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1.職業教育訓練の基本構造~法的枠組み

ド イ ツ の 労 働 市 場 政 策 で 重 要 な 役 割 を 担 う 職 業 教 育 訓 練 (Berufsbildung:Vocational Education and Training = VET)は、「職業教育訓練法(Berufsbildungsgesetz = BBiG)」と「社 会法典第Ⅲ編」(Sozialgesetzbuch Ⅲ = SGBⅢ)に基づいて展開されている。まず職業教育 訓練法は職業教育訓練の法的な枠組みを規定している。例えば、同法第 2 条では「本法は職 業教育訓練を、さまざまな州の学校法によってカバーされる職業学校では提供できないよう な訓練の範囲に適用する」と定義しており、学校教育以外の教育訓練を職業教育訓練の範囲 としている。さらに同法第 1 条は職業教育訓練の分野について「職業教育訓練とは、養成教 育 訓 練 (Berufsauslildung)、 向 上 教 育 訓 練 (Fortbildung)、 再 教 育 ( 職 業 転 換 ) 訓 練

(Berufliche Umschilung)を意味する」と定義している。養成教育訓練は「若年者」を対象

に行われる企業での職場実習と職業学校における理論教育を平行して行い、一定の職業資格 の取得を目的とした初期訓練であり、向上教育訓練は職業経験者の知識・技能・技術の向上 を図るために行う訓練、再教育訓練は現在の職種では就職が難しいため、他の職種に就職

(転換)するために必要な職業能力を身につける訓練である。

社会法典第Ⅲ編は主に労働市場政策に関する規定が設けられ1、その中でとくに向上教育 訓練と再教育訓練を「継続教育訓練」(Weiterbildung)として位置づけ、「継続職業教育訓 練」を中心とした職業教育訓練が労働市場政策と連携して促進されている(第 2-1-1 表)2

第 2 - 1 - 1 表 ドイツの職業訓練制度の種類及び概要

1 詳しくは労働政策研究・研修機構(2006)『ドイツにおける労働市場改革』及び同(2007)『ドイツ、フラン スの労働・雇用政策と社会保障』を参照のこと。

2 なお、継続職業訓練は失業給付と関連した社会法典第二編とも連携して行われている。

訓練概要

若年者を対象に企業における職場実習と 職業学校における理論教育を平行して行 う、一定の職業資格の取得を目的とした 初期訓練。

向上教育訓練

(Fortbildung) 職業経験者の知識・技能・技術の向上を 目的とした訓練。

再教育訓練[職業転換訓練]

(Berufliche Umschilung) 従来とは異なる職業に就くために必要な 職業能力を身につける訓練。

養成教育訓練

(Berufsauslildung)

訓練の種類

継続教育訓練(Weiterbildung)

そ こ で 本 章 で は 、 若 年 者 を 対 象 と し た 職 業 教 育 訓 練 政 策 と し て 「 養 成 教 育 訓 練

(Berufsauslildung:Initial Vocational Education and Training = IVET)」を、在職者、失業者及び 経済的弱者を対象とした職業教育訓練政策として継続教育訓練(Weiterbildung:Continuing Vocational Education and Training = CVET)をそれぞれ取り上げる。

2.実施主体と財源構成

ドイツにおける職業教育訓練の実施主体の概要を整理した第 2 - 1 - 2 表をみると、養成教育 訓練の主管省庁は連邦政府(連邦教育研究省:Bundesministerium für Bildung und Forshung = BMBF)と州政府で、管理運営主体は会議所と州政府、主な訓練実施機関は企業と職業学校 である。一方、継続教育訓練の主管省庁は連邦政府(連邦労働社会省:Bundesministerium

für Arbeit und Soziales = BMAS)と州政府が、管理運営主体は連邦雇用エージェンシー

(Bundesagentur für Arbeit = BA:旧雇用連邦庁。2004 年 1 月 1 日社会法典第Ⅲ編〔通称「ハル ツ法第Ⅲ法」〕施行により改組3)と州政府が、主な訓練実施機関は職業専門学校、専門学校、

大学といった公的教育機関と民間教育訓練機関、会議所、企業、労働組合の訓練機関などの 民間の訓練機関がそれぞれ担っている。なお、この職業教育訓練の企画、訓練実施プログラ ム策定及び評価に関しては連邦職業訓練研究機構(Bundesinstitut für Berufsbildung = BIBB)

