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フィリピンの経済と経済開発計画

ドキュメント内 タイ国 (ページ 38-50)

大きな影響を与えている。1990年代前半、特に 1993 年〜96年の製造業の伸びは年率平

均 5%を超えてはいたが、その間の主要 ASEAN 諸国や中国では製造業の伸びは 10%に

近く、フィリピンをはるかに上回っていた。1998年を底とした後の景気回復時期におい ても同様、これらの諸国の成長率はフィリピンを上回る国が多い。

2003 年第一四半期の製造業伸び率は速報値で 4%である。依然としてサービス産業が 産業全体をリードしている。3 月の生産指数だけを見れば前年同月期より 7.3%の上昇を 見せており、傾向としては回復の兆しが見えているとも言える。

一方、実質的に失業率はいまだ 10%近くあり、ASEAN 諸国の中では最も高い比率と なっている。貧困問題の改善は歴代フィリピン政権の最大の政策課題であるが改善の兆 しは見えておらず、2000 年調査でも貧困ライン以下の生活を余儀なくされている世帯が 33.7%に上っている。この失業率の高さの一因として、製造業における雇用吸収力がタ イやマレーシアに比べて弱いことを指摘できる。

このように、フィリピン最大の産業セクターである製造業に、フィリピン経済全体を 牽引するだけの力強さが欠ける点が、今日のフィリピン経済の重要な問題点のひとつで ある1

2002年の経済成長実績と2003年の予想値をNEDAの公表データを基に以下に記す。

2002年実績値(%) 2003年予想値(%)

GNP 5.2 4.5 – 5.4

GDP 4.6 4.2 – 5.2

  農業部門 3.5 3.0 – 4.0   工業部門 4.1 3.4 – 4.4   サービス部門 5.4 5.2 – 6.2

失業率 3.1 4.5 – 5.5

(出所)NEDA 2003年6月新聞発表

1.2 貿易の自由化とフィリピンへの影響

世界的な貿易自由化の流れが、フィリピン経済、とりわけ国内中小企業に与える影響 は大きい。フィリピンは WTO の加盟国であると同時に AFTA(ASEAN Free Trade Area)やAPEC(Asia-Pacific Economic Cooperation)の一員でもある。AFTAではCEPT

(Common Effective Preferential Tariff)スキームにおいて、2008 年までに原則として域

1 フィリピンではGDPとGNPの差が通常の国より大きい。これは海外からの所得移転(送金)が大きい事 による。海外への出稼ぎ労働者は一説には 800 万人に近いとも言われており、フィリピン国内における 雇用の場の確保は大きな政策課題でもある。

内の関税を 0 から 5%にまで下げることが加盟国間で合意されている。APEC に関して は、フィリピンのIndividual Action Plan(IAP)として、2003年1月から原材料・中間財 については3%、最終製品については10%の関税率を適用し、さらに2004年からは最終 製品についても5%以下を目指すことになっている。

こうした国際的な貿易自由化の流れは、国際競争力の弱い企業、あるいは産業にとっ ては厳しい局面に直面する事を意味する。フィリピンでも外資系企業が中心である電 気・電子産業や自動車産業は別として、伝統的な繊維・縫製産業、木工・家具、雑貨、

食品産業などは、すでに欧米市場で中国や他の発展途上国との厳しい競争にさらされて いる。これら競合国は輸出市場だけでなく、フィリピンの国内市場においても大きな脅 威となっており、こうした貿易の自由化は更にこれに拍車をかけることになっている。

このような事態に対応し、国内の中小企業は意識改革と、具体的な国際競争に立ち向 かうだけの基盤整備に取り掛からなければならない状況にあり、政府をはじめとして公 的な支援も期待されるところであるが、これまでのところ十分な支援は提供されていな い。

1.3 産業構造の特徴と開発課題 (1) 製造業の伸び悩み

今日のフィリピンの産業構造を ASEAN 諸国との比較で語る上で、最も特異なのは GDP における製造業の割合が過去 25 年間ほとんど変化していない点である。アジアに あって第二次大戦後いち早く工業化に成功したフィリピンは、1975 年の時点で GDP に おける製造業割合が既に 25.6%に達していたのに対し、タイやマレーシアは当時 10%台 にすぎなかった。それから25年以上経過した今日、フィリピンのGDP における製造業 の割合にはほとんど変化がないのに対し(2001 年で 24.9%)、タイやマレーシアは既に 30%を超えている。またこの間、タイ、マレーシアの農林漁業の割合は低下し、工業国 としての産業構造を形成しつつある。

II - 1 - 3

表 II-1-1  主要経済指標での比較 

1人当りGDP 総輸出額 貿易収支

(名目ドル) 農林漁業 製造業 (百万USドル) (百万USドル)

2000 953 20.0 24.8 38,078 6,691 10.1

2001 892 20.1 24.9 32,150 2,600 9.8

2000 1,926 8.8 33.6 67,889 5,466 3.6

2001 1,800 8.6 33.5 63,190 2,525 3.9

2000 3,853 8.4 33.4 98,429 20,854 3.1

2001 3,678 8.6 31.5 87,754 18,204 3.3

2000 748 17.0 26.2 62,124 28,609 6.1

2001 n.a.    16.4 26.1 56,035 25,248 n.a.   

