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トランスフェリンの輸送過程の pH イメージング

第三章 非対称 SiR を母核とした新規レシオ型 pH プローブの開発

第七節 トランスフェリンの輸送過程の pH イメージング

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まず、SiRpH5-PEG6-SE (89)を鉄イオン結合型Tfn(Holo-Tfn)に標識し、ゲル濾過カラム による精製を行った。標識の際には、Holo-Tfn : SiRpH5-PEG6-SE = 1 : 8および1 : 11の 2条件を試みた。

Protocol: Holo-Tfnを含むpH 8.0ホウ酸緩衝液とSE体を含むホウ酸緩衝液を1:1で混和 (最終濃度:5 mg/mL Holo-Tfn, 250 μM (4 eq.), 500 μM (8 eq.) SiRpH5-PEG6-SE, 10%

DMSO)⇒室温で 1 時間ボルテックス⇒PD-10 ゲル濾過カラムを用いて小分子と Tfnを分

離・精製⇒凍結乾燥後に標識Tfnの水溶液を作成

1 µMのSiRpH5-TfnのpH 3.0のバッファー中での吸光度を測定し、1 μMのSiRpH5 の吸光度と比較することで、Holo-Tfnに対するSiRpH5の標識数(DOL)を決定した(Figure 3-7-2a,c)。標識反応時の SiRpH5-PEG6-SE/Holo-Tfn が 8、11 の濃度条件において、

SiRpH5-TfnのDOLは7.3、9.9となり、SE体の濃度が高いほどDOLは上昇した。

DOLの異なるSiRpH5-Tfnの光学特性を調べたところ、SiRpH5-Tfnの蛍光量子収率は

DOLが上昇するほど低くなる傾向にあるが、デキストランと比較すると高い蛍光量子収率 を保っていた(Figure 3-7-2b,c)。これはデキストランに比べてTfnの分子量が大きく、濃度 消光が生じにくいためと考えられる。Tfn1分子あたりの標識数が少なく蛍光量子収率が比

較的高いDOL = 7.3のSiRpH5-Tfnを以降の実験に用いることにした。

Figure 3-7-2. Determination of the degree of labeling (DOL) of SiRpH5-Tfn. (a) Absorbance and (b) fluorescence spectra of 1 µM SiRpH5 and 1 µM SiRpH5-Tfn in 100 mM NaPi buffer at pH 3.0.

(c) Photophysical properties of SiRpH5-Tfn measured in 100 mM NaPi buffer at pH 3.0. DOL was determined by absorbance of the conjugates at pH 3.0. For the determination of fluorescence quantum yields, SiRpH5 in NaPi buffer (Φfl = 0.21 at pH 3.0, 0.11 at pH 9.0) was used as a fluorescence standard.

0 200 400 600 800 1000 1200

600 650 700 750 800 850

F.I. (a.u.)

Wavelength (nm) 0

0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

450 500 550 600 650 700 750

Abs.

Wavelength (nm)

1 µM SiRpH5 SiRpH5-Tfn (SE 8 eq.) SiRpH5-Tfn (SE 11 eq.)

1 μM SiRpH5 SiRpH5-Tfn (SE 8 eq.) SiRpH5-Tfn (SE 11 eq.)

Ex = 580 nm

DOL Φfl ε (M-1cm-1) ε x Φfl

SiRpH5 0.21 2.3 x 104 4.8 x 103 SiRpH5-Tfn (SE 8 eq.) 7.3 0.17 1.7 x 105 2.9 x 104 SiRpH5-Tfn (SE 11 eq.) 9.9 0.14 2.3 x 105 3.2 x 104

(a) (b)

(c)

SiRpH-5 : R = COOH SiRpH5-PEG6-SE : R =

Absorbance spectra Fluorescence spectra

66 2. SiRpH5-Tfn (DOL = 7.3)の光学特性の精査

Figure 3-7-3. Photophysical properties of SiRpH5-Tfn (DOL = 7.3). (a) Absorbance and (b) excitation spectra of 0.31 μM SiRpH5-Tfn at various pH values in 100 mM NaPi buffer. (c) Plots of ratio values vs pH. For the determination of fluorescence quantum yields, SiRpH5 in NaPi buffer (Φfl = 0.23 at pH 4.5 and 0.11 at pH 9.0) was used as a fluorescence standard.

