3 主系列星の内部構造
3.3 ヘリウム燃焼段階とその後
右の図は、種々の質量を持つ星の進化経路をしめ すHR図で、斜線の領域は、水素燃焼(主系列)段 階と、ヘリウム燃焼段階を表している。
M & 40M の大質量星は低温側へと進化し
た後、赤色超巨星にはならず、再び高温側へと進 化し主系列かそれよりも高温の星となる。このよ うな進化は、大質量星で起こる強い恒星風による 質量放出で、水素を多く含む外層のほとんどを失 うことによって起こる。水素に比べてヘリウムは
opacity が小さいので、外層の水素含有量が減少
すると、外層は収縮し表面温度が上昇する。外層 を失ってヘリウム層が表面に出てきた星は
Wolf-Rayet (WR)星といわれ、そのスペクトルには強
い恒星風に起因する輝線が卓越している。
12 & M/M & 5のヘリウム燃焼段階で進化
経路は、ほぼ水平なループを描く。その間セファ イド不安定帯をよこぎりセファイド変光星となる ので、セファイドループといわれる。それより質 量の小さい星ヘリウム燃焼段階のループは小さく、
赤色巨星枝からほとんど離れない。そのようなヘ リウム燃焼段階の星はRed Clump (RC)星といわ れる。
3.3.1 M .2Mの星のヘリウム燃焼 M . 2Mの星では、主系列段階進化 後、ヘリウムからなる中心部が収縮し て密度が十分大きくなり電子が縮退す る。H-burning shell のはたらきによっ てヘリウム中心部の質量が大きくなる につれて収縮し、その周りのH-burning
shell の温度がすこしずつ上昇してエネ
ルギーの発生率が上昇し、luminosityが 赤色巨星枝に沿って上昇していく。ヘリ ウム中心部の質量が≈0.48 M になり logL/L ≈3.3となった時点(red-giant tip)で中心温度が約1億度になり、triple α reaction 34He−→12Cが始まる。
エネルギーの発生によって温度が上昇するが、電子が縮退していて静水圧平衡をになう圧力(電子の分 圧)が温度に依存しないので、初期には構造の変化がなく温度が上昇し続ける。温度が上昇すると核融
合反応が急激に活発となり暴走し、それがさらに温度を上昇させる。温度が電子の縮退を解消するほど 高くなると、膨張が起こり、温度の低下が起こり、核融合の暴走が止まる。これがヘリウムフラッシュ とよばれる現象である。ヘリウムフラッシュによって、ヘリウム中心部が膨張し安定なヘリウム燃焼段 階に移行するが、膨張のためH-burning shellの温度が下がって不活発になるので、星のluminosityは 20分の1程度に下がり、安定なヘリウム燃焼はL ∼102Lの光度で起こる。太陽と同程度の初期元素
組成(Z ≈0.02)を持つ場合は、この段階のHR図上の位置は赤色巨星枝から余り離れていないので、こ
のようなヘリウム燃焼段階にある星はRed Clump (RC)星とよばれることもある。
3.3.2 漸近巨星枝(Asymptotic Giant Branch: AGB)星
M .8Mの星では、中心部でのヘリウム燃焼段階が終わると、電子の縮退した炭素・酸素中心部、そ の周りのHe-buning shell,その上にHe-層、その周りにH-burining shell、さらにその上に水素を多く含 む外層からなる構造が出来る。このような構造をもつ星は漸近巨星枝星またはAGB星とよばれる。名 前の由来は、HR図上これらの星がしだいに赤色巨星枝に近づいていくように光度を上昇させながら進 化する事からきている。H-burning shellより内側にある質量は(光度が上昇するにつれて大きくなるが)
∼0.5∼1 M 程度であるが、中心からの距離は、白色矮星の半径と同程度の∼0.01 Rである。それ に対して表面の半径は太陽半径の100倍以上であるので、AGB星は幾何学的には、非常に大きな球状の 外層が大部分の体積を占めていることになる。外層の平均密度は∼10−5gram/cm3 で、地上の空気の密 度(∼10−3gram/cm3)より格段に薄いが、高温(∼106K∼3000K)であるためほとんどの領域で水素が 電離していて不透明で、対流が起きている。
AGB段階初期ではHe-shell burning安定で、定常的にHeから炭素・酸素をつくり、炭素・酸素中 心部の質量を増加させるが、ある程度進化が進み、その上のHe層の質量が小さくなると、平行平板的な 構造になり、He-shell 燃焼 が不安定になる。そうなると、He燃焼 が暴走して短期間にヘリウムを炭素 酸素に変えたのち不活発になるというHe shell flashが起こる。He燃焼が不活発になってる間、H-shell
