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ベスト・ワースト・スケーリングによる国立公園整備事業への中国人 観光客の選好評価

本章では,訪日外国人客に対応した日本の国立公園整備のなかでも施設整備に関わる項 目の重要度を明らかにすることを目的とし,中国人を対象としてベスト・ワースト・スケー リング(BWS)手法による評価を行った。BWS集計結果では,展望台や散策路整備の重要 度が高く,多機能トイレの整備等は評価が低くなった。条件付ロジットモデル及び混合ロジ ットモデルの推定結果からは,日本の国立公園訪問経験のある回答者は,中国語情報提供関 連の整備項目への重要度が低くなることが明らかとなった。

第一節 はじめに

本研究は,急増する訪日外国人客のなかでも中国人観光客に焦点を当て,日本の国立公園 における重要度及び優先度の高い施設整備項目を明らかにすることを目的とする。分析手 法として,ベスト・ワースト・スケーリング(Best-Worst Scaling;以下,BWS)を適用する。

BWSはマーケティング等の分野に加えて,環境評価の分野でも最近は盛んに利用されてき ている(吉田他,2016)。しかしながら,国内における適用例は少なく,とりわけ国立公園 等の利用に関する適用事例は限定的であり(柘植他,2016),外国人旅行者を対象とした研 究事例は報告されていない。本研究において,中国人を対象としてBWSを適用し,国立公 園の施設整備に求められる要素の重要度を評価することは,政策評価の観点からも重要な 研究貢献を果たしうると考えられる。

急速なインバウンドの増加が,経済面で活性化をもたらすことへの期待感は日本各地域 において高まっている。しかしながら,各地の国立公園等においては,来訪者数の増加に対 応した魅力的な観光体験の提供と環境保全の両立など,さまざまな政策課題が山積し,それ らへ緊急に対応する必要性が高まっている。多くの外国人客が訪れる富士山においては,登 山口と曜日によって割合は異なるものの,約1~3割の登山客が外国人であり,富士山五合 目付近のみを周遊する外国人団体旅行客も多い(吉田・安,2016)。

環境省では,政府が策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」に基づき,2020 年を 目標としてインバウンド対応の取組を計画的・集中的に実施するための国立公園満喫プロ ジェクトを実施している。2016 年には,阿寒国立公園,十和田八幡平国立公園,日光国立 公園,伊勢志摩国立公園,大山隠岐国立公園,阿蘇くじゅう国立公園,霧島錦江湾国立公園,

慶良間諸島国立公園の 8 ヵ所をプログラム対象地域として選定し,インバウンド対応のモ デルケースとして,旅行目的地としての機能を重点的に向上させる取り組みを開始した。こ のプロジェクトを核とし,地元と協力して多様な取り組みを行うことにより,2015 年の訪 日外国人客による国立公園利用者 490万人を,2020年までに1,000 万人へと増加させるこ とを政策目標としている(環境省,「国立公園満喫プロジェクト」)。

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政府の予算制約があるなかで,訪日外国人客の需要に的確に対応した国立公園整備を行 うことは,費用効率的・効果的な政策を実現するために必要な条件である。国立公園整備に 関する外国人を調査対象としたBWSの適用は,学術面での新規性に加えて,政策課題への 対応という観点からも時宜に適ったものであると言える。

国立公園利用者の国籍や文化的背景等は多様であるが,それら全てを調査対象とするこ とは困難である。そのため,中国人観光客を調査対象として選定した。中国人の訪日者数は,

最近数年間で急速な伸びを見せ,2016 年には 637 万人と国籍別で最多であった。Dai et

al.(2017) によると,中国の海外旅行市場はいまだ発展途上であるため,今後の伸びが期待さ

れる。また,複数回の訪日旅行者も増加し,団体旅行から個人旅行へと徐々にシフトしつつ あり,国立公園利用者数の伸びに大きな影響を与えることが予想される。そうした傾向は

Jin and Sparks (2017) も示唆するところであり,国立公園における多様かつ特別な旅行体験

への関心が一層高まる可能性がある。

国立公園満喫プロジェクトには,対外的な情報発信や高級宿泊施設の誘致等の幅広い整 備項目が含まれる。本研究では,BWSの枠組みのなかで比較対照することとなるため,一 般的な中国人旅行者が国立公園を訪問した際に利用する施設整備項目を選択肢として提示 し,それらの重要度について優先順位を明らかにすることとした。そこで,中国国内におけ るインターネット・アンケート調査によりBWS評価を実施し,中国人が日本の国立公園訪 問時に求める施設整備への選好を明らかにすることを主要な研究課題とする。

