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営業による顧客創造についてのドラッカー的アプローチ

第 1 章から第 3 章にかけて米国のマーケティング理論におけるセールスフォース・マネ ジメントの議論から人的販売論、販売管理論では販売領域に限定していることから、顧客 との組織間関係といった全体が掴めないという課題を明らかにした。これを踏まえ、 日本 の営業研究の特徴と、組織型営業に向けた高嶋の「営業プロセス・イノベーション」が抱 える営業担当者の価値創造に関する課題を明らかにした。そして米国セールスマンの創造 性研究の考察から、組織として営業を通じて如何に成果をあげるのかという課題に対して、

筆者は営業研究の基礎に知識労働の概念を置くことが必要であると考えている。よって本 章では、ドラッカー理論を活用しながら顧客創造の理論的フレームワークを提示し、それ ぞれの要素について考察を行なう。

1.顧客創造の理論的フレームワーク

近年、知識を基盤とした組織が社会の中心となり、その組織における主要 な存在が知識 によって「成果」をあげる知識労働者となってきた。ここでいう知識とは、効用としての 知識であり、行動にとって効果的な情報であり、成果に焦点があてられた情報である。従 来はマネジメント上の意思決定は、トップマネジメントのごく数人によって行なわれ、他 の人間はその意思決定の内容を実行するだけに過ぎなかったが、今日では中小企業ですら 技能や体力ではなく自らの知識を仕事に適応する知識労働者によって成り立っている。

ドラッカーは、知識の生産性向上において「変化の機会」と「知識の結合」とが重要な 要素であると論じている。つまり知識の生産性をあげるには、「変化の機会」を捉え体系的 に利用することが必要であり、それらの機会は知識労働者とそのチームの能力と強みに合 わせて利用されなければならない1。そして、知識の生産性をあげるためには結合を学ばな ければならない。これらの知識の生産性に関する問題は、国、産業、企業の競争力にとっ て、ますます決定的な要因であり、競争の中で優位に立てるか否かは、誰もが手に入れら れる知識からどれだけ多くのものを引き出せるかによるとドラッカーは論じている2

知識の結合には、必要とされる知識や情報の体系的な分析と共に、問題に取り組む手順 の編成に関わる方法論が必要となってくる。言い換えれば、知識を特化することによって 潜在的な可能性を具体的な成果へと転化するための方法論、体系、手順が 必要となってく るのである。もしそれらがなければ、利用しうる知識の殆どが生産的とはならない。単な る情報に過ぎないのである3。したがって組織が知識労働によって成果を上げるためには

「変化の機会」と「知識の結合」によって顧客のイノベーションを実現しなければならな い。そのためには営業活動を通じ市場の潜在的変化に気づき、それを自らの機会として捉 え、結合によって価値へ転換することが営業の質を左右する重要な要素といえるだろう。

したがって本研究では、ドラッカー理論を活用し知識労働者のマネジメントを目的とし

1 Drucker[1993]pp.192-193.

2 Drucker[1993]pp.192-193.

3 Drucker[1993]pp.192-193.

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た顧客創造の理論的フレームワークを以下の通り示す。本フレームワークは、「組織による 顧客志向の実践」、「イノベーション機会の発見」、「マーケティングによる顧客創造」の 3 つから構成されている。まず第 1 にドラッカーのマネジメントの出発点ともいえる「顧客 の創造」という概念がある。ドラッカーは『現代の経営』において「事業の目的は顧客の 創造である」と説いたように、企業の目的と使命を定義する時、顧客を出発点とすること が重要であると指摘している4。知識労働者においても、自らのミッションを定義すること は重要な問題であり、それによって如何に考え、如何に意思決定し、如何に行動するのか 仕事の進め方が決まってくる。特に専門性の高い知識労働者にとって何を貢献とするかは 大きな問題といえる。第 2 に知識を仕事に適応する上で重要な要素となるのが機会である。

顧客に最も近い存在の営業担当者は、まず何よりも市場の変化を脅威ではなく機会として 捉えることが必要となる。そのためには外部に目を向け、市場や顧客がどのように変化し ているのかを分析することが重要となる。第 3 にこれらの機会を起点としたイノベーショ ンの具現化である。ドラッカーは『現代の経営』において、顧客の創造を目的とした企業 の基本的機能としてマーケティングとイノベーションの 2 つを挙げている5。知識労働とし ての営業においては、実際のマーケティング活動を通じ、顧客の課題解決を図ることで新 たな価値や市場を創造することが組織の成果につながっているのである。図 4-1 では、以 上で説明した顧客創造の理論的フレームワークが示されている。

図 4-1 顧客創造の理論的フレームワーク

出 所 : 著者 作 成。

4 Drucker[1954]参照.

5 Drucker[1954]参照.

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2.組織による顧客志向の実践

1954 年、ドラッカーは『現代の経営』で、マーケティングの規定について「財やサービ スを市場で売ること」としたが、それが生産に遡っていき、20 年後に著された『マネジメ ント』では「販売からマーケティングへ」が追加された6。真のマーケティングは、顧客の 人口構造、顧客の現実、顧客のニーズ、顧客の価値からスタートしたように、顧客からス タートする。「我々は何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を考える7。 ドラッカーは、知識労働者について自ら方向づけ、管理、動機づけを行なうことから、

