a
経済成長率(%)
b
限界資本係数 a/b
中国 (1991-2012年)
40.8 10.3 4.0(09-12年)
47.9 9.2 5.2日本
(1961-1970年)
32.6 10.2 3.2韓国
(1981-1990年)
29.6 9.2 3.20 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 (年)
(シェア、%)
その他
外資系企業
国有企業
輸出の所有制別構成
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(出所)CEICデータベースより野村資本市場研究所作成
1999年9月の中国共産党第15期四中全会において、「国有経済の戦略的再編」という方針がすでに決めら れていた。国有企業が主導する産業を、①国家の安全にかかわる産業、②自然独占および寡占産業、③重 要な公共財を提供する産業、④基幹産業とハイテク産業における中核企業に限定し、それ以外の分野では、
民営化を進める。
利益集団の反対に遭い、大型国有企業の民営化は挫折した。
求められる国有企業の民営化の加速
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体制移行の罠によって、露呈した五つの病状
– 既得権益集団は短期間に利益を上げるために、資源の大量な浪費も辞さずに、高成長を追求している。
– 政府の役割転換と国有企業改革の遅れにより体制改革は停滞し、移行期の体制がそのまま定着してしまっている。
– 社会的流動性が低く、社会構造は固定化されつつある。
– 「社会の安定維持」のために多くの資源が投入され、その大義名分の下で、改革が先伸ばしされている。
– 一部の地方では官僚の腐敗と政府による権力の濫用が目立ち、所得分配が歪められており、貧富格差が拡大している。
克服策
– 市場経済、民主政治、法治社会といった普遍的価値を基礎とする世界文明の主流に乗らなければならない。なぜならば、
世界文明の主流を拒絶することは、中国が「体制移行の罠」に陥った主因であると同時に、現在の利益構造を維持する口 実になっているからである。
– 政治体制改革を加速させなければならない。権力の腐敗は、政府の権威と政策実行能力を弱めている。政治体制改革 は、政府の透明性の向上など、権力を制約するメカニズムの形成から始めなければならない。
– 改革に関する意思決定を、これまでのように各地方政府や各政府部門に委ねるのではなく、中央政府の上層部によるグラ ンド・デザイン(中国語で「頂層設計」)の下で進めるように改めなければならない。改革を推進するに当たり、国民の支持を 得るため、彼らの意見に耳を傾けると同時に、公平と正義を基本価値としなければならない。
清華大学研究グループ
(主査:孫立平教授
)が提唱する
「体制移行の罠」論
安定成長の維持
– マクロ・コントロールの主要目的は、経済の大きな上下変動を回避することにより、経済成長率を一定の水準(7.5%)以上 に、またインフレ率を一定の水準(3.5%)以下に維持すること。
– 金融改革と財政改革を通じて、資金の利用効率を高め、経済危機を未然に防ぎ、シャドーバンキングによる融資と地方政 府債務の膨脹や、住宅価格の上昇を抑えること
構造調整:経済発展パターンの転換
– 需要の面では「投資から消費」へ
– 産業の面では「工業からサービス業」へ
– 生産様式の面では企業のイノベーション能力の向上と産業の高度化を通じて「労働力や資本といった生産要素の投入量 の拡大から生産性の上昇」へ
改革の推進:政府と市場の役割分担を見直す
– 市場と民間企業の活力を活かすために、規制緩和や多くの分野における国有企業の独占体制の打破を通じて、公平・公
リコノミクスの三本の柱
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市場に資源配分における決定的(従来は「基礎的」)役割を担わせる。
価格改革
– 価格形成をできるだけ市場に委ね、政府の介入を必要最低限にとどめる – 水、石油、天然ガス、電力、交通、通信などの分野の価格改革を進める。
– 人民元レートの市場化と金利の自由化を推進する。
財産権の保護の強化
– 公有制経済の財産権は不可侵であるのと同じように、非公有制経済の財産権も不可侵である。
– 農民の土地の占有、収益、譲渡、相続に対する権利や、企業の知的財産権も保護の対象になる。
企業の市場参入に対する規制の緩和
– 統一的な市場参入制度を確立し、ネガティブリストを作成した上で、各市場主体が法に基づきリスト外の分野に平等に参入できるようにする。
