異なる脊椎動物(例えば、ヒト-マウス、ヒト-フグ)を過去に遡ると、共通祖先が 存在していたことになります。共通祖先から分岐したあと、それぞれの系で転座と融 合が起こっているが、小さなブロック単位で見ると遺伝子の並びが一致する領域があ ります。染色体上で遺伝子の並びが一致している状態は、シンテニーと呼ばれます。
全ゲノムが解読されるとゲノム全体を生物間で比較することが可能となり、シンテニ ーの様子が明らかとなります。
ヒトとマウスを比べると、哺乳類同士のため、明瞭にシンテニーの保存状態が見て 取れます。
一方、魚類では四肢動物と分かれてから直後に全ゲノムの重複が起こっているため、
魚類の染色体はヒトやマウスの染色体に対して2重のシンテニーを示す特徴がありま す。
ポストゲノム研究(3)
— 機能ゲノム学—
- ゲノムを比較して遺伝子の発現調節機構を探る -
ポストゲノム研究の重要なテーマとして、全ての遺伝子の機能を調べることに加えて、遺伝 子の転写調節に重要な配列領域を見つけることがあります。転写調節領域は遺伝子が何時、
何処で、どれだけ発現されるかと言う情報をコードしていることから、生物の形態や環境適応 の多様性の背景にあるゲノム情報は、タンパク質コード領域よりもむしろ転写調節領域に存 在する場合が多いものと予想できます。
特に胚発生など生物の基本的な生命現象に関係する遺伝子(例えば sonic hedghog や Pax 遺伝子)の転写調節領域は、生物間で強く保存される傾向にあります。ゲノム情報を利用す ることにより、遺伝子発現に必須の領域を検索したり、生物間で変異が起こっている領域を 見つけだし、それらの機能や生物学的意味を解析する研究分野は、機能ゲノム学と呼ばれ ます。授業では、ヒトとフグの非コード領域の比較から、遺伝子の転写調節に重要な領域
(CNE; conserved non-coding elements)を見つけだした研究事例を紹介します。
以下、今年使用しなかった過去の資料
講義
脊椎動物の中ではゼブラフィッシュが、モルフォリノオリゴを使ったアンチセン ス技術で遺伝子機能を破壊できる点で、遺伝子機能の解析が容易だと言えます。具 体的には、顕微注入によりアンチセンスモルフォリノオリゴを受精卵に注入し、発 生で現れる表現型(体に表れる異常)を調べることで、遺伝子機能を解析すること が可能です。ただしこの方法で解析できるのは、受精後 2 日以内に働く遺伝子に限 られ、成人病に関連するような遺伝子等の機能は解析不能です。ゼブラフィッシュ のウェブサイト(ZFIN)では、誰にでも機能破壊実験を行うことができるように、
各遺伝子の機能破壊に必要なモルフォリノオリゴの塩基配列が掲載されています。
一方、フォワードジェティクスでは、点変異を誘導する化学変異源(ENU. Ethyl nitrosourea)により突然変異体のライブラリーをまず作製します。様々な表現型 の突然変異体が得られますが、この時点では突然変異体でどの遺伝子に変異が起こ っているのか(原因遺伝子、責任遺伝子)は明らかでありません。フォワードジェ ティクスでは、遺伝マーカー(主にマイクロサテライト)との連鎖解析により、原 因遺伝子を連鎖地図にマップし、組換え率が 0.1%程度のマーカーが見つかるまで 連鎖解析を進めます。見つかった近隣マーカー近くの変異体ゲ
ノムを解読し、突然変異により塩基置換が起こっている場所を探し出します。この 方法は、ポジショナルクローニングと呼ばれます。
データベースを使った遺伝子機能の検索
ENTREZ
NCBI の全データベース(配列、文献、遺伝子発現、SNP 等々)に納められている情報 から、キーワード検索により関連情報を網羅的に検索できるサイト
ENTREZ の利用
NCBI (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)には、キーワードで全てのデータベースを一挙に検索 するツール ENTREZ があります。ENTREZ でキーワード検索すると、配列情報、文献情報、
OMIM、OMIA、立体構造等々のデータがもれなく検索されてきます。ENTREZ を利用すれ ば、タンパク質の構造や遺伝病等に関する情報を一挙に入手することができ、非常に便利な 検索システムといえます。
ENTREZ の使い方
