小中 英嗣
†(受付2016年12月20日;改訂2017年5月2日;採択8月28日)
要 旨
バレーボールの各国代表チームのランキングである
FIVB
ランキングは,ランキングポイン トの設計に統計的な根拠が無く,さらに,主要な国際大会を独占的に主催する特定の国が優遇 されていることなどが原因となり,その値を実力の定量的評価には活用できない.そこで本研 究では,過去の試合結果(各セットでの得点)から各チームの実力(レーティング)を算出する手 法を提案する.具体的には,レーティング差がロジスティック回帰モデルを通し各セットでの 得点率を説明するモデルを仮定する.また,試合結果からレーティングを算出するアルゴリズ ムをあわせて提案する.リオデジャネイロオリンピックを含む複数の国際大会での実際の得点率と,提案手法により 算出したレーティング差から予測される得点率との間に中程度から強い相関(相関係数がおよ そ
0.65
から0.80)
があり,その相関はおおむねFIVB
ランキング(ポイント)差に基づくもの(相 関係数がおよそ0.45
から0.70)
より強いことが分かった.さらに,提案手法に基づくレーティ ングにより各大陸間の実力差を定量的に明らかにし,FIVBランキングが実力を正しく反映し ていないことの根拠を明示する.この事実に基づき,具体的な事例としてリオデジャネイロオ リンピックの予選および本選の大会形式の不備を指摘する.具体的には,敗退行為を誘引しか ねない最終予選出場国の決定方法,および実力を反映していないFIVB
ランキングにより引き 起こされたオリンピック本選での不均衡な組み分けについて指摘する.キーワード:スポーツ,バレーボール,レーティング,ロジスティックモデル.
1. 研究背景
本稿ではバレーボール各国代表チームのレーティング手法の提案とその検証を目的とする.
スポーツにおいて,試合結果に基づき選手・チーム間の序列を定めるランキング制度は,大 会への参加基準やシード対象選手(チーム)の選定基準となるなど,その適切な設計が要求され る事項である.
全ての選手(チーム)が等しい回数総当りする(できる)場合は,勝利数や勝率がランキングに 最も適した指標であることは論を待たない.しかし,多くの選手(チーム)が参加し,総当りが 不可能な場合に適切に順序を定めることには困難を伴う.
多くのスポーツでは,過去の一定期間の各大会での成績(順位)を数値化し,その総計(ラン キングポイント)に基づいたランキングを採用している(Ray, 2011).ここではこれを加算方式
†名城大学 理工学部:〒468–8502愛知県名古屋市天白区塩釜口1–501
と呼ぶ.バレーボールの各国代表チームのランキングも加算方式により算出されている(FIVB,
2016)
.この手法では,各チームが自分自身の結果のみと得点算出基準を参照することでランキングポイントを算出でき,この簡便さは利点である.しかし,各選手・チーム間の合計ポイ ントの差や比が実力差を定量的に表すためには,各大会・各順位に対する付与ポイント,大会 参加条件,大会形式(シード権の設定など)を含めた総合的な設計が不可欠である.
一部のスポーツでは,ポイント交換(point exchange)と呼ばれる,各対戦結果に基づき対戦 チーム間でランキングポイントを総和が変わらないように交換する手法に基づきランキングポ イントを算出している.最も有名な例はチェスのイロレーティング(Elo rating)(Elo, 1979)で あり,球技ではラグビーがイロレーティングを若干修正した手法を採用している(World Rugby,
2014)
.この手法では,各チームの実力がある期間一定であり,その期間内に十分な対戦数が行われれば,算出されたランキングポイントが実力に相当する値に近づく特徴を持っている.
ただし,この算出には対戦時点での両チームのランキングポイントが既知である必要があり,
原理的には期間開始時点での全チームのランキングポイントおよび期間内の全対戦の結果を必 要とする.また,得点差などによるポイント交換量の調整などを含んでいるスポーツも多く,
その量の調整によりランキングが適切に実力を反映できているかどうかが明確でなくなる点は 加算方式と同様である.
ここで,ランキング(ranking)とレーティング(rating)を定義し,区別することとする.ラ ンキングは各チーム間の順位を定めることであり,それに対しレーティングは各チームの実力 に相当する値を算出することと定義する.レーティングの結果に基づいてランキングを作成す ることが可能である.
