第 1 章 プロジェクトの背景・経緯 1‑1 当該セクターの現状と課題 1‑1‑1 現状と課題
(1) 教育制度
ラオス国(以下「ラ」国と称する)では2〜3年間の就学前教育の後、普通教育として初等教 育(小学校)5年間、前期中等教育(中学校)3年間、後期中等教育(高等学校)3年間が公教 育として制度化されている。そのうち、初等教育の 5年間(6〜10 歳)が義務教育となってい る。前期(あるいは後期)中等教育修了後は、教員養成教育、職業技術教育あるいは高等教育 に分かれている。(下図参照)
学年 年齢 24
18 23 17 22 (医学)
16 21 15 20
︵中等教育教
員養成︶
14 19
専門課程
ラオス
国立
13 18
︵初等教育教
員養成︶
12 17
教養課
程大学
技術学
校
教員養成
学校
︵初等教育教
員養成︶
高等教育・中等後教育
11 16 10 15 高等学校
9 14
職業学校
教員養成
学校
後期
8 13 7 12 中学校
中等教育
6 11
前期
5 10 4 9 3 8 小学校 2 7 1 6
義務教育
初等教育
5 幼稚園、保育園 4 3
就学前教育
郡単位で行われる。また、中学校の 1 年と 2 年の進級試験は郡単位で、卒業試験は郡(あるい は県)単位で行われ、高等学校の進級・卒業試験はいずれも県単位で行われる。小学校につい ては、留年回数の限度は特に設けられておらず、14 歳までであれば何度留年しても学校に在籍 することが可能となっている。また、一度中途退学した者も 14 歳以下であれば再度編入するこ とが可能である。学区が定められていないため、学校の選択は親の判断に基づき自由に行われ ており、学校側に定員の空きがある限り、入学(および転校)が拒否されることはない。公立 学校への就学費用については、義務教育である初等教育は原則として無償であるが、実際には 制服、文具、試験受験料、教室等施設維持費等は児童の家族が負担しなければならないため、
年間数千キップの寄付金が各家庭より徴収されているというのが現実である。
他方、公立の学校とは別に、民間セクターによる教育サービスの提供(私学の設立)が 1990 年の政府法令*1により認可されるようになり、私立学校が全国で設立されるようになった。し かし、近年においては学校数、クラス数、児童数ともに減少傾向にある。この現象の背景には、
多くの私立学校が設立当初より小規模で脆弱な経営体制であったことや、1997 年の経済危機の 煽りを受けたこと等があると考えられている。その中でヴィエンチャン特別市に限っては、1994 年度以降、私学による教育サービスが拡大する傾向にあり、全国に存在する私立学校のうち約 50%、また私立学校に通う児童全体の 70%がヴィエンチャン特別市に集中している。
*1.Decree on the Establishment of Private Schools. No.58/CM and Decree on Private Education Sector. No.64/PM.
(2) 就学状況
1999 年度には、全国に 8,161 校(27,659 クラス)の小学校が存在しており、約 83 万人の児 童が就学している。学校 1 校あたりの平均児童数は 101.9 人、1 クラスあたりの児童数は 30.1 人となっている。教員は全国で 27,592 人おり、平均すると学校 1 校あたりの教員数が 3.4 人、
教員 1 人あたりの児童数が 30.1 人となる。以下に、ラ国における小学校就学者数、留年者数、
小学校数およびクラス数および教員数の推移(1991〜99 年度)を示す。
表 1‑1 全国の小学校就学者数、小学校数等の推移 1991‑1999 年 年度 就学者数 留年者数 小学校数 クラス数 教員数 教員 1 人あた
りの児童数
1 クラスあた りの児童数 1991 581,900 178,525 7,148 22,549 20,904 27.8 25.8 1992 637,359 175,167 7,643 21,958 21,659 29.4 29.0 1993 681,044 178,524 8,028 24,039 22,649 30.1 28.3 1994 710,674 175,553 7,591 23,759 23,361 30.4 29.9 1995 757,508 182,317 7,789 26,156 24,793 30.6 29.0 1996 786,335 184,510 7,896 24,708 25,714 30.6 31.8
