• 検索結果がありません。

第  6  章

6.3  CTOの役割に関するディスカッション

  今回のアンケート調査は、イノベーション・マネジメントに関するCTOの役割 について、また市場や今後のイノベーションの進め方についてを主たるテーマとし て実施した。この種調査は既にいくつかの組織で行われているものであるが、特に アーサー・D・リトル社が行った世界的リーディングカンパニーに対するイノベー ションに関する調査が有名である。そこで、アーサー・D・リトル社が行った調査 との対比でディスカッションすることとする。

 

6.3.1 アーサー・D・リトル社( ADL )の調査

 

1997

年に実施された調査で、調査の内容は、大別して下記

4

項目で構成されて いる。

(1)  企業戦略の焦点はどの程度イノベーションにシフトしているか?

(2)  イノベーションから価値を創造する上での大きな阻害要因は何か?

(3)  イノベーションからビジネス価値を引き出す上で鍵となる成功要因       は何か?

(4)  今日の主要企業はどれほどイノベーションの成果を正しく評価して       いるか?

    このうち、私が実施したアンケート調査と関係する項目は、直接的ではないが、

(2)、並びに(3)である。

6.3.2  ADLとの比較ディスカッション

  ADLの調査によると、(2)のイノベーションから価値を創造する上での大き な阻害要因については、グローバルレベルでは、「新アイデアに関する適切な判断 を下すために必要な情報と知見の獲得」並びに「イノベーション活動と企業戦略と の整合性の確保」との回答が最も高い。この回答は、「イノベーション活動からの 価値創造におけるもっとも大きな障害は、イノベーション戦略と企業戦略の整合性 をとることの困難性と、効率的なイノベーション・プロセスを確立することの困難 性である。」と解釈される。

  これに比較して、私が実施したアンケートの回答結果では、CTOの役割として 技術戦略と経営戦略の整合性確保を一番に上げているので、ADLの回答結果と表 裏一体をなしているように感じられる。しかしながら、CTOの役割として、研究 開発プロセスの管理については評価が低い点は、ADLの結果と相容れないところ がある。イノベーションに先立つ緊急課題についてのアンケート調査についても、

研究テーマの絞込みによる研究開発費の抑圧や既存商品に対する競争優位性の確 保をうたっているので、効率的イノベーション・プロセスを確立することについて、

重要と考えていないのではと判断され、ADLの調査結果と合致しない。

  これは、長年日本はプロセス・イノベーションを実施してきた自負心など微妙に 関係しているからと思われる。

  次に(3)イノベーションからビジネス価値を引き出す上で鍵となる成功要因は 何か?については、ADLの調査では次の

6

つの鍵となる成功要因が指摘されてい る。

  ■  明確なトップマネジメントのサポートとコミットメント   ■  CTOの明確な役割と権限

  ■  スキルのあるリーダーとマネージャー

  ■  マーケティング部門とテクノロジー部門の関係が密であること   ■  シームレスな、価値指向のイノベーション・プロセス

  ■  ビジョンを策定しアイデアを創出するプロセス

  これに対し、私の実施したアンケート調査では、CTOの課題に関する調査で、

コア・コンピタンスの維持・発展、並びに他社との協業、共同開発に対する指導的 役割が強く期待されているので、明確なトップマネジメントのサポートとコミット メントに符合している。

  また、市場・顧客ニーズに対応した研究開発体制に関する調査では、技術開発領 域と市場・顧客ニーズの整合化や、R&D部門と事業部との人材交流、更には顧客 との交流を活発化すべきとしている。これらはマーケティング部門とテクノロジー 部門の関係が密であることに符合していると言える。しかし、質問の設定に問題が あった点も否めないが、イノベーション・プロセスに関わる問題点が指摘されてい ないのは、ADLの調査と大きくずれる所であり、この辺に日本のイノベーション が活発化しない要因が隠されているのかもしれない。

  しかしながら、1992 年に「第

3

世代のR&D」がダイヤモンド社から発刊され て、その中で強く謳われていた「研究開発と企業・事業戦略の統合」の必要性が、

1997

年のADLでの調査でも、そして今回「科学技術と経済の会」会員企業に対 するアンケート調査でも、異口同音に技術戦略と企業戦略の整合性をとる必要性、

あるいはそれをCTOの役割として唱えられているのは、古くからの課題というか、

永遠の課題、一向に解決しない課題ということで、それだけにMOTの発展が強く 求められている状況と考える次第である。

第  7  章