッチングアレーの 外観を図5.18に,内部構造を図5.19に示す.
本アレーは,放射部と給電部および検出・制御部から構成されている.スイッチン グアレー全体のブロック構成は図5.13に示したとおりである.給電部は方向性結合器 で2分岐され,通信系とビーム走査のための検出・制御系に分かれている.実験のた めに製作したアンテナは図5.13の一点鎖線の上側部分であり,直径40cm,高さ20
㎝である.実用時には,送受分波器,L NA(低雑音増幅器),PA(出力増幅器)
も放射部の内側に置くことができる.
放射部は,送受共用を図るため,無給電素子の付加により広帯域化を図った円形M S A(50×36)を放射素子として採用しており,円錐台形状に成形加工したフリント基板上 に,エッチングにより素子を実現したものである.
使用したフリント基板は,BT(ビスマレイミド・トリアジン)レジン(78)とシリカ 粉とを基本組成とする成形基板である.成形形状は,エッチングの容易さから球面で はなく円錐台としている.円錐台形状であっても,素子の配列法は球面配列に含まれ る.図5.19の右側の円錐台形状フリント基板は厚さ4mmであり,基板の外側に励振素 子と右旋円偏波を発生させるための3dBハイブリッドとをプリントしている.一方,
左側の基板は厚さ2mmであり,基板の内側に無給電素子をプリントしている.また,
左側の基板はレドームの役目も果たしている.
放射素子は,5.4節の検討結果に基づいて,配列半径を1波長,素子間隔を約0.7波 長に選んでいる.このとき文献(79)から,放射素子は,平面上にフリントした円形 MS Aの設計法で充分に設計可能である.
給電部は,図5.19に示すように,1入力3端子(SP−3T)スイッチを2個と45 お よび90 の2ビットからなる移相器2個とから構成されている.スイッチおよび移相 器は,プリント基板上にエッチングにより構成されている.また,移相器は,挿入損 失および位相誤差の低減から,ローディッドライン形を採用している.
本アンテナのビーム走査のための検出・制御は,5.4.4節で述べたとおりである.
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EcL
図5.18 スイッチングアレーの外観
.二 1一静
㌧、一、r
図5.19スイッチングアレーの内部構造
5.5.2 試作アンテナの特性
本アンテナの隣接する2素子を1.6GHzで同相励振したときの2次元放射指向性を図 5.20に示す.図5.20(a)は計算値, (b)は実測値である.
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(a)計算値
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(b)実測値
図5,20 2次元放射指向性
一128一
図5.20において、水平方向(φ方向)の放射指向性がほぼ一致しているのに対し・
仰角方向の実測値は計算値に比べて等レベルの線がつまった特性を示している.これ は5.2節で述べたように式(5・5)の仮定に対して,仰角方向が無限平板と見なせな い程度の有限地板であり,基板エッジからの散乱の影響を無視出来ないためであると
考えられる.
なお,比帯域8%の周波数帯域においては,±30。の範囲内の放射指向性にはほと んど周波数による差が見られなかった.
本アンテナでは,5.4.3節の検討に基づいて45。および90 の2ビット移相器を用い ている.2ビット移相器を,45。間隔で135。〜一90。まで変化させたときのθ=ψ.
におけるφ方向の放射指向性の実測値を図5.21に示す.φ方向の対称性が若干くずれ てはいるものの,±30。の範囲内では利得低下が1dB程度以下であることが分かる.な お,θ:20。〜60。の領域における指向性利得の最大偏差は1.8dBであった.
これらの結果から,検出・制御が理想的に行われると仮定すれば,スイッチング時 の利得変動は最大1.8dBとなる.
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図5.21 φ方向放射指向性
129一
1.6GH、における放射指向性の実測値の積分から求めた指向性利得は10・8dBiである・
この値は5.4節に示した計算値よりO−6dB高い値を示している・その誤差の要因として は,仰角方向が無限平板と見なせない程度の有限地板であるために・5・2節の計算で 仮定した素子の指向性(COS1・2λ)と実際の素子指向性とが異なったことによるもの・
測定誤差によるもの等が考えられる.
