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2-1 高齢者住宅市場の現状

(1) 高齢者住宅の入居者属性

ここでは、日本のヘルスケアリートの主要な投資対象である高齢者住宅・施設市場に焦点を 当て、高齢者住宅の入居者属性を確認し、高齢者住宅の需要を把握する。

高齢者住宅の入居者属性を、各都道府県が入居者属性等を公開している「介護サービス 公表制度」の情報をもとに、介護付き有料老人ホーム3,402施設の入居者173,478人を対象と して集計し、確認した(図表2-2-1)。

入居者の平均年齢は85.9歳で、9割超が後期高齢者(75歳以上人口)である。年齢帯別の 利用率(年齢帯別入居者数が年齢帯別人口(2015 年推計)に占める割合)は、高年齢帯ほど 高い。また、入居者の平均要介護度は2.5(自立者除く。自立者含む場合は2.3)で、その構成 は、要支援・要介護者が89%、自立者が11%と、大半が要支援・要介護者となっている。介護 度別の構成比では、要介護1・2が全体の3分の1を占め、余命の短い重度要介護者や介護 サービスの必要性が低い要支援者等がやや少ない。ただし、重度になるほど包括ケア(≓特定 施設入居者生活介護)の必要性が高まるため、要介護度別の利用率(要介護度別入居者数 が要介護度別認定者数(2013年度末)認定者数に占める割合)は重度要介護者ほど高い。

図表2-2-1 高齢者住宅の入居者属性

出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の人口将来推計」、厚生労働省「介護保険事業状況報告」、タムラプランニング&オ ペレーティング資料をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成

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(2) 潜在需要の見通し

次に、高齢者住宅市場の潜在需要として、高齢者住宅の主要な入居者である高齢者人口

(65歳以上人口)と要支援・要介護者数の将来見通しを確認する。

高齢者人口は2020年には3,500万人を超えた後、団塊ジュニア世代(2015年41~44歳)

の高齢化に影響を受けるものの2055 年までは3,500~4,000万人で推移する(図表2-2-2)。

特に高齢者住宅への入居率が高い85歳以上の人口は2015 年の511万人から 2040年に

1,037万人へと倍増した後、一進一退での推移が見込まれる。

要支援・要介護者数は、前述の年齢帯別人口推計に年齢帯別の平均認定率(2010 年値)

を乗じて推計した(図表 2-2-3)。要支援・要介護者数は、高齢者人口の増加に加え、認定率 が高いより高齢者の比率が高まることで、2015年の632万人から20年後の2035年には1.5 倍の949万人となり、その後も微増し、2060年には1,000万人に達する見込みである。

図表2-2-2 高齢者人口の推移と見通し

出所)実績値は総務省「国勢調査」、予測値は三井住友トラスト基礎研究所

図表2-2-3 要支援・要介護認定者数の推移と見通し

出所)実績値は厚生労働省「介護保険事業状況報告」、予測値は三井住友トラスト基礎研究所

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(3) 世帯属性別の高齢者住宅志向

今後の高齢者人口の増加は限定的だが、高齢者住宅への入居率が高い85歳以上人口と 要支援・要介護者数は2035年までの増加が著しい。ここではさらに、高齢者住宅志向の強い 世帯属性を確認し、高齢者住宅需要の質について確認する(図表2-2-4~図表2-2-6)。

国土交通省や内閣府の意識調査等によれば、高齢期または虚弱化した場合の住み替え先 として高齢者住宅の選好度が高い世帯は、①単身世帯・夫婦世帯、②子がいない世帯および 子と同居・近居しない世帯、③共同(集合)住宅居住世帯、④団塊の世代以降、⑤大都市居 住世帯等である。いずれも背景には少子高齢化があるが、各属性が相互に影響し合いながら、

その世帯数とその比率はともに急増していくことが見込まれる。

図表2-2-4 世帯属性別の高齢者住宅志向 (虚弱化したときの居住形態:「高齢者住宅の選好比率」)

出所)内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成

図表2-2-5 子がいない世帯、子と同居・近居しない世帯の見通し

出所)実績値は総務省「住宅・土地統計調査」、予測値は三井住友トラスト基礎研究所

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図表2-2-6 共同住宅に住む世帯主年齢別世帯人員の推移と見通し

出所)実績値は総務省「国勢調査」、予測値は三井住友トラスト基礎研究所

(4) 高齢者住宅の整備状況

こうした潜在需要の増加を追い風に、高齢者住宅の供給が急速に進んでいる(図表 2-2-7)。

高齢者人口に対する全居室の供給率は 6.0%、要介護高齢者に対する介護居室の供給率も 29.5%に達している。高齢者住宅の選好度を考慮すれば、全体的には比較的充足しているが、