燃焼のはたらきで、He層の質量が増加してゆく。He層の質量が十分大きくなった時点で再びHe shell flashが起きる。このように周期的におこるHe shell flash をThermal puls (熱パルス)ということが 多い。
AGB星はThermal pulses を繰り返し ながらしだいに光度を上げてゆき、あ る程度明るくなった時点で、外層が不安 定になって、周期∼ 1年程度の大きな 振幅の脈動が起こり始め、ミラ型変光星 となる。その大きな振幅の脈動により、
周期的に衝撃波が発生し星の外側に伝播 してゆく。その際、圧縮され密度が大き くなった層でダストがつくられる。ダス トは、星からの放射を吸収散乱すること により光の運動量を得、外に押し出され ていく。その際、ダストとガスとは頻繁 に衝突を繰り返しているので、ガスも星 から放出される。
そのため、ミラ型変光星になると、急速な質量放出がおこり約1万年程度で外層の質量を失うと考 えられている。外層の質量が太陽質量の百分の1程度になると、外層は収縮し表面温度が上昇していく。
表面温度が数万度以上になると、水素を電離するのに十分なエネルギーをもつ紫外線を多量に放出し始 め、AGB星(ミラ型変光星)だったときに放出され、まだ周りにただよっているガスを電離する。電離 で放出された電子は再びイオンと結び着き(再結合)、その際可視光を発するので、そのガスは 惑星状 星雲として観測される。惑星状星雲の中心には必ずその星雲を光らせている中心星が存在し、それは外 層のほとんどを失ってしまった、かってのAGB星である。
惑星状星雲中心星の段階程度までは、H-shell燃焼のはたらきで、光度はAGB星時代と同程度であ るが、周りのガスが散逸し惑星状星雲が消えてしまう段階になると、H-shell燃焼によって、水素がヘリ ウムに変えられて、水素を含む外層の質量が減少してしまい、水素燃焼が不活発になる。そうなると、
内部に核融合反応による熱源をもたない白色矮星となり、HR図上進化経路は水平な経路から折れ曲がっ て、右下へとつづく白色矮星の冷却経路にそって暗くなっていく。この段階で、白色矮星はこれまでの 進化で高温になっている内部の熱を放出する事で光っているので、内部の温度とluminosityには1対1 の関係がある。また、あるluminosityでは、質量の大きな白色矮星のほうが半径が小さいので、表面温 度が高い。冷却は暗くなるほど(内部温度が低くなるほど)時間がかかるので、我々の銀河で最初に出来 た白色矮星も太陽の約1万分の1の明るさで冷却を続けている。逆に、そのような最も暗い白色矮星の 明るさの分布から、我々の銀河円盤の星形成の歴史についての情報を得る事ができる
3.3.3 大質量星(&10 M)のヘリウム燃焼段階後の進化
大質量星の場合、ヘリウム燃焼によって形成された炭素・酸素中心部は(密度が比較的小さいので)電子 は縮退していない。そのため中心部は重力収縮によってさらに温度が上昇し、炭素燃焼、ネオン燃焼、
酸素燃焼、シリコン燃焼と核融合反応が進む。シリコン燃焼によって、最もエネルギーの低い(核子当
りの結合エネルギーが最も大きい)鉄の原子核が中心部で形成される。
このとき、星の中心に近い層ほど重い原 子核が存在するいくつもの層が積み重な り、その境界ではshell-burningが起き ているような、タマネギ構造と表現さ れる構造となっている。炭素燃焼、ネオ ン燃焼、. . .シリコン燃焼と進むにつれ てその経過時間は短くなり、炭素燃焼段 階は数百年続くが、シリコン燃焼はたっ た1日で終わってしまう。約1.4Mの 鉄の中心部が形成されると、高温である ために存在するエネルギーの高い光子に よって鉄の原子核がヘリウム原子核と中 性子に壊される。
この分裂は、吸熱反応であるため、中心部は圧力を失い崩壊し、中性子星が形成される。鉄の中心部の 外側に合った層も支えを失い中心に向かって落ちてゆくが、中性子星の表面に衝突し非常な高温となる ため、衝撃波が発生し核反応を起こしながら、外側に進み、表面に出た時に超新星爆発として観測され る。超新星爆発によって、鉄の中心部より外側にあった物質は、衝撃は通過による核反応の影響を受け た後で、宇宙空間に投げ出される。