3−1 連邦農牧漁業省(SAGARPA)による農村開発政策
(1)持続的農村開発法
2001 年 12 月 7 日に施行された農村開発に関する新しい法律12であり、連邦レベルの実施に おいては、SAGARPA が所管。全体構成は 4 つの項目、191 条からなり、①国家の持続的な農 村開発の促進、②適性バランスのとれた環境体系の実現、③州の指導的な役割の保障、を主 要な目的とする。国家開発計画のなかの「社会・人間的発展」において、農村開発関連のプロ グラム目標の設定がなされているが(農村人口の生産活動への統合、地場の農業産品の開発、
農村低所得者も参加できる社会企業設立、アグロインダストリー促進のための技術アクセス 向上など)、これら農村開発政策において、政策実施主体を地方州と位置づけている。前政権 以来進められている地方分権化の流れのなかで、連邦政府から州政府への権限移譲を体現し た法律である。
地方州は、連邦政府及び連邦政府機関、ムニシピオと調整の上、下記 4 点の目的達成のた めに政策、行動、各種プログラムを推進するものとする。連邦政府機関の連携については、後 述する「持続的農村開発のための省庁間連携委員会」の立ち上げが規定されている。
① 社会・経済的福祉の向上
② 地域間格差の是正
③ 食糧安全保障
④ 農業の多面的機能を評価
統合的な農村開発のために、農業研究・技術移転を推進するのみならず、インフラを整備 し、農村へ資本を呼び込み、農村での経済活動の促進、農村小企業の育成・振興による農村 振興をめざしている。実際の農家家計の半分近くが農業外所得によって占められている現状 から、第一次産業からさらに付加価値を加え、所得機会を増やすために、生産連鎖の拡大、多 様な社会セクターの生産連鎖への参画が期待されている。
12 LEY de Desarrollo Rural Sustentable(2001.11.7)
- 45 -持続的農村開発法(Ley de Desarrollo Rural Sustentable 2001 年 12 月 7 日施行)
全体構成
第 1 項目 (本法律の目的と適用) 1 条〜 11 条
第 2 項目 (持続的農村開発のための政策の計画立案と調整)
第 1 章 (計画立案) 12 条〜 18 条
第 2 章 (調整) 19 条〜 22 条
第 3 章 (分権化及び連邦化) 23 条〜 28 条
第 4 章 (農村開発の管轄区) 29 条〜 31 条
第 3 項目 (農牧業振興と持続的農村開発)
第 1 章 (農村開発の経済活動促進) 32 条
第 2 章 (研究と技術移転) 33 条〜 40 条
第 3 章 (研修と技術指導) 41 条〜 52 条
第 4 章 (持続的生産の再編成) 53 条〜 59 条
第 5 章 (農村資本化、補償及び直接支払い) 60 条〜 80 条
第 6 章 (農業用水、電化及び農業道路) 81 条〜 85 条
第 7 章 (生産性向上と農村企業の振興・強化) 86 条〜 90 条
第 8 章 (農牧業の衛生) 91 条〜 97 条
第 9 章 (農牧業製品及び保管の検査・規格化と種子の検査・認証) 98 条〜 103 条
第 10 章 (商品化) 104 条〜 115 条
第 11 章 (国家農村財政システム) 116 条〜 123 条
第 12 章 (危険管理) 124 条〜 133 条
第 13 章 (経済・生産情報) 134 条〜 142 条
第 14 章 (経済組織と生産システム) 143 条〜 153 条
第 15 条 (社会厚生と貧困地域への優先配慮) 154 条〜 163 条
第 16 条 (農村生産の持続性) 164 条〜 177 条
第 17 条 (食糧主権と安全保障) 178 条〜 183 条
第 18 条 (農村社会提供の生産物の調停のための国家システム) 184 条〜 186 条
第 4 項目 (経済支援) 187 条〜 191 条
(2)統合的な農村開発のための省庁間連携
持続的農村開発法の施行を受け、農村開発に総合的に取り組むために、従来の主管省庁で ある SAGARPA を中心として、他関連省庁の連携体制の強化が一層必要になっている。その ため、2002 年 6 月 19 日に「持続的農村開発のための省庁間連携委員会内規」13(4 章 19 条)が施 行された。対象となる連邦省庁は、SAGARPA、経済省、天然資源環境省、財務省、通信省、
