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ドイツ帝国刑事訴訟法の制定および運用

1848年以降,改革された刑事訴訟法が,ドイツ各領邦において制定され たが,「弾劾形式の糺問訴訟」に対する批判が高まった。そのようななか で1871年ドイツ帝国憲法319)第4条第13号が,刑法および刑事手続に関す る立法権限をドイツ帝国に付与した。それにより,ドイツ帝国における法 統一が行われ,刑事手続分野においても,1877年,ドイツ帝国刑事訴訟法 および裁判所構成法が制定された。

本節では,1877年ドイツ帝国刑事訴訟法の制定までの期間を扱う。まず,

1868 年 に 行 わ れ た ド イ ツ 法 曹 大 会 を と り あ げ る。こ の 議 論 は,Nemo

tenetur

原則を盛り込んだとされる1877年ドイツ帝国刑事訴訟法第136条

〔被疑者・被告人の尋問〕の立法過程においても見られる。次に,1868年

の北ドイツ連邦結成による政治的統一を発端とするドイツ帝国統一の刑事 訴訟法たる1877年ドイツ帝国刑事訴訟法の制定過程を扱う。特に,Nemo

tenetur

原則と関係が深い「被疑者・被告人の尋問」(第136条),「刑事訴

追の虞を理由とする証言拒絶権」(第54条),「引渡義務」(第45条)の各草 案と審議内容を概観する。

1.第7回ドイツ法曹大会(1868年)

1868年,第7回ドイツ法曹大会は,「無実であると主張している被疑 者・被告人の刑事訴訟の公判において,起訴に対する特別の応訴あるいは 自身の主張の正当化が要求されるべきか」という議題を採り上げ,裁判官 による被疑者・被告人の尋問について議論した。このテーマにつき,

Glaser(ウィーン)が報告を行い,検察官である v. Stenglein

Glaser

報 告に対するコメントを行った後,討議および決議が行われた。

(1)

Glaser

による基調報告

Glaser

は,4つの論拠をあげ,無実を主張する被疑者・被告人に対し

て,起訴事実に応訴するか自らの主張を正当化するよう要求することに反 対した。ただし,Glaserは冒頭で,これはドイツで妥当する刑事訴訟の 基礎や弾劾原則(

Anklagegrundsatz

)の問題ではなく,ここでは『何人 も自身にとって不利な証拠を示すよう義務づけられない』というイギリス 法の準則がドイツに定着しうるかどうかという問題を扱わないと言及し た320)

第一の論拠として,裁判官と被疑者・被告人との関係に着目し,裁判官 の職務と尋問による自白獲得とは矛盾するという点を挙げる。訴訟は二段 階に分けることができ,第一段階では証拠の収集と提出が行われ,第二段 階ではその証拠方法の整理と吟味が行われる。裁判官は第二段階において 予断なき判断者であることを要求される。公判は単なるセレモニーであっ てはならず,裁判官は予断なく審理を行わなければならない。それゆえ,

刑事手続における 原則(1)(松倉)

裁判長と被疑者・被告人が対立関係にあってはならない。しかし,被疑 者・被告人が事実と異なる供述をする場合,あるいは,黙秘や不十分な供 述によって起訴事実の詳細について答えない場合,裁判長が起訴事実を否 認する被疑者・被告人に対して回答するよう要求すると,裁判官と被疑 者・被告人とは対立しうる。しかし,新しい手続においては,裁判官の面 前に被疑者・被告人と告発者という2人の当事者が現れ,裁判官は,尋問 において被疑者・被告人を不利に取り扱ってはならない(

7. DJT, Bd. 1, Glaser, S. 87 f.

)。

Glaser

の第二の論拠は「被疑者・被告人の人物像」に着目する。否認

する被疑者・被告人や詳細な言明を拒絶する被疑者・被告人に対する尋問 は刑事手続において重要であるが,これに関する規定はない。臆病な被疑 者・被告人や不器用な被疑者・被告人は,裁判官の地位・慎重な準備・平 静な自信・長年にわたって習熟した裁判官の精神的優位さに圧倒される。

他方,刑事司法に熟練した冷静で打算的な被疑者・被告人は,裁判官が自 身に対して要求を強制できないことを知っている。この被疑者・被告人は 利口かつ計画的に防禦でき,被疑者・被告人が供述をせき立てられる場合 には裁判官の力が及ばないところに逃げることができる。法律は詳細な尋 問について何ら規定していないため,誘導質問が用いられる危険がある

