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リバースモーゲージの活用可能性について

第3章 リバースモーゲージの活用可能性について 1.わが国におけるリバースモーゲージに関する現状

わが国におけるリバースモーゲージのうち、代表的な制度、商品は図表 50 のとおり となっている。

公的機関が提供する融資制度のうち、厚生労働省が社会福祉協議会を通じて提供す る「生活福祉資金貸付制度(不動産担保型生活資金)」は、「借入世帯が市町村民税非 課税か均等割課税の低所得世帯であること」という条件が設定されており、資金使途 は自由であるが、生活困窮層に対する生活資金の補給という性格が強い制度となって いる。住宅金融支援機構が提供する「高齢者向け返済特例制度」は、一定の規模の住 宅について、1,000 万円を限度に融資を行う制度であるが、資金使途がバリアフリー工 事または耐震改修工事と限定的になっているとともに、融資期間にわたって金利を支 払う必要がある。

民間金融機関が提供する融資商品は、いずれも資金使途は自由である。ただし、中 央三井信託銀行の「住宅担保型老後資金ローン」は、三大都市圏に立地する土地評価 額 4,000 万円以上の戸建住宅を融資対象としており、比較的富裕層を対象とした融資 商品であるといえる。東京スター銀行の「充実人生」は、融資限度額は土地評価額の 80%と高く、融資最低額 500 万円以上と、比較的利用しすい条件となっている一方、

融資期間にわたって金利を支払う必要がある。

いずれの制度、商品においても共通する条件として、戸建住宅にて利用される場合、

資産価値は土地価格のみに限定されるという点が挙げられる。また、融資限度額は、

土地評価額の 50~80%に設定されており、利用者が期待する融資額を見込みにくいと いう点に留意が必要である。

土地評価額に対して融資限度額が低く抑えられている理由は、リバースモーゲージ を融資する際、金融機関が、①長生きリスク、②金利変動リスク、③不動産価格変動 リスクの 3 大リスクを自社でヘッジする必要があるためと考えられる。

ただし、金融機関へのヒアリング等によれば、3 大リスクのうち、①長生きリスク については、生命表の活用によりある程度リスクを確定することが可能である。また、

②金利変動リスクについては、多くの制度、商品が変動金利を採用することで、金利 の変動リスクをヘッジすることが可能である。しかし、③の不動産価格変動リスクに ついては、わが国における中古住宅市場が未発達であり、有用なトラッキングレコー ドがないため、価格変動リスクを確定することが困難であることに加え、図表 51 に見 られるように、バブル崩壊以降、住宅地における地価の上昇が継続して発生していな いこと、戸建住宅の資産価値における建物価値の割合が極端に低く、しかも減価 のス ピードが速いことなどから、そもそも住宅担保融資に適しにくい住宅価格の構造にな っているという点が指摘されている。

図表 50 わが国において提供されている主なリバースモーゲージ制度、商品

公的機関による融資制度 民間融資商品

厚生労働省 住宅金融支援機構 中央三井信託銀行 東京スター銀行 生活福祉資金貸付制度

(不動産担保型生活資金)

高齢者向け 返済特例制度

住宅担保型

老後資金ローン 充実人生 利用者の

条件

・借入世帯が市町村民 税非課税か均等割課 税の低所得世帯であ ること

・世帯の構成員が原則 65 歳以上

・借入申込時に契約者 が満 60 歳以上

・総返済負担率が年収 400 万円未満の場合 には 30%以下、年収 が 400 万円以上の場 合 に は 35 % 以 下 で あること

・カウンセリングを受 けていること

・契約時に契約者が 60 歳以上 83 歳以下で あること、ただし、

枠内引出自由型につ いては、契約時に契 約者が 60 歳以上 79 歳以下であること

・同行の遺言信託を利 用していること

・契約時に契約者が満 55 歳以上満 80 歳以 下であること(配偶 者は 50 歳以上)

・年収が 120 万円以上 であること

住宅の条件 ・戸建住宅、マンショ

・ 概 ね 資 産 評 価 額 1,500 万円以上

・ 5 年以上居住してい ること

・賃借権、抵当権が設 定されていないこと

・マンションの場合、

面積 50 ㎡以上、築年 数 13 年以下

・戸建住宅、マンショ

・戸建住宅の場合、住 宅 部 分 の 面 積 が 50

㎡以上、マンション の場合は 40 ㎡以上

・融資額 100 万円以上

・戸建住宅のみ

・三大都市圏(東京都・

神奈川県・千葉県・

埼玉県・愛知県・大 阪府・京都府・兵庫 県)に立地すること

・土地の評価額(同行 評価)が 4,000 万円 以上

・戸建住宅、マンショ

・融資額 500 万円以上

【戸建て、マンション 共通】

・営業店に 2 時間程度 で来行可能であるこ

【共同住宅のみ】

・東京都・神奈川県・

千葉県・埼玉県内に 立地すること 融資限度額 ・土地評価額の 70%相

当額

・月額融資額は、30 万 円/月以内

【戸建住宅】

・1,000 万円または評 価 額 の 60 % の い ず れか低い額

【マンション】

・1,000 万円または、

更 地 評 価 額 の 60 % のいずれか低い額

・1,000 万円または鉄 筋コンクリート造お よび鉄骨鉄筋コンク リート造の場合は評 価額の 40%(その他 の構造の場合は評価 額の 20%)または、

いずれか低い額

・土地評価額の 50%以

・戸建住宅は土地評価 額 80%、マンション は評価額 50%

・融資限度額は 500 万 円~1 億円

資 金 使 途 の 制約

・特になし ・バリアフリー工事ま たは耐震改修工事

・マンション建替え

・特になし ・特になし

金利条件 ・変動金利 ・固定金利 ・変動金利 ・変動金利

返済方法 ・元利金一括弁済 ・契約者は毎月金利を 弁済

・元金は、申込者死亡 時に相続人により弁

・契約者死亡時に相続 人が元利金一括弁済

・契約者は毎月金利の みを弁済

・手元資金により随時 弁済可能

・元金は、申込者死亡 時に相続人が弁済も しく代物弁済 出典:各種公表資料

図表 51 三大都市圏における平均地価変動率の推移(住宅地)