DOL = 7.3のSiRpH5-Tfnの光学特性を精査した(Figure 3-7-3)。吸収・励起スペクトル は SiRpH5 と同様に pH 変化に応じて約 80 nm 長波長化した(Figure 3-7-3a,b)。また、

SiRpH5 を標識してもレシオ値変化に基づく pKaには変化はなく、期待通りに酸性オルガ

ネラのpH測定に適したプローブとなった(Figure 3-7-3c)。タンパク質の表面には様々なア ミノ酸側鎖が存在しているが、長いPEGリンカーを介して標識を行うことでプローブの光 学特性を維持できたと考えている。そのため、SiRpH5-PEG6-SEを用いて、Holo-Tfnに限 らず様々なタンパクに SiRpH5 を標識することで、様々なオルガネラに選択的に送達でき るpHプローブが開発できると考えられる。

蛍光イメージングに十分な光学特性を有する SiRpH5 標識トランスフェリンを作成でき たため、トランスフェリンの輸送過程のpHイメージングを試みた。

0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

4 5 6 7 8 9

Ratio (Em700, Ex590/Ex673)

pH

0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08

450 500 550 600 650 700 750

Abs.

Wavelength (nm)

pH 4.0 pH 4.5 pH 5.0 pH 5.5 pH 6.0 pH 6.5 pH 7.0 pH 7.4 pH 8.0 pH 9.0

0 50 100 150 200 250 300 350

450 500 550 600 650 700 750

F.I. (a.u.)

Wavelength (nm)

pH 4.5 pH 5.0 pH 5.5 pH 6.0 pH 6.5 pH 7.0 pH 7.4 pH 8.0 pH 9.0

(b) Excitation spectra (c) Ratio vs pH

Em = 700 nm

pKa= 6.1

λex (nm) λem (nm) ε (M-1cm-1) Φfl ε x Φfl

pH 4.5 596 682 1.6 x 105 0.14 2.2 x 104 pH 9.0 673 696 2.5 x 105 0.05 1.3 x 104

(a) Absorbance spectra

SiRpH5-Tfn (DOL = 7.3)

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3. SiRpH5-Tfnを用いたトランスフェリンの輸送過程のpHイメージング

Figure 3-7-4. pH imaging in trafficking of transferrin. (a) Protocol of the experiment. (b) Calibration of SiRpH5-Tfn-labeled endosome in fixed COS-1 cells. Cells were labeled with SiRpH5-Tfn and fluorescence ratios were measured with Leica TCS SP5. Bar means ± S.D. (c,d) Timelapse images of the cells incubated at 37 oC.

Protocol:

・COS-1細胞におけるトランスフェリンの輸送過程のpHイメージング

EGFP-Rab11を一過性発現させたCOS-1細胞の培地を25 µg/mLのSiRpH5-Tfnを含む HBSSに置換し、4 oCで20分間インキュベーションした後に2回washし、共焦点蛍光顕 微鏡下にて 37 oC でタイムラプスイメージングを行った(2 frame/min, 計 10min)。(SP5 setup: Ex = 488 nm (20%), 580 nm (60%), 660 nm (45%), Em = 500-530 nm (PMT 900), 680-750 nm (HyD, Std136))

・COS-1細胞における検量線の作成

COS-1細胞の培地を25 µg/mLのSiRpH5-Tfnを含むHBSSに置換し、37oCで30分間 インキュベーションした後に細胞を 4%ホルムアルデヒドで固定⇒外液を 5 mM HEPES buffer (pH 4.0, 4.5, 5.0, 5.5, 6.0, 6.5, 7.0, 7.4)で2回wash、置換した後に共焦点蛍光顕微 鏡で観察。リサイクリングエンドソームをROI で囲み、5細胞分のROIのレシオの平均値 を各pHに対してプロットした。