(7. DJT, Bd. 1, Glaser, S. 88 f.)。

第三に,予審調書に基づいて被疑者・被告人を非難することは口頭主義 に反すると批判する。裁判長は,被疑者・被告人の尋問において調書を朗 読するだけである(

7. DJT, Bd. 1, Glaser, S. 89

)。

Glaser

は,第四の論拠として,このような裁判長による尋問によって

得られる利益は小さいという点を挙げる。裁判長が尋問によって自白獲得 に成功することは,実際めったにない。大抵,尋問に多くの労力が費やさ れている。被疑者・被告人の有罪立証は,裁判長が自白獲得のために用い る資料それ自体で足るからである。時間と労力が無駄に浪費され,被尋問 者の忍耐が無駄に試され,非情な嘘つき者だけが成果を収める機会となっ

ている(7. DJT, Bd. 1, Glaser, S. 89 f.)。

尋問はむしろ防禦の利益にとって重要である。実際,不慣れな被疑者・

被告人がその重要性と意義を知らないがために,自身の無罪方向に働く事 実を述べず,嫌疑を晴らさないような場合が考えられる。尋問は,実体的 防禦を被疑者・被告人に指導・促進する。それゆえ,防禦のポイントを はっきり示すことが裁判官の任務である。それゆえ尋問が不要であるとい うのは極端であり,弊害を避けつつ被疑者・被告人の利益となるような尋 問を行うべきであるという(

7. DJT, Bd. 1, Glaser, S. 90

)。

以上より,Glaserは,無実であると主張している被疑者・被告人の刑 事訴訟の公判において,起訴に対する特別の応訴あるいは自身の主張の正 当化が要求されるべきではないと結論づけた。そして,

Glaser

は,「公判 において,被告人が起訴状の朗読に対して自分は無実であると返答する場 合,裁判長は,被告人はさらなる言明あるいは彼に向けられた質問に対す る返答を義務づけられないことを被告人に告げる。しかし裁判長は,被告 人は起訴に関連する事実を語り,かつ,個別の証拠資料の提示後にそれに ついて発言する権利が与えられる旨も告げる。どの弁護人も被告人を援助 しないとき,裁判長は,個別の証拠資料の提示後あるいは証拠手続の最後 に,それを解明することが被告人の防御になるような個々の事情を指摘で きる。」という提案を行った(7. DJT, Bd. 1, Glaser, S. 90 f.)。

(2)

v. Stenglein

によるコメント

v. Stenglein

は,

Glaser

と同様に,「無実であると主張している被疑者・

被告人の刑事訴訟の公判において,起訴に対する特別の応訴あるいは自身 の主張の正当化が要求されるべき」ではないと主張した。特に,裁判官が 詳細な尋問を行うならば,供述拒否する者を尋問するために,不服従罰を 認めることになり,これは弾劾訴訟(

Anklage

Proze

)における被疑者・

被告人の地位と矛盾すると強調した。「被疑者・被告人が質問に対して回 答しないことは自身を不利益な立場におくことになりうる」旨の告知が実

刑事手続における 原則(1)(松倉)

際行われていないことも指摘している(7. DJT, Bd. 1, v. Stenglein, S. 110 f.)。 ただし,v. Stengleinによると,Glaserによる提案は詳細すぎ簡略化す べきであるとし,代わりに

v. Stenglein

は「無実であると主張している被 告人の公判において,起訴に対する特別の応訴あるいは自身の主張の正当 化 が 要 求 さ れ る べ き で は な い」と い う 提 案 を 行っ た(7. DJT, Bd. 1, v.

Stenglein, S. 111)

。この提案は,無実であると主張している被告人の公判

において,口頭による審理の最初の尋問時(起訴時)に,被告人に特別の 応訴を要求すべきではなく,または,被告人に自らの主張を正当化するよ う起訴事実について意見を述べることを義務づけるべきではない,という ことを意味する。被告人は,自らの利益にならない供述を強制されるべき ではない。その上で,

v.Stenglein

は,証拠資料が提出される前に,被告 人に起訴事実について精確に応訴するよう義務づけることを否定する。

なお,被疑者・被告人の聴聞を短縮することや被疑者・被告人の口を封 じることは許されず,被疑者・被告人は,訴訟のあらゆる段階において,

起訴事実について問われ,個々の証拠資料について供述する機会を十分に 有していなければならない(7. DJT, Bd. 1, v. Stenglein, S. 116 und S. 121 f.)。

(3) 討

v. Graevenitz

(上級検察官;マリーエンヴェーダー)は,

Glaser

に基本 的に賛同するが,「口頭による審理の開始の際,被疑者・被告人の言明は 要求されるべきではない」という

v. Stenglein

の提案に完全に同意してい るわけではない。

刑事訴訟における最上の目的は,実体的真実の探究である。それゆえ,

裁判官は,公判において真実探究という目的をもって職務を果たさなけれ ばならない。裁判官が実体的真実を確認するための手段として,手続開始 時における被疑者・被告人の尋問がある。被疑者・被告人の尋問は,同一 人であることの確認,意思確認のために不可欠である。裁判官が被疑者・

被告人自身が有罪であると認めるか否かを明らかにするよう被疑者・被告

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