第11 後見庁(Office of the Public Guardian)
1 訪問概要
訪問日時 2015 年 4 月 24 日(金)午後 2 時 30 分~4 時 50 分
訪問先 Office of the Public C Guardian, 10th Floor Blue Core, Zone 10.31, 102 Petty France, SW1H 9AJ
面談者 サリー・ジョーンズ氏(Sally Jones, Head of Legal,法務セクションリーダーで事 務弁護士)
ジャズ・デオ氏(Jaz Deo, SCS support to Head of Legal,サリー氏のアシスタント)
ジェッマ氏,ナディア氏(Jemma & Nadia, Trainee Solicitor,後見庁でのトレーニ ングを受けている見習いソリシター達)
2 沿革・組織構成と役割
2007 年に MCA に基づき設立。後見庁の前身となる機関であるパブリック・トラスティー
(Public Trustee)は,MCA 成立以前は「公務員が後見人となる業務(Public Guardian)」を 行っていた。MCA 成立以後は組織としての役割が変更され,ロンドン,バーミンガム,ノッテ ィンガムで業務を展開するようになった。
組織構成として,2015 年現在で 1029 名のスタッフが存在している(2012 年の段階では 654 名)。うち,バーミンガム(本所)では,約 400 名のスタッフが任意後見人(LPA)登録作業を 行っており,約 200 名の調査員が後見人について何らかの苦情が寄せられれば調査し,報告す るという役割を担っている。ノッティンガム(支店)では,約 300 名のスタッフが法定後見人
(累計 53,100 人)の仕事を監督している。ロンドン(支店)では,約 20 名のスタッフが,後 見庁がその機能を果たしているかどうかを法務省に報告するという業務を担っている。高齢化 の影響により,法定後見が年間に約 10%増加,任意後見にいたっては約 20%も増加しているた め,増員を進めているところ。人員の確保手段としては,設立当初は法務省や厚労省などの各 省庁から出向してきた人も多かったが,後見庁に勤務するために各地で直接雇用された人も多 い。
主な業務として,任意後見人(LPA)の登録,法定後見人(deputy)による年間会計報告書の 監査,法定後見人の監督,法定後見における賠償補償金(セキュリティボンド)の受領,疑わ しい法定後見・任意後見についての調査・苦情の受付,調査官の派遣,調査書の受け取りなど,
MCA に関わるマネジメントを主に行っている。
3 法定後見(
DEPUTY
)の現状(1) 基本情報
現在,法定後見人に就任している人は累計 53100 名で,立場としては主に 3 種類に分け られる。2014 年の段階で,家族又は友人(22043 件),地方自治体(17643 件),弁護士 などの専門職(10414 件)である。なお,ソーシャルワーカーが業として個人で受けるこ
とはまったくないことはないが極めてレアケースである(イギリスの場合,ソーシャルワ ーカーは主に地方自治体に所属しており,同自治体の法定後見人の履行補助者と言う形で 活動していることが多い。)。慈善団体が法人後見を担うことも時にはあるが,専門職と しては事務弁護士(ソリシター)が多い。財産があるケースではソリシターや家族が法定 後見人に就任することが多く,財産がないケースでは地方自治体が就任することが多い
(後者のケースでは自治体からの保護費等を受領していることも多いので。)。なお,職 務類型としては,財産管理型が圧倒的大多数で,身上監護型の法定後見人は,上記 53100 人中僅か 400 人ほどしかいない。
(2) 法定後見人への支援・監督内容(スタッフの育成も含む)
過去 2 年間にわたって後見庁としては,法定後見人の活動を支援する活動を行ってきた。
法定後見人は,多くのケースで家族が就任するため,後見人がどのような責任,義務を負 っているかを理解していないことが多いため,啓蒙活動が必要だった。
法定後見人の支援(監督)方法としては,まず保護裁判所から法定後見人の任命に関す る書類を入手し,法定後見人に対して連絡をとり,その責任等について説明を行う。さら に,毎年定期的に報告書を提出してもらい,チェックを行っている。また,ノッティンガ ムでは問合せ用の電話番号を用意しており,日々の法定後見について,何か質問があれば そちらに問い合わせをしてもらうこともできる。法定後見人ごとに担当者が割り当てられ ており,該当するスタッフが日々の相談に乗っている。相談内容としては,主に不動産売 却,投資(イギリスでは一定条件の下,許容されている)などの大きなお金が動く時にど のように対応するか,といった財産関係の相談が多い。加えて,相談対応スタッフとして は,法定後見人に対し,保護裁判所の命令内容や,MCA や行動指針等について詳しく説明 したりすることも多い。
