第三章 中国上海不動産価格に関する実証分析
3.2 データ
本章では 2002 年 1 月から 2010 年 12 月まで上海不動産価格指数とマクロデータの月次デ ータを用いて、卖位根検定と共和分検定で、上海不動産市場におけるバブルの存在性につ いて実証分析する。各データについての詳細は以下の通りである。
被説明変数:
(1)不動産価格指数
不動産価格指数とは中国不動産指数システム19から収集し整理した上海地方の不動産価 格指数である。これは上海不動産鑑定士協会のホームページにおける適時開示情報から得 たものである。
説明変数:
(1)可処分所得
可処分所得は、上海地域の一人当たり可処分所得である。データは上海統計局のホーム ページにおける適時開示情報から得たものである。季節的な要因は収入に著しい影響を与 えるので、X12 の季節調整法20で可処分所得のデータを整理する。
19 中国不動産システム(CREIS: China Real Estate Index System)は価格指数の形式で 全国の各地の不動産市場の変化と現在の市場の状況を反映するシステムのことである。
20 季節調整法は、経済指標の季節変動を調整するために広く利用されているものであり、
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(2)貨幣供給量
貨幣供給量は M1(狭義のマネーストック)であり、流通している現金通貨と預金通貨(お よび要求払預金)を合計したものである。これは中国国家統計局のホームページからダウン ロードしたデータである。
(3)住宅ローン金利
住宅ローン金利は、担保あり名目金利マイナス政策的な金利変更と定義される。ここで、
担保あり名目金利は商業銀行の五年間以上の住宅ローンの基準金利とする。データは中国 人民銀行のホームページより収集したものである。
次に、中央銀行による政策的な金利変更は表 3-1 でまとめている。
表 3-1 政策的な金利変更
時間 政策的な金利変更
1999 年 9 月 住宅ローン金利を元の水準から 1 割引き下げ 2005 年 3 月 個人住宅ローン金利の下限を基準金利の 90%に引き下げ 2006 年 8 月 個人住宅ローン金利の下限を基準金利の 85%に引き下げ 2008 年 10 月 個人住宅ローン金利の下限を基準金利の 70%に引き下げ 2010 年 11 月 個人住宅ローン金利の下限を基準金利の 85%に引き上げ
(データ出所)中国人民銀行 HP より作成。
1999 年 9 月、中国人民銀行は住宅ローン金利を元の水準から 1 割引き下げた。次に、2005 年 3 月 17 日からは、住宅ローン金利の下限を基準金利の 90%に引き下げた。また、2006 年 8 月 19 日から、住宅ローン金利の下限を基準金利の 85%にした。2008 年リーマン・シ ョックの影響で、世界景気が減速した中、不動産市場を刺激するため中央銀行は再び住宅 ローン金利を引き下げた。同年の 10 月 27 日、中央銀行は住宅ローン金利の下限を基準金 利の 70%に引き下げた。この結果、12 月 23 日に住宅ローンの基準金利が底をつき 5.94%
となった。2010 年、不動産市場の取引は盛んになり、同年の 11 月 1 日中央銀行は住宅ロー ン金利の下限を基準金利の 85%に引き上げた。
以上より、この変数はある程度、政府による不動産市場へのコントロール政策として有 効であることを表している。
(4)消費者物価指数
消費者物価指数は、全国の世帯が購入する家計に係る財及びサービスの価格等を総合し た物価の変動を時系列的に測定したものである。上海統計局ホームページからダウンロー ドしたデータを用いる。
現在、 行政機関等で利用されている季節調整法は、X-12など4種類の季節調整法であ る。
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3.3 実証結果と解釈
3.3.1 実質データの場合 全期間
実質データの場合、各変数を以下の通りに表す。
不動産価格指数(対数値):ln hp 可処分所得(対数値):ln pdi 貨幣供給量(対数値):ln m1 実質住宅ローン金利:r
まず、四つの変数の時系列は卖位根があるかとうかを検証するため ADF 検定を行った。
卖位根検定の結果については表 3-2 に示している。
表 3-2 実質データの卖位根検定の結果(2002.1-2010.12)
変数
I(0) I(1) 結論
t値 p値 t値 p値 I(1) ln hp -0.867576 0.795 -5.036238** 0 I(1) ln pdi -3.335929 0.0661 -13.42186** 0 I(1) ln m1 -1.549073 0.8062 -9.647921** 0 I(1) r -2.102164 0.2443 -6.576163** 0 I(1) 注:**は 1%有意で帰無仮説を棄却することを示す。
*は 5%有意で帰無仮説を棄却することを示す。
上記の結果により、四つの変数の時系列データに卖位根があり、非定常時系列データ21で あることがわかった。1 回差分を取った結果、1%有意であり、卖位根がなくなり定常時系 列になった。つまり、I(1)22過程である。
次に、共和分検定の結果は経済ファンダメンタルズの変数の選別に左右されないように、
被説明変数である不動産価格指数と三つの説明変数可処分所得、貨幣供給量、実質住宅ロ