前者の影響を明らかにするために,同基板上の放射素子単体の放射指向性の実測値 から指向性利得を求めた.1.6GHzにおける素子の指向性利得は9・1dBiであり・仮定し た素子の指向性利得(8.3dBi)に比べて,O.8dBの利得増が認められた・また・実測し た放射指向性を素子指向性9(λ,μ)=cospλとして近似した結果,μ=Oo面(仰角 面と一致)はp=2.5程度,μ=90。面(仰角面と直交)はp=L2程度の値であった.
そこで,μ=O。面に。os2・5λ,μ=90。面に。os1・2λの素子指向性を持つと仮定して 放射指向性を再計算した結果,2素子同相励振時の指向性利得は11.Od−Biとなり,実測 値とほぼ一致する値が得られた.
なお,比帯域8%の周波数帯域における指向性利得は,0.3dBの利得偏差を持つこと が測定により確認されている.
実測した通信系の給電部の挿入損失は,比帯域8%において,SP−3Tスイッチが O.4dB以下,2ビット移相器がO.5dB以下,線路損失がO.2dB以下であり,給電部の回路 全体で1.1dB以下である.この給電部の回路損失に,放射素子と3dBハイブリッドから
なる放射部の損失0.3dBと,通信系と検出・制御系とを分岐するための方向性結合器の 挿入損失O.5dBを考慮すると,比帯域8%における給電系の回路損失による利得低下は 最大1.9dBとなる.
この給電系の回路損失による利得低下と,先に述べたスイッチング時の利得偏差 1.8dBを考慮しても,比帯域8%において目標利得7dBiを得ることが可能である.
本アンテナの楕円偏波率は,θ=20。〜60 の照射領域,および比帯域8%におい て,3dB以下であった.楕円偏波率は移動局装置に対しては損失という形でのみ影響 を及ぼす.本アンテナの場合,軸比劣化による損失は,O.1dB程度である.
本アンテナの放射素子のV SWRは,無給電素子を付加した円形MS A(50)(36)の採用 により,比帯域8%にわたって1.5以下であった.給電回路の各構成回路のVSWRは 1.3以下で設計しており,給電回路全体のV SWRの実測値は,比帯域8%にわたって
1.5以下であった.
5.6 むすび
球面配列スイッチングアレーを実用に供すべく,その問題点である配列素子数の低 減について検討し,同時に励振する素子の数だけ移相器を用いて配列素子数を低減す る方法を提案した.移相器の採用により,従来のスイッチングアレーに比べて配列素 子数を1/2以下に低減でき,また全素子に移相器を設けるフェイズドアレーアンテ ナに比べても移相器の数を大幅に少なくできると共に,2ビット程度のビット数の少 ない簡易な移相器でも充分であることを明らかにした.
具体的な設計例として,周方向切り換え形スイッチングアレーを取り上げ,2素子 を単位として切り換えを行う2素子位相励振アンテナの配列素子数,移相器のビット 数および最小位相量等について検討し,その設計法を示した.日本近辺で用いる移動 局アンテナに要求される衛星追尾範囲(θ=20。〜60。)において,利得7dBiを得る ためには,球面配列スイッチングアレーの配列素子数は6素子で充分であり,また用 いる移相器も45.と900ビットからなる2ビット移相器を2個用いれば充分であるこ
とを明らかにした.
設計法の妥当性を確認するために,円錐台形状に成形加工したプリント基板上に6 素子のMS A素子をプリントしたスイッチングアレー,および45。と90 の2ビット 移相器を2個を用いた給電スイッチ回路を製作し,特性を測定した.この結果,同時 励振素子の数だけ移相器を用いる方法の採用により,簡易な電子ビーム走査アンテナ が実現できることが明らかになった.また,実際に衛星追尾に対するビーム制御を行
うための検出・制御法についても構成例を示した.
以上のことから,低コストで小型がつ電子的ビーム走査の可能な球面配列スイッチ ングアレーアンテナの実現性が明らかとなった.