が重要な役割を担っている。

第 2 - 1 - 2 表 職業教育訓練の実施主体と財源構成

3 主な業務は市場メカニズムの利用による職業紹介・指導、職業実習の斡旋、労働市場における求職者の雇用 機会の拡大、所得代替給付金の支給、職業訓練の促進などである。詳しくは労働政策研究・研修機構(2006)

『ドイツにおける労働市場改革』を参照のこと。

養成教育訓練 継続教育訓練

主管省庁 連邦政府(連邦教育研究省)

州政府

連邦政府(連邦労働社会省、連邦 雇用エージェンシー)

州政府 管理運営主体 会議所

州政府 連邦雇用エージェンシー

州政府

訓練実施機関主な 事業所 職業学校

《公的機関》

 職業専門学校  専門学校  大学《民間機関》

 民間教育訓練機関

 会議所 企業、労働組合の訓練機関

連邦政府(連邦教育研究省)

州政府企業 会議所

連邦政府(連邦労働社会省、連邦 雇用エージェンシー)

欧州連合(EU)

州政府企業 会議所個人 実施主体

主な財源構成

こうした職業教育訓練の主な財源構成は、養成教育訓練が連邦政府(連邦教育研究省)、州 政府、企業、会議所、継続教育訓練は連邦政府(連邦労働社会省、連邦雇用エージェンシー)、

州政府、欧州連合(EU)、企業、会議所、そして個人である。

第2節 若年者の職業教育訓練政策~養成教育訓練(Berufsauslildung)

1.学校教育と職業教育訓練

(1)学校教育の概要

ドイツの職業教育訓練は学校教育制度の中に組み込まれ、職業教育訓練と学校教育が 1 つ のシステムとして機能している。そこで、まず学校教育制度を概観すると、ドイツでは各州 が教育・学術・文化の各分野に「文化高権(Kulturhoheit)」と呼ばれる権限を持ち、学校教 育制度は各州法で定められている。ただし、各州の文部大臣による各州間の調整や協力が図 られる文部大臣会議が設けられている。そのため、職業教育訓練を主管する連邦教育研究省 の権限は各州と共同で行う教育計画の策定、企業による職業訓練規則の設定等に限定されて いる。

ドイツの義務教育は日本と同じく前期中等教育の 15~16 歳までである(第 2-2-1 図)。し かし、単線型の日本の学校教育制度とは異なり、ドイツの学校教育制度は分岐型になってい る点に違いがみられる。初等教育(6 歳から 9 歳までの「基礎学校」(Grundschule)を修了 すると、前期中等教育は、①総合大学(Hochshule)への進学を目指す「ギムナジウム」

(Gymnasium)、②中級技術者を目指す「実科学校」(Realschul)、③職人・熟練工を目指す

「基幹学校」(Hauptschle)、の 3 分野にわかれる。この他にこれら 3 分野の学校の特色を持 った総合学校(Gesamtschule)が一部の州・地域で設けられているほか、さらに旧東ドイツ 地 域の多く の 州 で は 、 基幹学 校 と 実科学 校 を統合 し た形 態の 学 校 (Mitteschule、

Sekundarschule、Regelschule など名称は様々)が設置されている。こうした前期中等教育へ

の進学は基礎学校における成績をもとに親と基礎学校の教師の話し合いにより決められてお り、入学試験は行われない。

後期中等教育では、ギジナジウム上級段階に進学する者は 1/3 程度である。一部の生徒は 専門上級学校に進学し、専門大学入学資格の取得を目指す。残りの生徒およびギジナジウム 上級段階を修了または退学した一部の生徒は、デュアルシステムの養成教育訓練に進む。

第 2 - 2 - 1 図 ドイツの学校教育制度の体系

(出典)Bundesministerium für Bildung und Forshung(2008c)『Grund und Strukturdaten 2007/2008』

(2)職業教育訓練の概要

こうした学校教育に組み込まれた若年者(義務教育修了者)を対象とした主な職業教育訓 練(養成教育訓練)に「デュアルシステム」と「全日制職業学校訓練」がある。義務教育を 終えた若年者がこれらの職業教育訓練コースに進む割合は、デュアルシステムが約 55%、