保健省、社会開発省、農業改革省及び教育省である。
(3)統合農村開発政策
SAGARPA では、農村セクターの現状分析として、① 1 人当たり GDP の停滞と貧富の格差 の拡大、②農業セクターが雇用創出しておらす、他セクターへ労働力が流出、③都市部より
13 REGLAMENTO Interno de la Comision International para el Desarrollo Rural Sustentable(2002.6.19)
- 46 -も高い貧困、④貧困の絶対数の増加、⑤移民流出(農村→都市部、農村→米国)により農村部
/都市部の貧困数の相対比較は減少、⑥農村貧困層の多くは、女性、若年層、先住民、小農 又は山岳地帯居住者である、をあげている。また、これら農村の現状を、経済開発、物的資 本開発、人的資本開発及び社会資本開発という開発資本ごとに 4 分類している。それぞれの 資本開発の問題点・現状は下記のとおりである14。
表 3 − 1 SAGARPA による資本開発の 4 分類と各々の現状
15資本開発分類 現 状
14 "Vision de Desarrollo Rural Integral para Mexico" SAGARPA(2001.3.2)
15 上記資料から筆者作成
16 同上
これら現状の課題に対し、原因分析として、SAGARPA は以下のような点を列挙しており、
政策的な問題、農村をとりまくマクロ経済の悪化、政治風土の原因等を上げている16。
(原因分析)
① 投資や農業外雇用・収入を促進するような農村開発戦略の欠如
② 政策実施上の問題(市場の失敗、国家介入の失敗、協力の失敗)
③ 農業所得の脆弱性
④ マクロ経済の悪化
⑤ 農村セクター優遇政策の欠如
⑥ 政治的なクライアンティリズム・家父長権威主義による農村地域住民の脆弱な政治 権力
⑦ 公的政策の継続性欠如
・多い貧困層:農村人口の 81.5%が貧困、53.3%が極貧
・低い生産:農村地域の成長率 1.6%(全国 3.4%)、44%が農業外収入
(自然資源の悪化)
・土壌流出:1 億 3,000 万〜 1 億 7,000 万 ha
・土壌塩化:47 万 ha
・森林消失:過去 50 年間で 4,000 万 ha
(インフラ整備不良)
・上水配分中の漏水:70 〜 76%が漏水によるロス
・低教育水準:文盲、小学校就学 3 年(都市部では 7.1 年)、10 人中 9 人が技術 支援なし
・悪い栄養状態
・高い罹病率
・低社会資本開発:10 人中 8 人の生産者が組織化されていない、80%の家族 で最低 1 人のメンバーがコミュニティ外に居住
・弱い社会セクター 経済開発
物的資本開発
人的資本開発
社会資本開発
- 47 -(4)農村開発プログラム 2002
SAGARPA 農村開発次官局では、地域農民への支援の方針として、農村開発プログラム 2002
(PROGRAMAS BASE DE DESARROLLO RURAL 2002)掲げている。同プログラムはさらに 2 つのプログラム(PROGRAMAS BASE DE DESARROLLO RURAL 及び PROGRAMAS ESPECIALES DE DESARROLLO RURAL)に分かれるが、いずれも従来から SAGARPA が全国レベルで推進 している「農村のための連帯(Alianza para el Campo)」プログラムの一環である。
8- プロセスの分散化 9- 組織の危機
10- 補助金や信用供与からの疎外
11- 不安定な協力プログラムやフォーマル・ネットワーク
以上のような現状・原因の分析に基づき、今後の農村開発、農村地域での貧困削減のため に、上の 4 分野の資本開発を組み合わせた統合的な農村開発が必要であるとしている。
17 "Sustainable Development and Rural Poverty: A Mexican Perspective", SAGARPA(2001.5.24)
図 3 − 1 SAGARPA 統合農村開発のイメージ
17経済開発
人的資本開発
物的資本開発
社会資本開発
商品販売システム
自然資源の持続的な管理、回復
教育
地域統合開発
民主的・参加型手法による開発 インフラ ・ 研究と技術移転 地域経済開発 ・ 農村融資システム
企業化 ・ 組 織