動機付けを促し,活動への積極的参加を支援する機能の検討・提案を行い,オーケストラサー クルを対象とした被験者実験の結果を報告し,その効果を確認している.
最後に第
5章で本論文のまとめと今後の課題および展望について述べている.
以上要するに本研究においては,ボランタリなコミュニティを活性化するための重要な施策 として
2つを取り上げ,新たな手法を提案・実装し,それが効果的であることを示したもので あり,工学・工業上寄与するところが少なくない.
よって,本論文の著者は博士
(工学
)の学位を受ける資格があるものと認める.
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内容の要旨
報告番号 甲 第 4416 号 氏 名 柳田 悠太 主 論 文 題 目:
N-アルコキシアミド基を用いた含窒素四置換炭素構築法の開発および マダンガミン類の合成研究
本論文は、 N- アルコキシアミド基を用いた新規含窒素四置換炭素構築法の開発と、抗腫 瘍活性などを示す五環性アルカロイド,マダンガミン類の合成研究について述べたもので ある。
緒論第一章では、これまでに報告されているアミド基に対する求核付加反応を紹介し た。第二章では、マダンガミン類の構造、生物活性、そしてこれまでに報告された部分合 成例および全合成例を紹介した。
本論第一章では、 N- アルコキシアミド基を用いた含窒素四置換炭素構築法の開発につい て述べた。各種有機金属試薬をアミド基に付加してアミナールを合成し,次に酸触媒によ
り N-オキシイミニウムイオンを発生させ,これに第二の求核剤を付加することにより,含
窒素四置換炭素の構築を試みた。その結果、最初の求核剤としては有機リチウム試薬が適 していることを見出した。反応条件と基質の構造を精査した結果、第一の求核剤としては,
メチル,ブチル、フェニル,フェニルアセチリドなどが適用可能であり,基質としては N-ベンジルオキシラクタムが好結果を与えることを見出した。N-オキシイミニウムイオン生
成には Sc(OTf)
3や SnCl
4が有用であることがわかった。2 つ目の求核剤としては、アリル
スズや TMSCN が使用可能であった。本法により, N- アルコキシアミドのカルボニル基に
2種の異なる炭素求核剤をワンポット反応により導入することが可能となり,簡便な含窒 素四置換炭素の構築法を確立することができた。
本論第二章では、マダンガミン類の合成研究について述べた。出発物質には、安価に入 手可能なグリシンを選んだ。グリシンより種々の工程にて合成したアリルアルコールの
Johnson-Claisen 転位にてマダンガミン類の 9 位四級炭素を構築した後、閉環メタセシス反
応にて A 環を構築した。A 環より合成したエンイン誘導体に対し、Trost 等によって報告 されているパラジウム触媒を用いた環化異性化反応を適用し、シス縮環した二環性骨格 AB 環の構築に成功した。C 環の構築は、エナミンに対する分子内アレニル化にて構築し た。すなわち,エナミンに対し酸を添加したとこと、生じたアシルイミニウム対する分子 内アレニル化が進行し、良好な収率でマダンガミン類の三環性骨格 ABC 環を構築するこ とに成功した。生じたアレンをオゾン分解して生じるケトンに対し、Wittig 反応を行い増 炭した後、マクロラクタム化にて E 環を構築し、マダンガミン類の共通骨格である四環性 骨格 ABCE 環の構築に成功した。さらに、鈴木・宮浦カップリングによる増炭とマクロラ クタム化にて D 環を構築し、 2 つのアミド基を同時に還元し、マダンガミン C の全合成を 達成した。
総括では、本研究の成果を簡潔にまとめた。
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論文審査の要旨
報告番号 甲 第 4416 号 氏 名 柳田 悠太
論文審査担当者: 主査 慶應義塾大学教授 理学博士 千田 憲孝 副査 慶應義塾大学教授 工学博士 中田 雅也 慶應義塾大学准教授 博士(工学) 高尾 賢一 慶應義塾大学教授 博士(理学) 末永 聖武
