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起業・イノベーションを後押しする仕組みづくり

3. 宮崎県のローカルベンチャー

 宮崎県は、食と農を活かしたフードビジネスが活発であり、宮崎県は、2013 年 4 月に「みや ざきフードビジネス振興構想」を策定している。以下は、宮崎県庁の Web サイトより抜粋

 “ 宮崎県では、総合的な食関連産業(フードビジネス)の成長産業化を目指して、「みやざき フードビジネス振興構想」を策定しました。

 これまで取り組んできた、産地や食品加工企業の育成、「6 次産業化」・「農商工連携」などの 取組みに加えて、飲食業や観光産業などにも発展の裾野を広げつつ、総合的・一元的に「フード ビジネス」として展開します。

 また、「マーケット・イン」の視点に立ち、産業の垣根を越えた連携・融合や付加価値の向上 を強力に推進します。”4

 これらの県の取組の強化の流れも有り、都城市は、畜産の生産が活発であり、2015 年には、

肉や焼酎が人気になり、ふるさと納税金額全国1位になった。この章では、宮崎県のフードビジ ネスにおけるローカルベンチャーの紹介を行う。

3-1 九州の素材を活かしたパンケーキ

 九州パンケーキとは、九州の素材を活かしたパンケーキの粉である。この九州パンケーキは、

代表である村岡浩司氏が九州全土を自らの足でまわり、生産者らと議論をしながら作り上げられ た。九州パンケーキ誕生の背景には、村岡氏の「安全安心なパンケーキ」を子どもたちに食べて ほしいという強い思いがある。村岡氏は、九州パンケーキを生み出す過程において「商品を作る のではなく、安全安心なパンケーキを食べるという、新しい文化を創ろうと考えた」と言う。

 この九州パンケーキは、第一回地場もん国民大賞の金賞受賞(2015 年)その他にも経済産業 省の「The Wonder 500」に認定されるなど各界からの評価も高い。現在では、九州パンケーキ カフェも経営されており、国内のみならず、台湾、シンガポールにも店舗展開を行っている。

 九州パンケーキのビジネスにおける強みは、九州パンケーキそのものの味の良さに加えて、経 営者の強い思いがこもったブランド力の強さにある。

 九州パンケーキは、誕生まで物語や想いを、見える化するために、「共感で繋がる!新しい広 告 “ オフコマーシャル ” で九州の魅力を発信したい!」と題して、クラウドファンディングを活 用して映像の製作を行った。このクラウドファンディングは、多数の支援を集め、結果として 224 万円の支援が全国から集まった。

 現在、九州パンケーキは、世界ブランド展開を目指している。九州パンケーキが売れるほど、

農業生産者の所得も向上し、農業業界自体が活性化してきている。

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3-2 山師が取り組む里山ビジネス

 宮崎県美郷町渡川地区。この人口約 350 人の里山では、林業を活かしたビジネスが展開され ている。その中心人物が今西猛氏。今西氏は、以前の職業は保育士で、実家がある渡川に戻り、

いまは、山師の仕事に従事している。

 今西氏は、山師の仕事を活かし、原木椎茸の販売を行っている。原木椎茸は、限りなく自然に 近い状態で栽培される椎茸のことで、椎茸の厚さと希少性から非常に人気を得ており、毎年予約 販売で完売している状態だ。

 また原木椎茸に加えて、渡川地区の土壌の特性を活かした棚田米の販売や近隣農家らと連携し てお茶やその他の山の恵みの広報活動も積極的に行われている。渡川山村商店の活動は、大手飲 料メーカーなども注目しており、今西氏と今西氏の兄、正さんをモデルに宮崎県の特長を活かし た飲料品の広報もおこなっている。

 今西氏は、自身の活動について「食べていくだけなら山師で十分。その他の活動を行う理由は、

渡川の魅力を知ってもらうため」今西氏の活動に共感する人は、宮崎県内にとどまらず首都圏に も広がり、毎年夏になると家族ぐるみで訪れる人もいるという。

3-3 情報誌+特産品でファンづくり

 2016 年に設立された NPO 法人高千穂アカデミーは、年間 150 万人の観光客がくる宮崎県高 千穂町の若手移住者を中心に構成された NPO 法人。NPO 法人高千穂アカデミーの使命は、「高 千穂に人を増やす」事。年間 150 万人の観光客が来ているが、他の都道府県同様に、人口減少 の危機に瀕しており過疎地域にも指定されている。