小学校の就学者数は、1991 年度から特に 5 年間の間で急速に伸び、これに伴い教員の数も増 えてきている。就学者数が増加する一方で、1997年度以降、留年者の数が少しずつ減少してい ることは特筆に価する。また、初等教育レベルで担任制を採用する「ラ」国において、同じく 1996年度以降、教員数がクラス数を上回る傾向にあることは評価に値する点である。教員1人 あたりの児童数、1クラスあたりの児童数も1991年度以降増加傾向にあったが、近年において は30人前後で横ばいの状況にある。
他方、ヴィエンチャン特別市においては、表 1-2 に示すとおり、就学者数は 1991 年度以降 1997年度に至るまで一貫して増加し続けてきたが、留年者数の減少も相まって、1998年度には 減少に転じている。これに伴い、小学校数およびクラス数、教員の数も1996〜1997年度あたり を基点に減少に転じつつある。教員1人あたりの児童数および1クラスあたりの児童数は、ヴ ィエンチャン特別市が首都であることもあり、全国の数値と比べ幾分高い数値を示しているが、
前者に関しては1993年度、後者に関しては1996年度をピークに減少傾向にある。
表 1‑2 ヴィエンチャン特別市の小学校就学者数、小学校数等の推移 1991‑1999 年 年度 就学者数 留年者数 小学校数 クラス数 教員数 教員 1 人あた
りの児童数
1 クラスあた りの児童数 1991 82,793 22,175 400 2,551 2,313 35.8 32.5 1992 86,437 20,674 414 2,435 2,387 36.2 35.5 1993 89,754 20,569 431 2,464 2,475 36.3 36.4 1994 90,245 19,887 428 2,460 2,713 33.3 36.7 1995 96,123 20,868 449 2,692 2,851 33.7 35.7 1996 97,400 20,727 461 2,641 2,906 33.5 36.9 1997 97,436 17,455 468 2,843 2,891 33.7 34.3 1998 95,478 15,980 463 2,795 2,865 33.3 34.2 1999 92,683 13,231 463 2,795 2,844 32.6 33.2
出所:Ministry of Education, Annual Bulletin 1991-1992 to 1999-2000, Lao People’s Democratic Republic
また、ヴィエンチャン県においては(表 1‑3)、1994 年度を境に就学者数は大幅な減少こそな いものの、ほぼ一定の数で推移してきている。これに対し、小学校数は 1991 年度以降減少の傾 向にあり、他方でクラス数は増減の浮き沈みが見てとれる。教員数に関しては増加の傾向が見 られ、教員 1 人あたりの児童数は 1999 年度において 30 人を下回る数値となっており、少なく とも量的には十分な数の教員が確保されていることが分かる。
表 1‑3 ヴィエンチャン県の小学校就学者数、小学校数等の推移 1991‑1999 年 年度 就学者数 留年者数 小学校数 クラス数 教員数 教員 1 人あた
りの児童数
1 クラスあた りの児童数 1991 56,434 18,863 474 1,872 1,867 30.2 30.1 1992 62,011 19,497 483 2,032 1,979 31.3 30.5 1993 64,419 18,360 495 2,037 2,037 31.6 31.6 1994 60,812 16,842 479 1,972 1,972 30.8 30.8 1995 61,545 15,576 423 2,008 1,975 31.2 30.6 1996 62,128 15,491 428 1,946 2,089 29.7 31.9 1997 62,339 13,781 423 2,034 2,054 30.4 30.6 1998 62,236 14,512 430 2,059 2,201 28.3 30.2 1999 62,154 13,683 430 2,059 2,290 27.1 30.2
出所:Ministry of Education, Annual Bulletin 1991-1992 to 1999-2000, Lao People’s Democratic Republic
2000 年の「万人のための教育アセスメント調査」*2 によると、1997 年度の初等教育におけ る総就学率は全国平均で 114.3%(男子 124.8%、女子 103.4%)に達しており、2000 年の目標 の 116.7%を達成できるレベルに近づいている。純就学率は、全国平均で 76.2%(男子 79.8%、
