――アジアの事例を中心に P h o t o J o u r n a l
家庭菜園で葉物野菜の苗代を 準備するプロジェクトの受益者
(スリランカの収入創出プロジェクト)。
33
■
栄養改善のための学校菜園プロジェクト
――スリランカ
西部のコロンボ地区で
2005
年に実施。生 徒の栄養と健康の改善を図るため、2
学区 の11
校に、学校菜園や適切な食料技術を 導入した。■
食料安全保障改善と収入創出プロジェクト
――スリランカ
2007
年、マタラ地区のニルワラ河流域にあ るPalatuwa
村およびSulthanagoda
村で 実施。ヤムイモや根茎類の増産と住民の栄 万円を本部に送っています。プロジェクトは
1
件につき1
万ドルを上限と し、資金の金額が種子、農機具、最初の 家畜、農業資材などの資材に当てられ、運 営費用には用いられていません。開発途上国の政府や自治体、
NGO
など がプロジェクト実施案を策定し、実施のため の資金援助をFAO
本部に要請します。FAO
の審査で承認されたプロジェクトにこの資金 が支給されます。これまでにアフリカを中心 に130
ヵ国で3,236
のプロジェクトが行われ ています。本稿では、アジア各国での事例を 紹介します。プロジェクトを通じて提供され た栄養価の高いオートミールの 給食を楽しむ子どもたち(スリラ ンカの学校菜園プロジェクト)。
プロジェクトが導入した移動式の屋台で新鮮な野菜と果物を販売する女性農業者(スリランカの収入創出プロジェクト)。
左:養殖したフエダイ。中:養殖用の生簀。右:受益者の女性たち(すべてベトナム)。 テレフード・プロジェクト
地域 国 件
アジア・太平洋 32 610 ヨーロッパ 10 151 中東・北アフリカ 12 262
アフリカ 43 1461
ラテンアメリカ・
カリブ 33 751
複数地域 1
計 130 3236
34AUTUMN 2011
左:野菜栽培の実践圃場。上:
農業学習センターでのプロジェ クト完了式典。下:養鶏の実 践(すべてタイ)。
養改善を目指し、有機農法ワークショップの 開催や、農具、肥料の提供を行った。
■
貧困世帯の小規模汽水域養殖
――ベトナム
中部のトウアティエンフエ省で
2009
年に実 施。12
戸の貧困漁家の女性を対象に、小 規模な汽水域養殖を支援し、生計の向上を 図った。2009
年のフエダイの生産は、1
戸 平均145.7kg
の生産を記録し、584
ドルの 収入を上げた。そのうち451
ドルはコミュニ ティの基金に積み立て次期の生産に使用さ れた。2010
年も女性たちの意欲的な取り組 みにより生産を上げ、女性の家庭内での地 位向上につながっている。■
農村青年組織による養豚プロジェクト
――フィリピン
セブ島セブ州で
2005
年6
月に実施。20
人 の若者を組織化し養豚事業を開始した。80
頭の子豚と専用飼料および医薬品を供与し、農業省獣医師による肥育管理のトレーニン
グを実施した。若者の雇用を確保するととも に、やる気を引き出すことで社会からのドロッ プアウトを防ぐ効果が期待されている。
■
マッドクラブ養殖プロジェクト
――フィリピン
ミンダナオ島で
2006
年5
月に実施。マング ローブ林において環境に優しいマッドクラブ(泥蟹)養殖を導入し、受益者である
31
漁 家の生計を向上させた。■
山岳部族農民の生計改善プロジェクト
――タイ
北部のナン州で
2010
2011
年に実施。焼 き畑などの移動耕作を行っている山岳部族 農家50
戸を対象に、集約的な農業、家畜 肥育等の学習および実践を行い、定住農業 への移行と収入確保を図る。農業学習セン ターでの実践に使用するイネや野菜の種子 あるいは苗、1,000
羽の鶏のヒナ、有機肥料、鶏用医薬品を供与した。
左:当初の計画では想定して いなかった人工授精の技術。
右:子豚と受益者の女性(すべ てフィリピンの養豚プロジェクト)。
P h o t o J o u r n a l
T e l e F o o d
上:養殖池の整備を行うコミュ ニティーメンバー。下:マング ローブ林の中の池と泥蟹(すべて フィリピンのマッドクラブ養殖プロジェク ト)。
35AUTUMN 2011
を強いられている様子や、驚くほどの貧 富の差を目の当たりにし、国際機関で自 分なりの貢献をしてみたいと考えるように なりました。
■
現在勤務している広報渉外局(
Office of Corporate Communications and External Re-lations, OCE
)は、2010