21 定常過程(Stationary process)とは、時間や位置によって確率分布が変化しない確率過程 を指す。このため、平均や分散も時間や位置によって変化しない。例えば、ホワトノ
ズは定常的である。定常性(Stationarity)は時系列の解析でも重要であり、時系列データ を定常的なものに変換することがよく行われる。
22 I(d)は Integrated of orderd の略である。非定常な時系列がd階段の差分をとったときに はじめて定常になるとき、I(d)過程であるということである。
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ーン金利それぞれと共和分検定を行う。三つの経済ファンダメンタルズ変数の組み合わせ 方は 7 通23で、以下のとおりである。
a) 二つの変数を組み合わせる場合
結果については表 3-3 に示されている通り、三つのケースにおいてすべて 5%の有意水準 で共和分していなかった。
表 3-3 実質データの共和分検定の結果 二つの変数の場合(2002.1-2010.12)
帰無仮説 統計量 5%臨界値 p値
1) ln hpとln pdi
H :r=0 10.30516 15.49471 0.258 H :r≦1 1.080102 3.841466 0.2987
2) ln hpとln m1
H :r=0 11.78734 15.49471 0.1674 H :r≦1 0.081239 3.841466 0.7756
3) ln hpとr
H :r=0 5.063452 15.49471 0.802 H :r≦1 0.329454 3.841466 0.566
b) 三つの変数を組み合わせる場合
表 3-4 に結果を示している通り、三つのケースにおいてすべて 5%の有意水準で共和分し てなかった。
表 3-4 実質データの共和分検定の結果 三つの変数の場合(2002.1-2010.12)
帰無仮説 統計量 5%臨界値 p値
1) ln hpとln pdi、lnm1
H :r=0 19.29009 29.79707 0.4722 H :r≦1 6.180147 15.49471 0.6742 H :r≦2 2.020522 3.841466 0.1552
2) ln hpとln pdi、r
H :r=0 19.21795 29.79707 0.4773 H :r≦1 4.293617 15.49471 0.8785 H :r≦2 1.043185 3.841466 0.3071
23 計算方法:C31+ C32+ C33= 7
62 3) ln hpとln m1、r
H :r=0 18.74392 29.79707 0.5114 H :r≦1 2.658315 15.49471 0.9802 H :r≦2 0.01177 3.841466 0.9134
c) 四つの変数を組み合わせる場合
結果については表 3-5 で表している。不動産価格指数と可処分所得、貨幣供給量、実質 住宅ローン金利の間に 5%の有意水準で共和分してなかった。
表 3-5 実質データの共和分検定の結果 四つの変数の場合(2002.1-2010.12)
帰無仮説 統計量 5%臨界値 p値
1)
ln hpとln pdi、
ln m1、r
H :r=0 47.61425 47.85613 0.0527 H :r≦1 14.73582 29.79707 0.7969 H :r≦2 3.836038 15.49471 0.9163 H :r≦3 0.144128 3.841466 0.7042
不動産価格指数は経済ファンダメンタルズ変数との共和分関係がなければ、住宅価格バ ブルが存在すると見られる。そのため、実質のデータによる結果から、上海不動産市場に はバブルが存在していることを確認できる。これは王春雷(2011 年)の結果とは異なって いる。
しかしながら、注目すべきことは四つの変数の組み合わせの時の結果である。P 値は 0.0527 になっている。もし p 値が 0.05 より小さい場合は、5%の有意水準で共和分関係が あり、バブルは存在しないことになる。そのため、結果としてバブルは存在するが、相対 的にみると、バブルが存在することは言い難いと理解できる。
3.3.2 実質データの場合 期間別 不動産市場の構造変化の実証
王春雷(2011 年)は、2000 年 1 月から 2006 年 12 月までの上海不動産市場でバブルが存 在するか否か実証分析した。前章で述べたように、2007 年 9 月『商業用不動産の信用管理 に関する通知』の発表により、2 回目の不動産市場へのコントロールが始まった。加えて、
アメリカのサブプライム・ローンによる世界的な金融危機の影響を受け、上海の不動産価 格変化は新たな循環に入った。
そのため、上海不動産市場は 2007 年末に構造変化が起きた可能性が非常に高いと考えら れる。これを考慮すると、分析の期間を 2002 年 1 月から 2007 年 9 月まで、2007 年 10 月か
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ら 2010 年 12 月までの二つに分けることにした。上述と同じ方法で、二つの期間をそれぞ れ実証分析する。
a) 2002 年 1 月から 2007 年 9 月まで
四つの時系列データをそれぞれ卖位根検定と共和分検定で実証する。その結果は表 3-6 で表している。
