5.1第5章への序
第 4 章で説明したように、リスク評価を開始するかどうかはリスク管理の過程で決定します。本章で は、食品安全に関するリスク評価について説明します。リスク評価の実務に役に立つ一連の技法を 紹介し、適正なリスク評価に必須の特徴の概略を説明します。化学物質や微生物のハザードに対 しておこなわれる食品安全に関するリスク評価にはいくつかの異なる種類がありますが、本章の説 明は、その一般的な紹介となります。ここで取り上げるリスク評価技法のいくつかは、付属文書 2〜
付属文書7で詳しく取り上げます。
5.2 リスク評価を理解する
Codex はリスク評価を科学に基礎を置く過程であって、四つの手順、すなわちハザード関連情報
整理、ハザードによる健康被害の解析、曝露評価およびリスク特性解析から構成されるもの、と コラム14: 本章で取り上げるリスク評価の要点
・ リスク評価の四つの構成要素は、ハザード関連情報整理、ハザードによる健康被害の解 析、曝露評価およびリスク特性解析である。形式が異なることはあるが、この四要素はど のようなリスク評価アプローチを取った場合でも実施することになる。
・ リスクプロファイルは、リスク評価実施に先立つ絶対要件である。リスクプロファイルは食 品安全上の問題点を記述し、評価の指針となる情報を提供し、評価が必要か否かの判 断材料となる。
・ リスク評価は調査研究の方向性を決め、リスクのベースライン予測を提供し、リスクをその 根本原因と結びつけ、新しい食品安全規制の作成や包括的なリスク管理実施の一助と なる。
・ リスク評価を実施するに当たり、唯一正しい方法というものは存在しない。どのような種類 のリスク評価になるかは、リスクの性格(化学物質によるもの、微生物によるもの、物理的 なものなど)や、リスクが発生する特定の背景により決まってくる。
・ リスク評価担当者の利用できるツールやモデル、技法には多くのものがあり、こうしたツ ール類を用いてリスク評価を組み上げることができる。
・ 適正なリスク評価は、科学的な証拠や技法を用い、リスク管理に関する具体的な質問質 問に対し回答するものである。
・ リスク評価は、構造的な科学的な過程である。
定義しています。この定義には、リスクを数字で表すことに重点を置く定量的リスク評価、リスクの定 性的表現、および付随する不確実性の目安が含まれています。
この定義の幾つかの側面は、強調しておかなければなりません。まず、リスク評価は体系的かつ科 学的な過程であり、四つの主要な手順から構成されます。次に、リスク分析は不確実性、つまりリス クに関して不明なことを明示的に取り扱います。これは論理的かつ透明に、またリスク分析過程に 関与する者全員にはっきりと提示できるように、しっかりと文書化されていなければなりません。最 後にリスク評価は記述的(物語風)、定性的、半定量的または定量的なものがあります。定性的リス ク評価と定量的リスク評価は異なった状況下で重要であり、本質的にどちらが優れており、どちらが 劣っているということはありません。
定性的リスク評価はリスクに関しての記述を裏づける証拠を集め、結びつけ、提示する過程です。
定性的なハザードによる健康被害解析の入力には数値データや数値分析が含まれる場合もありま すが、最終的なリスク推定は必ずしもリスクを発生させているシステムを数学的、コンピューター的 に表現しようと試みるものではありません。定性的な食品安全リスク評価には、小売店やレストラン で用いられる格付制度などがあります。
定量的リスク評価は数値データと数値分析に基づく評価です。定量的リスク評価は、食品添加物 の安全評価など決定論的なものもあれば、微生物リスク評価など確率論的なものもあります。定量 的リスク評価では、不確実性を各種統計的手法で算出する不確実性の分布で記述するべきです。
定量的リスク評価は、定性的リスク評価に比べてより詳細なレベルでリスク管理から投げかけられた 質問に回答することができます。
5.3 食品安全リスク評価過程
食品安全リスク評価をおこなう唯一の方法というものは存在しません。食品安全リスク評価モデルは いくつかの異なるものが存在します。そしてリスク評価過程はリスクの種類や使用するモデル、そし て回答しなければならない質問によって異なります。Codex の指針によれば、リスク管理上の対応 が自明であり、関連する者すべてに容認可能である場合や、十分なデータが無い場合など、リスク 評価を完全におこなう必要が無いか、あるいは完全にはおこなうことができない場合すらあります。
リスク分析の場合同様、リスク評価も対話的な過程であることが望ましく、また、繰り返しおこなう必 要のある場合もあります。
図4に示すように、食品安全リスク評価には必ず四つの主要構成要素があります。最近の知見によ れば、評価の連続した要素は必ずしもその順番でおこなう必要は無く、具体的な要件やデータの 入手可能性に応じて異なった順番でおこなうことも可能です。
図4 リスク評価過程の構成要素
リスク特性解析
ハザードの特定、ハザードによる健康被 害の解析、曝露評価に基づいて、特定の 集団に対する既知の、あるいは潜在的な 健康への悪影響が発生する確率や重篤 性の定性的または定量的予測であって、
付 随 す る 不 確 実 性 の 予 測 を 含 む も の
