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ユーロ・ドルレートの決定要因の実証

ドキュメント内 ユーロと国際金融の経済分析 (ページ 142-158)

—拡張されたマネタリー・モデルによる実証研究―

1 .   はじめに

ユーロ発足から 8年を経て、ユーロは国際通貨として認知され、対ユーロ・

レートも重要な金融変数として認識されている。図

6 ‑ 1

には、ユーロ・ドル レートをプロットしているが、

2 0 0 0

1 0

2 6

日にドルに対してユーロ最 安値

0 . 8 2 5 2

を記録したものの、

2 0 0 1

年に入ってからユーロはドルに対して 増価し、

2 0 0 8

3

2 8

日にはユーロ・ドルレートの最高値

1 . 5 7 9 6

を記録す るまでになった。この間、ユーロはドルに対しておよそ倍近く上昇している ことになる。

本章では、ユーロ・ドルレートの変動要因を、従来の為替レートモデルで あるマネタリー・モデルを応用して実証する。それにより、近年のユーロ・

レートの変動を支配してきた経済変数を特定化し、今後のユーロ・レートの 変動予測もおこなうことができる。

6‑1 ユーロ・ドルレ_卜の動向 8

4 2  

.  

1 1 1 1  

0.8  0.6 

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データ出所)欧州中央銀行 (http://www.ecb.int)。

ただし、ユーロ圏は金融政策の一元化を果たしたものの、財政政策の足並 みの乱れ、各国の経済格差は残されたままである。これらのユーロ圏内での 相違が、対外的な代表指標であるユーロ・レートにどのように影響が現れる のかどうか、を検証してみることに本研究の目的がある。

為替レート決定モデルは、マンデル・フレミングモデルに代表されるフロ ー・アプローチと資本移動を重視するアセット・アプローチに大別される。

さらにアセット・アプローチは内外資産の完全代替を想定するマネタリー・

モデルと、それを想定しないポートフォリオ・バランスアプローチに分類さ れる。さらに、マネタリー・モデルは伸縮価格モデルと硬直的価格ないしは 粘着的価格モデルに識別される。経済モデルでは一般的にみられるが、為替 レートモデルもいくつかの仮定に依存しており、その仮定の違いによって構 造モデルが異なることになる。このように為替レート決定モデルには種々あ るものの、その中でマネタリー・モデルは、仮定の置き方による操作性が容 易であり、ベンチマーク・モデルとして利用することが容易である。そこで、

本章ではマネタリー・モデルをベンチマーク・モデルとし、その仮定を緩め ることにより、ユーロ・レートの決定要因を探ることにする。

マネタリー・モデルは

F r a n k e l( 1 9 7 9 )

より発展してきた為替レート決定 の主要モデルの一つであるが、それが成立する条件として、財の国際的な完 全代替、価格の伸縮性、内外資産の完全代替性が仮定されている。

その後、現実の為替レートの動向を考慮して改良が進展してきた。 まず、

D o r n b u s c h  ( 1 9 7 6 )

によって展開された粘着的価格モデルによって、為替レ ートのオーバーシューティング現象の説明がおこなわれた。また、内外資産 の完全代替の仮定を緩め、不完全代替を仮定したポートフォリオ・バランス アプローチが

B r a n s o n

によって提案された。 また、 それと平行してそれら の理論をもとにした実証分析も数多く発表され、いままでに為替レート研究 はかなり蓄積されている。

しかし、これらの経済分析では為替レートの現実の動きを説明することが 難しくなっている。その一つの理由として資本移動が自由化され、国際的に 資本移動が活発になったことで為替レートのボラティリティも高まり、モデ

ルによる予測が困難となっていることが挙げられる!)。そのため、為替レー ト研究では、 ファイナンスの実証モデルを用いた研究も盛んになっている。

また、別の理由として、データの取り扱いの不適切さも挙げられるであろう。

かつては、時系列の非定常データも為替レートの実証分析に用いられてきた が、為替レートをはじめとして時系列データの多くが、非定常であり、定常 データに変換するか、非定常性を適切にコントロールして実証することが求 められる。適切な実証分析をおこなうことにより、理論と整合的な実証結果 が導出できる可能性も否定できない。

そこで、本章では、新たに主要な為替レートとなったユーロ・ドルレート の決定要因を理論モデルに基づいて実証することを試みる。それをおこなう にあたって、データの定常性に注意を払い、単位根検定をおこない、それに より非定常データが検出されれば共和分分析をおこなう。そして、共和分ベ クトルの存在が確認されれば、 ダイナミック OLS (Dynamic  Ordinary  Least Squares : DOLS)によって、為替レートの回帰分析をおこなうこと

とする。

以下、第

2

節ではマネタリー・モデルに基づく推定モデルを提示する。第 3節では実証モデルとそれによる実証結果を示す。第 4節はまとめである。

2 .  