地域ごとの供給状況には差がある。

都道府県別の整備状況を見ると、全居室供給率は、宮崎・青森(ともに 7.7%)を筆頭に、四 国(徳島)、中国(鳥取・島根)、九州(大分・佐賀・鹿児島・福岡)の供給率が高く、都市部は全 国平均を下回っている(東京 4.7%、愛知 5.1%、大阪 5.7%)。また、介護居室供給率も宮崎

(40.3%)、青森(36.7%)を初めとして群馬・大分・沖縄・石川などが高い一方、東京(22.6%)や 近畿(京都、滋賀、兵庫、大阪、和歌山)は低い供給率にとどまっている。高齢者人口の増加 が見込まれ、かつ介護居室の供給率が低い、首都圏1都3県、福島・茨城・栃木等の北関東、

宮城・愛知・滋賀等の大都市圏等では今後の供給余地が大きく、供給促進が望まれる。

図表2-2-7 高齢者住宅の居室供給率

出所)タムラプランニング&オペレーティング資料(2015年10期号)をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成 対象者向け居室数割合 2006年

12月 2007年

12月 2008年

10月 2009年

10月 2010年

10月 2011年

10月 2012年

10月 2013年

10月 2014年

10月 2015年

10月 65歳以上人口(千人) 26,259 27,113 27,429 28,475 28,962 29,071 30,017 31,173 32,349 33,138 前期高齢者(千人) 14,306 14,631 14,698 15,117 15,116 14,762 15,212 15,925 16,799 17,227 後期高齢者(千人) 11,953 12,482 12,731 13,358 13,846 14,308 14,805 15,249 15,550 15,911 要介護高齢者(千人) 4,262 4,338 4,361 4,574 4,765 4,933 5,238 5,544 5,800 5,949 全居室数(千戸) 1,271 1,358 1,381 1,430 1,489 1,573 1,669 1,781 1,882 1,974 介護居室数(千戸) 1,072 1,152 1,169 1,205 1,284 1,361 1,467 1,563 1,662 1,754

個別ケア居室(千戸) 15 28 32 44 83 111 161 223 271 320

包括ケア居室(千戸) 1,057 1,124 1,137 1,161 1,200 1,250 1,306 1,339 1,391 1,434 65歳以上人口に対する全居室供給率 4.8% 5.0% 5.0% 5.0% 5.1% 5.4% 5.6% 5.7% 5.8% 6.0%

前期高齢者に対する全居室供給率 8.9% 9.3% 9.4% 9.5% 9.9% 10.7% 11.0% 11.2% 11.2% 11.5%

後期高齢者に対する全居室供給率 10.6% 10.9% 10.8% 10.7% 10.8% 11.0% 11.3% 11.7% 12.1% 12.4%

要介護高齢者に対する介護居室供給率 25.2% 26.6% 26.8% 26.3% 26.9% 27.6% 28.0% 28.2% 28.7% 29.5%

要介護高齢者に対する包括ケア居室供給率 0.4% 0.6% 0.7% 1.0% 1.7% 2.3% 3.1% 4.0% 4.7% 5.4%

要介護高齢者に対する個別ケア居室供給率 24.8% 25.9% 26.1% 25.4% 25.2% 25.3% 24.9% 24.2% 24.0% 24.1%

自立高齢者に対する自立居室供給率 0.9% 0.9% 0.9% 0.9% 0.8% 0.9% 0.8% 0.9% 0.8% 0.8%

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(5) 高齢者住宅市場の見通し

高齢者住宅の需要要因等を踏まえ、その(顕在)需要を要介護者向け居室と自立者向け居 室に分類し、2010年から2030年までの需要(必要居室数)の変化を推計した(図表2-2-8)。

要介護者向け居室の需要は、潜在需要として要支援・要介護認定者数をベースに、虚弱 化した場合の高齢者住宅選好度(19.4%、2010 年、内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関す る意識調査」)を加味して算出した。2030年の要支援・要介護認定者数は2010年の1.89倍に 増加し、下限シナリオ(意識調査の高齢者住宅選好度19.4%に基づく)では少なくとも 158万 室、標準シナリオ(同選好度が高まった場合(19.4%×1.5倍と設定))では 237万室の需要が 見込まれる(標準シナリオの需要は2015年の供給実績に対して60万室の不足)。