– ―国有資本の投資プロジェクトへの非国有資本の資本参加と、民間資本が中小型銀行などの金融機関の設立を認める。
国有企業改革
– 民営化への言及がなかったものの、国有企業の独占を打破し、民営企業が参入しやすい環境を作る。
– 国有企業の国庫納付を2020年までに利益の30%に拡大し、国有資本の一部を社会保障基金に移転するなど、所得分配の改善にも配慮して いる。
三中全会の注目点 ①市場化改革
財政・税制改革
– 地方政府の恒常的な赤字や急増する債務を解決するために、中央主導の支出拡大策によって発生した地方の財源不足を、中央からの財政 移転で補填する。
– 地方債の発行を緩和する。
– 税制の簡素化を行う。
都市化政策
– 中小型都市の戸籍取得の条件を緩和する。
– 出稼ぎ農民が都市部の住宅優遇制度や社会保障制度の恩恵を受けられるようにする。
対外開放
– すでに上海で設置されたような自由貿易試験区を、他の地域にも拡大する – 金融、教育、文化、医療などサービス分野への外資参入を推進する。
社会保障
– 農村部のほとんどが保障の対象になっていなかった養老・医療保険制度を見直し、都市と農村の格差を是正する。
三中全会の注目点 ②市場化以外の改革
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ワシントン・コンセンサスの10ヵ条
①財産権に対する保護
②企業の参入と退出に対する規制緩和
③国有企業の民営化
④直接投資の自由化
⑤貿易の自由化
⑥金利の自由化
⑦競争力のある為替レートの維持
⑧規律的な財政運営
⑨純粋な所得再分配支出の抑制と公共サービス支出の増加
⑩タックスベースの拡大
「ワシントン・コンセンサス」を思わせる改革案
これまで、立派な改革案が策定されても、実施の段階になって、既得権益集団の抵抗に遭い、途中で挫折し てしまうケースがしばしば見られた。国有企業改革の停滞がその好例である。
「体制移行の罠」を乗り越えるためには強いリーダーシップが求められるが、上層部によるグランド・デザイン を貫くための組織として「改革全面深化指導グループ」の設置が決められており、それに大きな期待が寄せら れている。
三中全会の「決定」はそのまま実施されるか
略歴
関志雄(かんしゆう)
野村資本市場研究所 シニアフェロー
学歴・職歴 1957 香港生まれ
1979 香港中文大学経済学科卒
1986 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、東京大学経済学博士(1996年)
1986 香港上海銀行(Hong Kong & Shanghai Bank)入社、本社経済調査部エコノミスト
1987 野村総合研究所入社、経済調査部主任研究員、経済調査部アジア調査室室長など
(1999.9~2000.6 ブルッキングス研究所北東アジア政策研究センター客員研究員)
2001 独立行政法人 経済産業研究所 上席研究員
2004 野村資本市場研究所 シニアフェロー
日本政府委員 経済審議会21世紀世界経済委員会委員(1996-97年)
財務省関税・外国為替等審議会専門委員(1997-99年、2003年-2010年)
内閣府「日本21世紀ビジョン」に関する専門調査会 グローバル化WG委員(2004年) 主な著書・論文 『円圏の経済学』、日本経済新聞社、1995年(アジア・太平洋賞特別賞受賞)
『日本人のための中国経済再入門』、東洋経済新報社、2002年
『中国 未完の経済改革』、樊綱著・関志雄訳、岩波書店、2003年(アジア・太平洋賞特別賞受賞)
『人民元切り上げ論争』、編著、東洋経済新報社、2004年
『共存共栄の日中経済』、東洋経済新報社、2005年
『中国経済革命最終章』、日本経済新聞社、2005年
『中国経済のジレンマ』、筑摩書房、2005年
『中国を動かす経済学者たち』、東洋経済新報社、2007年(第三回樫山純三賞受賞)
『チャイナ・アズ・ナンバーワン』、東洋経済新報社、2009年
『中国二つの罠』、日本経済新聞出版社、2013年
その他 NHK「ラジオあさいちばん」内「ビジネス展望」コーナーにレギュラー出演
ホームページ 「中国経済新論」(http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/index.htm)というホームページを主宰し、
日本の読者向けに発信している。
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