5.2 解析方法
5.2.2 データの切出し
終夜睡眠ポリグラフデータについては、まず、ポリグラフを元に、Rechtschaen&Kales
の基準に従って睡眠段階の判定を行ない、それぞれの睡眠段階より、10分間の区間の心拍 変動時系列データおよび脳波時系列データを切り出した。
また、感覚遮断データについては、アーチファクトや非定常な部分を含まない、同じく
10分間の区間の心拍変動時系列データおよび脳波時系列データを切り出した。
なお、脳波時系列データは、睡眠時の波形との比較のため、Rechtschaen& Kalesのマ ニュアルにて、睡眠ステージのスコアリングの基準とされている電極部位C3のデータを用 いた。
5.2.3
心拍変動時系列データのスペクト ル解析
心拍変動時系列データのFFT法によるスペクトル解析を行い、そのスペクトル構造から 自律神経系の活動について考察、睡眠の各段階・覚醒時との比較を行った。
5.2.4
脳波時系列データのスペクト ル解析とウェブレット 解析
脳波時系列データについては、 -REMs型に特徴的に見られた 波と、-REMs型に特 徴的に見られた持続的な小振幅の波の性質を明らかにするため、スペクトル解析に加え、
瞬間的な周波数成分をとらえることができるウェブレット解析を行ない、周波数成分の時 間変化について検討した。
ウェブレット 解析とスカログラム
ウェブレット解析の基本的な概念は以下の通りである。
関数f(x)のマザー・ウェブレット (x)によるウェブレット変換は次のように定義され る。[66]
W
;f
(b;a)= Z
1
01 1
q
jaj (
x0b
a
)f(x)dx (5:1)
本解析では、脳波時系列中に局在する正弦波を検出することで局所的な周波数を求める ことを目的とするため、マザー・ウェブレットとしてGaborウェブレットを用いることに
(x)= 1
p
2 e
x
2 2
e 0i! x
(5:2)
本解析では、=4とした。
ここで、5.1におけるaは周波数の逆数に対応するパラメータでありその周波数は 1
2 a
と みなせる。またbは時間パラメータである。
ウェブレット変換の値W ;f(b;a)を、bを横軸、1=aを縦軸とする平面にプロットしたの がスカログラムであり、これによって信号中の周波数成分の時間変化を図示することがで きる。
5.3
結果
ポリグラフ的特徴による分類の「 -REMs型」と「-REMs型」の二つの型により心拍 変動ダ イナミクス・脳波ダ イナミクスがそれぞれ異なることが分かった。
5.3.1 -REMs
型
心拍変動時系列
心拍変動時系列のスペクトル解析の結果を図5.2に示す。左上が感覚遮断時、右上が
Stage-REM、左下がStage-1および2、右下がStage3および4から抽出した心拍変動時系列デー タのパワースペクトルである。
まず各睡眠段階においては、睡眠下段左右のStage1・2およびStage3・4、すなわちNREM 睡眠時には、HF帯域の呼吸性洞性不整脈のピークが明確に現れているが、REM睡眠時に はHF帯域のピークはほとんど見られない。
一方、感覚遮断時のスペクトル構造は、HF帯域のピークが明確には見られず、副交感 神経系の活動が交感神経系と比較して優位ではないことを示しており、この点で比較的
Stage-REMと類似していた。
なお、NonVI-Sleep型の例ではタンク中においてもHFのピークが見られることから、こ
のスペクトル構造の特徴は、(フローテーションタンク中の)水面に浮いているという物理 的要因によるものとは考えにくい。
図 5.2: 心拍変動のスペクトル構造の比較
脳波時系列
一方、脳波時系列には10Hz付近の波のピークが見られ、そのスペクトル構造は覚醒時 のそれと類似している(図5.3, 図5.4)。
図 5.3: 脳波のスペクトル構造:睡眠との比較
そこで、各周波数成分の時間変化を明らかにするためにウェブレット解析を行った。図
5.5上段は波が優勢に現れている箇所を10分間抽出した脳波時系列データのスカログラム であり、また下段は、帯域のパワーの時間変化を10Hzに対応するスケールにおけるウェブ レット係数の変動で表したものである。
これによると周波数10Hzに対応するスケールにおけるウェブレット係数の時間変化に は周期性があるように見える。そこでこのウェブレット係数の時系列データに対して自己 相関分析を行った結果が図5.6である。
これによると約 2分間の周期性分が見られる。このような波パワーの周期性は通常の 覚醒安静時には見られなかった。
図 5.4: 脳波のスペクトル構造:覚醒時安静閉眼との比較
図 5.5: 脳波のスカログラムと帯域パワーの時間変化
図 5.6: 帯域パワーの時間変化の自己相関
5.3.2 -REMs
型
心拍変動時系列
心拍変動時系列のスペクトル構造は、-REMs型のそれとほぼ同様の特徴を示していた
(図5.7)。すなわち、感覚遮断時のスペクトル構造は、HF帯域のピークが明確には見られ ず、副交感神経系の活動が交感神経系と比較して優位ではないことを示しており、この点
で比較的Stage-REMと類似していた。
図 5.7: 心拍変動のスペクトル構造
脳波時系列
また脳波のパワースペクトル密度には約7Hzの波のピークが見られ、スペクトル構造 は覚醒安静時・睡眠の各段階のそれと比較してみても、それらのいずれとも類似していな い(図5.8, 図5.9)。
図 5.8: 脳波のスペクトル構造:睡眠との比較
なお、睡眠Stage-1からStage-2入眠時にも帯域の脳波は見られるのだが、それは約4Hz にピークを持つものであり、感覚遮断環境で見られた -REMsで現れる6から7Hzの成分 とは異なる性質のものであると考えられる。
また、各周波数成分のパワーの時間変化を見るためにWavelet解析を行った(図5.10上
段)。また、帯域と6-7Hz付近の波帯域のパワーの時間変化を見るため、それぞれ10Hz、
7Hzに対応するスケールにおけるスコアの変化を示したのが図5.10の中段及び下段である。
それによると、基本的に波が優位であるが時に持続しない波が出現し、それは波と 入れ替わりに現れている。
図 5.9: 脳波のスペクトル構造:覚醒時安静閉眼との比較
図 5.10: ウェブレット解析と帯域・帯域パワーの時間変化
5.4