第 6 章 日本についての分析
3 エネルギー価格
4.1 モデルの推定 4.2 価格弾力性 4.3 生産弾力性 4.4 需要トレンド
5 エネルギー消費原単位の要因分解 6 まとめと考察
参考文献
補論: IEA エネルギーバランス表と EDMC のエネルギーバランス表の差異(日本について)
1 はじめに
1前章では、戦後の日本の経済成長期以降を対象に、エネルギー価格の変化が、産業部門 でのエネルギー需要に与えた影響について分析した。第 5 章で作成した分析枠組みを用い て、日本の製造業の業種別(鉄鋼、化学、紙パ、窯業土石、非鉄、食品、繊維、機械)に、
エネルギー需要関数を推定した。その結果、特にエネルギー多消費産業において、価格上 昇時と価格下降時とでは、価格弾力性が異なり、価格上昇時により大きな影響があること を確認した。一方、エネルギー需要の消費原単位の変化要因を分析したところ、戦後の高 度経済成長期では、価格要因の寄与は小さく、生産規模拡大の効果が大きいことがわかっ た。
以下の分析では、同様の分析枠組みを用いて、日本、韓国、中国の 3 か国のエネルギー
1 本章の内容は、星野 [2014]で報告した。
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多消費産業を対象に実証分析を行う。韓国は、日本に少し遅れて1980年代に高度経済成長 が本格化し、その後OECDに加盟する先進国となった。中国も1990年代以降の改革開放に より、経済成長が本格化し、2010年には世界第2位のGDP規模を持つ巨大な途上国となっ た。これら 3 か国は、ともに東アジアに位置し、輸出主導型経済成長を達成した工業国で あることから、発展段階による違いを見ることができると考えた。日本で観察されたこと が、経済発展段階の異なる、韓国、中国においても観察されるのか、それとも日本固有の 結果であるのかについてみていきたい。
2.エネルギー需要
エネルギー需要データについては、IEA [各年版a] のエネルギーバランス表から、産業部 門の業種別最終エネルギー消費合計を用いた。第6章で用いたEDMC [各年版a] とIEA [各 年版a] とでは、業種によるエネルギー源の分類・集計・熱量換算方法が異なるため、両者 の間で値は一致しない2。例えば、IEA データでは、鉄鋼製造プロセスで投入される原料炭 は、最終エネルギー消費には計上されず、エネルギー転換として計上されている3。
ここでは、日本を含めた国際比較を行うことが目的であるため、共通の定義でまとめら れたデータに準拠することが望ましい。このため、日本については、改めて国際比較が可 能なIEAデータを用いた分析を行った。
データの定義が統一されているという点では、IEAの定義のまま、同データの鉄鋼産業の 最終エネルギー消費の値を用いることで問題ない。しかし、転換部門で産出された副生物 を含む投入エネルギーについて、適当な価格データを得ることが難しいため、代わりに原 料炭の価格で把握できるように、以下の分析では転換部門の原料炭の投入を含めて最終エ ネルギー消費とした4。
図7-1は、以上の定義・分類に基づいて推定した、各業種別・国別の最終エネルギー消費 量の推移をみたものである。
2統計間の違いの詳細については章末の補論に示した。
3具体的には、エネルギー転換の鉄鋼コークス部門において、エネルギー転換の鉄鋼系ガス部門および最終 エネルギー消費部門の投入となるコークスを製造し、副生物であるコークス炉ガス、熱は、電気や蒸気に 転換されて、それらが最終エネルギー消費の鉄鋼産業の投入として計上されている。
4具体的には、鉄鋼産業の最終エネルギー消費量から、コークス、コークス炉ガスと、高炉ガス投入量を差 し引き、代わりに鉄鋼コークス部門での原料炭投入量を加えた。
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図7-2は、図7-1の中国、韓国の業種別最終エネルギー消費量の動きが、日本の戦後のど の時期に符号するかを、第6章で用いた1955年以降の日本のデータと比較したものである。
出所) IEA, Energy Balance データ、EDMC 統計より作成。
図 7-2 経済発展段階と製造業の業種別エネルギー消費量 出所) IEA, Energy Balance データより作成された、星野 [2014]の図 3 より引用。
図 7-1 日中韓の業種別にみた最終エネルギー消費量
