1.企業概要
京セラコミュニケーションシステム株式会社(以下、KCCS)の組織母体である京セラ 株式会社は、1959 年 4 月 稲盛和夫氏が京都市で「京都セラミック株式会社」として創業 した。近年では、セラミック製品をはじめ情報・通信機器、太陽光発電モジュール等の製 造を行なっている。京セラ㈱の売上高は、連結 1 兆 4,796 億円(2016 年 3 月期)、営業利 益 926 億円(2016 年 3 月期)、グループ企業数 235 社(京セラ㈱含む)、グループ従業員数 69,229 名(2016 年 3 月現在)になる1。
京セラグループにおいて情報通信分野の中核を担う KCCSは、1995 年 10 月に京セラ経 営情報システム事業部の分社独立によって設立された。その後、同年 12 月に京セラ電子機 器株式会社を吸収合併、以降順次 KCCS マネジメントコンサルティング社ほか、上海社、
シンガポール社、ベトナム社を設立し現在に至っている。
本社機能は京セラ本社内に置き、本社は関西エリアをカバーし、東京支社が関東エリア をカバーしている。事業規模は、資本金 29 億 8,594 万 6,900 円、売上高 連結 1,147 億 5,461 万円(2016 年 3 月期)、従業員数 3,097 名(連結)で創立以来、黒字経営を維持し発展し てきた。図 7-1 は KCCSグループの概要を示し、図 7-2 は KCCS単体での売上高・経常利 益の推移を示したものである。
主な事業内容は、「ICT 事業2」、「環境・エンジニアリング事業」、「通信エンジニアリン グ事業」、「経営コンサルティング事業」で 構成され、ERP3の開発からコンサルティング、
運用・保守を行なう SIer(system integrater)であると同時に、通信キャリアの無線基地局 等のインフラ建設も担っている。なかでも大きなウエイトを占める ICT事業と通信エンジ ニアリング事業では、京セラ、KDDI、ソフトバンクグループ、サムスンジャパン等(帝国 データバンク調査、2016 年 3 月末現在)を主要顧客とする。
社是は「敬天愛人」とし、“常に公明正大 謙虚な心で 仕事にあたり 天を敬い 人を愛 し 仕事を愛し 会社を愛し 国を愛する心。経営理念は、全従業員の物心両面の幸福を追求 すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する ”としている。トップメーセージ では、
「KCCS グループの使命は、京セラグループの“人間として何が正しいか”を判断基準に した考え方『フィロソフィ』と、経営管理手法『アメーバ経営』 を両輪に、卓越したコミ ュニケーションシステムを創造し、攻めの経営を実現する製品やサービスを提供すること。
この思いと共に、国内外を問わず、お客様企業の飛躍と社会の発展に寄与する。」を掲げて いる4。
1 京セラ[2016]ホームページhttp://www.kyocera.co.jp/参照.
2 Information Communication Technology。コンピュータ ーやインターネット関連情報通信 技術を示す。
3 Enterprise Resource Planning。調達・購買、製造・生 産、物流・在庫管理、販売、人事・給与、財務・
会計など、企業を構成する様々な部門・業務の扱う資源を統一的・一元的に管理することで、部門毎 の部分最適化による非効率を排除したり、調達と生産、生産と販売など互いに関連する各業務を円滑 に連携・連結したりする。
4 KCCS[2016]ホームページhttp://www.kccs.co.jp/参照.
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<KCCSの事業概要>
「I C T 事 業」・・・・・・・・ 情報システムの構築や統合基幹業務システム、データセ
ンターを核とした各種クラウド、セキュリティ、MVNO のICTソリューション
「環境・エネルギア事業」・・・・太陽光発電や蓄電、EMSのシステムの設計・施工
「通信エンジニアリング事業」・・通信インフラ(携帯基地局)の構築・運用保守から最適 化、防災情報ネットワークの構築・運用保守
「経営コンサルティング事業」・・京セラ独自の経営管理手法「アメーバ経営」の導入から 運用支援、関連する情報システムの提供
図 7-1 KCCSグループの概要
出 所 :KCCS[2016]ホ ー ム ページ 参 照 .
図 7-2 KCCS売上高・経常利益の推移(単体)
出 所 : 会社 四 季報 [2015]参照 .