推定モデル

1)  ベンチマーク・モデル

本節ではまずユーロ・ドルレートを推定するためのベンチマーク・モデル として、一般的な対称 2国のマネタリー・モデルを用いる。マネタリー・モ デルは以下のとおりである。

s ,  

=p,‑p, 

. 

(6‑1)  1)  この点についてMeese=Rogoff(1983)は理論モデルによる予測よりもランダム・ウ

ォークモデルの方が予測力が高いことを初めて示した。

m ,  

‑p, 

=ay, 

/ 3  ( 

(62) 

* * * ・ *

I ‑

=  ay 

I ‑

/ 3  

a> 0, 

f J  

> 0  (6‑3)  ただし、ここで、金利をのぞく各変数は対数値である。 Sは名目為替レート、

P

は物価指数、

m

は名目マネーサプライ、

y

は実質所得、iは名目金利を表す。

さらに、右肩のアストリスクは、アメリカの変数を表し、添え字の

t

は時間

( t

期)を表す。

( 6 ‑ 1 )

式は、 自由貿易が成立し、財市場での完全代替、すなわち購買力平 価が成立していることを表している。また (6‑2)式は自国の貨幣市場での需 給一致条件を、 (6‑3)式は外国の貨幣市場での需給一致条件を表している。

(6‑2)式あるいは (6‑3)式の左辺は実質貨幣残高を、右辺は貨幣需要を表す。

ただし、両国を対称な経済構造をもつものと想定するために、貨幣需要関数 のパラメータは、両国で等しいものとする。

s  =(m1 ‑m;) ‑a(y1

y ; )   +  / 3   ( i t

i t )  

さらに、フィッシャ一方程式

+冗t+I 

を仮定すると、 (6‑4)式は

(6‑4) 

s=(m1‑m;)‑a(y1  ‑ i )  + / 3 ( 冗 : + ,― 冗 訂 + / J [ ( i ,   ― 冗 , ・ + , l

-(;,*—冗::,)] (65)  と書き換えることができる2)。ただし、

r

は実質金利、尼口は

t

期における

t + l

期の期待インフレを表す。完全資本移動が想定され、内外資産の完全代

2)  Groen  (2000) (6‑4)式にカバー無しの金利平価と為替レートに合理的期待を導入 さらに為替レートが/(1)過程に従うものと仮定した上で、為替レート変化率を誤 差項として扱ったモデルを共和分検定している。 Groen (2000)は対ドル、対マルクレ ートで共和分検定をおこなったが、有意に共和分をもつ為替レートモデルは少なかっ たと報告している。

替が仮定されれば、両国の実質金利は等しくなり、 (6‑5)式は

s  =  ( m ,  ‑m ; )  ‑a  ( Y ,  ‑ l )   +  P  ( 元 ー 冗 : : . )

(66) 

と表すことができる。したがって、長期均衡では名目直物為替レートは金融 政策スタンスの違い、両国の景気の違い、そして両国の公衆による期待イン フレの相違によって変動することが示された。また (6‑6)式で決定される名 目レートの長期均衡値を5とおく。

しかし、 (6‑6)式での説明は、 どのような時間的視野でも価格は伸縮的で あり、それにより財の完全代替が仮定されているが、これは現実的ではない。

すなわち、短期的には価格は硬直的であり、時間が経つに従い、価格調整が おこなわれると考えるのが現実的であろう。特に

1 9 9 0

年代以降の先進国経 済では、年間のインフレーションは低く、価格調整が瞬時におこなわれてい るとはいえない

3 ¥

そこで粘着的価格モデルの初期モデルである

Dornbusch ( 1 9 7 6 )

モデル を取り上げよう。このモデルでは、期待為替レート変化率が、長期為替レー

トと現在の為替レートの差に依存するとされ、

s ら

=0(

亙 ー s , )

0<0<1 

( 6 ‑ 7 )  

と仮定される。これは、為替レートの回帰的予想と呼ばれる。また物価の変 動は次の

( 6 ‑ 8 )