一方、自立者向け居室の需要は、その潜在需要として高齢者住宅の選好度が強い、①後 期高齢者(75 歳以上)、②単独・夫婦のみ世帯、③子と非同居近居世帯、の三つの属性全て に当てはまる高齢者をベースとし、同世帯の高齢期における高齢者住宅選好度(8.4%、2008 年、国土交通省「住生活総合調査」)を加味して算出した。下限シナリオ(選好度 8.4%の場合)

で少なくとも88万室、標準シナリオ(選好度の高まりを考慮した場合(8.4%×1.5倍と設定))で 132万室の需要が見込まれる。いずれのシナリオでも2015年の供給実績からは大幅な不足が 見込まれる。

図表2-2-8 高齢者住宅市場の見通し

出所)三井住友トラスト基礎研究所

2-2 高齢者住宅の所有者特性

ヘルスケアリートが物件を取得する際の阻害要因の一つとして、日本における高齢者住宅 の土地・建物は多くが個人所有となっている点が指摘されている。そこで、居室数上位 30 社 のオペレーターが運営する三大都市圏の高齢者住宅を対象に、その土地・建物の所有者を 確認し、ヘルスケアリートの活用可能性・方向性を検討する基礎資料とした。

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居室数上位 30 社のオペレーターが運営する三大都市圏の高齢者住宅(有料老人ホーム

+サービス付き高齢者向け住宅)892件を対象に土地・建物の不動産登記簿を取得し、土地・

建物の所有者が一体か否か(下表の①~⑤は所有者が一体、⑥、⑦は所有者が別)と所有 者属性(個人、法人等)の組み合わせ別に、所有権利形態を集計した(図表2-2-9)。

この結果、土地・建物の所有者が個人の施設が 569 件(下表の①と⑥の合計)と全体の 63.8%を占めていた。特に、首都圏や東京都内の中規模施設は個人比率が高い。これらの地 域では、高齢者住宅の需要は見込めるが地価が高いため、法人の土地取得による事業化より も、地主である個人の土地有効活用による高齢者住宅の方が多く供給されてきたとみられる。

また、個人が関与せず土地建物一体で所有されている305件(下表の②~⑤の合計)の所 有者をみると、一般法人が198件と最も多く、次いでオペレーター55 件、証券化(ファンド等)

31件、公的主体21件となっている。比較的多い一般法人物件は、本業の経営状況や取引市 場の変化に伴い売却される可能性もあり、流動化される期待もある。オペレーター保有物件も 一定数見られるものの(特に関西圏で比較的多い)、居室数上位オペレーターの場合は財務 面や費用面から売却の必要性が低いことから、流動化の可能性は低いと考えられる。

なお、土地および建物の所有者が異なる借地案件等(⑥、⑦)は計113件(12.7%)で、特に 中京圏・関西圏での比率が高い。日本の商業施設リート等でも散見されるように、このような借 地物件への取り組みも今後のヘルスケアリートが拡大する一要素となるものと考えられる。

図表2-2-9 三大都市圏の高齢者住宅の所有権利形態(個人、法人等)

出所)三井住友トラスト基礎研究所

首都圏 都内中規模 中京圏 関西圏 三大都市圏

①土地・建物 共に個人(資産管理会社含む) 389 57.8% 43 63.2% 14 34.1% 71 39.9% 474 53.1%

②土地・建物 共に一般法人 142 21.1% 11 16.2% 15 36.6% 41 23.0% 198 22.2%

③土地・建物 共にオペ法人(グループ会社含む) 28 4.2% 4 5.9% 1 2.4% 26 14.6% 55 6.2%

④土地・建物 共に公的主体 17 2.5% 2 2.9% 2 4.9% 2 1.1% 21 2.4%

⑤証券化 20 3.0% 0 0.0% 2 4.9% 9 5.1% 31 3.5%

⑥その他(個人含む) 62 9.2% 8 11.8% 7 17.1% 26 14.6% 95 10.7%

⑦その他(個人含まない) 15 2.2% 0 0.0% 0 0.0% 3 1.7% 18 2.0%

計 673 68 41 178 892

土地あるいは建物の所有者が個人の割合 67.0% 75.0% 51.2% 54.5% 63.8%

*公的主体;自治体、医療法人、社会福祉法人、宗教法人、学校法人、UR、公社 等

■対象施設抽出条件

①エリア

②オペレータ

③施設規模(居室数)

④築年

施設のうちサ高住の割合

2000年以降の竣工

50室以上 25~49室 50室以上 50室以上 調査時点;2015年1~2月

兵庫県(明石市以東 の市部)、大阪府(堺・

八尾市以北の市部)、

京都府(京都市、宇治 市、長岡京市、向日 市)

一都三県 23区+都下の市

部 愛知県内の市部

13% 55% 5% 22%

居室数上位30社

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