前 章 まで ダ ム の堆 砂 の 問題 を検 討 して きた が,ダ ム は寿命 が あ り,堆 砂 で 埋 まった ダ ム は放 棄 せ ざ る を得 ず,無 用 の 長物 とな る。 今 後 ダ ム を どん どん 造 るの で な く,我 が 国 も米 国 の よ うに ダ ム は造 らな い とい う方 針 に転 換 す べ
きで あ る。 ダ ム の建 設 適 地 は も うほ とん どな い と言 わ れ て い る
。 そ れ を あ え て造 れ ば危 険 な災 害 を引 き起 こ しや す い,住 民 に よ り大 きな迷 惑 を及 ぼ す地 域 を ダ ム サ イ トに選 ば ざ る を得 な くな ろ う。
今 後 の対 策 と して既 存 の ダ ム の寿 命 をで きるだ け長 くす る 方法 を講 ず べ き で あ る。 貯 水 池 流域 に植 樹 す る こ とが 大 切 で あ る。 また 流入 した 堆砂 は効 率 的 な排 出 技術 を駆 使 すべ きで あ る。 そ して で きるだ け排 出 され た土 砂 は建 築 材 料 として活 用 す べ きで あ る。 また,排 出 され た 土砂 はや せ細 る下 流 域 の河 床 や堤 防 の強 化 に な る よ う に用 い,海 岸 の消 失 防 止 に も役 立 た せ るべ きで あ
る。 結 局 これ らは大 自然 の循 環 の摂 理 に従 う こ とに他 な らな い の で あ る
。 上 述 した こ とは,中 国 の場 合,特 に三 峡 ダ ム の場 合 に もあ て は まる こ とで
長 江 三 峡 と三 峡 ダ ム93
あ る。長 江 の船 旅 で は船 の 中で 長 江 の黄 濁 した河 水 を濾 過 して使 うの で あ る が,そ れ で も コ ップ の底 に泥 は溜 ま る。 それ 程 の 土砂 の 量 で あ る。 青蔵 高 原 の 山地 か ら流 出 す る物 凄 い土 砂 の量 は,三 峡 ダ ム が で きた ら完 全 に堰 止 め ら れ るだ ろ う。 現 在 の葛 洲 煽 ダ ム は規 模 が 小 さ いが,も うそ こに堆砂 が 進 んで い る。 三 峡 ダム は これ を決 定 的 にす るに違 い な い。 ダ ム が な けれ ば,こ の土 砂 は 中,下 流 へ と押 し流 され て適 度 な堆 積 を続 け てか え っ て肥 沃 な農 地 の 形 成 に役 立 つ の で あ る。
さ らに,ダ ム貯 水 池 が で きた らそ の排 出 は な くな り,貯 水 池上 流域 の特 に 重 慶 が い ち早 く この 堆積 の 影響 を受 け るで あ ろ う。 この ダ ム の貯 水 量 は巨大 で あ るか ら,我 が 国 の ダ ム の例 の よ う に堆 積 率50%ま で埋 没 す る こ とはか な り先 で あ ろ う。 しか し,現 在 で も大洪 水 が 来 る と堆 積 の影 響 を受 けや す い重 慶 は もっ と早 く被 害 を受 け る恐 れ が高 い。 そ こで は,土 砂 を排 出 す る方法 が 極 め て難 しい。 ダ ム の排 出 口か ら押 し流 す とい う方 法 は な く,機 械 力 で土 砂
を汲 み上 げて も膨 大 な量 の た め捨 て場 が な い。
重 慶 の 当局 は,ダ ム が完 成 した ら1万 トン級 の 船 も遡 っ て航 行 で き るた め 船 運 の便 が よ くな る と期 待 して い るが,事 態 はそ の逆 で,港 の維 持 ・管 理 に この人 口1400万 人 の町 は大 変 な財 政 負担 を余 儀 な くされ る こ とに な り,し か も それ で も根 本 的 解 決 に は な らな い とい う結 末 に な らな い だ ろ うか 。
この よ うに三 峡 ダ ム に は多 くの疑 問 が あ り未 解 決 の ま まで あ る。 それ は実 験 しつ つ事 業 を進 め る とい う こ とで あ るが,こ れ は原 子 力 発 電 の ス タ ー トを
した場 合 と共 通 して い る ものが あ る。 原 子 力 発 電 も未 知 の技 術 分 野 を残 し未 解 決 問題 をか か えた ま まス ター トして し まった 。 それ が核 廃 棄物 の処 理 で あ り,発 電所 の安 全性 の問題 で あ るが,未 だ に解 決 の 目処 が た って い な い の で あ る。 しか し,原 子 力発 電 の場 合 と異 な る点 はi三 峡 の場 合 はか けが えの な い 自然 と環 境 生 態 が 失 わ れ る とい う こ とだ けが 確 かで あ りなが ら,得 る もの が 不確 実 だ とい う こ とで あ ろ う。