こうした相談対応スタッフに対しては,日々トレーニングを提供することが重要である
(サリーさんたちソリシターが,対応に当たっている)。具体的には,MCA の基礎,法定 後見,任意後見,保護裁判所の役割,問題が発生した際にどのようなリスクがあるか,等 幅広い知識と技術を身につけてもらう。特に,法定後見人からの質問については集計し,
問い合わせの多いものについては,スタッフの研修に還元するようにしている(例えば,
不動産の処理に関する質問が多ければ,不動産法について講義するなど)。時には,後見 庁としての見解を示した意見書(Position Statement)を発行するなど統一した対応がで きるよう心がけている。
(3) 行動指針(Code of Practice)の作成過程
行動指針については,MCA が成立した 2005 年から,実際に施行される 2007 年までの間 に作成された(MCA の中に行動指針を作ることが規定されているので)。原案は,後見庁 の前身であるパブリックトラスティー,MHA ポリシー(精神保健福祉関連セクション),
法務省の政策課,保健省の政策課,法改革委員会(ローコミッション)が共同で作成し,
その後,パブリックコンサルテーションに付し,慈善団体の意見(パブリックオピニオン)
も取り入れて完成した。
(4) 個別質問
【質問1】
日本では,低所得で身寄りのない方の法定後見人に専門職が就くことが多い。イギリスでは どのような状況になっているのか。また,専門職に対する地方自治体からの報酬助成制度は存 在するのか。
まず,低所得の方については,保護裁判所はなるべく家族・親戚を法定後見人として選任し ようとするという傾向にある(日本では近年,専門職の方が家族等より選任されているという 状況とは対照的に)。家族等が無理であれば,地方自治体が引き受けるのが通常。もっとも,
地方自治体も予算上の制約があり,最近は受けたがらないようになってきている。この場合,
最後の手段として委員後見人(Panel deputy,無償で法定後見人に就任することを承諾した専 門職(ほとんどすべて事務弁護士)で,後見庁が任命する。)に依頼することになる。委員後 見人は名誉職のようなものであり,資格状もでるので割と人気がある(最近では 60 名の募集枠 に対し,400 名の募集が来た。視察で訪問したクラーク・ウィルモット法律事務所のアンソニ ーさんも委員後見人の一人。)。保護裁判所としては,委員後見人に対し,報酬が見込めない ケースを割り当てるとともに,ある程度報酬が見込めるケースも抱き合わせで選任することも ある(筆者注:結論として,専門職に対する地方自治体からの報酬助成制度は存在しない。)。
【質問2】
日本では身上監護権限と財産管理権限を分けているケースは一般的とまではいえないが,イ ギリスはなぜ両方の権限を一人の法定後見人に与えるケースが少ないのか(身上監護の法定後 見人が圧倒的に少ない理由は何か)。また,法定後見人の財産管理権限はどの程度広範なのか。
MCA の起草段階で,両者を分けたほうが良いという意見があった。身上監護の後見人には,
それこそ延命措置を中止する権限もあるため,例えば家族が法定後見人として身上監護も財産 管理もできてしまうと,「本人の命を縮めるような選択をして,早く財産を相続しよう」とい うような気持ちが働きうるので危険であるというのが主な理由である。
法定後見人の財産管理権限は,保護裁判所から任命されるときに規定される。もっとも,不 動産売却については必要になったときや権限外の行為を行う必要があるときには,改めて保護 裁判所の許可が必要となる。財産の引き出しについて,総額を制限することはありうるが,A 銀行だけ,あるいはB銀行だけ引き出しても良いというように個別口座に関する制限をするこ とは通常しない。
【質問3】
専門職(ソリシター)が法定後見人に就任した場合と,地方自治体が就任した場合とで,ど の程度報酬が異なるのか。
ケースにもよるが,ソリシターの場合,初年度で約 5000 ポンド(約 90 万円7,諸経費含 む。)。2 年目以降はある程度定型的な業務が多くなるので初年度よりは低くなる。報酬は報 告書提出後,裁判所によって決定される。日本のように,資産の額によって基本報酬が決定さ れるものではなく,複雑さや所要時間によって額が決まる。(なお,保護裁判所のラッシュ上 席判事によると,地方自治体の場合には初年度で約 1200 ポンド(約 21 万 6000 円))。
【質問4】
7 1ポンド 180 円で換算。以下同じ。