式のように総需要と総供給の差に依存するとしている。

△ 

P ,  =p(y1‑y,)  p>O  ( 6 ‑ 8 )  

ここで

y {

は総需要を表す。 本章では、粘着的価格モデルと伸縮価格モデ ルの二つのモデルの特徴を合わせたハイプリッド・マネタリーモデルを用い る。ユーロ・ドルレートにおいて、アプリオリにどのモデルが適合できるの かを判断できないため、より自由度の高いモデルを利用する4)。ハイプリッド・

3)  インフレ率が低い理由としては、独占的競争が先進国経済では多くみられると想定 することもできる。ただし、ここではその点について焦点を当てない。

4)  ハイプリッド・マネタリーモデルはFrankel(1979.1980)によって展開された。

マネタリーモデルでは、長期では伸縮価格モデルが示唆する長期均衡値に、

短期では硬直価格モデルの均衡値が成立するとし、短期均衡値は時間が経つ につれ長期均衡値に移行するものと想定している。 ここで長期均衡値とは (6‑6)式で決定される為替レートである。

短期での価格の硬直性は、為替レート調整に影響を及ぼし、 (6‑1)式と (6‑7) 式より期待為替レート変化率は次の (6‑9)式のように定式化される。

△ 

s : + 1   = 

0 (s ‑

s , ) +   冗 ( ; + I ― 冗 印 0<0<1 

(6‑9)  期待為替レート変化率は、硬直的価格の特徴である回帰的予想と両国のイン フレ率の予想に依存すると仮定されている。さらに、完全資本移動が仮定さ れると、カバー無しの金利平価が成立する。すなわち、

△対=   , i

i ;  

(6‑10)  が成立する。また、価格の粘着性ゆえに期待為替レート変化は回帰的期待と 期待インフレ格差と等しいものと仮定する。したがって、短期モデルで為替

レートは

=s-¾[(i, ―心) ~i,* —冗,·:ill

(611) 

となり、ここに (6‑6)式の長期均衡値§ を代入すると

s , = ( m , ‑ m ; ) + / J J   y , ‑ i )   + / J 3   ( 冗 , ~+I ―冗:;)― 7;[(i, ― 冗 : + , ) ‑ ( ( ― 冗 : : , ) ]

(6‑12)  と、名目レートの短期均衡を表すことができる。

2)  モデルの拡張

次に (6‑12)式での仮定を現実に則して緩めることにする。本章での拡張 は (a)短期での内外債券の不完全代替を仮定したモデルと、 (b) ユーロ圏 各国の国債金利ボラティリティの二つである。

(a) 短期での内外債券の不完全代替

長期では内外債券の完全代替を仮定し、実質金利の均等化を想定するもの の、短期では不完全代替を仮定し、実質金利は均等化しないものとする。資 本移動が世界的に自由化されているものの、投資家の為替レート・ボラティ

リティに対するリスクの感応度によって内外債券は不完全代替となりうる凡 したがって、 実質金利は長期では両国で等しくなる (r,=バ)ものの、短 期ではカバー無し金利平価は成立せず、リスク・プレミアムが金利平価式に 追加される。すなわち、

△心=

i, 

― バ + O J

(613)  が成立する。のはリスク・プレミアムを示す。そこで、のに対して、為替

レートのボラティリティが影轡を与えると仮定し、次式のように仮定する。

例=¢

叶 ,

t

r / J > O  

(614)  自国投資家からみればボラティリティの上昇は自国通貨建て資産への回避と なるが、外国投資家からみると自国通貨建て資産への投資を増やすこととな る。したがって、対外資産比率の差に分散をかけたものが為替リスクとなる。

ここで、¢は自国と外国の対外資産比率の差を表し、

a ; , ,

は為替レートの分

散を表す。

したがって、短期モデルで為替レートは

1  1 

=s‑0 [  ( i 1 ― 冗 ; J ( i ;   —冗::1) ] ‑ 戸

(6‑15)  となり、ここに長期均衡式を代入すると

s 1

  = ( m 1 ‑ m ; ) + f J 2 ( Y , ‑ i )   +/J3(元—冗/訂—; [  ( i ,   ―冗,·+,)-(i,' ー冗::J] —伍

(6‑16)  と表すことができる。

5)  これに関連した研究として、ホームバイアス・パズルに関する一連の研究がある。

ドキュメント内 ユーロと国際金融の経済分析 (ページ 142-158)