テンソルの縮約について説明する.これがテンソルを学ぶときの最後の関 門です.
テンソルの縮約は,V の要素 v と V∗ の要素 α の定義より定まる演算 α(v)をテンソルの中に組み込んだものです.
V の基底を{ei},その双対基底を {ei}とする.
v ∈ V, α ∈ V∗ に対してα(v) を計算しよう.
v = viei, α = αiei のとき
α(v) = αiei(vjej) = αivi ちなみに最後の式は
Xn i=1
αivi
のことです.
この関係式を見直しましょう.
v ∈ V, α ∈ V∗ からテンソル積v ⊗αを作ると v ⊗α= viαjei ⊗ej
ここでfji = viαj とおく.
v ⊗α= fjiei ⊗ej
この式を用いて α(v) を表すと α(v) = viαi =
Xn i=1
v ⊗α(ei, ei)
すなわち,テンソルの中の反変ベクトルと共変ベクトルを定義にしたがっ て計算することは P
v ⊗α(ei, ei)を示し,これが縮約です.
もう一つ例を挙げます.
u, v ∈ V, α, β ∈ V∗ よりテンソル
u⊗v ⊗α⊗β ∈ V22
をつくり,uと αを計算して新しく得られる α(u)v ⊗β ∈ V11
が縮約です.
成分を計算しましょう.
u = uiei, v =viei, α = αiei, β = βiei のとき
u⊗v ⊗α⊗β =uivjαkβlei ⊗ej ⊗ek ⊗el =fklijei ⊗ej ⊗ek ⊗el 一方
α(u)v ⊗β =uiαivjβlej ⊗el = filijej ⊗el
この例は,縮約の2つのことを意味しています.
(2,2) 型のテンソルfklij ∈ T22 に対して反変の1番の添字と共変の1番目の 添字を等しいとして和をとり新しい (1,1)型のテンソルfilijej⊗el をつくる.
もう一つの見方は
f ∈ V22 より新しいg ∈ V11 を g(α, v) = f(ei, α, ei, v)
によって定義する.
この2つのことが同じであることが分かります.したがって,以下に定義 する2つの定義は同じことです
定義
V をベクトル空間,{ei}を基底,{ei}をその双対基底とする.
p, q は1 5 p 5r,1 5 q 5 sを満たすとする.
(r,s)型テンソル f に対して(r-1,s-1) テンソルg を次のように定義する.
g(α1, . . . αr−1, v1, . . . vs−1)
= f(α1, . . . , αp−1, ei.αp, . . . , αr−1, v1, . . . , vq−1, ei, eq, . . . , vs−1)
この新しいテンソル g をテンソルf の p番目の反変添字と q 番目の共変 添字を縮約したテンソルと呼び新しいテンソルg を
g = contr(p,q)(f) と表す.
さらに,テンソル f のi 番目の反変成分と p番目の共変成分,j 番目の反 変成分とと q 番目の共変成分を縮約するとき
contr(ij,pq)(f) と表す.
ただ前後からどこを縮約したことが明らかなことが多く,さらに煩雑にな るので縮約の場所の (i, p) を省略する場合が多い.すなわち
g = contr(f)
と表すことが多い.
縮約をテンソルの成分を用いて定義すると次のようになる.
定義
ベクトル空間V の基底{ei}による成分が fji1...ir
1...js である(r,s)型テンソル f に対して,p番目の反変成分と q番目の共変成分を等しいとして和をとっ て得られる (r-1,s-1) 型テンソル g すなわち
gji1...ip−1ip+1...ir
1...jq−1iq+1...jr = fji1...ip−1kip+1...ir
1...jq−1kiq+1...jr
で得られるテンソル g をテンソルf の p番目の反変成分と q 番目の共変 成分を縮約したテンソルと呼ぶ.新しいテンソルg を
g = contr(p,q)(f) と表す.
テンソルの積をとりその後縮約をすることはよく行われる.
たとえばf を (2,2)型のテンソルとする.
u = uiei, v =viei, α = αiei, β = βiei のとき
f(α, β, u, v) = fklijαiβjukvl
であるが,これは積をとって縮約したもの,すなわち, 積をとり (4,4) 型 のテンソル
f ⊗α⊗β ⊗u⊗v を作り
contr(1234,3412)f ⊗α⊗β ⊗u⊗v と縮約したものである.
最後に,ベクトル空間V の線型変換 f を考えよう.
線型変換 f : V −→ V
は(1,1) 型テンソルである.
すでに述べたが,
F : V∗ ×V −→R を
F(α, v) = α(f(v)) で定義する.
V の基底を{ei}としてF の縮約を求めると contr(F) = F(ei, ei) = eif(ei) = fii
この値は,行列で表せば対角成分の和になるわけであるが,線型変換f の この値は f の不変量である.すなわちこの値は座標の取り方によらない値