2
つのチームが対戦した場合,大きく二つに分けて,(1)それぞれのチームが数年程度のある一定の期間にわたり安定的に持っている技能・実力
(2)当日の調子・運,対戦チーム間の相性
の要因が得点や勝敗に影響すると仮定する.本稿では,バレーボールなどの
2
チームが互いの 得点の多少を競うスポーツに対する狭義のレーティングとして•
上記の(1)に対応する, 過去の試合結果から推定した,あるチームが得点する確率を説明 するパラメータと定義する.加算方式のランキングポイントは上記の(1)および(2)の双方を区別せずに反映さ せる方法であり,これが(1)のみを反映させるようにするためには大会の参加条件,トーナメン ト形式,および順位ごとに付与されるポイントなど統一的な設計が必要である.それに対して イロレーティングに代表されるポイント交換手法は(2)の影響を排除して(1)のみを推定する,
つまり狭義のレーティングを統計的に算出することを意図した手法である.以降本稿で「レー ティング」は「狭義のレーティング」を指すこととする.
バレーボールに関する統計的な研究として,各技能(サービス,レセプション,スパイク,
ディグ,ブロック,およびセットなど)や戦略が得点にどのように寄与しているかを調査したも のは多数ある(たとえば,
Eom and Schutz, 1992; Zetou et al., 2007; Florence et al., 2008; Araújo et al., 2010; Ferrante and Fonseca, 2014; Burton and Powers, 2015
など).しかし,これらの研 究には試合動画を利用した各プレーの詳細な分析が必要であり,その調査コストは無視できな い.また,状況を細かく分析しすぎることは説明変数を増やしてその次元を上げてしまうが,活用できるデータ数には上限がある.このようにして「次元の呪い」(Indyk and Motwani, 1998)
を引き起こしかねないため,推定するパラメータ数が試合数に対して十分少なくなるようなモ デルの構築が肝要である.
これら技能の評価に関する研究が非常に多岐にわたるのに対し,バレーボールのチームの レーティングに関する研究は(著者の調査の範囲では)非常に少ない.Masseyの方法(Massey,
1997)に基づき,大学女子バレーボールの勝率を予測したもの(Knapper and McIlwain, 2015)
や,ビーチバレーに適用したもの(Glasson et al., 2001),公式ランキング差をもとにロジス ティック重回帰分析を適用したもの(Dziedzic and Hunter, 2015)などが散見されるのみである.
バレーボールはサービスから始まる一連のプレイが必ずどちらかの得点で終わるという特徴 を有する競技である.また,サービスから始まる一連のプレイを
1
試合中に150
回から200
回 繰り返す.得点は試合進行の最小単位,かつ(総得点が多いほうが勝利するとは限らないが)勝 敗に対する主要な原因であり,さらに公式記録に必ず記載されて調査が容易である.この観点 から,本研究では各試合,各セットの得点を基本データとし,これに基づく統計的な分析を 行う.本研究では,各チームが得点する確率が,それぞれのチームのレーティングの差により説明 できると仮定し,国際試合の結果からその統計的な算出を試みる.得点率の説明モデルにはロ ジスティック回帰モデルを利用する.対象となる全試合に対する最適化を行うことで,最適な レーティングを算出する.これは試合ごとの逐次更新に基づくポイント交換(イロレーティン グなど)の欠点を補う明確な利点となる.
提案手法により算出したレーティングに基づき,いくつかの国際大会の結果を予測する.具 体的には,ロンドンオリンピック,リオデジャネイロオリンピック世界最終予選
1,およびリ
オデジャネイロオリンピックの各試合の結果および得点率を,その直近1
年の主要国際大会の 結果から算出したレーティングに基づき予測する.その結果,
•
レーティングから予測された得点率と各セットの実際の得点率には中程度の相関があり(相関係数が
0.5
強),•
レーティングから予測された得点率と各試合の実際の得点率には中程度から強い相関があ る(相関係数が0.7
付近)ことを示す.
これらの相関,および得点率の大小の予測結果を
FIVB
ランキングおよびランキングポイン トに基づく手法と比較し,提案するレーティングが優位であることを示す.さらに,定量的な レーティングに基づく大会形式の評価の応用として•
世界最終予選が敗退行為を助長しかねない不適切な設計となっていたこと• FIVB
ランキングが実力を反映していないことが原因でリオデジャネイロオリンピックでのプールわけに不均衡が生じ,実力の高いチームが早期敗退を強いられたこと の
2
点を指摘する.2. レーティングの定義と算出方法
本節ではまず対象とするバレーボールの世界ランキングの特性について議論し,その後レー ティング算出アルゴリズムを提案する.
2.1 FIVBランキング
国際バレーボール連盟(FIVB)はオリンピック,世界選手権などの主要国際大会の順位をラ ンキングポイントに換算し,一定期間の和をそのチームのランキングポイントとし,その値で