3. 2 使用材料、 試験片および実験方法
用いた材料は前章に示したタフピッチ銅である。 この素材から試験片を機械加
工した後、 8000Cで1 hの真空焼なましを行った。 材料の機械的性質を表3-1に示 す。 なおそこで検討したように、 処女材には異方性はほとんどみられなかった。
図3-1に用いた試験片形状を示す。 圧縮予ひずみ材では与える予ひずみに応じて
平行部の寸法(直径d 0 、 長さl 0)を変化させているが、 これは引張変形開始n寺の 試験片寸法を処女材とほぼ同じにするためである。 このときい/ d 0は2としてい るため、 弾塑性域から大変形域までほぼ正確な引張変形曲線を得ることができる。
また、 圧縮予ひずみは約15 %変形させるごとに繰返し切削を行うことにより与え ているが、 再切削後の平行部長さと直径の比はいずれも2としている。 引張予ひ ずみ材の場合も予ひずみに応じて平行部の直径を変化させているが、 ここでも所 定の引張予ひずみを与えた後圧縮変形を開始するときの試験片寸法が処女材とほ ぼ同じになるように最初の寸法が決められている。 圧縮は、 平行部からワイヤカ ットで15mm長さの円柱試験片を切り出し、 繰返し潤滑法により行った。 潤滑剤 にはテフロンシートとワセリンの組合せを選び、 15 %ずつ変形させることを繰返 したが、 100 %ひずみに至るまでほぼ均一な変形を与えることができた。
引強圧縮負荷装置には前章で示したものを用いた。 試験機には島津オートグラ
フCD S S -5000形)を用い、 変形速度一定CO.2mm/min)で実験を行っている。
ひずみの測定には2枚の塑性ひずみゲージ(ゲージ長2m m)と標点間距離が10. 0 mmの伸び計を併用した。 ただし、 円柱試験片による引猿後の圧縮変形について
は2個のギャ ップセンサーで求めている。 また試験片の平行部には距離10.0mm のビッカース圧痕をほぼ900 ごとに印し、 変形度の測定精度を高めた。
表3-1
機械的性質(MPa,
%)σo • 2 。B σT 中
20.6 215 597 75. 1
中: Reduction of area
32
Tensile prestrain
M22
28
、lJ'- 、、,,,,, ハU 一 ハU ハU - 11 可1』t- 寸tte ,flB、E f--、
εp do
0 10.0
",-,0.1 10.5
",-,0.2 11.0
",-,0.3 11.5
C0111pressive prestrain M22
28 10 14 41 10 28
εp do lp
。 10.0 20.0 30.0
",-,-0.1 10.5 21.0 31.0
",-,-0.2 12.0 24.0 33.8
",-,-0.3 13.5 27.0 36.4
,,-,-0.6 15.0 30.0 38.6
",-,-0.8 18.0 36.0 42.0
図3-1 試験片形状
円ペuqu
国
。』工 }
再変形曲線には放置時間の差による11寺効の影響はほとんどみられなかった。 し かし念のため、 予ひずみ後の放置11寺聞は室温で約241時間とほぼ一定にした。 実験 は室温で行った。
3. 3 弾塑性域におけるバウシンガ効果 3. 3. 1 引張圧縮によるバウシンガ曲線
図3-2に引暖予ひずみを与えた後の圧縮変形曲線を示し、 図3-3に圧縮予ひずみ を与えた後の引張変形曲線を示す。 寸法変化を伴う引張りと圧縮を比較する必要
性から、 応力とひずみは真の値を用いている。 また図中には処女材の単純変形曲 線を併記した。 また、 大予ひずみを与えた場合の引強圧縮におけるパウシンガ曲 線を図3-4にまとめて示した。 圧縮予ひずみは1 %から80%とかなり大きいひずみ
範囲まで与えており、 引張予ひずみも約30%とくびれを開始する直前のひずみ(最 高荷重点ひずみは33.5%)まで与えている。 また、 除荷後のバウシンガ曲線は約8