マネジャーは彼らに対し如何なる成果と業績が求められているかを知らせなければならな いという8。また知識労働者の貢献について次のように論じている。「貢献に焦点を合わせ ることによって、自らの狭い専門やスキルや部門ではなく、組織全体の成果に注意を向け るようになる。成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意を向ける 。自らの専門や スキルや部門と、組織全体の目的との関係について徹底的に考えざるを得なくなる。政策 にせよ、医療サービスにせよ、自らの組織の産出物の究極の目的である顧客や患者からの 物事を考えざるを得なくなる。その結果、仕事や仕事の仕方が大きく変わってくる 。」9

しかし、ドラッカーによれば企業は顧客志向の重要性を認識しながらも、実際の市場で は顧客との間に「ズレ」が生じてしまっていると指摘している。『現代の経営』では 「40 年もマーケティングが説かれ、教えられ、信奉されながら、それを実行するものがあまり に少ない」と記している10。またコトラーは、マーケティング・コンセプトを実行してい る企業は極めて少なく、優れたマーケターとして名を馳せているのはほんの一握りの企業 に過ぎないと指摘している11

なぜ企業にマーケティング志向が定着しないのだろうか。第 1 の要因は、マーケティン グが価値創造を目的としているにも関わらず、利益目的を優先してしまう企業の体質にあ るといえる。本来価値創造が利益に繋がって初めて企業の継続性が認められる。よってい くら利益追求を目指してもそこから新たな価値創造は困難といえるだろう。

第 2 にコミュニケーションの問題がある。重要なのはコミュニケーションの主体は受け 手であり、受け手はコミュニケーション全体を知覚する必要がある。知覚範囲とは、受け 手の野心や理念など生理学的なものであり、人間としての物理的限界によって規定される が、これは身体的要因ではなく文化的、心理的要因が何より重要な制約となる12。よって コミュニケーションが成立するには、メッセージを相手が受け止め、心を動かすことが決 定的に重要であり、これは個人に対しても組織に対しても同様のことがいえる。

したがって営業活動では、常に市場にアンテナをはり、顧客のニーズに耳を傾けなけれ ばならない。そのために企業は、営業担当者に対して目先の商談獲得ではなく将来的な顧 客の価値に焦点を当て、個人ではなく組織に対する貢献を重視することを認識させなけれ

6 三浦[2011]pp.40-41.

7 Drucker[1974]pp.64-65.

8 Drucker[1964]pp.221-224.

9 Drucker[1967]pp.52-54.

10 Drucker[1985]p.251.

11 Kotler,Keller[2012]p.16.

12 Drucker[1974]pp.483-485.

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ばならない。特に生産財企業では、顧客よりも技術志向が強くなってしまい自社の技術や 製品が先行したプロダクト・アウト的な営業風土を持つ企業が多い。だがどれだけ 高い技 術力や製品力を持っていても市場に受け入れられなければ存続することが出来ない 。した がって企業にとってマーケティング・コンセプトの実行は重要な課題であると同時に、顧 客と直接コミュニケーションを行なう営業活動の果たす役割は大きい。

3.イノベーション機会の発見

シュンペーターは、『経済発展の理論』のなかで、後にイノベーションと呼ばれることに なるものを、「新結合の遂行」と定義し、5 つの新結合として「新しい財貨」、「新しい生産 方法」、「新しい販路の開拓」、「新しい供給源の獲得」、「新しい組織の実現」を挙げた13。 ドラッカーは、このシュンペーターの理論を踏まえ イノベーション概念とは技術というよ りも経済や社会に関わる用語であり、供給に関わる概念よりもむしろ需要に関わる概念、

つまり消費者が資源から得られる価値や満足を変えることと定義した14

ドラッカーはイノベーションと変化について次のように論じている。「変化とは既に起 こった変化や起こりつつある変化である。成功したイノベーションの圧倒的に多くが、そ のような変化を利用している。イノベーションの中には それ自体が大きな変化である場合 もあるが、実際に成功したイノベーションの殆どが平凡である。単に変化を利用したもの に過ぎない。したがってイノベーションの体系とは、具体的、処方的な体系である。 即ち それは変化に関わる方法論、企業家的な機会を提供してくれる典型的な変化を体系的に調 べる方法論である。」15

またドラッカーはイノベーションについて次のように論じている。「企業において、イ ノベーションを職能の 1 つとみることは出来ない。それは技術や研究に留まることなく、

あらゆる部門と活動に及ぶ。体系的なイノベーションのための組織構造としては、イノベ ーションは 1 つの職能ではなく、あらゆる事業活動の一側面として組織すべきである。あ らゆる部門がイノベーションに責任を持ち、イノベーション上の明確な目標をもつ必要が ある。あらゆる部門が自ら供給する財とサービスのイノベーションへの貢献に責任を持た なければならない。イノベーションとは、人的資源や物的資源に対し、より大きな富を生 み出す新しい能力をもたらすことである。」16 つまり企業の技術部門や開発部門だけが組 織のイノベーションに対して責任を持つのではなく、営業部門などのホワイトカラーに も イノベーションへの責任があるのである。ある変化を機会として捉えるか否かは企業の成 果に大きな影響を与えるものとなる。ドラッカーは、『イノベーションと企業家精神』にお いてイノベーションのための 7 つの機会を提示している17

13 シュンペーター[1977]pp.182-183.

14 Drucker[1985]pp.21-26.

15 Drucker[1985]p.34-35.こ こでいう既に起こった変化とは、予期しない成功や失敗を示している。

16 Drucker[1974]pp.65-67.

17 Drucker[1985]pp.35-36.