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戦略的意思決定

管理的意思決定

業務的意思決定

思いつき・ひらめき

(リーダーシップ機能)

下位経営階層上

計画的・管理的

(マネジメント機能)

ト ッ プ

ミドル ハ イ

ヤー

戦略的意思決定

管理的意思決定

業務的意思決定

思いつき・ひらめき

(リーダーシップ機能)

下位

図表3-8  リーダーシップ機能とマネジメント機能

(筆者作成)

H.ミンツバーグは、1982年にスイスのサンガランで開催されたシンポジウムで講演した内容を 活字化し、「マネジメントが社会をだめにした」というタイトルを付した。そして、企業組織に限 らず、社会における機械的官僚制組織の特徴は、標準化された仕事、フォーマル化された手続き、

規則と規制による厳重な統制、明瞭な権限のハイアラーキー、実施前に戦略を策定するための計 画を立案することなどであるとする。そしてそれは組織化するための合理的な方法であるとする。

問題は、マネジメントの名のもとに行われる「合理性への非合理な妄念」や「分析的な立証主義」

「プロフェッショナル・マネジメントと称する細分化した専門主義」などが硬直化を招くことに

40)Kotter,J. “Leading Change,” Harvard Business School Press, 1996.(梅津祐良訳、「21世紀の経営リーダー シップ」、日経BP社、1997pp.46-54

41)J.シュンペーター著、塩野谷祐一、東畑精一、中山伊知郎訳、「経済発展の理論」上巻、岩波書店、1977、pp.205-206.

あるとする 42) 。換言すれば、官僚制そのものは悪ではなく、マネジメントも過度な「合理主義」

「分析主義」「専門主義」に陥らなければ組織は首尾よく機能する、ということになる。このよう に考えると、本来必要となるマネジメント機能に対して、それが逆機能に陥らないようにする牽 制機能としてもトップのリーダーシップ機能が必要となるということができよう。マネジメント 機能の牽制においては、現在のマネジメントより上位のマネジメントを充てようとすると相対論 になってしまうことから、別概念、つまり対立しうる概念として、トップのリーダーシップ機能 を想定することが必要になるといえよう。

組織全体、企業全体のマネジメント機能に対して、対立項を設けて調和を目指すなら、それは 最高権限者および最高責任者であるトップのリーダーシップ機能を想定することになろう。マネ ジメント一般がマネジメント一般をコントロールできないと考えるからである。もしも対象が組 織全体、企業全体ではなく、部署、部門であるなら、そこでのリーダーがリーダーシップ機能を 発揮し、そこでのマネジメントがマネジメント機能を発揮することが求められよう。マネジメン ト機能とリーダーシップ機能は組織内で調和されるだけでなく、弁証法的に昇華されて企業を継 続的な成長へと導くことになろう。

J.シュンペーターは新結合のときに必要な企業者機能をマネジメント的(日常管理的)な機能 と分けることを主張した。しかし、本来新結合のときに限らず、リーダーシップ機能とマネジメ ント機能は常に対立的な存在として組織内に包含しておくことが有効と考えられるのではないだ ろうか。通常はマネジメント主導で経営しておきながら、新結合が必要になったときに「今こそ リーダーシップだ」といわれても急に企業者として機能できるものではないだろう。日常からマ ネジメント機能とは異なるリーダーシップ機能を確立しておき、弁証法的な緊張関係を醸成して おくことが必要となろう。無論、通常時はマネジメント機能に重心を置いて組織維持活動を継続 して行くのだが、たとえ小さな事象にも常日頃からリーダーシップ機能をマネジメント機能に牽 制させておくことが有効といえよう。

リーダーシップ機能とマネジメント機能のバランスが企業の持続的成長に有効であることを図 解するために、言語学的には異論があろうが、便宜的にそれぞれ反対語を次のように設定してみ る。たとえばリーダーシップ機能を「思いつき・ひらめき」による意思決定とし、その反対語を

「感情的・好悪的(好き嫌い)」による意思決定として縦軸にとる。そしてマネジメント機能を「計 画的・管理的」な意思決定や業務遂行とし、反対語を「いい加減・杜撰」な意思決定や業務遂行 として横軸にとる(図表3-9)。

42)H.ミンツバーグ著、北野利信訳、「人間感覚のマネジメント:行き過ぎた合理主義への抗議」、ダイヤモンド社、

1991、pp.523-587.

