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第 5 章 実験方法・結果および考察

5.3 スパッタ粒子空間密度分布

CRDS では光路上の積分値しか求めることができないため,イオンエンジン の高さを調整できる装置を開発し,オニオンピーリングと組み合わせることで スパッタ粒子の空間分布を求めた.

5.3.1 オニオンピーリング(5-5)

積分値である線密度を,オニオンピーリングと呼ばれる手法を用いてグリッ ドの中心から半径方向への密度に変換することができる.オニオンピーリング を用いる際に,グリッドからのスパッタ粒子は方位対象と仮定した.図5-6にオ ニオンピーリングの概念図を示す.

それぞれの殻における密度𝑁(𝑟)は,次式で表す関係を持つ.

41

∑ 𝑘𝑖𝑗𝑁𝑗(𝑟)

𝑗

= (∫ 𝑁(𝑟)𝑑𝑥)

𝑖 (5-3)

ここで,行列の要素であるkは殻内での任意位置𝑝𝑖での光路長であり,半径𝑟𝑗を 使って次式で表すことができる.

𝑘𝑖𝑗 = {

0, (𝑖 > 𝑗) 2√𝑟𝑗2− 𝑝𝑖2, (𝑖 = 𝑗)

2√𝑟𝑗2 − 𝑝𝑖2− 2√𝑟𝑗−12− 𝑝𝑖2, (𝑖 < 𝑗)

(5-4)

以上から与えられる行列に対して、逆行列を掛け合わせることで半径方向の密 度を求めることができる.

図5-5 オニオンピーリング概念図

5.3.2 空間密度分布測定結果

スクリーングリッドに500 V,アクセルグリッドに-100 Vを印可し,推進剤

流量19.5 μg/sにてイオンエンジンを動作した.測定位置を1 mm間隔で16 mm

まで変化させた.吸収スペクトルの全体を含む波長の掃引が困難だったため,ピ ーク位置と片方の端ができる限り見えるようにレーザーを発振した.測定中の 到達真空度は6.36×10-4 Paであった.

図5-6にキャビティの透過光強度の減衰の様子を示す.この減衰信号に指数関 数のフィッティングを行うことで,減衰時間を求めることができる.それぞれの 減衰信号から算出される吸収度をプロットしたのもが,図5-7の吸収スペクトル

42

となる.同時に測定した参照スペクトルのピーク位置をAlの吸収中心周波数と 同定し,相対周波数の零軸とした.

10 20 30 40 50

0.00 0.25 0.50 0.75

透過光

exponential fit

透過高強度 [a.u.]

時間 [ μ s]

図5-6 減衰信号

-15 -10 -5 0 5

0 100 200 300 400

500 実験値 (1 mm) OG信号

相対周波数 [GHz]

吸収度 [ppm]

0.0 2.5 5.0 7.5

OG信号 [a.u]

図5-7 1 mm位置における吸収スペクトル

43

測定位置1,5,7,10,15 mmにおける算出した吸収スペクトルを図5-8に示 す.なお,比較がしやすいように1 GHz毎に平均しており,1 mm位置のスペク トルのみにエラーバーをつけている.スペクトルから線密度を求める際にはス ペクトルエリアの積分値が必要になるので,吸収スペクトルの不足している部 分をフィッティングで補う.測定位置0~4 mmの吸収スペクトルでは,吸収中心 周波数付近において吸収度の減少が見られた.この原因としては,スパッタ粒子 の放出角度によるドップラーシフトによるものだと考えられるが,今回の測定 では原因の解明は困難であった.

吸収スペクトルの広がりはドップラーシフトによって生じている.そのため,

ガウシアンによるフィッティングは,アルミ原子が非平衡状態であるために物 理的には意味がないが,スペクトルと良い一致を示すので,スペクトルエリアの 積分値を求めるために2つのガウシアンによるフィッティングを行った.また,

Al の吸収ラインは超微細構造を持つため,複数のガウシアンでフィッティング を行う必要があるが,線幅20 GHz以上と,超微細構造1.5 GHzと比較して充 分大きいため,線密度算出に必要なスペクトルエリアを求める際には 1 つのガ ウシアン(分岐した 1 つの吸収スペクトルに対して)のフィッティングで充分で ある(5-3)

-15 -10 -5 0 5

0 100 200 300 400 500

01 mm 05 mm 07 mm 10 mm 15 mm

吸収度 [ppm]

相対周波数 [GHz]

図5-8 吸収スペクトルの測定位置依存性

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それぞれの測定位置の吸収スペクトルから得られた線密度を図 5-9 に示し,

軸対称と仮定して半径方向の空間密度分布を算出したものを図5-10に示す.図 5-9より,4 mmを境に密度が単調に減少していることがわかる.この半径4 mm の領域は,グリッドの孔が存在する領域と一致していることから,孔周辺におい て損耗が生じていることが確認できた.

空間密度分布を用いて,単位時間に測定光路と平行な面を横切るスパッタ粒 子の量,すなわち損耗量を求める.スパッタされたAl粒子の速度は,CSUのA.

Yalin らによるとトンプソン分布関数に従い,その平均値は4900 m/s である

(5-4).空間密度分布から得られた損耗量は1.51 ± 0.31 × 1015 atoms/s であった.

JIEDIコードの数値解析結果では6.1×1012 atoms/sとなり,3オーダー違いが 生じた.考えられる原因として,損耗量算出の際のスパッタ粒子の速度を,CSU

のA. Yalin らによる実験から得られたトンプソン分布関数の平均速度を使用し

ていることが挙げられる.より正確な比較を行うためには,LIFなどによってグ リッドからのスパッタ粒子速度の計測を行う必要がある.

0 4 8 12 16

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0

線密度 [10

13

/m

2

]

測定位置 [mm]

図5-9 測定位置に対する線密度変化

45

0 4 8 12 16

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

密度 [10

15

/m

3

]

半径 [mm]

図5-10 半径方向に対するスパッタ粒子空間密度分布

さらに,図 5-8 に示した吸収スペクトルの横軸を速度に変換したものを図 5-11に示す.変換には次式を使用した.

𝑉 =∆𝑓

𝑓0 𝑐 (5-5)

ここで,∆𝑓は相対周波数,𝑓0は吸収中心周波数である.スペクトルの構造を把握 するために,図5-8と同様にフィッティングを行い,全体を示している.なお,

エラーバーに関しても同様に測定位置1 mm のみに付けている.図 5-11 より,

損耗量を求める際に仮定したスパッタ粒子の速度4900 m/sを超える粒子が存在 していることがわかる.ここで,図 5-12 にトンプソン分布関数の形状を示す.

今回過程した速度は,トンプソン分布の平均に当たる速度(平均速度)を使用して いる.そのため,実際には4900 m/s以上の速度を持つ原子が存在し,速度の増 加に従い密度が減少していく.よって,図5-11 において4900 m/sを超える粒 子が存在すること,速度が中心からずれるに従い吸収度が減少していくことが 理解できる.

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-75000 -5000 -2500 0 2500 5000 7500 50

100 150 200 250 300 350

1 mm 5 mm 7 mm 10 mm 15 mm

吸収度 [ppm]

速度 [m/s]

図5-11 吸収度の速度依存性

0 10000 20000 30000 40000 50000 0

2 4 6 8 10 12

密度 [10

-13

/m

-3

]

速度 [m/s]

図5-12 トンプソン分布

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