第 3 章 データと解析手法
3.2 データ収集
本研究で用いたデータの種類と収集方法について述べる. 2.1.3項で述べた通り,人間の体感温度は室温,着衣 量,代謝量などに大きく依存する.本研究ではこれらの要因をセンシングし解析することで人間が快適と感じる 温度を推定し空調の最適化ができるのではないかと考えた.着衣量はシステムではアンコントローラブルなた め,室温と代謝量をセンシングすることとした.代謝量のセンシングであるが,多くの研究では人間の活動量を 推定するために加速度を用いることが多い.加速度を用いる理由として,加速度センサはスマートフォンなどの デバイスに組み込まれていることが多く利用しやすい点などが挙げられるが,本研究では心拍数を用いた.例え ば加速度センサだと,立っている状態でも座っている状態でも寝ている状態でも人間が動かなければセンサに 反応はなく,等しく扱われてしまう.しかし人間の代謝は運動量だけでなく姿勢によっても変化するため,そう した変化もセンシングすることができる心拍数を用いて代謝量を推定することとした.
3.2.1 収集したデータの種類
空調最適化を考えるにあたりどのような要因が体感温度に影響を与えるかは2.1.3項で述べた.このことから 本研究では次のデータを収集対象とした.
心拍数
代謝量を推定するために心拍数を収集対象とした.心拍数はその絶対値だけでなく変化も重要であると考え た.図3.6と図3.7に示すように,同じ心拍数100bpmであっても120bpmから100bpmになった場合と80bpm
から100bpmに変わった場合では体感温度に差が出ることが考えられる.更に言えば,図3.8,図3.9に示すよう
に同じ120bpmから100bpmになった場合でも下に凸の変化をした場合と上に凸の変化をした場合でも体感温
度に影響があることも考えられる.そのため心拍数はその絶対値だけでなく,その変化も要因として扱うため1 秒ごとに3分間計測した心拍数をひとまとまりとするフレームデータとして収集を行った.また,計測するタイ ミングであるが,データ収集実験において被験者が空調を操作したタイミングでの過去3分間の心拍数を収集 した.被験者が室温を操作した時点で被験者はその心拍数・心拍パターンにおいてはその室温に満足していな いと考えることができる.そして設定した室温こそその時点で被験者の求める室温であると考えることができ る.また,収集した心拍数データはノイズを除去するため3秒間で平均をとって平滑化した。そして,前後の値
から10bpm以上差がある場合は外れ値とみなし,その前後の値の平均値をその値とした.
図3.6:心拍数が80bpmから100bpmへ変化する様子 図3.7:心拍数が120bpmから100bpmへ変化する様子
図3.8:上に凸な心拍数の変化 図3.9:下に凸な心拍数の変化
室温
当然であるが,室温は体感温度に大きな影響を与える.例え心拍数が非常に高い状態,身体が非常に温まって いる状態であっても,室温が28℃と18℃では被験者が設定する温度に影響を与えることが考えられる.そのた め室温もデータとして収集することとした.なお、室温は被験者が空調を操作した時点での室温と、被験者が 何度に設定したかという設定温度の2種類を収集し,後者を目的変数(正解)として扱った.
3.2.2 データ収集実験
心拍数データを収集するために実験を行った.空調設備のある部屋の中で被験者にPCとBluetoothで接続す る心拍数計を着けてもらい,部屋の中で運動強度の異なるタスクを複数行ってもらった.被験者は自由に部屋の 空調を操作することができ,温度が不快であると感じた段階で空調を操作してもらうよう依頼した.被験者が空 調を操作した時点での過去3分間の心拍数データと変更前の室温,変更後の室温を収集した.
細かな実験の条件は次の通りである.
被験者
実験は19歳から62歳の男女10名に対して行った.被験者の性別と年齢を表3.1に示す.
表3.1:被験者の年齢と性別 年齢 性別
19 男性
19 男性
22 男性
23 女性
25 男性
25 男性
33 女性
52 男性
55 女性
62 男性
実験場所と実験時間
実験は4m四方程度の空調のついた密室の中で行った.被験者1人につき30分間実験を行った.
タスク
被験者には部屋の中で次のタスクを行ってもらった.行ったタスクと各運動強度を表3.2に示す.
表3.2:被験者に行ってもらったタスク
タスク名 運動強度(Met)
身体を横にして寝る 1.0 事務作業 1.1 部屋を歩きまわる 2.0 ダンスエクササイズ 2.4〜4.4
本実験ではPCやスマートフォンとBluetooth接続し心拍数や運動量を計測できるデバイスMio Linkを用い て心拍数の計測を行った.Mio Linkは従来の胸や腕につけるタイプの心拍数計と異なり,腕時計のように手首に 着けることができ非常に軽量である.Mio Linkの使うことにより被験者に負担をかけることなく,簡単に実験を 行なうことができる.Mio Linkの外観を図3.10に示す.
図3.10: Mio Linkの外観
引用: http://www.mioglobal.com/Mio-LINK-Heart-Rate-Band-Grey/Product.aspx?ProductID=14
このMio LinkとPCをBluetooth経由で接続し,被験者が空調を操作するたびに心拍数と室温を記録するシス
テムを開発した.このシステムはMio Linkから1秒単位で送られてくる被験者の心拍数をバッファに貯め続け る.被験者が空調を操作した段階でボタンを押すことにより被験者の過去1分間の心拍数をCSVファイルに保 存する.
このシステムを用いることで被験者の心拍数の収集を行った.システムの概観図を図3.11に示す.
図3.11:データ収集用システムの概観図