学士(工学) ,修士(理学)柳田悠太君提出の学位請求論文は, 「N-アルコキシアミド基を用いた含窒 素四置換炭素構築法の開発およびマダンガミン類の合成研究」と題し,緒論二章,本論二章,総括およ び実験編より成っている。
薬理作用など有用な生物活性を示す天然有機化合物の多くは窒素原子を含んでいる。これら含窒素化 合物,特に含窒素四置換炭素を含む化合物を効率よく化学合成する手法の開発は,現代有機化学分野の 重要な課題となっている。著者は本論文において,N-アルコキシアミド基に対し,異なる炭素求核剤を 2回求核付加させるという新規手法による含窒素四置換炭素構築法の開発,ならびに多環性アルカロイ ドであるマダンガミン類の合成研究について述べている。
緒論第一章では,これまでに報告されているアミド基に対する求核付加反応に関する研究例が述べら れている。また緒論第二章には,本研究の標的化合物としたマダンガミン類の構造,生物活性,過去の 合成研究例が記されている。
本論第一章では,著者により展開された,N-アルコキシアミド基を用いた含窒素四置換炭素構築法に ついての詳細が述べられている。N-アルコキシラクタムと有機リチウム試薬との反応は,求核付加によ りアミナールを与えた。生じたアミナールを酸と処理すると
N-オキシイミニウムイオンが形成され,これは2個目の炭素求核剤と容易に反応し,含窒素四置換炭素が立体選択的に構築された。1つめの試薬 にはメチル,ブチル,フェニル,フェニルエチニルリチウムなどを用いることができ,2つめの求核剤 としてはアリルスズやトリメチルシリルシアニドが使用可能であった。本反応は利用できる求核剤の種 類が豊富で,一般性が高く,新規かつ簡便な含窒素四置換炭素構築法であることが示された。
本論第二章にはマダンガミン類の合成研究の詳細が記載されている。マダンガミン類は海洋生物由来 の五環性化合物であり,大環状アミン構造を有するなど,複雑な構造と興味ある生物活性を有している が,天然からの供給量が少ないため,効率的な化学合成法の開発が望まれている。入手容易なグリシン
から
Claisen転位により四級炭素を構築した後,閉環メタセシス反応により
A環を合成した。これより
誘導したエンイン化合物に対し,パラジウム触媒を用いる環化異性化反応を適用したところ,シス縮環 した
AB環化合物が得られた。C 環の構築は,エナミンに対する分子内アリル化またはアレニル化にて 構築した。すなわち,アリルシランまたはプロパルギルシランを有するエナミンに酸を添加したところ,
生じたアシルイミニウムイオンに対する分子内環化が進行し,良好な収率でマダンガミン類の三環性骨 格,
ABC環を構築することに成功した。分子内アレニル化により生じたアレンをオゾン分解して生じる ケトンに対し,Wittig 反応を行い増炭した後,マクロラクタム化にて
E環を構築し,四環性骨格
ABCE環の構築に成功した。ここで合成された
ABCE環はマダンガミン類の共通骨格であり,マダンガミン類 合成における重要中間体である。この化合物の有用性は,鈴木・宮浦カップリングによる増炭とマクロ ラクタム化,ついでアミド基の還元により,マダンガミン
Cの初の全合成を達成したことにより実証さ れた。
総括には,本合成研究の成果がまとめられており,実験編には,本論文における実験操作および反応 生成物のスペクトルデータの解析等が詳細に記述されている。
以上, 著者は本研究において,
N-アルコキシアミド基を用いた含窒素四置換炭素構築法開発に成功した。また,マダンガミン類の共通中間体の効率的な合成とマダンガミン
Cの全合成を達成した。この研 究で示された新規反応と複雑な構造を有するアルカロイド合成は,含窒素生物活性化合物合成における 重要かつ有用な方法論を提示している。著者のこれらの研究成果は,有機合成化学の進展に貢献し,理 学上寄与するところが少なくない。
よって,本論文の著者は博士(理学)の学位を受ける資格があるものと認める。
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