2000 400 24.3 18.7 14,308 -892 6.5

2001 n.a.    n.a.    n.a.    15,100 -900 n.a.   

2000 855 15.9 44.3 249,212 24,115 3.1

2001 908 15.2 44.4 266,200 22,600 3.6

(出所)IDE-JETRO「アジア動向年報2002」より編集

対実質GDP構成比(%)

フィリピン

タイ

失業率(%)

マレーシア

インドネシア

ベトナム

中国

表II-1-1 は最近のフィリピンおよび競合国の主要経済指標を比較したものである。こ の表の対GDP構成比からも明らかなように、現在、フィリピンはASEAN発足時メンバ ー国2の中では製造業の割合が最も低い国となっている。

この製造業の低調ぶりは最近5年間だけをとって見ても言える。表II-1-2は1996年〜

2001 年のフィリピンのセクター毎の GDP 構成および毎年の伸びを示している。製造業 の対前年伸びは 2000 年こそ全セクター平均を上回っているものの、それまでの 4 年間 は全て下回っている。また 6 年間平均で見ても、運輸・通信、金融、サービス業や商業 にははるかに及ばない。製造業がフィリピン最大の産業セクターである事に変わりはな いが、その伸びが近隣諸国との比較で見る限り低い事がまず特徴として指摘できる。

2

1967年の設立時加盟国、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールの5ヶ国。

表 II-1-2  フィリピン産業別国民総生産の推移

単位:百万ペソ、%

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2001年構成比

(対前年比) (対前年比) (対前年比) (対前年比) (対前年比) (対前年比) (6年間平均) 179,451 185,004 173,106 183,407 189,678 197,737 20.0%

(3.8) (3.1) (-6.4) (6.0) (3.4) (4.2) (2.35) 10,166 10,338 10,624 9,736 10,580 10,002 1.0%

(1.3) (1.7) (2.8) (-8.4) (8.7) (-5.5) (0.10) 214,613 223,672 221,151 224,667 237,223 244,082 24.7%

(5.6) (4.2) (-1.1) (1.6) (5.6) (2.9) (3.13) 49,339 57,322 51,791 50,988 47,947 49,836 5.0%

(10.9) (16.2) (-9.6) (-1.6) (-6.0) (3.9) (2.30) 28,008 29,357 30,315 31,259 32,401 32,777 3.3%

(7.5) (4.8) (3.3) (3.1) (3.7) (1.2) (3.93) 50,878 55,067 58,640 61,726 67,837 74,181 7.5%

(7.4) (8.2) (6.5) (5.3) (9.9) (9.4) (7.78) 130,247 135,326 138,641 145,406 153,549 161,487 16.3%

(5.5) (3.9) (2.4) (4.9) (5.6) (5.2) (4.58) 38,513 43,509 45,445 46,311 46,728 47,293 4.8%

(13.8) (13.0) (4.4) (1.9) (0.9) (1.2) (5.87) 45,576 47,297 48,065 48,350 48,495 48,119 4.9%

(4.1) (3.8) (1.6) (0.6) (0.3) (-0.8) (1.60) 58,231 61,040 63,883 67,582 70,758 73,973 7.5%

(5.0) (4.8) (4.7) (5.8) (4.7) (4.5) (4.92) 44,099 45,219 46,244 47,950 48,382 49,771 5.0%

(5.9) (2.5) (2.3) (3.7) (0.9) (2.9) (3.03) 849,121 893,151 887,905 917,382 953,578 989,258 100.0%

(5.8) (5.2) (-0.6) (3.3) (3.9) (3.7) (3.55)

(出所)NSCB; NEDAなどの資料より編集 公務

サービス業

GDP計 農林水産業 鉱業 製造業 建設業

電気・ガス・水道業 運輸・通信業 卸売・小売業 金融・保険業 不動産業

(2) 特定工業分野への投資の集中

1990年代におけるタイ、マレーシア、インドネシアなどの高度経済成長は日本を初め とする東アジアからの直接投資、および工業化の進展による輸出促進が大きな推進力と なっている。フィリピンにおいても同様の動きはあったものの、予期せぬ自然災害の発 生や、政情不安など投資促進において不運な面も重なり、結果的に 1980 年代後半から 90年代前半にASEANでおきた「第二次投資ブーム」では、タイ、マレーシア、インドネ シアに比べ外資導入と言う面で大きく水をあけられてしまった(表II-1-3参照)。