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2. 知識労働者の育成・マネジメント
2.1 組織による顧客志向の実践
KCCS では、営業部門における各担当者の評価基準として、自社の売上高だけでなく、
どれだけ顧客の事業に貢献したのかが問われる。これは、自社の損得だけを追求するので はなく顧客にとっての価値をどれだけ生み出したかが指標となる。これは、京セラグルー プで経営判断をする場合、「損得」という利害得失ではなく、「善悪」が基準判断となって いるからである。稲盛氏によれば、善か悪かを判断するにはまず立派な人間性を持ってい なければならないと論じている。「人間として如何にあるべきか」というところまで遡って 考える必要がある。例えば、うちの会社にとってのみ都合がよく儲かるということがあっ たとしても、人として如何なものかと思った時には、それは選ばないという勇気を持つこ とが重要であるという5。このように京セラグループでは、目先の利益ではなく「利他の心 を判断基準にする」ことが最も重要であるとされているのである。
もし仮に営業担当者が自分中心で物事を見ると視野も狭くなり、間違った判断をしてし まう。しかし「利他の心」をもって仕事に臨めば視野も広くなり、顧客や周りの人達が協 力してくれるようになるのだ。KCCS においても、こうした表面的な事業や物事に囚われ るのではなく、その根底となる判断基準が誤っていないかどうかを確認することが営業の マネジメントで重要な視点となっている。
京セラフィロソフィの中に「お客様第一主義を貫く」というキーワードがある。これは、
下請けの立場としてではなく、自主独立の企業であることを意味している。自主独立とは、
顧客が望まれるような価値を持った製品を次々生み出していくということである。顧客の ニーズに対して、今までの概念を覆して、徹底的にチャレンジしていくという姿勢が要求 される。顧客に喜んで頂くことは商いの基本であり、そうでなければ利益をあげ続けるこ とは出来ないという考えである6。KCCSの営業部門は、日々この「お客様第一主義を貫く」
を何度も輪読しながら営業担当間で同じ考えを共有 している。
したがってKCCSでは、営業担当者に対してどこまで顧客のニーズに応えることが出来 たのか、世の中に無いものを顧客が望めばチャレンジするという営業姿勢を持っている か どうかが重視される。単に顧客が提示した要件定義書に沿った IT システムを提供するので はなく、それを起点としながらどれだけ顧客の事業に貢献 できるか営業で重視されている。
このように京セラグループでは、これらのフィロソフィを全社員で共有し、ベクトルを一 致するためにさまざまな取り組みを行っている。図 7-3 は京セラのアメーバ経営の全体像 を示したものである。
<主な取組み事例>
・一般社員およびリーダー、管理者を対象としたフィロソフィ研修会(合宿)の開催
・京セラグループ全社での年 1 回のフィロソフィ論文コンクールの開催
・毎日の朝礼および終礼における京セラフィロソフィの輪読
5 稲盛[2001]参照.
6 稲盛[2001]p.18.
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・営業活動および営業プレゼンにおける京セラフィロソフィ概念の導入
・経営トップは、経営会議内容の全員周知と共に京セラフィロソフィの論説等の励行7
図 7-3 アメーバ経営のメカニズム
出 所 : 三矢 [2003]p.145.
2.2 イノベーション機会の発見
KCCS では、市場や顧客の変化に気付くために独自の「サービス・サイエンス」という 名のプロセス管理を取り入れている。これは営業の各プロセスにおいてサービスという視 点から顧客が口にしない潜在的な課題、問題点をキャッチアップする仕組みである。表 7-1 はサービス・サイエンスの目的を示し、図 7-4 はサービス・サイエンス構築の流れを示し ている。
KCCS の代表取締役である森田氏はサービス・サイエンスの目的について次のように論 じている。「現代は、素晴らしい技術力や製品開発力だけでは事業を伸ばしていくことが難 しい時代だとの認識の上で、いつの時代にも顧客から選び続けられる企業であり続けられ ねばならない。そのためには事業をサービスと捉えて顧客の視点から分析し、そのサービ スにおける行動基準や指針を構築することで、顧客に質の高いサービスを提供し続けるこ とが重要で、独自のサービス手法を確立し、顧客に感動と満足を与え続けられるかどうか が、KCCSグループの将来の発展を左右する。」8
営業部門におけるサービス・サイエンスの仕組みは、日々の営業プロセスにおいて営業 担当者が気付いた顧客のニーズや課題を取り上げ、 ベテラン営業や若手の営業担当者など がグループによってロールプレイング形式でサービスという視点から営業のあり方につい て議論し答えを導き出してゆく。まず顧客の課題が明確になれば、そこから派生する問題 は何なのか、また本質的な問題は何かを推測する。そして、その問題に対して自社がどの ようなソリューションを提案できるかについて議論してゆく。ここでは、単に IT インフラ
7 KCCS データセンター事 業部 植田氏(仮名)インタビュー調査(2009 年 05 月 11 日)より。
8 KCCS[2008]pp.12-15.