・ 開け方:NCBI の先頭ページ All databeses で、枠内空欄のまま Search をクリック
・ 枠内に遺伝子名(略字等)を入力して検索
・ 調べた遺伝子について NCBI のデータベースにある情報が全て表示される(数字はデー タベースに納められている情報の数を示す)
実習
発現データベースを使ったシミュレーション実験(1)
- digital differential display -
ゲノム解読プロジェクトの進められている生物では、EST (expressed sequence tags) の塩基 配列解読プロジェクトも並行して進められています。EST プロジェクトでは、組織あるいは細 胞種ごとに、cDNA ライブラリーから無作為にクローンを選んで配列(5’, 3’末端のワンパスシ ークエンス)を解析しています。EST データベースでは、同定された遺伝子種とその数値(何 個検出されたか)が組織あるいは細胞種ごとに整理されています。従ってデータには、各組 織に発現している遺伝子種と遺伝子ごとの相対的な発現強度が反映されていることになりま す。これらのデータは、トランスクリプトーム (Transcriptome) と呼ばれます。このデータを利 用することにより、調べたい組織に発現している遺伝子の種類と発現強度、組織間で発現強 度の異なる遺伝子を調べることができます。コンピューターで遺伝子発現を調べる操作は、
digital differential display と呼ばれます。授業では次の例題を使って、digital differential display の操作を実習します。
例題1.生物の各器官で発現する遺伝子の種類と発現強度を調べる ウシの乳腺で発現する遺伝子種とその強度は?
例題2.2つの細胞種で発現量が異なる遺伝子を調べる
マウスの ES 細胞 (Embryonic stem cells) と胚細胞 (Blastocytes) で発現量の異なる遺 伝子は?
例題3.ある生物の2つの器官で発現量が異なる遺伝子を調べる
マウスの小脳 (Cerebellum) と大脳皮質 (Cortex) で発現量の異なる遺伝子は?
Digital differential display (DDD)のページの開け方 NCBI の Transcriptome 情報を使う - Digital differential display
1. NCBI の先頭ページにある All Resources から、Digital differential display (DDD) を 選択
例題1.生物の各器官で発現する遺伝子の種類と発現強度を調べる ウシの乳腺(mammary gland)で発現する遺伝子種とその強度は?
手順
1. Species を Bos taurus に選択、continue をクリック
2. 組織名(Mammary gland)の ID 番号をクリック。発現強度の強い遺伝子から順に表記 される。TMP は、100 万個の mRNA 当たりに出現する個数を示す。
例題2.ある生物の2つの器官・細胞で発現量が異なる遺伝子を調べる
マウスの ES 細胞 (Embryonic stem cells) と胚細胞 (Blastocytes) で発現量の異なる遺 伝子は?
1. Species を Mus musculus に選択、continue をクリック
2. まず A(ここでは Embryonic stem cells)の ID 番号(15703, 15704, 15705)を選択、上の 枠内に名前(ES cells)と記入し、continue を押す
3. B の組織(ここでは Blastocytes)の ID(850, 875, 1021, 10026)をチェックし、枠内に名 前(Blastocytes)と記入し、continue を押す
4. A と B で発現強度が有意に異なる遺伝子が、表示される
講義
遺伝子の機能解析の手法
リバースジェネティクス(逆遺伝学:Reverse genetics)
手法
遺伝子ノックアウト:マウスでのみ可能
遺伝子ノックダウン:RNAi(個体レベルでは線虫でのみ可能)
モルフォリノオリゴ(ゼブラフィッシュに適応可能)
フォワードジェネティクス(順遺伝学:Forward genetics)
ENU (エチルニトロソ尿素) を使った突然変異体ライブラリーの作製と、変異 体のポジショナルクローニング