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ユーロ圏とアメリカの金融政策の 国際的波及効果

ドキュメント内 ユーロと国際金融の経済分析 (ページ 123-128)

‑ 2

VAR モデルによる推定―

1 .   はじめに

1999年1月からユーロが欧州諸国に導入され、 2002年1月からは紙幣・

硬貨が導入され、公衆にも共通通貨が広く利用されるようになった。物価安 定をその定款に明記された枠組みの中で欧州中央銀行

(ECB)

は、ユーロ 圏での金融政策を担っている。本章は、

ECB

の金融政策効果を実証的に分 析することが目的である。

一般的に金融政策の効果を実証するのにはいくつかの方法が考えられる。

例えば、単独の金融政策反応関数を推定して、その係数の有意性と大きさを 比較する方法、テイラー・ルールと呼ばれるアプリオリな金融政策ルールを 現実のデータに当てはめ、その当てはまりの良さを比較する方法、ベクトル 自己回帰 (VAR) モデルを用いて、金融政策ショックの反応を検討する方 法などがある。しかしながら、どの方法が優れているかというコンセンサス

は必ずしもえられていない°。

ECB

の金融政策効果の実証においても同様に、金融政策ルールを単独で 推定する方法、あるいはまたテイラー・ルール型の金融政策ルールを推定す る方法などがおこなわれている。本章では金融政策ルールを単独で推計する のではなく、 VARモデルを用いて、複数の内生変数を利用してシステムと して推定する方法を採用する。それにより波及経路およびその効果がどの程 度であるかを検証できるからである。

以下、第2節では VARモデルとその応用である構造 VAR (SVAR) モ

1)  VARモデルによる金融政策効果のサーペイについては照山 (2001) を参照。

デルについて説明する。第

3

節ではユーロ圏での

ECB

の金融政策効果を構 造VARモデルを使って推計する。第4節では、モデルを拡張して、ユーロ 圏とアメリカ経済との 2国モデルで、それぞれの金融政策当局による政策効 果を推計する。第5節では結論を述べる。

2 .   VAR モデルと構造 VAR モデル

本節では、 ここで推定する構造VAR (SVAR)モデルと、制約なしの VARモデルとの相違を説明する2)。通常のVARモデルは、内生変数の動きを、

すべての内生変数の過去の値で説明する。例えば、次の

( 5 ‑ 1 )

式のように書 ける。

X ,  = B ( L )   +u, 

(51)  ここで、兄は n個の内生変数のベクトルであり、

B

は係数行列、 urは攪乱 項のベクトルである。それぞれの攪乱項はホワイトノイズである。

L

はラグ・

オペレーターを表す。変数の動学を表す係数

B ( L )

には、何ら制約を課し ていない。推定に当たっては最小二乗法を適用することで、漸近的に有効な 統計量がえられる。

しかし,このモデルでは経済学的な根拠をもたず、内生変数に影響を与え るショックの性質を特定化できない。 ショックの性質が特定化されないと、

VARモデルで通常おこなわれるインパルス応答関数でのダイナミクスの効 果が、どのようなショックによるものかを判別することができないという問 題が生ずる。インパルス応答関数による分析とは、ある攪乱項に一定のショ ックを与え、 VARモデルの変数間のダイナミクスを通じてどのように影響 を与えるかを調べる手法である。例えば、政策効果の判別を目的とした時に、

当該政策によるショックによる影響なのか、あるいは他のショックとの混合

2)  以下の説明、 ならびに本章の実証方法は細野・杉原・三平 (2001)6章に多くを 依拠している。 また、 Favero(2001)  Chapter 6も参考にした。

であるのか、そのショックの性質を識別しなければ検証はできない。そこで、

VAR

モデルの係数に何らかの制約をかけて、経済モデルに一致する

VAR

モデルを構築する必要がある。その具体的な手法が

SVAR

モデルである。

SVAR

モデルには、

C h i r i s t i a n o ,E i c h e n b a u m ,  Evans (

1999)に代表される ような同時決定式を含んだ短期的制約を課したモデルと、

Blanchard=Quah

(1989)に代表される長期的制約を課したモデルがある。 ここで、用いるの は短期的制約を課したモデルであるので、その説明をおこなう。

SVAR

モ デルは、次の (5‑2)式のように定式化される。

K

。ふ

=K(L) 心

+&I (5‑2)  ここで、

K

。は同時点の係数行列である。個の係数行列により経済構造を想 定する。係数行列という制約を変えることによって、制約なしの

VAR

モデ ル (5‑1)式では明示されなかった経済構造を考慮したショックを識別できる。

ここで、それぞれの外生ショックは互いに独立であると仮定し、分散共分散 行列2は対角行列となる。

ふの推定が正しくおこなうためには、追加的な制約が必要となる。なぜ なら、 K。とこには合計が個の未知のパラメータがあるのに対して、 2は対 称行列であるので、

n(n+l/)/2

個だけの情報しかない。 したがって、

n(n‑l))/2

個以上の情報が追加される必要がある。最小限の情報の追加に よって構造ショックを識別する。

3 .   構造 VAR

モデルの推定

1) 

3

変数

SVAR

モデル

まず、ユーロ圏内の

ECB

の役割を検討する。 ここでは、ユーロ圏全体を 閉鎖経済として想定する。ここでは、以下のようなシンプルな総需要・総供 給モデルを想定する。

げ =yd(R}+

む (5‑3) 

y'=  y•(p)