第二節 研究の方法

2-1 ベスト・ワースト・スケーリングによる評価

選択モデリングと呼ばれる一連の手法において,個人の選好を明らかにするため,複数の 選択肢を提示し,その中から最も好ましいものを1つ選択させる方法,あるいは順位付けを 行う方法が,環境評価研究のなかで多く研究蓄積されてきている。他方,BWSは,最も好 ましい選択肢と最も好ましくない選択肢を回答者に選択させる方式である。全ての選択肢 に対する順位付けを行う方式より心理的負担が軽く,かつ単一の選択肢を選ばせる方式よ り多くの情報が得られるという特徴がある。

BWS は1980年代後半に考案され,1992年に初めて公刊された比較的新しい分析手法で ある(Louviere et al.,2015)。BWSの手法は,オブジェクト型,プロファイル型,マルチプ ロファイル型の3種類に分類される。本研究で使用するオブジェクト型BWSは,複数の項 目を回答者に提示し,その中から最も好ましい項目(best/most)と最も好ましくない項目

(worst/least)を選択する形式である。プロファイル型 BWS は,複数の水準を有する属性

(項目)を複数個提示し,その中から最も好ましい属性と最も好ましくない属性を選択する 形式のものである。マルチプロファイル型BWSは,一般的な選択実験のように,複数の属

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性と水準の組み合わせから構成される複数のプロファイルを比較し,その中から最も好ま しいプロファイルと最も好ましくないプロファイルを選択する形式のものである。評価対 象となる財の特徴に応じて,3種類のBWSを使い分けることができる。

BWS によって得られた結果を集計,または計量分析することにより,回答者の選好を明 らかにすることが可能となる。オブジェクト型BWSによって得られるデータは,単純集計 結果による分析に加えて,条件付ロジットモデル等の離散型変数を使用した分析手法を適 用することができる。つまり,オブジェクト型BWSにより得られる結果は,直感的に理解 しやすいうえに,より複雑なモデル分析を適用できるという特長を有する。

2-2 アンケート調査結果の概要

本章と第三章は同一のウェブアンケート調査を通して収集したデータに基づいて分析を 行った。個人属性については第三章において記載されている通りであるため,ここでは省略 する。個人属性以外にも観光経験等を尋ねる質問項目を設定した。自然環境を楽しむ目的

(登山やハイキング,散策,ドライブ,動植物の観察等)で最近1年間に旅行した経験を尋 ねた結果,国内旅行が292人(73.0%),外国旅行が132人(33.0%)であった。国内外とも に比較的多くの回答者が自然環境を楽しむ旅行を経験していることが明らかとなった。

表5-1 回答者の訪日経験

訪日経験 人数 割合

ある 125 31.3%

今後訪問する予定である 56 14.0%

予定はないができれば訪問したい 140 35.0%

今後訪問することはないと思う 79 19.8%

合計 400 100.0%

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回答者の訪日経験については,125人(31.3%)が経験ありと回答し,「今後訪問する予定 である」が56人(14.0%),「予定はないができれば訪問したい」が140人(35.0%)であっ た。80.3%の回答者(321人)は日本への訪問意志を示した。

表5-2 回答者の訪日回数

訪日回数 人数 割合

1回目 67 53.6

2回目 34 27.2

3回目 12 9.6

3回目以上 12 9.6

合計 125 100.0%

訪日経験者の訪日回数については,一回目が67人(53.6%),2回目が34人(27.2%),3 回目が12人(9.6%),3回目以上が12人(9.6%)であった。58人(46.4%)が複数回の訪 問経験を有していた。

表5-3 回答者の日本国立公園への訪問意志

「今後日本を旅行する機会に日本の国立公園を訪れてみたいと思いますか」という設問 に対して,「ぜひ訪ねてみたい」,「訪れてみたい」と回答した回答者が284人であり,71.1%

の回答者が日本の国立公園への訪問意志を有することが分かった。

日本の国立公園への訪問意志 人数 割合 ぜひ訪れてみたい 85 21.3%

訪れてみたい 199 49.8%

よくわからない 60 15.0%

あまり訪れたいとは思わない 13 3.3%

訪れたくはない 43 10.8%

合計 400 100.0%

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