10 µm 25 μg/ mL SiRpH5-Tfn

COS-1 cells

loaded 20 min

Timelapse imaging (10 min) 4 oC

Wash

37 oC 4 oC

(a)

(c)

0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3

3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5 7 7.5

Ratio (Em680-750, Ex580/Ex660)

pH

(b)

10 min 0 min

10 µm pH 6.2±0.2

Nucleus

0.5 Nucleus 1.3

SiRpH5-Tfn

pH 5.1±0.2

Ratio

Ratio =Em680-750 (Ex. 580 nm)

Em680-750 (Ex. 660 nm)

0 min 2 min 4 min 6 min 8min 10 min

Nucleus

(d)

10 µm 0.5

1.3 SiRpH5-Tfn

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Figure 3-7-5. (a) COS-1 cells transiently expressing GFP-3xFYVE were incubated in HBSS containing 25 µg/mL SiRpH5-Tfn at 4oC for 20 min, then washed twice, warmed to 37oC and imaged. (b) COS-1 cells transiently expressing EGFP-Rab11 were incubated in HBSS containing 25 µg/mL SiRpH5-Tfn at 4oC for 20 min, then washed twice, warmed to 37oC and imaged after 10 min incubation.

Tfnは細胞膜上のTfnRと結合するとエンドサイトーシスされ、弱酸性(pH 5.0~5.5)の初 期エンドソーム(EE)へ輸送され、その後10分ほどでEEより少しpHの高い(pH 5.2~6.6) リサイクリングエンドソーム(RE)へと輸送される。一方、4 oC でインキュベーションを行 うことで、Tfnは細胞膜に結合するがエンドサイトーシスが起こらないと知られている。そ こで、4 oC で COS-1 細胞膜上に SiRpH5-Tfn を結合させた後に 37 oC に温度を上げ、

SiRpH5-Tfnが初期エンドソーム、リサイクリングエンドソームへと輸送される際のpH変

化のタイムラプスイメージングを試みた(Figure 3-7-4)。

SiRpH5-Tfn (+)のエンドソームのレシオ値は、観察開始直後は酸性を示す高い値が観察 され、時間の経過と伴に低い値へと変化した(Figure 3-7-4d)。SiRpH5-Tfnの局在を調べる と、観察開始直後(0 min)ではEEマーカーであるGFP-3xFYVEと共局在することから、

EEに局在することが確かめられ(Figure 3-7-5a)、観察開始10分後にはREのマーカーで

あるEGFP-Rab11と共局在することから、REへと輸送されることが確かめられた(Figure

3-7-5b)。SiRpH5-Tfn がTfnと同様に輸送されることが分かったため、固定細胞で作成し

た検量線を用いて輸送過程のpHの定量を行った(Figure 3-7-4c)。その結果、観察開始直後 のEEにおけるpHは約5.1であり、REへと輸送されるに従い約6.2まで塩基性化するこ とが観察された。これらの値は報告されている EE や RE の pH と同程度であり 48

SiRpH5-Tfnを用いることで酸性オルガネラの経時的なpH測定に初めて成功した。

以上のように、開発した SiRpH5-Tfn を用いることで、トランスフェリンが初期エンド ソームからリサイクリングエンドソームへと輸送されていく際の pH 変化を経時的に観測 することに成功した。SiRpH5を標識したタンパク質の輸送過程のpH測定が容易に行える ことから、興味のあるタンパク質の輸送過程におけるpH制御の役割をより詳細に解析でき るようになると期待される。

SiRpH5-TfnEx580 GFP-3xFYVE (EE) Merged

10 µm

SiRpH5-TfnEx580 EGFP-Rab11 (RE) Merged

(a) 0 min (b) 10 min

10 µm

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