(Codex)。
ハザード関連情報整理
特定の食品や食品群に存在し、健康に悪影 響を及ぼしうる生物学的、化学的、物理的因 子を特定する(Codex)。
問題の構築
曝露評価
食品経由による生物学的、化学的、
物理的因子の摂取予想量、および 関連のある場合はその他の経路によ る曝露の定性的、または定量的評価
(Codex)。
ハザードによる健康被害の解析
食品に存在することが考えられる生物学的、
化学的、物理的因子に起因する健康への 悪影響の性質を定性的または定量的に評 価したもの。化学的因子に関しては、用量 反応評価を実施することが望ましい。生物 学的、物理的因子に関しては、データが得 られる場合、用量反応評価を実施することが 望ましい(Codex)。
ハザード関連情報整理
多様な生物学的、化学的、物理的ハザードが食品安全リスクの原因となっています(コラム 15 参 照)。ハザード関連情報整理は、リスク管理過程の一部と考えられることが多いのですが、ハザード 特定にはリスク評価者も重要な役割を果たします。特に潜在的なハザードを、科学的な証拠に基 づいて分析、優先順位づけする場合、リスク評価者はその科学的知見を活かして、リスク管理者が 最も懸念すべきハザードを選択する際に手助けすることができます。また、リスク管理者がハザード を特定した場合にも、リスク評価者はハザードの科学的性質に関する補足情報を提供することがで きます。
ハザードによる健康被害の解析
ハザードによる健康被害の解析の過程では、リスク評価者は特定されたハザードに起因する健康 への悪影響の性格と程度について、完全なプロファイルを作成します。ハザードの量とヒトの健康と の関係は、用量反応関係を用いて定量的に検討することもできれば、記述式に定性的に検討する こともできます。
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曝露評価
曝露評価では消費される製品中に含まれるハザードに科学的な洞察を加えます。曝露評価では 消費者の食品供給や環境中のハザードの汚染率や濃度を、消費者が食品中の当該物質に曝露 される量の可能性と結びつけます。ハザードの汚染率や濃度は、一食分当たりの病原体数や、代 表的な消費者が一日に消費する食品添加物の量などの推定値を含みます。問題の性質によって は、フードチェーンでの当該食品に関連する生産、保存、取り扱い規範も考慮に入れます。
コラム15: ハザードの例 生物学的ハザード
• 細菌
• 毒素産出性微生物
• かび
• 寄生虫
• ウイルス
• その他の生物学的ハザ ード
化学的ハザード
• 自然毒素
• 直接的、間接的食品添 加物
• 残留農薬
• 残留畜産用医薬品
• 化学的汚染物質
物理的ハザード
• 金属、やすり屑
• 工具
• ガラス
• 昆虫の一部
• 宝石類
• 石
リスク特性解析
リスク特性解析過程では、前記三つの過程で得られた証拠をすべてまとめ、リスクの推測値を得ま す。例えば、特定の集団に健康に対する悪影響が発生する確率や重篤性を、付随する不確実性 と併せて推定します。さらに、リスク管理者の設定した質問にも回答します。一般に、リスク特性解 析にはハザードに曝露された場合の影響を記述し、対象とする悪影響が発生する確率を推定しま す。
リスク特性解析では、重要なデータギャップや仮定(assumptions)、不確実性を明瞭に特定します。
これにより、リスク管理者は、リスク特性解析がどの程度現実を性格に描写しているか判断すること ができます。リスク特性解析は、妥当な推定値や現実のリスクを十分な情報を得て描写したもので あり、これ以上のものとなることはほとんどありません。
5.4 化学的リスクと微生物リスク
食品安全リスク評価は、ヒトの健康に対する化学的リスクや微生物リスクが特定された場合、実施さ れます。化学的リスク評価では、食品添加物や汚染物質、残留動物用医薬品などの存在に焦点が 当てられます。食品添加物や着色料などの化学物質は見栄えや味の改善、栄養価維持または改 善、加工や調理を容易にするため、鮮度を保つため、または保存を容易にするために、少量が意 図的に添加されます(直接添加物)。さらに間接添加物、つまり汚染物質が意図せず食品に混入 することもあります。これは取り扱いや加工中、器具から混入するもの、包装中に交差汚染するもの、
食品中の化学反応で生起するものなどがあります。農薬や動物用医薬品など、一次生産に用いら れる技術的補助手段が食品に残留することもあります。食品に対する直接添加物や間接添加物の 数は増えてきており、このような添加物の種類や量、ヒトに癌や他の病気を惹き起こす可能性など が公衆の懸念事項となっています。
微生物安全評価では、病原微生物や、微生物の発生している媒体への曝露によりヒトの健康に悪 影響が発生する可能性を評価します。微生物安全評価で取り扱うハザードは、化学的リスク評価で 取り扱うハザードと根本的に異なります(コラム 16 参照)。特に、微生物リスク評価の対象とするハ ザードは生きており、これによりリスク評価の焦点が大きく変わってきます。生物ハザードの最も特 徴的な点は、食品中の病原体の量が時と共に大きく変動することがある、ということです。微生物ハ ザードは食品が消費されるまでに大半が何度も増殖し、減少し、または死滅します。