全日制職業学校が約 10%であり、残りの約 35%は、普通教育において大学を目指すコース である。

19

13 18

12 17

11 16

10 15

16

10 15

9 14

8 13

7 12

6 11

5 10

4 9

3 8

2 7

1 5

4

学年 3

年齢 継続教育(Weiterbildung)

ギムナジウム 専門 上級段階

上級学校

職業上級学校 専門学校 夜間ギムナジウム

/コレーク

デュアルシステム

(Duales System)

職業基礎教育学年

職業専門学校

職業アカデミー

特殊学校 特殊学校

(Hauptschle)基幹学校 第10年次

(Realschul)実科学校 総合学校

(Gesamtschule)

幼稚園特殊

総合大学/工科大学 総合制大学/教育大学/芸 術大学/音楽大学/専門大

学/行政専門大学 高等教育

後期中等教育

前期中等教育

初等教育

就学前教育

ギムナジウム

(Gymnasium)

基幹学校修了証

(Hauptschlabschluß) 実科学校修了証

(Mittlere Reife)

幼稚園(任意)

(Grundschule)基礎学校

観察指導段階(Orientierungsstufe)

職業訓練修了証 一般大学入学資格

専門大学入学資格 職業継続教育

修了証 一般大学

入学資格

学士

博士学位/

職業資格の学位

(学士、マイスター、国家試 験、バチェラー、マスター)

2.デュアルシステム(Duallensystem:Training in the Dual System)

(1)基本構造~法的枠組みと財源構成 ア.法的枠組み

デュアルシステムは、主に基幹学校修了者を対象として実施される、幅広い職業に関する 基礎知識と、特定の職業に必要な専門能力を身につけ、即戦力となる熟練労働者を養成する ことを目的とする制度である。このデュアルシステムというのは本来「二元システム」とい う意味であり、このシステムには、①訓練の場が職業学校と企業であること、②職業学校で は理論を学び、企業では実践を学ぶこと、③職業学校は州の主管であり、企業での職場実習 は連邦政府(連邦教育研究省)の主管であること、という 3 つの二元性がある。週のうち 1

~2 日(全訓練時間の約 3 割)は職業学校で職業に係る理論教育が、残りの 3 ~ 4 日(全訓 練時間の約 7割)は企業で職場実習がそれぞれ行われる。

デュアルシステムの実施の流れをまとめた第 2 - 2 - 2 図をみると、義務教育終了後、企業 での職場実習を受けるためには、企業と職業訓練契約(Ausbildungsvertrag)を結ばなくては ならない。この訓練場所を見つけるためには、連邦雇用エージェンシーの傘下にある各地の 労働エージェンシーに併設されている職業情報センター(Berufsinfomationszentrum = BIZ) で職業コンサルタント(Berufsberater)のサポートを受けながら各企業の情報の提供を受け るほか、新聞広告、インターネットの HP、集団説明会、友人や知人、あるいは親のコネな ども積極的に利用したりして情報を集める。これらの情報をもとに個別に希望する企業と直 接交渉し、職業訓練契約を結ぶ。

デュアルシステムの訓練生は職業学校の生徒であると同時に、企業と職業訓練契約を結ぶ ので、訓練生手当(Ausbildungsvergütung)が支給されるほか、社会保障制度の対象にもな る。訓練生手当の金額は労働組合との労働協約(Tarif)によって決められている。

職業訓練が行われる公認訓練職種は約 350 職種、訓練期間は職種によって 2 年(販売など の事務系職種)~ 3 年半(電気・電子及び機械系職種)である。なお、ギムナジウム修了者、

大学進学資格者等が訓練を受ける場合は、訓練科目が一部免除され、訓練期間が短縮される 場合もある。こうしたデュアルシステムは 1 つの法律に基づいて行われているのではなく、

企業での職場実習は連邦法(職業教育訓練法および手工業規則)に、企業と職業訓練生との 間で結ばれる職業訓練契約は私法上に基づいて実施されている(第 2 - 2 - 3 表)。職業訓練契 約は訓練目標(訓練職業)、訓練期間、定期的な一日の訓練時間、訓練生手当の支払いと金 額、職業訓練生および職業訓練者(職業訓練企業)の義務など職業訓練に関わる全ての内容 が明記されている。職業学校における理論教育は、各州の学校法にしたがって実施されてい る。なお、訓練修了後に試験が実施され、試験に合格すると訓練職種に関する公的な職業資 格が付与される。

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