2.5 転記テキストで用いるタグ
2.5.1 タグ (F)
本タグは,感動詞(2.3.2.6節参照)のうち,以下のものに対して付与する。このうち応答表現は,対話に対 してのみ付与し,CSJの大半を占める独話には付与しない。理由については後述する。
例 対象
フィラー(場繋ぎ的な表現) あの,そのー,えっとー,うんとー,あー,んー,あのですね 全講演 感情表出系感動詞 あ(っ),あら(っ),うわわ(っ),おー,わー 全講演 応答表現 はい,ええ,うん,ああ,おお,ううん,いえ,いいえ,いや 対話のみ
それぞれの説明に入る前に,なぜこれらに対してタグを付与したのか,またなぜこれらに対して同一のタグ を付与したのかについて,簡単に述べておきたい。
フィラーや感情表出系感動詞にタグを付与する理由として,転記テキストの可読性の問題と,自動形態素解 析の精度の問題を挙げることができる。フィラーや感情表出系感動詞には,「あ」「え」「ん」などの短い表現が 多く,また特にフィラーは,「法則式 イー を」や「多次元項目 エー 反応モデル」のように,文節や単語の途中 に発話されることも少なくない。そのためこれらの表現を何のタグも付与せずに記すと,転記テキストの可読 性を著しく落とすだけでなく,自動解析の精度を落とすことにもなる。話し言葉に頻出する「うわー」や「あ れっ」などの多種多様な感情表出系感動詞も,やはり可読性と解析精度を落とす要因の一つとなる。以上が,
フィラーや感情表出系感動詞にタグを付与する最大の理由であるが,このようにタグを付与することによっ て,フィラーなどを簡単に検索できるという研究上の利便性も,副次的な目的として挙げることができる。両 者に対して同じタグを付与するのは,実際の作業において,フィラーか感情表出系感動詞かの区別が付かない ケースが少なくないためである。例えば,「これが アー 解答なんだと思って」といった場合の「アー」は,音 調によっては,場を繋ぐためのフィラーなのか,感嘆を表現する感動詞なのかを区別することが難しいことが ある。そこで,無理に区別せずに,同じタグを付与することとした。
一方,応答表現や挨拶表現などの感動詞は,基本的に表現も固定され,また出現頻度も少ないため,転記テ キストの可読性や解析精度を下げることは殆どないと判断し,原則として本タグの対象外とした。ただし対話 では,応答表現が相手の発話に対する相槌として極めて頻繁に発話され,転記テキストの可読性を落とす要因 となったため,対話に限定して応答表現にもタグを付与することとした。同じタグにしたのは,先と同様の理 由で,応答表現とフィラー・感情表出系感動詞との区別が難しかったためである。例えば,「ンー そうですね」
といった場合,この「ンー」が,場を繋ぐためのフィラーなのか,ためらいの感情表出系感動詞なのか,相手 に同意を表わす応答表現なのか,相手に対する相槌なのかを区別することは難しい,といった問題である。
勿論,研究上の利便性を考えるならば,三者を区別できるよう,別のタグを付与するに越したことはない。
しかしCSJの構築を開始する時点では,これら話し言葉に特有の表現に関する知見は殆どなく,またそれを 調べるためのデータや時間も十分にはなかったため,このような基準で転記作業を開始することとなった。転 記作業がある程度進み,検討材料が揃った段階で,改めて基準を見直すことも不可能ではなかったが,過去に 遡ってその基準を適用するには,これらの表現はあまりにも数が膨大であり,実現は極めて難しいものであっ た。また実際,対話の応答表現に何らかのタグを付与すべきと判断した時点では,本タグとは異なるタグを想 定しており,かなり検討を行なったが,結局理論的な問題にぶつかり区別を諦めたという経緯がある。このよ うに,作業上の問題から理論的な問題に至るまで,さまざまな要因が絡み,結果として三者に対し同一のタグ を付与するという,CSJの利用者に不便を強いる仕様となった。この点については今後の課題としたい。
2.5.1.1 フィラー
フィラーとは,言い淀み時などに出現する場繋ぎ的な表現のことである。
これは そのー 重要な問題なので あのー 今回の おー 議論でも ん 大きく取り上げたいと思います
語を以下のように限定し,その範囲内で場繋ぎ機能を有する場合に付与する(2.3.2.6節の「フィラー」の項 も参照)。
フィラー表現
基本表現:
あ(ー),い(ー),う(ー),え(ー),お(ー),ん(ー),と(ー)*,ま(ー)*, う(ー)ん,あ(ー)(ん)(ー)の(ー)*,そ(ー)(ん)(ー)の(ー)*,
う(ー)ん(ー)(っ)と(ー)*,あ(ー)(っ)と(ー)*,え(ー)(っ)と(ー)*,ん(ー)(っ)と(ー)* 組み合わせ:
上記基本表現 + 「〜ですね(ー)」「〜っすね(ー)」 [例]あのですね,えーとっすねー *印の基本表現 + 「〜ね(ー)」「〜さ(ー)」 [例]まーねー,うーんとさー