%までのものを示した。 なお 、 圧縮後の引強りでは最高荷重点を過ぎるとくびれ を生ずるが、 8 %以前に最高荷重点に達した場合、 2.4.2(2)項で示した方法によ りB ridgman の式を用い、 くびれ部の形状を考慮することにより応力値を補正し た。 変形曲線は原点(荷重が零の点)に対しそれぞれ点対称移動し、 第1象限にま とめて示している。
500
Simple compressive
・ 。Point of
Simple tensile maximum load
T-・C
一一一-c-ーT
Mw
。 0.2 0.4. 0.6 0.8 1.0
|ε|
図3-4
大予ひずみを与えた場合の引張圧縮におけるバウシンガ曲線
34
400
Simple compressive
Point of maximum load Simple tensile
。
丁→C
300 200 100
(cn比三)
b
0.4 0.3
0.2 0.1
。
ε
引慣予ひずみ後の圧縮変形曲線 図3-2
400
Simple compressive
,,,.,a
Simple tensile
。
T C
300 200
(cn比三)
ヒ〉
Point of maximum load
•
100
。0.3 0.4 0.1 0.2
。
ε
圧縮予ひずみ後の引張変形曲線 図3-3
35
これから、 引仮予ひずみ後の圧縮と圧縮予ひずみ後の引振りはともに変形抵抗 が低下し、 バウシンガ効果を生じているが、 両者は互いに異なっていることがわ
かる。 すなわち圧縮後の引振曲線は引張後の圧縮曲線より低くなっており、 これ らの傾向はこれまでに知られている鋼の傾向1 1 7)ー1 1 8)とは全く逆であり、 Al単 結晶など8 1 )とも異なっている。 また、 どちらもかなり大きい予ひずみ領域までパ ウシンガ効果を生じていることがわかる。 これらのパウシンガ曲線には材料の初 期異方性、 時効硬化、 ひずみ速度などの因子が影響を及ぼすと考えられるが、 前 章でも一部述べたようにいずれも無視できることを確認しており、 得られたバウ シンガ曲線は材料固有のものであると考えられる。
3.3.2 バウシンガ効果の検討
結品転位論によれば、 バウシンガ効果は pile up dislocations によるback
stress によって生じ、 それら転位の消滅を伴うものである4 7) 6 4 )とされている。
このことは、 逆変形直後の変形挙動は予ひずみH寺における転位の集積状態に支配 されており、 予ひずみ11寺の変形抵抗を越すことができないことを示している。 す なわち、 バウシンガ効果は逆変形直前の加工硬化状態に依存しているといえよう。
このように考えると、 処女材における単純圧縮曲線が単純引張曲線より低い銅 では圧縮後の引長|出線が引張後の圧縮曲線より低くなることが予想され、 ここで 得られた実験結果と一致する。 逆に圧縮が引張りより高く現れる鋼などでは銅と は逆の傾向が、 またそれらがほぼ等しいAlとか黄銅では差がみられないことが 予怨されるが、 そのような結果81) 1 1 7)ー11 9)がそれぞれ得られている。
次に、 逆変形H寺の軟化度を予ひずみとの関係で表わしたものを図3-5に示す。 軟 化度は逆方向と予ひずみ方向の変形l曲線が最も接近する位置における変形抵抗比
|σ 2 b /σ ) b Iから求めた。 これから、 逆変形における軟化度は、 多少のばらつき
はみられるものの負術順序の影響を受けないでo. 95とほぼ等しくなっていること、
しかもこの傾向は予ひずみが大きくなってもほとんど変わらないことが わかる。
これまで引恨圧縮において大きな予ひずみ範 囲までパウシンガ曲線が求められた 例はほとんどなく、 約25 %の予ひずみが引張りで与えられたもの12 3 )がわずかに みられる程度である。 これによると、 軟化度はc uにおいて約0.92と本研究の結果 よりやや小さい値が得られているが、 この値は予ひずみ量に関係なくほぼ一定に