マネジメント機能

(計画的・管理的)

ノーマネジメント

(いい加減・杜撰)

リーダー機能思い・ひ ノー

好悪

不安定

衰退 成長

破滅

マネジメント機能

(計画的・管理的)

ノーマネジメント

(いい加減・杜撰)

リーダー機能思い・ひ ノー

好悪

不安定

衰退 成長

破滅

図表3-9  機能バランスによる企業の成長

(筆者作成)

このように描くと次のようなことが明らかになる。トップが思いつき・ひらめきに優れたリー ダーシップ機能を発揮するにも拘らず、マネジメントがいい加減・杜撰であれば、企業はトップ の意思決定の良否によってあるときは成功し、あるときは失敗する。即ち不安定となる。これは マネジメント機能が確立できていないベンチャー企業に多いタイプといえよう(不安定象限)。ト ップが何事についても好き嫌いで判断し、それに加えてマネジメントがいい加減・杜撰であれば 企業は破滅に向う。これは優秀な創業者が引退して無能な二代目に替わり、創業者に甘えてきた 無能なマネジメントが居座ると程無く倒産してしまうようなパターンである(破滅象限)。

トップのリーダーシップ機能は欠如していてもマネジメント機能が優秀な場合は、現状維持を 続けることができる。しかしリーダーシップ欠如のため、環境の変化に遭遇するたびに適応不全 をきたし、変革できずに衰退してしまう(衰退象限)。比較的大企業に多い衰退パターンである。

ニューリーダーが改革を断行しないと危いパターンである。

このように見てくると、企業を持続的な成長に導くためには、リーダーシップ機能とマネジメ ント機能が程よく調和していることが必要となろう(成長象限)。無論、状況に応じて両機能に強 弱のバランスはあり得る。変革が必要なときにはトップの思いつき・ひらめきはより重要となる。

とはいっても、日頃両機能の調和がとれている企業は、大改革の断行に至る以前に適宜改革を実 践して環境に適合しつつ環境への働きかけも行っているであろう。C.バーナード(1938)の言を 借りれば「組織では異なる時における、そしてまた異なる職位にいる、異なる管理者およびその 他の人々による連続的意思決定が必要である」ということになる。つまり日常不断の意思決定が

「広い目的すなわちすぐには達成されない目的の成就に必要」なのである43)

43) Barnard,C. “TheFuncitons of Executive”, Harvard University Press, 1938.(C.バーナード著、山本安二郎、

田杉競、飯野春樹訳、「新訳:経営者の役割」、ダイヤモンド社、1968、p.216.

同じような形で、リーダーシップ機能とマネジメント機能に戦略論をあて嵌めてみよう。つま り、前項における戦略論概観では、これまでの戦略論が戦略ポジショニングか資源ベース論かに 大別した形で展開されることが多かったことを考慮し、これにマネジメント機能とリーダーシッ プ機能を当て嵌めてみるのである。より分析的なものを戦略ポジショニング、企業の内外にある 資源をトップがいかに活用して行くかを資源ベース論として捉える。戦略論において統合型ある いはダイナミック型といわれるものは、別言すれば、リーダーシップ機能とマネジメント機能の 調和による統合ベクトル的な成長を目指すリーダーシップ戦略(論)とも考えられる(図表3-10)。

H.ミンツバーグのいうプランニング・スクールなどを計画的なマネジメント機能によるものと し、創発的戦略や陶芸的戦略をリーダーシップ機能によるものとして捉える。あるいはより環境 決定論的な戦略的ポジショニングに「組織は戦略に従う」を充てる一方、企業が持つ特異(ユニ ーク)な内部資源で環境に働きかけて持続的成長を果たそうとするものに「戦略は組織に従う」

を充てることも可能と思われる。

リーダーシップ機能資源ベース論

マネジメント機能

戦略的ポジショニング 分析型・計画的意図された戦略 組織は戦略に従う トップのリー

ダーシップ による プロセス型 創発的 陶芸的 戦略は組織 に従う

統合ベクトル的な 成長戦略

リー

ダーシップ戦略論

リーダーシップ機能資源ベース論

マネジメント機能

戦略的ポジショニング 分析型・計画的意図された戦略 組織は戦略に従う トップのリー

ダーシップ による プロセス型 創発的 陶芸的 戦略は組織 に従う

統合ベクトル的な 成長戦略

リー

ダーシップ戦略論

図表3-10  統合ベクトル的成長戦略

(筆者作成)

このように、リーダーシップ機能をマネジメント機能の延長線と考えず、対立概念として縦軸 にとり、両者を調和し統合させて新しいものを創出しようとするとき、すべての戦略論は包含さ れることになる。本項で主張するリーダーシップ戦略論をこのように考えれば、戦略論分類を厳 密に考える必要はなくなるだろう。また戦略の実践に際しては、そのとき相応しい戦略を適宜論 理的に考えるだけである。すべての既存の戦略論はものごとを論理的に考えるときに等しく有効

ドキュメント内 トップ駆動型のナレッジ・マネジメント (ページ 109-200)

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