※ 括弧内は任意 [例]あの,あのー,あーの,あんのー,あーんのー,あのですね,あーのですねー
本タグは,語と機能の両条件を満たした場合に付与する。そのため以下の場合は本タグの対象とはならない。
• 上記以外の表現については,たとえ場繋ぎ機能を有していたとしても,本タグを付与することはしない。
例えば「それは つまり あの つまり えっと…」のように言い淀んでいる場合の「つまり」は,場合によっ ては場繋ぎ機能を有していると見なすことができるかもしれないが,仮にそのような機能があったとして も,「つまり」に本タグを付与することはしない。
• 上記表現であっても,場繋ぎ機能を有さない場合には,やはり本タグの対象とはしない。例えば「アノー」
という発話があった場合に,それが場繋ぎ機能を有する場合には本タグを付与するが,それ以外の場合
(例えば連体詞の場合)には付与しない。以下の例に示すように,タグの有無だけでなく,その表記も異 なることがあるため注意する必要がある。
フィラーの場合: (Fあのー) & (Fアノー)
連体詞の場合 : あの & アノ<H> … タグ(F)を付与しない。母音の引き延ばしの扱いにも注意。
なお場繋ぎ機能を有するか否か(本タグを付与するか否か)で迷う場合の対処法については後述する。
本タグ内での母音や子音の引き延ばしの扱いについては,2.3.2.6節の「フィラー」の項を参照されたい。
フィラーの言い淀みについては,それがフィラーであることが明らかである場合に限り,以下のようにタグ (W)を用いて表現する。
(Fあのー) & (F (Wアウノー;アノー)) , (Fま)(Fあのー) & (Wマノー;(Fマ)(Fアノー))
フィラーが複数連続して出現する場合,まとめることはせず,括弧は括り直す。
(Fえっと)(Fあの)(Fんー) ×(Fえっとあのんー)
「えーっ<ポーズ>とー」や「んっ<ポーズ>と」などは,「えーっとー」全体で一つのフィラーとするか,「えー」
と「とー」の二つのフィラーに分けるかで迷うことがあるが,これらの区別は難しいため,音調やポーズ長 にかかわらず,一律一つのフィラーと見なす。ポーズが0.2秒を超える場合は,タグ<P>を利用してポーズ 区間を記す(タグ<P>の詳細は2.5.19節参照)。
0026 00056.170-00059.115 L: … × 0026 00056.170-00056.617 L:
(Fえーっとー) & (Fエーッ<P:00056.617-00058.549>トー) (Fえー) & (Fエー)
0027 00061.432-00062.762 L: 0027 00058.549-00059.115 L:
魚とか & サカナトカ (Fとー) & (Fトー)
0028 00061.432-00062.762 L:
フィラーか否か(本タグを付与するか否か)で迷うことも多い。典型的なケースを取り上げ,その扱いにつ いて簡単に触れる。
a)フィラーか連体詞かで迷う場合
「あの(ー)」,「その(ー)」については,フィラーか連体詞かで迷うことが多い。文脈や音調から判断が 付かない場合には,フィラーとした上で,迷った旨をコメントする(コメントについては2.1.2節参照)。
(Fその) & (Fソノ)
%TYPE=OFIL フィラー「その」連体詞と迷う
ゲストに & ゲストニ
聞く訳ですね & キクワケデスネ
b)フィラーか語断片かで迷う場合
「あ」「え」「ん」等の短い音は,フィラーか後述の語の断片(タグ(D)の付与対象)かで迷うことが多 い。この場合の判断基準については2.5.2節を参照されたい。
c)フィラーか接続詞・接続助詞・格助詞かで迷う場合
「と」については,フィラーか,接続詞・接続助詞・格助詞かで迷うことが多い。「X(前文脈) + と
+ Y(後文脈)」とあった場合に,XとYの関係が以下の条件のいずれも満たさない場合に限り,フィ ラーと見なす。
1. XとYが並立関係にある場合(「それと」に置換可能な場合) ⇒ 格助詞・接続詞
(語と語を接続する場合は格助詞,それ以外は接続詞)
2. XとYに因果関係がある場合(「(そう)すると」に置換可能な場合) ⇒ 接続助詞・接続詞
(文法的・韻律的にXと繋がる場合は接続助詞,それ以外は接続詞)
3. Xを引用的に受けてYに続くと考えられる場合 ⇒ 格助詞 d)フィラーか副詞かで迷う場合
実際の発話において,音調や文脈などから,フィラーや感情表出系感動詞の「まー/まあ」と,副詞の
「まあ」とを区別することは極めて難しい。そこで副詞の「まあ」は一切立てずに全て本タグを付与し,
表記も「まー」に統一することとした。しかし「まあまあ」については,文脈や音調から両者を区別す ることが比較的容易であるため,統一せずに副詞も立てることとした。原則として,以下のいずれかの 条件を満たす場合は副詞,それ以外はフィラーとする。