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既に述べたように、第6章で用いた日本のデータはIEAデータと異なる点があり注意は 必要であるが、図7-2では、需要動向の大まかな傾向を比較することが目的であるため、よ り長い系列が利用可能であるEDMCデータを参照している。
日本について、これらのエネルギー多消費産業のエネルギー消費量の推移をみると、東 京オリンピックを挟む1960年代から1970年代初頭にかけての高度経済成長期に、鉄鋼、
化学を中心とした需要の急増が確認できる。日本のこの時期に対応するのは、韓国では1988 年のソウルオリンピックを挟む1980年代後半から1990年代前半にかけて、中国では2000 年代以降であることがわかる。
ところで、国際比較にあたっては、同一業種の中での技術の違いにも注意する必要があ る。特に鉄鋼業では、電炉と高炉でのエネルギー原単位の違いを考慮した分析が必要であ る。Oda, Akimoto, Tomoda, Nagashima, Wada, Sano [2012] の分析によれば、鉄1tの生産に 要するエネルギー投入量でみたエネルギー消費原単位は、高炉が32.9 GJであるのに対し、
電炉では10.2 GJと、電炉は高炉の3分の1以下である。この電炉と高炉の比率は、一定で
はなく、国によっても異なる。図7-3は、今回分析対象とする日本、韓国、中国の電炉比率 を比較したものであるが、1990年代後半以降、韓国では電炉比率の上昇が顕著で、2010年 時点で日本の約2倍、中国の約4倍である。
3 エネルギー価格
以下の分析には、エネルギー価格データとして、IEA [各年版b] のEnergy Prices and Taxes 統計のデータを用いた。同統計は欠損値が多いため、そこから得られる範囲のデータをベ ンチマークとして用い、不足する期間については、各国統計及び海外電力調査委員会等の データで補間・延伸推計を行った。中国の天然ガス価格については、IEA [2002, 2012]、 竹 出所:世界鉄鋼協会データより作成
図 7-3 日本・韓国・中国の鉄鋼業における電炉鋼の比率
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原 [2007,2010] のデータをベンチマークとして用いた。
図7-4は、燃料炭、重油、天然ガス、電力のそれぞれについて、産業用の日本、中国、韓 国の名目価格を2005年の米ドル価格で表示したものである。燃料炭、重油については、各 国間で価格差はあるものの幅はそれほど大きくないのに対して、電力については国による 格差が大きい。例えば、韓国の産業用電力価格が低い水準にあることは、先に見た電炉比 率が同国で高いことの一因にもなっていると推察される。以下の分析では、これらエネル ギー源別の価格データを、各業種別の熱量ベースでのエネルギー投入シェアで加重平均し て作成した集計価格を、各国のGDPデフレータで実質化して業種別の実質エネルギー価格 を推計した。分析には、この実質価格を価格上昇時と下降時の 2 種に分割した変数を用い た(付図7-3)。
業種別の生産規模のデータとして、日本についてはEDMC [各年版b] から業種別実質生 産額を用いた。韓国については韓国銀行統計から経済活動別実質GDPを用いた。中国につ いては中国統計年鑑から業種別生産額を同生産価格指数で実質化して用いた。
出所) IEA [各年版 b]をベンチマークに推計された、星野 [2014]の図 3 を引用。なお、同じ定義の エネルギー種別で比較するため,上図の各国データは IEA の同統計が出典である。
図 7-4 日中韓の主要エネルギー源別にみた産業用価格
0 50 100 150 200 250
1980 1985 1990 1995 2000 2005
中国 韓国 日本
燃料炭
2005年US$/石油換算トン
0 200 400 600 800 1000
1980 1985 1990 1995 2000 2005
中国 韓国 日本
重油
2005年US$/石油換算トン
0 100 200 300 400 500 600 700
1980 1985 1990 1995 2000 2005
中国 韓国 日本
天然ガス
2005年US$/石油換算トン
0 500 1000 1500 2000 2500
1980 1985 1990 1995 2000 2005
中国 韓国 日本
電力
2005年US$/石油換算トン