13.4 8.0

4.52.6 2.0 2.7 13.7

22.0

8.0

-7.3

-2.8-4.6-2.8-2.2

-5.7-5.9-5.9-6.5-6.5-5.7-3.7-1.2 2.84.3

-3.5-4.5 46.6

-14.5 -12.5 11.0

-20 -10 0 10 20 30 40 50

1981 1986 1991 1996 2001 2006

出典:国土交通省「公示地価」

2.わが国におけるリバースモーゲージの活用可能性

2-1 アメリカ、イギリスのリバースモーゲージから得られること ア)商品の信用力向上に向けた取り組み

アメリカの場合は政府による保証システムの構築、イギリスの場合は業界団体に おける規範の設定により、リバースモーゲージ商品をノンリコースで提供している。

特にイギリスの場合は、1980 年代後半から 1990 年代前半にかけて、リバースモーゲ ージ関連商品が消費者に大きな損害を与えたために、消費者の商品に対する信頼は 大きく失墜していた。このため、規範の設定は、商品に対する消費者の信頼回復に 大きく貢献したと評価する声が聞き取り調査先でも聞かれた。

また、イギリスの場合、エクイティリリース商品はブローカー経由で販売される のが主流である。利用者はブローカーを通じ、エクイティリリースに限らない、多 様な選択肢の中から自らの状況に最も適した商品を選択できる環境が整えられてい る。

イ)利用者像

アメリカでは本来、リバースモーゲージは、比較的低所得の住宅所有者が対象と されていた。また、イギリスの利用者に対する調査においては、住宅資産の価値に ついては平均的であるとの結果が出たものの、関係者への聞き取り調査においては、

エクイティリリースの利用は家族の支援や公的支援を受けられない場合の最後の手 段という位置づけであるとの見解を得た。さらに、イギリスでは年間約 2 万件の利 用があるものの、モーゲージ市場全体に占める割合は極めて小さく、 持家に対する

5年平均=-0.42%

10年平均=-3.04%

20年平均=-4.04%

30年平均=1.53%

(%)

(年)

愛着も強いことから、商品が広く定着しているとは言いがたいというのが、現地関 係者の認識であった。

イギリスのエクイティリリースの業界団体 SHIP の報告やエクイティリリース利用 者を対象としたバーミンガム大学の調査によると、エクイティリリースで調達した 資金の用途については、住宅の維持・改修や休暇での利用が多かったものの、一方 で、債務の弁済も高い割合となっていることが明らかになった。住宅ローンやクレ ジットカードの支払いなど、債務弁済のためのエクイティリリースの利用は近年増 加しているという報道もなされている。イギリスにおいても資金繰りに困る高齢者 がエクイティリリースを利用するという傾向が強まっているものと考えられる。

ウ)商品のリスクに対する考え方

イギリスの事業者ヒアリングにおいては、リバースモーゲージの 3 大リスクのう ち、長生きリスク、金利変動リスクについては、事業者のこれまでのノウハウを活 用すればヘッジすることは可能との回答を得た。一方、不動産価格変動リスクにつ いては、消費者の満足度の高い商品を提供するためには、長期的な視点ではインフ レ率程度に上昇することを前提にすることが求められていることがわかった。事実、

イギリスの住宅価格は長期トレンドでは上昇を続けており、また、エクイティリリ ースが普及のスピードを上げた 2000 年代は、住宅価格が特に上昇した時期と重なっ ている。この傾向はアメリカにおいても同様に見られる。以上のことから、住宅価 格が長期トレンドで上昇することは、リバースモーゲージ商品を提供する上で極め て重要な要素であり、この点はわが国の住宅市場の動向とは異なっている点である。

さらに、イギリスでは住宅流通の大半は中古住宅で占められており、その評価も 新築住宅と比較して大きく劣るわけではない。中古住宅に対する安定した評価が、

エクイティリリースの利用を促進している可能性はある。

2-2 韓国のリバースモーゲージ制度について

韓国のリバースモーゲージ制度については、導入後間もなく、現在その普及に取り 組んでいる状況であり、まだ、同国内においても評価がきちんとなされている状態で はない。

したがって、わが国に対する示唆点を抽出するには時期尚早と考えられるので、今 後の推移を引き続き注視することとしたい。

2-3 わが国におけるリバースモーゲージ普及の可能性について

わが国におけるリバースモーゲージ関連商品、制度の提供は約 30 年にも及ぶものの、

アメリカ、イギリスのような普及には至っていない。そこで、わが国でリバースモー ゲージが普及しない要因をアメリカ、イギリスとの違いから整理をしていく。

ア)中古住宅に対する評価が低い上に、土地価格は低迷傾向にある

前述のとおり、わが国の住宅は、建物の価値低下のスピードが極めて速いため、

一般的にリバースモーゲージを利用する際には建物価格は考慮されない。また、土 地価格についても近年は下落傾向にあること、さらに今後は本格的な人口減少社会 が到来することを勘案すると、利用者が満足できる商品を提供することは困難であ