それでも現在の工業構造は、外資主導によって形成されていることには違いがない。

しかしその投資内容はフィリピンの場合、半導体後工程を含む電子機器・部品分野への 投資に偏っている。図II-1-2は全国134ヶ所にある経済特別区への1994 年から2001年 までの業種別投資動向を示している。全体の 75%(金額ベース)が半導体を含む電気・

電子分野に集中しており、輸送機器は7.3%に過ぎない。

II - 1 - 5

(単位:百万ドル、%)

金額 伸び率 金額 伸び率 金額 伸び率 金額 伸び率 1989 804 75.1 7,966 29.3 3,188 71.1 4,719 6.4 1990 961 19.5 8,029 0.8 6,517 104.4 8,750 85.4 1991 838 -12.8 4,987 -37.9 6,201 -4.8 8,778 0.3 1992 285 -66.0 10,022 100.9 6,796 9.6 10,313 17.5 1993 569 99.6 4,295 -57.1 2,995 55.9 8,144 21.0 1994 2,470 334.1 5,881 36.9 4,385 46.4 23,494 221.9

(注)外国投資は製造業分野への投資のみ示すものではない。

(出所)IDE「アジア動向年報1995」

表II-1-3 主要ASEAN諸国への外国投資

フィリピン タイ マレーシア インドネシア

(出所)国家統計調整委員会(NSCB)

図II-1-2 PEZA業種別投資金額累計(1994〜2001年)

電気・電子 75.4%

輸送機器 7.3%

その他製造 3.5%

ITサービス

1.1% その他 機械 4.4%

2.6%

合成樹脂 2.4%

金属製品 1.9% 繊維

1.4%

電気・電子分野への投資が多いと言う点では、タイやマレーシアも同様な傾向を示し ているが、これらの国では電子部品だけではなく、家電組立て分野への投資も大きい。

また同時に自動車産業の裾野の広がりに着目し、同分野への投資優遇を投資政策、関税 政策を含め積極的に行っている。この結果、タイやマレーシアではフィリピンで見られ るような特定産業(電子機器)だけへの集中を緩和する事ができている。

(3) 多様性を欠く産業構造

フィリピン製造業を事業所数、雇用者数、および付加価値額で見ると、いずれも「食 品加工」、「繊維・縫製」、「電気・電子及び周辺機器」の 3 業種で全体の 45.3%、

49.1%、そして付加価値額で 37.6%を占めている。この内、特に企業数では食品加工業 への特化が顕著である。タイで見られるように、食品加工業、縫製業の減少にかわって 機械や輸送機器が伸び、主要業種が 5〜6 業種あるという多様な業種構成に成功してい ない。

さらに業種別には、食品加工業が事業所数、雇用者数で産業として最大ではあるもの の、サン・ミゲル社を始めとする少数の大手企業が市場を支配しており、残る大多数が 零細・小規模企業からなっている。繊維・縫製は品目別輸出で 1993 年までリーディン グ産業であった。しかし、輸入に依存する原料、設備の老朽化から、新たな輸出国であ る中国やヴェトナムに遅れをとっている状況である。電気・電子及び周辺機器は現在、

フィリピンの主要輸出産業となっている。しかしこの産業は付加価値が低く、GDPに占 める比率も低い。また、外資主導で成長しており、現地企業とのリンケージが形成され ていない。

(4) 委託加工輸出への依存

フィリピンの輸出品目はココナツ製品、砂糖、木材、フルーツなどを中心とした伝統 品目と、電子製品、アパレル、自動車部品などの非伝統輸出品目に分けられる。70年代 から徐々に増えてきた非伝統輸出品目の輸出は 1987 年に全体の 70%を超え、さらに外 資系輸出企業の進出により 1998 年にはついに 90%を超えるまでに増大している。この 間、伝統品目の輸出額には大きな変化はなく、輸出の伸びはもっぱら非伝統品目による ものである。伝統品目と非伝統輸出品目の輸出額の比は1990年には 1:4.6であったが、

1999年には24.4倍にまで広がっている(図II-1-3参照)。

表 II-1-4 に示すように、非伝統輸出品目の中でも電子機器・部品は圧倒的な比率を占

めている。フィリピンにおける電子機器・部品の生産は輸入部品を使って組み立て、そ のまま輸出する(国内の次工程で使用するのではなく)委託加工形態のものが大半で、

結果的としてフィリピンの工業構造は前方・後方への産業連関性が薄い。

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