表 3-6 実質データの卖位根検定の結果(2002.1-2007.9)
変数
I(0) I(1) 結論
t値 p値 t値 p値 I(1) ln hp -1.988421 0.5967 -1.880526* 0.0577 I(1) ln pdi 0.701582 0.9914 -8.789832** 0 I(1) ln m1 -1.472251 0.5415 -10.14538** 0 I(1) r 1.505875 0.9992 -10.9867** 0 I(1)
実質データの共和分検定の結果(2002.1-2007.9)
帰無仮説 統計量 5%臨界値 p値
1) ln hpとln pdi
H :r=0 6.956094 15.49471 0.5828 H :r≦1 0.747223 3.841466 0.3874
2) ln hpとln m1
H :r=0 6.377701 15.49471 0.6509 H :r≦1 1.313186 3.841466 0.2518
3) 𝐥𝐧 𝐡𝐩と r
H :r=0 19.0204 15.49471 0.0141* H :r≦1 2.618184 3.841466 0.1056
帰無仮説 統計量 5%臨界値 p値
1) ln hpとln pdi、ln m1
H :r=0 17.50945 29.79707 0.6024 H :r≦1 5.663902 15.49471 0.7348
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H :r≦2 0.132977 3.841466 0.7154
2) ln hpとln pdi、r
H :r=0 26.75605 29.79707 0.1077 H :r≦1 6.933571 15.49471 0.5854 H :r≦2 0.540208 3.841466 0.4623
3) ln hpとln m1、r
H :r=0 24.64826 29.79707 0.1744 H :r≦1 6.710987 15.49471 0.6115 H :r≦2 1.677824 3.841466 0.1952
帰無仮説 統計量 5%臨界値 p値
1)
ln hpとln pdi、 ln m1、r
H :r=0 43.71518 47.85613 0.1161 H :r≦1 17.51738 29.79707 0.6018 H :r≦2 6.398972 15.49471 0.6484 H :r≦3 1.178464 3.841466 0.2777 注:**は 1%有意で帰無仮説を棄却することを示す。
*は 5%有意で帰無仮説を棄却することを示す。
卖位根検定の結果によると、すべての時系列データは I(1)過程である。共和分検定の結 果によると、不動産価格指数と実質住宅ローン金利の間に一つの共和分関係が存在してい る。共和分の方程式は以下のとおりである。
ln hp = −0.692393 ∗ r + 10.49867 (3-1)
(0.26459)
この結果は仮説通りであり、不動産価格指数と実質住宅ローン金利の間に負の長期的な関 係がある。そして、共和分関係があることは、2002 年 1 月から 2007 年 9 月までの間では上 海不動産市場でバブルが存在しないことを示している。
b) 2007 年 10 月から 2010 年 12 月まで
前の時期と同じ方法で、四つの時系列データをそれぞれ卖位根検定と共和分検定で実証 する。上記の結果は表 3-7 で表している。
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表 3-7 実質データの卖位根検定の結果(2007.10-2010.12)
変数
I(0) I(1) 結論
t値 p値 t値 p値 I(1) ln hp -0.3117 0.9136 -2.454506** 0.0155 I(1) ln pdi -1.634036 0.7603 -6.283251** 0 I(1) ln m1 -1.243961 0.8861 -4.104862** 0.0135 I(1) r -1.769237 0.3894 -3.262475** 0.0241 I(1)
実質データの共和分検定の結果(2007.10-2010.12)
帰無仮説 統計量 5%臨界値 p値
1) ln hpとln pdi
H :r=0 7.838472 15.49471 0.4828 H :r≦1 0.129659 3.841466 0.7188
2) ln hpとln m1
H :r=0 22.61204 25.87211 0.1208 H :r≦1 6.436564 12.51798 0.407
3) ln hpと r
H :r=0 11.57062 15.49471 0.1787 H :r≦1 2.561847 3.841466 0.1095
帰無仮説 統計量 5%臨界値 p値
1) ln hpとln pdi、ln m1
H :r=0 23.4127 29.79707 0.2264 H :r≦1 4.238538 15.49471 0.8834 H :r≦2 0.060364 3.841466 0.8059
2) ln hpとln pdi、r
H :r=0 19.45055 29.79707 0.4609 H :r≦1 3.092612 15.49471 0.9626 H :r≦2 0.279266 3.841466 0.5972