第2章 トリホスゲンを用いたラクタム構築法の開発
第2節 トリホスゲンを用いたアミノラクタム化反応
36
37
第1項 シクロペンテン環をもつスピロテトラヒドロキノリン類の アミノラクタム化反応
はじめに、溶媒および求核剤としてアセトニトリルを用いて、シクロペンテン環をもつ スピロテトラヒドロキノリン1aと、3当量のトリホスゲンを室温で反応させた (Scheme 46)。
その結果、期待通り窒素原子の導入を伴うアミノラクタム化反応が進行し、アセトアミド
8aAが48%の収率、endo : exo = 1 : 7の立体選択性で得られた。なお、塩化物イオンが導入
されたクロロラクタムも副生成物として得られた。
Scheme 46. Aminolactamization of 1a with triphosgene and acetonitrile.
次に、溶媒および求核剤としてプロピオニトリルを用いて、同様にアミノラクタム化反 応を検討したところ、プロピオンアミド8aBが35%の収率、endo : exo = 1 : 4の立体選択性 で得られた (Scheme 47)。
Scheme 47. Aminolactamization of 1a with triphosgene and propionitrile.
なお、アセトアミド基およびプロピオンアミド基を有するアミノラクタム 8aA および 8aB の立体構造に関しては、それぞれ第 1 章第 1 節のクロロラクタム2a の場合と同様に
NOESYスペクトルにより確認した (Figure 4)。8aAおよび8aB において3位の水素と 12
位のメチレン水素にクロスピークが認められた立体異性体をendo体であると推定し、3位 の水素と12位のメチレン水素にクロスピークが認められなかった立体異性体をexo体であ ると推定した。
38
Figure 4. Stereochemistry of bicyclic aminolactams 8aA and 8aB.
次に、本アミノラクタム化反応における、シクロペンテン環をもつスピロテトラヒドロ キノリンのベンゼン環上の置換基による影響を検討した (Table 12)。シクロペンテン環をも つスピロテトラヒドロキノリン1b-dおよび1hを用いて、アセトニトリル中、トリホスゲ ンによるアミノラクタム化反応を行った。その結果、電子供与基としてR1にメトキシ基あ るいはR2にメチル基、R1にハロゲンとして塩素原子や臭素原子を有する基質のアミノラク タム化反応では、いずれの場合にも中程度の収率で目的のアミノラクタム8bA-dAおよび 8hAが得られた。なお、ベンゼン環上に置換基をもたない場合と同様に、いずれの場合も exo体の生成を優先してアミノラクタム化反応が進行した。
Table 12. Aminolactamization of spirocyclic cyclopentenyltetrahydroquinolines 1b-d and 1h.
39
以上のように、溶媒および求核剤としてニトリルを用いると、トリホスゲン由来のカル ボニル基とともにニトリル由来の窒素原子が導入されたアミノラクタムが得られることが 明らかとなった。
40
第2項 反応経路の考察
次に、本アミノラクタム化反応の反応経路について考察した。
はじめに、アセタミド基の導入がクロロラクタム2aからの置換反応によるものではない ことを確認する目的で、クロロラクタム2aを用いてアセトニトリル中、トリホスゲンとの 反応を検討した (Scheme 48)。その結果、置換反応は進行せず、原料が回収されるのみであっ た。このことから、アセタミド基の導入はクロロラクタムの置換反応によるものではない ことが明らかとなった。
Scheme 48. Control experiment.
次に、アミノラクタム化反応の推定反応経路をScheme 49に示した。はじめに、スピロ テトラヒドロキノリン1aとトリホスゲンが反応すると、クロロラクタム化反応と同様にア シル化が進行してカルバモイルクロリド 4a が生成し、塩化物イオンの脱離による D およ びアシリウムイオンEの生成と、Prins型環化反応が進行してカルボカチオンFが生成する。
続いて、カルボカチオンFへニトリルが付加することにより、ニトリリウムイオンTとな
Scheme 49. Plausible pathway of triphosgene-mediated aminolactamization.
41
り、続く塩化物イオンの付加によりイミドイルクロリド73が生成する。最後に、加水分解 が進行し、アミノラクタム8aが得られたと考えている。なお、クロロラクタム化反応とア ミノラクタム化反応において立体選択性が逆転した理由に関しては、現在のところ明らか になっていない。
以上のように、著者はスピロテトラヒドロキノリン類をジクロロメタン中トリホスゲン と反応させると、アミド結合の構築とともに塩素原子の導入の進行するクロロラクタム化 反応が進行することを見出した。また、ニトリルを溶媒とした場合では、2つのアミド結合 を構築するアミノラクタム化反応が進行することを見出した。
42