年に組織改革の 一環として設立されました。主な仕事は、農林水産業の問題や飢餓・食料問題 にとっての食品安全問題が注目を浴び
ていた時期でしたので、食料問題につ いての興味が培われました。その後、
ジャーナリスト経験を活かせる企業広報 に転職するため、欧州の大学院で経営 学を学び、夫の転勤に伴いドバイ首長 国連邦(
UAE
)に移って、現地の政府 系ファンドや投資会社で広報を担当しま した。ドバイでの数年間に、途上国出 身の低賃金移民労働者が厳しい生活同僚と仕事をする筆者(手前)。
私と
FAO
との出会いは2010
年春に日 本で行われた採用ミッションでした。FAO
の仕事について勉強し、食料問 題という、今後の世界の地理政治に大 きな影響を与える課題について関心が 膨らみました。その後、外務省のAPO
※に選ばれ、
FAO
に派遣されることになり ました。■
FAO
は農林水産分野や国際開発のエキスパートが職員の大多数を占める専 門家集団です。一方、財務、人事、
管理業務などのサポート部門でも多くの スタッフがプロフェッショナルとして活躍 しています。
■
私は大学で総合政策学を勉強した後、
日本のテレビ局経済部の記者としてキャ リアをスタートしました。狂牛病や鳥イン フルエンザが発生し、生産者、消費者
F A O で 活躍す る 日本人
国連で働く︑とは
?
No. 25
FAO
広報渉外局コミュニケーションデザイン部 広報担当官
ヴォーン・
山下 亜仁香
36AUTUMN 2011
熱的に取り組んでいます。広報渉外局 の少数派アジア人スタッフとして、学生 や
NGO
などを巻き込み、特にアジア 太平洋地域で飢餓問題の認知を高め たいので、とてもやりがいがあります。■
民間企業から転職して感じるのは、国 連が子どもを持つ職員にやさしい環境だ ということです。私の上司もワーキングマ
ザーで家庭と仕事の両立に理解があり、
FAO
も改革の一環としてジェンダーバラ ンスを掲げていますので、ますます女 性にとって働きやすい職場になるのでは ないでしょうか。日本のコミュニケーション 上手な若い方に、もっとFAO
や食料農 業問題の仕事に関心を持ってもらえるよ うに頑張りたいです。について、広報出版やメディア対応を 通じて
FAO
のブランドイメージを強化す ること、また他の国際機関やNGO
、 関係機関との円滑な関係を構築するこ とです。特に近年はソーシャルメディア の発展により、従来のようにマスコミ向け だけの広報だけではFAO
のメッセージ が伝わりきらなくなっている面もあり、当 局ではFAO
の広報のあ り方を模索しています。私が所属してい るコミュニケーションデザイン部(Commu-nication and Design Branch, OCER
)では、ソーシャルメディア以外にも
FAO
の広報 資料、世界食料デーなどのイベントに使 う広告、ウェブサイトに載せるビデオや 記事の準備、専属カメラマンが撮影し た写真の管理に加えて、FAO
内部で のコミュニケーションや、FAO
グッズを 販売するブランドショップ(本部1
階)の経 営などを担当しています。私は主に出 版物の原稿執筆や校正、プロジェクトの コーディネートを行っています。一般企 業の広報と違って公用語への翻訳が必 要なので、表現や地理、文化に配慮し た写真選びなど、細かい神経と多国籍 チームで働けるバランス力が要求されま す。■
こうした広報活動の一環として、
FAO
では
2010
年より広く一般市民、とくに若 い人たちを意識した「1billionhungry project
」という啓蒙活動を行っています。今 年
5
月にはキャンペーンの第二弾「
EndingHunger
」がスタートし、7
ヵ国 語のウェブサイトを運営しています。この 仕事は組織的な枠組みを超えてさまざ まな実験的なプロジェクトができるので 非常に面白く、アクティブなチームで情コ ミ ュニ ケ ー ショ ン の 力 を 生 か し て “ ”
※ Associate Professional Officer。国際機関にお ける正規職員となるために、一定期間、必要な知識・
経験を積む機会を提供する外務省の制度。
www.mofa-irc.go.jp/boshu/jpo_haken.htm
ローマ本部の建物に張り出された飢餓撲滅キャンペーンの巨大ポスター(2010年春)。
関連ウェブサイト FAO:www.fao.org
「EndingHunger」のウェブサイト。
www.endinghunger.org
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