三 峡 ダ ム は,壮 大 な ダム工 事 と環 塊 改 造 とい う,本 来 な ら実 験 が 完 了 して 94国 際経営論集No.121997
か ら着 工 す べ き もの だ が,そ れ を待 た ず実 験 作 業 は ス タ ー トして しまっ た。
中 国 人 は 自然 と順 応 し調 和 して生 きる とい う東 洋 思 想 の生 み の 親 で あ るが , 今 回 の ダ ム工 事 に よ っ て 自然 に戦 い をい どみ,本 格 的 な 自然 の大 改造 をす る
とい う危 険 な賭 け に踏 み 出 した,と りか え しの つ か な い事 態 に見 舞 わ れ な い とい う保 障 は得 られ な い ま ま。 なお ,我 が 国 の あ る環 境 保 護 論 者 の 中 で も, 中 国 の石 炭 消費 が 生 み出 す 二 酸 化 炭 素 の公 害 を な くす た め,ク リー ンな水 力 発 電 が よ く・ 三 峡 ダ ム の畷 を積 極 的 に推 進 す べ きだ と説 く者 が い45)
.こ れ は一 見.̲..保 護 論 の よ うで あ るが,石 炭 問題 だ け を考 えて三 峡 ダ ム建 設 を進 め よ う とい う短 絡 的 な主 張 で あ っ て,こ の ダ ム の もつ 多 くのマ イ ナ ス要 因 へ の 配慮 を しな い論 議 と言 わ な けれ ば な らな い。
注
1)ダ ム の種 類 と して は,材 料 が コ ン ク リー トの もの を コ ン ク リー トダム,土 や 岩 石 を盛 り立 て る もの を ロ ッ ク ヒル ダ ム(ア ー ス ダム も この タ イ プ)と 大 別 す る。
前者 に は重 力 ダ ム とアー チ ダ ム とバ ッ トレ ス ダ ム な どが あ る。 重 力 ダ ム は, コ ン ク リー トの重 量 で 水 圧 を支 え る もの で
,一 番 数 多 く見 られ る タ イ プ で あ る。 我 が 国 の佐 久 問 ダ ム,小 河 内 ダム が 代 表 的 で あ る。
アー チ ダム は上 か ら見 る とア ー チ型 に見 え る ダ ムで
,水 圧 を下 方 の岩 盤 や堤 防 の両 側 の岩 盤 に伝 え て支 え る もの で あ る。薄 くで きるの で コ ンク リー トを半 分 以 下 に減 らす こ とが で き る。 我 が 国 の 黒 部 ダ ム,奈 川 渡 ダ ム が そ の 例 で あ る。
ロ ック ヒル ダム は近 年 多 く造 られ て い るが,岩 屋 ダム,御 母 衣 ダ ム,野 反 ダ ム が そ の例 で あ る。既 存 ダ ム の 内 訳 は,ア ー ス ダ ム63%,重 力 式 コ ン ク リー ト
ダム29%,ロ ック ヒル ダ ム4%,ア ー チ ダム2% ,バ ッ トレス ダ ム1%で あ る (関東 弁護 士会 連 合 会 「水 資 源 の今 日的課 題 一 ダム を検 討 す る一」p .62)。
2)戴 晴 編 「三 峡 ダ ム ー建 設 の 是 非 を め ぐっ て の論 争 一 」 築 地 書 館
,p.89。
総 事 業 費 に つ い て の戴 晴編 の 同 書 の 資 料 は古 い と思 わ れ る。1996年8月23日
長 江 三 峡 と三 峡 ダム95
電 気 新 聞 に よ る と,総 工 費 は900億 元(約1兆1700億 円)と み て い るが,将 来 の 金利 や イ ンフ レを加 味 す る と,総 工 費 は2500億 元(約3兆2500億 円)に 及 ぶ と す る試 算 もあ る。
3)高 橋 裕 監 修r長 江 水 利 史 」 古 今 書 院 。 4)高 橋 裕 監 修,前 掲 書,pp.220‑223。
5)同 上 書,p.261。
6)同 上 書,p.261。
7)同 上 書,p.224。
8)伊 藤 安 男 編 著 「変 容 す る 輪 中 」 古 今 書 院,p.2。
9)戴 晴,前 掲 書,p.382。
10)同 上 書,pp.338‑353。
11)関 東 弁 護 士 会 連 合 会 「水 資 源 の 今 日 的 課 題 一 ダ ム の 建 設 を 検 証 す る 一 」p.