36
。 o
1.0 I .�
t; I õ.�O
•iコ れ』
tコ
0.9
f-0.8ト
。
F「
101
,
U
0.1
• T→C o c→T
r:L.o-Rち
つ • 。Monotonic Reversed コwest po
|εpl |ε|
0.2 0.3
|
εpl
図3-5 逆変JI�による軟化皮と予ひずみの関係、
なっており、 ここで得られた傾向と一致している。 また、 引張りと圧縮の負荷順 序を変えた場合については、 軟化度の定義が異なり、 予ひずみも5 %までと小さ い範聞にとどまっているが、 ここで得られたのと同様に軟化度が負荷)1国序に関係 しないとの結果が極々の熱処理鋼l l 5 )について得られている。
同様のことを図3-6で定義するバウシンガひずみε日(n )によりまとめたものを 図3-7に示す。 逆変形を評価する位置nが大きくなるとε B ( n )は予ひずみととも に増加する傾向がみられるが、 Q. 75程度までのnの範囲では、 軟化度を用いた場 合とほぼ同傑の結果が得られている。 したがって、 これらのことから、 負荷順序 を逆にし、 異なるノくウシンガ山線が得られても、 これらのパウシンガ変形機構は
かなり大きい予ひずみ範囲まで変わらないものと考えられる。
3. 3. 3 逆 変形過程におけるすべり帯の観察
前節では引張りと圧縮の負荷)1頃序を逆にした場合、 バウシンガ曲線が一致しな いことを述べ、 処女材の単純変形曲線が異なっていることが原因だろうと考えた。
37
-Stress
σ P
Plastic strain
n =
I剖
パウシンガひずみの定義 図3-G
0.90 0.75 0.50
0.015 n
A マ .À A
T→C
0.01
0.005
(C)∞ω
1.0 0.6 0.8
0.4 0.2
。
ε P
バウシンガひずみと負荷順序および予ひずみの関係
38
図3-7
表3-2 機械的性質(MPa, %)
σo . 2 山川γ
31 . 2 74.9
ここではこの原因についてすべり帯を観察することにより、 考察を行うことにす る。 材料にはすでに示したタフピッチ銅と同じものを用いているが、 表3-2に示す ように、 わずかに機械的性質が異なっている。 また、 試験片の形状についても図 3 -1と同じものを用いたが、 平行部長さと直径はそれぞれ 1 6mm、 12mmとした。
正確な変形曲線を求める条件からは多少ずれたものとなっているが、 30%と比較 的小さい範囲の変形を検討対象としていることから、 結果に与える影響は小さい ものと考えられる。 なお、 これまで逆変形においてすべり帯の発達状態が観察さ れたものとしては西谷ら64 )による引張圧縮およびねじりの例がみられる。
( 1 ) 形状および発生数の変化
図3-8に各変形時における表面状態の変化を示す。 試験片表面は37.5%のリン酸 エタノール溶液で電解研磨した後腐食を行っており、 所定の塑性ひずみを生ずる
ごとに除荷した後、 表面からレプリカを採取した。 腐食液には硝酸 1 Oc m 3過酸化 水素水 14cm 3をエチルアルコール80cm 3に混ぜたものを用いている。 ここには処 女材および予ひずみ材における変形前のものを図3-8(a) (d)に、 塑性ひずみが4%
と30%および30%予ひずみを与えた後4%の逆変形を行ったものを図3-8 ( b) (c) ( e)にそれぞれ示す。 なお逆変形時には、 予ひずみを与えた後表面を数結品粒程度 再研磨し、 生じていたすべり帯をすべて除去したものを用いている。 レプリカは 真空中で金を蒸着し、 観察に供した。
これから、 予ひずみ時にはひずみ量が増大するにつれて結晶粒が軸方向に伸縮 していることがわかる。 また、 変形が進むにつれ試験片表面はすべりと回転のた め凹凸が激しくなっており、 すべり帯の数も次第に増加している様子がよくわか
39