ここでは,まず,提案方式におけるモニタリングの手順の概要を述べ,次にその手順が
前節5.1.2で述べた技術要件を満たすことを示す.
5.2.1 提案方式におけるモニタリング手順の概要
5.1.1節で述べた目視モニタリングの手順(トラヒック観測,状態把握)にポリシー定
義を加えた3つの処理で提案方式を構成する.システム概要を図5.9に示す.図の(1)と
(3)はシステムの自動処理であり,(2)は管理者の手動処理である.
図5.9 システム概要
(1) トラヒック観測
ここでは,管理者が指定した項目についてシステムが周期的に観測する.本研究では,
境界ルータのデータ転送量(ビット数とパケット数)のカウンタデータを取得し,トラ ヒックDBに蓄積する.
(2) ポリシー定義
ポリシーとは管理者が経験知識に基づいて想定するトラヒック分類結果である.ここで は管理者がポリシーを定義する.5.1.1節の図5.4と図5.8の様に,ポリシーは観測対象 ルータとそのルータが所属するクラスタ(以下所属クラスタと略記)の対の集合として定 義される.また,ここではモニタリング目的毎に独立したポリシーを定義する.
(3) 状態把握
ここでは,システムが(i)CTFIの応用により集約トラヒック時系列をパターン分類し,
(ii)ネットワークの状態を把握する.これらの(i)と(ii)について下記で説明する.
(i) トラヒック分類
まず,トラヒック時系列を観測データ全体の分布に対して適応的なラベル時系列に変換 し,そのラベル時系列を圧縮性特徴空間により低次元の圧縮性特徴ベクトルCF V に変 換する.そして,学習機能付き事例データベースDANDELIONにより,そのCF V を 蓄積された事例(過去のCF V とその分類ラベルのデータベース)に基づいて分類する.
上述の過程において,
a)トラヒック時系列をラベル時系列へと変換する写像は観測トラヒックに対して 適応的に構築される
b)圧縮性特徴空間によりラベル時系列はパラメータフリーで特徴ベクトルに変換 される
これら2つの性質により,本システムは多様に変化するトラヒックに対して自律的に適 応する.よって,本システムは多様な観測地点で利用可能である.また,圧縮性特徴ベク トルCF V に変換された観測トラヒックは管理者が教示した事例に基づいて分類される.
そのため,モニタリング目的に適した基準によりトラヒックを分類する事ができる.この トラヒック分類基準の教師あり学習能力は本システムでCTFIに追加された能力である.
(ii) ポリシーに基づく評価
トラヒック分類結果をポリシーと比較して,ネットワークの状態を管理者に通知する.
そして,管理者は正しいトラヒック分類結果をシステムに学習させる.そのため,管理者 は受信した状態通知に基づいてネットワークを手動で検査し,正しい分類結果(ルータの CF V と所属クラスタ)を新たな経験知識として事例データベース(DANDELION)に登 録する.この学習は機械的なトラヒック分類基準への管理者の介入であり,これにより経 験知識を強化する.また,管理者はこの学習でモニタリング目的毎に独立的に分類結果を 教示する事で,モニタリング目的毎に独立した事例データベースを形成する(図5.10).
図5.10 モニタリング目的に合わせた事例データベースの形成
5.2.2 技術要件への適合性
ここでは,前節5.1.2で述べた3つの技術要件に対する提案手法の適合性を検証する.
1) 提案手法は観測地点によるトラヒックの多様な変化を考慮し,観測されたトラヒッ
クをDANDELIONにより適応的にラベル時系列へと変換し,更に,圧縮性特徴空 間を用いて人による基準指定なしに低次元の圧縮性特徴ベクトルとして表現する.
すなわち,観測されたトラヒックの特徴表現はトラヒックの変化に自律的に適応す る.このトラヒックの特徴表現の自律適応性はCTFIによる.また,CF V の事 例データベースによりトラヒック分類も特徴点の分布に自律的に適応する.よっ て,提案手法は3要件の1つ目を満たす.
2) 提案手法は,管理者が教示する分類事例をDANDELIONに学習させる事により,
モニタリング目的に応じて変化するトラヒック分類基準を非線形写像として形成す
る.このDANDELIONの教師あり学習能力により提案手法は3要件の2つ目を
満たす.
3) 提案手法は,オペレータの経験知識の不足によりポリシーが定義されない場合,
DANDELIONの教師なし学習によるCF V の分類結果のみを出力する.よって,
提案手法は最後の要件を満たす.