 この高千穂町の活性化に取り組むのが、NPO 法人高千穂アカデミーの代表の佐藤翔平氏。佐 藤氏は、高校卒業後、大阪の料理の専門学校で学び、東京の有名レストランで修行を積んだ。そ の後、故郷の状況に危機感を感じ高千穂町に帰省。高千穂町役場に務める傍ら、神楽の舞手とし ても活動。クラウドファンディングを活用して資金を集め、100 年途絶えた神楽の復活を行った。

 高千穂町を含む高千穂郷(たかちほごう)は、2016 年に世界農業遺産に認定。注目を集めて いる。佐藤氏らは、高千穂郷の食材の魅力を発信する事を目的に「高千穂郷食べる通信」を開始。

情報誌と食材を送付し、首都圏でイベントを開催。高千穂郷のファンづくりを積極的に行ってい る。ここでも佐藤氏を含む NPO 法人高千穂アカデミーのメンバーらは、クラウドファンディン グを活用して「高千穂郷食べる通信」の購入者を募集。173 人の人が支援を行い、一気にその 活動の輪は広がった。

 佐藤氏の行動の源になっているのは、他の活動者と同じく地域への想いだ。高千穂郷食べる通 信のホームページには以下のように記されている「高千穂郷が好きだから、あなたにも好きにな ってほしいから、『食』を通じて魅力を発信していきます。」従来の物を買ってもらうという売り 方から、自分たちの想いへの共感を全面に打ち出すようになっている。

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3-4 農産物のブランディング

 宮崎県の中西部に位置する綾町(あやちょう)。人口約 7000 人の街では、1988 年に日本初 の自然生態系農業の条例が制定されるなど、農業が盛んである。また豊かな自然の恩恵をうけ 2012 年には「ユネスコエコパーク」にも認定されている。しかし一方で、上記のローカルベン チャーの事例と同様に農業生産者の高齢化や事業承継の課題などに直面している。

 「このままでは、町の文化でもある『農業』が消滅してしまう。」そんな危機感を抱えて立ち上 がったのが、綾町の直売所「綾手づくりほんものセンター」の梶山剛氏(39 歳)である。梶山 氏は、かつては、米国ニューヨーク州で DJ としての活動という異例の経歴をもつ。2012 年に、

自然の中で、人間らしい生き方を求めて、妻の実家がある綾町に移住した。

 その後、「綾手づくりほんものセンター」の店長に抜擢され、農産物の販路開拓や店舗のマネ ージメントを行ってきた。綾町は、オーガニックの町として、知られてはいるものの実体経済に つながっていない現実もあった。

 梶山氏は、現場だからこそわかる危機感を感じ、筆者を含めた仲間と、現在の綾町の農業の魅 了を 100 年後に伝えるプロジェクト「aya100」を発案。

 「aya100」が取り組んだことは、綾町の農産物の価値を見直すことだ。東京の有名レストラン の料理人などが綾町を訪問し、野菜を食べてもらう機会をつくり、食材の魅力を直接訴えた。そ の結果、東京への販路開拓が成功。綾町の野菜のコース料理には、5000 円の値がつき、東京丸 ビルで開催されたイベントには 100 名以上の食通が訪れた。生産者の食とも向上し、現在は、

新規就農者を増やすイベントなども開催している。

3-5 人材育成を通じて地域づくり

 宮崎県の北部に位置する人口約 6 万人の日向市。この日向市では、特産品柑橘「へべす」が 消滅の危機を迎えている。独立行政法人農業技術研究機構果樹研究所の研究報告によると、へべ すは、サイズは、「すだち」よりも大きく、カボスよりも小さい。またガンを抑制するといわれ ている有効成分「ナツダイダイン」が、ゆずの 37 倍もある。

 上品ですっきりとした味わいで料理などによく使われてきた。しかし、販路開拓の課題が大き く、次第に規模は縮小。現在では、専業の農家が 4 名になった。この課題に、地元の人財育成 事業「日向ドラゴンアカデミー」が取り組んでいる。日向ドラゴンアカデミーは、稼ぐ人財を育 成する事を目的に、市が主催をして開始された。開催時のイベントには 200 名以上が集まり、

また講座への申込みも総数で 200 名ほどの申込みがあった。日向ドラゴンアカデミーでは、受 講生と講師らがクラウドファンディングを実施、へべすの魅力を伝えた。その結果、東京などで の販路開拓に成功している。このように市が人財育成を通して、プロジェクトとしてローカルベ ンチャーを立ち上げ地域の課題に解決する事例も珍しい。