ワーストケースシナリオとは,センサ値の時系列変化の最大値を測定すること を目的としており,システムの内部状態を決定する履歴と入力系列(センサ値)
図 4.5: 外部環境モデルのマイク音量送信(適用前)
図 4.6: 外部環境モデルのマイク音量送信(適用後)
を発生させるシステムの動作順序である.また,本限定手法では4.2節で述べた 通りこのシナリオ上で入力値を実測する必要があるため,このシナリオはシステ ムが動作する次の情報を含む.
• システムの内部状態
• 場所やタイミングを含む外部の状況
これらの情報は,入力値が変化する要因である,システムの振舞いによる要因 と,外部環境による要因のいずれかに関係を持つ.その理由は,この入力値の実 測に必要なシナリオの情報は,入力値が変化する要因をシナリオ化して表現した ものだからである.つまり,ワーストケースシナリオに含まれる,システムの内 部状態の情報は,センサ値が変化する要因(システムの振舞いによる要因)の情 報である.また,場所やタイミングを含む外部の状況の情報も,センサ値が変化 する要因(外部環境による要因)の情報である.
次に,図4.2のワーストケースシナリオの分析について説明する.ワーストケー スシナリオの分析には,時系列変化する対象の入力値に焦点を当てる必要がある.
また,モデル検査を行う上で必要な情報は検査する性質に依存するため,その入 力値に焦点を当てるためには,その値が格納される検査する性質に依存する入力 変数の着目が必要となる.なお,この検査する性質に依存する入力変数を本論文
では“着目すべき入力変数”と呼ぶ.次にその入力値の時系列変化の要因を要求
仕様書とドメイン知識を用いて分析し,ワーストケースシナリオを抽出する.
第 5 章
ワーストケースシナリオ を分析す る上での2つの問題点
4.2節で述べたワーストケースシナリオの分析における,2つの問題について 5.1節と5.2節で説明する.
5.1 問題1:着目すべき入力変数の抽出が困難
図4.2に示すようにワーストケースシナリオを分析するためには,まず検査 する性質に依存する入力変数に着目(“着目すべき入力変数”を抽出)する必要 がある.しかしながら,その変数は検査する性質や設計モデルにすべて表現さ れない.その理由は次のとおりである.対象の検査する性質(3.2節を参照)に は,出力値の履歴が含まれ,それぞれの出力値の算出には時系列を基準とした 入力値の履歴が必要である.しかしながら,3.2節で述べたように,それらの入 力値の履歴が格納される変数(着目すべき入力変数)は設計モデルに全て現れ ないためである.具体的には,3.1節で述べた対象システムの例である,3.2式
(Y0 =f(Y1, Y2, X0, X1, X2, X3))の設計モデルに対して,ある時間Uにおいて,
検査する性質に出力値YUとYU+3が表現されている場合,算出する関数はそれ ぞれ5.1式と5.2式となる.
YU =f(YU+1, YU+2, XU, XU+1, XU+2, XU+3) (5.1)
YU+3 =f(YU+4, YU+5, XU+3, XU+4, XU+5, XU+6) (5.2) そのため,この着目すべき入力変数に格納される値は,5.1式と5.2式から,少 なくともXU,· · · , XU+6となり,着目すべき入力変数はX0,· · · , X6を必要とす る.しかしながら,X4,· · · , X6は,設計モデルと検査する性質に表現されてい ないため,抽出が困難である.
3.3節で述べた対象システムの一つである,ライントレーサの事例を用いて,考 慮すべきセンサ値の抽出が困難である例を示す.ライントレーサの設計モデルは,
3.6式のY0 =f(X0, X1, X2)であるのに対し,1単位時間過去をTと表記すると,
検査する性質は「今回のセンサ値と閾値の差が前回(1T)のセンサ値と閾値の差 より小さければ,モータへのパワー値は1Tより必ず小さい」である.この性質を V,V に含まれる入出力変数の集合をR(V)とすると,R(V) = {Y0, Y1, X0, X1} となる.ここである時間Uにおいて,検査する性質には,今回のセンサ値XU, 1Tのセンサ値XU+1,今回のモータへのパワー値YU,そして1Tのモータへの パワー値YU+1が表現される.これらのYU とYU+1のセンサ値とのの関係式は 5.3式と5.4式となる.
YU =f(XU, XU+1, XU+2) (5.3) YU+1 =f(XU+1, XU+2, XU+3) (5.4) そのため,「着目すべき入力変数」に格納される値(センサ値)Xは,検査する 性質に含まれているXUとXU+1に加えてYUとYU+1の関係式の5.3式と5.4式
からXU,· · · , XU+3である.よって,それらの値を格納する「着目すべき入力変
数」はX0,· · · , X3となる.しかしながら,検査する性質に表現されている値に
関してモデル検査を行う上で扱う変数の中で,X3(3つ前(3T)の値を格納する 変数)は,設計モデルの3.6式と検査する性質に現れていないため抽出が困難で ある.