9p
l2)公 共事 業 チ ェ ック機 構 を実 現 す る議 員 の会 編 「ア メ リカ は なぜ ダ ム 開 発 を や め た の か」 築 地 書 館,p.23。
ゆ り 揃 捌 恥 捌 動 鋤 ⑳ 鋤 謝 鋤 胴 鮒 ⑳ 謝 鋤
96
関 東 弁 護 士 会 連 合 会,前 掲 書,p.82。
高 橋 正 立 ・石 田 紀 郎 「環 境 学 を 学 ぶ 人 の た め に 」 世 界 思 想 社,P・86。
同 上 書,pp.86‑89。
関 東 弁 護 士 会 連 合 会,前 掲 書,p.84。
同 上 書,p.84。
森 薫 樹 ・永 井 大 介 「日 本 の ダ ム 開 発 」 三 一 書 房,p.140。
同 上 書,p.40。
同 上 書,p.40。
同 上 書,p.41。
同 上 書,p.42。
戴 晴,前 掲 書,p.300。
森 薫 樹 他,前 掲 書,p.263。
同 上 書,P‑264。
ブ レ ッ ド ・ ピ ア ス 「ダ ム は ム ダ 」 共 同 通 信 社,p.256。
森 薫 樹 他,前 掲 書,p.264。
ブ レ ッ ド ・ ピ ア ス,前 掲 書}p.257。
同 上 書,p.269。
国 際 経 営 論 集No.121997
鋤 鋤 鋤 謝 鋤 謝 謝 鋤 謝 鋤 ⑩ 鋤 姻 ⑧ 卿 ㈲
戴 晴,前 掲 書,p.386。
同 上 書,pp.138‑143。
ブ レ ッ ド ・ ピ ア ス,前 掲 書,pp .136‑144。
同 上 書,p.258。
同 上 書,p.258。
同 上 ・書,P.259。
同 上 書,p‑260。
森 薫 樹 他,前 掲 書,p.213。
同 上 書,p.218。
同 上 書,p.155。
同 上 書,p.70。
同 上 書,p.83。
関 東 弁 護 士 会 連 合 会,前 掲 書,p.113。
同 上 書,p.114。
同 上 書,p.115。
文 藝 春 秋 編 「大 中 国 は ど う な る 」 文 藝 春 秋 ,p.184。
参 考 文 献
以 下 は本 稿 を書 くに当 た っ て参 考 に した 主 な文 献 で あ る。
三 峡 ダム の問 題 は環 境 問 題 の一 環 と して と らえ られ るべ き もの で あ るか ら ,環 境 学 と環 境 法 とい う全 般 的 な分 野 の参 考 文 献 が ダ ム 問題 理 解 の 前 提 と して 参 照
され る こ とが望 ま しい。そ れ か ら中国 の環境 問 題 と三 峡 ダ ム の 問題 に関 す る文 献 が割 と少 な い。
な お,三 峡 問 題 に 関 す る新 聞 記事 は,朝 日,毎 日,読 売,日 経 の四 大 新 聞 に は 相 当数 見受 け られ た が,こ こに は掲 げな い。雑 誌 関 係 に は三 峡 ダム の 記 事 は ほ と
ん ど見 受 け られ な か った こ とを付 記 して お く。
戴 晴 編 鷲 見一 夫 他 一 名訳 「三 峡 ダ ム ー建 設 の是 非 を め ぐっ て の論 争 一」築 地 書 館(1996)
長 江 流域 規 画 弁 公 室 編,高 橋 裕 監 修,鈴 木 孝 治 訳 「長 江 水 利 史 」古 今 書 院(1992) バ ー ツ ラ フ・シ ュ ミル 著 ,舟 藤 佳 紀 ・高 井 潔 司訳 「中 国 の 環境 危機 」亜 紀 書 房(1996) 文 藝 春 秋 編 「大 中 国 は ど うな る」 文 藝 春 秋(1996)
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