+を

R  =  R  ( y ,   p )   + 

(5‑4) 

(5‑5)  ここで

( 5 ‑ 3 )

式は総需要を表し、総需要YDは 、 金 利

R

の減少関数とする。

和は総需要ショックを表す。 (5‑4)式 は 総 供 給 で あ り 、 総 供 給

ys

が物価

p

の増加関数とする。名は総供給ショックを表す。 さらに (5‑5)式は、

ECB

の金融政策ルールを表すものとする。名は金利ショックで、金融政策ショッ クを表す。すなわち、

ECB

は金融政策をおこなう上での政策変数として短 期金利を用いているものとし、金融政策は総供給(=総需要)と物価に依 存すると仮定する。以上、三つの式は静学モデルであるが、これをもとにし て次のように

SVAR

モデルを構成する。

( 5 ‑ 3 )

から

( 5 ‑ 5 )

式のマクロ経済 構造を係数行列A。に反映させ、 ラグ構造をもつ動学部分をALとすると、次 の

SVAR

をえる。

A 。 X, =  A  ( L )   X , ̲ ,  +  B e ,  

さらに、金利の総需要に対する偏微係数をゼロとする。すなわち投資は金利 に同時点では反応しないという意志決定ラグを仮定することにより、 A。は 下三角行列となる。 これにより、同時決定を含まないリカーシブな

VAR

で あり、 コレスキー分解による推定が可能となる。 A。が推定されれば、それ より逐次代入によって

A ( L )

を求めることができる。

この章では、ユーロが発足した

1 9 9 9

1

月から

2 0 0 2

7

月までのデータ を利用した。 yは鉱工業生産指数、

p

HICP ( H a r m o n i z e d   I n d e x   o f   Consumer P r i c e s )

R

EONIA( E u r o  Over  N i g h t  I n d e x  A v e r a g e )

を用 いた。 ここで使われたデータの入手は、すべて

ECB

のホームページからで ある

3 ¥

VAR

モデルを推定する際のラグに関して、 ここではシュヴァルツの情報

3)  http:/ /www.ecb.int 

量基準

( S c h w a r zI n f o r m a t i o n   C r i t e r i a   :  S I C )

ならびに赤池の情報量基準

( A k a i k e  I n f o r m a t i o n  C r i t e r i a  :  AIC)

を考慮して決定した。 また、誘導型

VAR

の推計は、すべての変数について階差ではなくレベルを用いて推計する。

S i m s ,   S t o c k ,   a n d  Watson ( 1 9 9 0 )

が主張するように、誘導型モデルは非定 常な変数が含まれている場合でも、推定量は一致性をもっためである4)。通常、

時系列データを用いる場合、非定常であるかどうかの単位根検定をおこない、

非定常となれば共和分関係の検定と共和分ベクトルの推計をおこなう。そし て、ベクトル誤差修正モデル

( V e c t o rE r r o r  C o r r e c t i o n  Model :  VECM) 

を推計する方法が採られる。しかし、その方法では予備的な検定結果による 定式化に誤りがある可能性もあり、 レベルを用いた

VAR

モデルの推計が多 くなされている。また、非定常なデータの階差をとって定常化するのは、畠 中

( 1 9 9 1: 

4

章)でも指摘するように、危険であり、階差をとることによ って重要な情報を除くおそれがある。そこで、この章ではレベルのデータを 用いて

VAR

を推計した。ラグは

S I C

および

AIC

基準より

1

とした。

5 ‑ 1

で推計された同時点係数行列をみると、総供給では想定した符号と は異なり、一方、金融政策ルールは符号条件を満たす。そして、 yに関して は有意であるが、 pに対しては有意ではない。 さらに図

5 ‑ 1

より、推定され たインパルス応答関数をみると、正の金利ショックが発生すると、物価は下 落するものの、生産が上昇する結果となっている。また、総需要ショックが 発生して物価が上昇したにもかかわらず、金利が下落している。通常、

ECB

が第一義の役割とされている物価安定とは逆の政策をおこなっていることと なり、また観察される事実とも異なる。これらは同時点で投資が金利に反応 していないという仮定だけでなく、モデルが単純であり重要な波及経路を落 としている可能性がある。そこで、次に物価に関して、先行指標となる経済 変数をモデルに導入して、より正確な波及経路の推計を試みる。

4)  この点に関しては、照山 (2001)および畠中 (1991)4章も参照。

表5‑1 3変数モデルの同時点係数行列

総需要

: : :  策ルール

一 塁 悶 *

注)太字は符号条件を満たさない。

*は5%水準で有意であることを示す。

構造VARjustidentifiedである。

‑0.048726 

o o l  

.012 

. 0 0 8 . r ; ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑

‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑

図5‑1 3変数モデルのインパルス応答

012 012 

. 0 0 8  

.004j

\ 

― ‑ ‑ ‑

  1 

.000 

‑ . 0 0 8  

10  15  20  25  30 

ロ ロ

30

: 三 三 三 玉三三一

10 

"   

30 

. 0 0 8  

10  15 

・ " '  

.004  .003  .002  .001  .000 

.001 

.002 

.003 

‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑

‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑

---——

‑ ‑ ‑ ‑ ‑

‑‑‑、

.005  .004  .003 

.003 

三 三

10  15  20  25  30 

10  15  20  25 

 

.004 

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