第 7 章 金属の破壊靱性試験
7.1 一般的考察
実際上,すべての破壊靱性試験にはいくつかの共通性がある.試験片の設計は各 規格で類似しており,材料の対称方向と試験片の方向は常に考慮すべき重要事項で ある.疲労荷重の要求事項は各規格で異なるが,試験片の予き裂はいずれの場合も 疲労荷重を加えて導入する.荷重や変位の基本的な測定器具は,実際上あらゆる破 壊力学試験で共通であるが,実験によってはき裂成長をモニターするための測定器 具も必要になる.
7.1.1 試験片形状
ASTM規格では,破壊発生およびき裂成長用の試験片として5種類を定めてい る.この中の一つの規格では5種類全部を認めておらず,また特定の試験片種類 の設計は規格間で違いがある.現行規格には,コンパクト試験片,片側切欠曲げ
(SEN(B))試験片,円弧型(arc-shaped)試験片,円板型試験片(disk specimen),中
央引張(MT)板試験片の5種類がある.図7.1に各試験片を示す.
また,コンパクトき裂停止試験片はKIa測定用であり,7.6節で述べる.シャル ピー試験や落重試験のような定性的靱性測定用試験片については,7.9節で述べる.
脆性材料に応用されるシェブロン切欠試験片については,第8章で述べる.
各試験片形状は,三つの重要な特性寸法をもつ.き裂長(a),板厚(B),幅(W) である.多くの場合,W= 2B,a/W ≈0.5であるが,本章後部で述べるように例 外がある.
研究で使用される試験片形状は多数あるが,まだ規格化されていない.たとえば,
片側切欠引張板試験片,両側切欠引張板試験片,軸対称切欠棒試験片,2重片持梁 試験片などである.
膨大な破壊靱性試験が,コンパクト試験片やSEN(B)試験片で行われてきた.図
7.2は寸法(B, W, a)が同じ二つの試験片を示す.コンパクト試験片は確かに材料の
節約になるが,穴があるため,幅方向では余分に材料が必要である.板材や鍛造材 ではコンパクト試験片が経済的であるが,溶接部試験では,方向によって溶接金属 の消費を節約できることからSEN(B)試験片が望ましい(7.7節参照).
コンパクト試験片は,図7.3に示すように,特殊な治具でピン荷重を加える.コ ンパクト試験片は試験片寸法に対応した治具を製作しなければならないので,普通 は限られた数だけ機械加工される.試験片寸法は幾何学的に比率を決める.標準寸
308 第7章 金属の破壊靱性試験
図7.1 標準破壊力学試験片
図7.2 面内寸法(W, a)が等しいコンパクト試験片とSEN(B)試験片の形状比較
図7.3 コンパクト試験片の試験装置
図7.4 SEN(B)試験片の3点曲げ試験装置
法は1/2T,1T,2T,4Tで,板厚Tはインチである1) .たとえば,標準1Tコン パクト試験片は,B= 1 in (25.4 mm),W= 2 in (50.8 mm)である.ASTMはSI 単位になったが,コンパクト試験片の表記法はそのままで変わっていない.
SEN(B)試験片は,寸法に関しては非常に柔軟性がある.SEN(B)試験片の標準
荷重スパンは4Wである.治具を適当に設計すれば,スパンは任意に連続的に調整 できる.したがって,1個の治具で広範囲の板厚のSEN(B)試験片が試験できる.3 点曲げ試験の装置を図7.4に示す.
1)このような表記法の例外は,薄板試験片の場合である(7.3節参照).
310 第7章 金属の破壊靱性試験
7.1.2 試験片方向
工業材料が,均質かつ等方であることは滅多にない.微視組織,したがって機械 的性質はしばしば方向に敏感である.方向に関する感受性は,破壊靱性測定ではと くに著しい.というのは,選択した方向の微視組織には,き裂伝播が比較的容易な 弱い面を含む可能性があるからである.試験片方向は,破壊靱性測定では重要な変 数なので,あらゆるASTM破壊試験規格では靱性を測定した方向を報告すること になっている.ASTMは,このための表記法を採用している[1].
図7.5は,圧延板または鍛造材から採取した破壊試験片に対するASTM表記法 を示す.試験片を板の対称軸に配置するときは,六つの可能な方向がある.L,T, Sという文字は,圧延方向または鍛造方向に対して縦方向,横方向,板厚(short
transverse)方向を表す.破壊力学試験片の方向を表すには,二つの文字が必要であ
る.最初の文字は,モードI試験のき裂面に常に垂直な主引張応力方向,2番目の文 字はき裂伝播方向を表す.たとえば,L–T 方向は,荷重が縦方向でき裂伝播が横 方向を表す.図7.6に示すように,丸棒や中空円筒でも同様の表記法が使える.こ の場合の対称方向は,円周方向,半径方向,軸方向(それぞれ,C,R,L)である.
理想的には横方向の材料の靱性を測定すべきであるが,これはしばしば実際的で はない.適切な試験方向を決定するときは,実験目的と材料形状を考慮すべきであ る.一般材料試験やスクリーニング試験では,き裂が圧延方向に伝播する低靱性方 向(T–LまたはS–L)を採用すべきである.しかし,試験目的が欠陥構造物の状態 をシミュレートすることであれば,き裂方向は構造物の欠陥方向と一致させるべき である.形状的制約のため,試験が不可能になる場合がある.たとえば,S–Lお
図7.5 圧延板および鍛造材から採取した試験片のASTMの表記法
出典:E1823-96: “Standard Terminology Relating to Fatigue Fracture Test-ing”, American Society for Testing and Materials, Philadelphia, PA, 1996 (2002再認可)
図7.6 円板および中空円筒から採取した試験片のASTMの表記法
出典:E1823-96: “Standard Terminology Relating to Fatigue Fracture Test-ing”, American Society for Testing and Materials, Philadelphia, PA, 1996 (2002再認可)
よびS–T 方向は厚板でなければ不可能である.T–SおよびL–S方向は,圧延板 から採取しうるコンパクト試験片の寸法を制限する.
7.1.3 疲労予き裂
破壊力学理論は,負荷前には無限に鋭いき裂を想定する.実験室試験片はこの理 想からはずれるが,実用的には満足しうる十分鋭いき裂を導入できる.そのような き裂を導入する最も有効な方法は繰り返し荷重によるものである.
図7.7は代表的な試験片の予き裂導入法を示す.疲労き裂は機械切欠先端から発 生し,繰り返し荷重を注意深く制御すれば所望の寸法に成長する.最近の油圧サー ボ試験機は,正弦波荷重や他の波形を発生させることができる.高い周波数の疲労 予き裂専用機もある.
図7.7 破壊力学試験片の疲労予き裂.疲労き裂は繰り返し荷重により 機械切欠先端に入れる.
疲労き裂は,測定すべき靱性値に影響しないような方法で導入しなければならな い.繰り返し荷重は,き裂先端に微小降伏域をもつ有限半径のき裂を生じる.この 先端部には,歪硬化した材料と複雑な残留応力分布(第10章参照)を含む.破壊靱