女子 72.4%)となっており、これも 1995‑96 年の 73%から比較して上昇傾向にある。しかし、
総就学率の 114.3%に比較すると、かなりの差があることがわかる。
*2. Lao PDR National EFA 2000 Assessment Group (1999) Education for All: The Year 2000 Assessment Final Country Report Lao PDR
純就学率が低いことの原因として考えられるのは、中途退学率と留年率が高いこと、入学適 齢期で入学する児童の割合が低いことが挙げられる。ADB によると、小学校 1 年生から 5 年生 までの年あたりの全国の平均中退率は 19.3%、留年率は 24.4%である。また、児童全体の 80%
が小学校に入学はするが、そのうち 5 年間の全過程を修了して卒業する児童はわずか 55%であ ることがわかっており、財政的にも非効率な結果を生んでいる。また別の分析では、小学校に 入学する男子の 41%、女子の 37%が 5 年間の小学校過程を修了・卒業するのに、9 年以上を費 やすことがわかっている。特に、留年率が最も深刻なのは第 1 年次で、全国平均で 32.2%の児 童が 1 年生、また第 2 年次でも 18.9%の児童が留年している。さらに、入学適齢期(6 歳)の 純就学率も、全国平均で 54%(男子 55%、女子 53%)と著しく低いため、「ラ」国の 6 歳児は 小学校に入学し、学習を行うための準備が十分できていないという指摘や、学校制度が実生活 に即していないのではないかという指摘もある。
なお、ヴィエンチャン特別市およびヴィエンチャン県では、総就学率がそれぞれ 132.2%、
138.5%、純就学率が 99.8%、97.1%であり、全国平均と比べると比較的良好な状況にある。
しかしながら、義務教育期間に相当する 6−10 歳を越える 11 歳以上の児童が占める割合は、ヴ ィエンチャン特別市およびヴィエンチャン県において、それぞれ 22%、26%と高い数値を示し ている*3。
*3 Ministry of Education, Annual Bulletin 1991-1992 to 1999-2000, Lao People’s Democratic Republicより算出
(3) 学校施設の整備状況
小学校の数は90年代を通じて微増傾向にあったが、学校施設の整備状況は各地域および各校 によって異なっている。また、ラ国には一村に小学校一校を設置するという原則があるが、1997 年度の時点で、全国にある11,640ヵ村のうち約30%(約3500ヵ村)に小学校が設置されてい ない状況にある*4。ヴィエンチャン特別市およびヴィエンチャン県においても同じような村が 存在しており、前者においては4%(486ヵ村中18ヵ村)、後者においては15%の村(498ヵ 村中75ヵ村)に小学校が設置されていない状況にある。また既存の小学校には、初等教育課程 に相当する全5学年を提供しない不完全学校の割合が高く、不完全学校は全国の小学校のおよ
そ64%(5,047校)にものぼる(1997年度)。ヴィエンチャン特別市およびヴィエンチャン県
に関しては、それぞれ23%(468校中109校)、46%(423校中194校)の小学校が不完全学 校である。通学可能な範囲内に不完全学校しか無く、近隣に転校可能な完全学校が無い場合、
児童は不完全学校で提供している最高学年を修了した時点で退学を余儀なくされることもあり、
こうした問題が教育における地域格差を招く一因となっている。
*4 Ministry of Education (2000) Education for All: The Year 2000 Assessment: Final Country Report Lao PDR. p.70
学校施設の種類および状態*5については、以下の表1-4に示す通り、「耐久校舎」でありな おかつ「良好」と分類される校舎の割合が低く全体のわずか2.8%(7,896校中221校)に過ぎ ない。また、状態の良し悪しは別として、セメントや硬質木材を用いた耐久校舎の占める割合
は全体の5.6%(442校)に過ぎず、残りの90%以上の学校(7,454校)が準耐久校舎か、木材
や竹材で建てられた仮設校舎である。仮設校舎の占める割合は58%(4,580校)と高く、ヴィ エンチャン特別市およびヴィエンチャン県においてもそれぞれ31%(145校)、32%(135校)
という数値を示している。
表 1‑4 小学校校舎の類別と状態(校数)(1996 年度)
校舎区分/状態 良好 劣る 劣悪 合計