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:二極分化するサッカーリーグとガバナンス

第4章 ファンの経営参加によるクラブガバナンスの強化(サポー タートラスト) 70

第1節 :二極分化するサッカーリーグとガバナンス

終章 スポーツマネジメント確立のためのガバナンス

図19:サッカー産業のビジネスモデルの方向性

出典:図2を基に筆者作成

地域密着

(ファン)

中央集権

(マスメディア

+スポンサー)

クローズド

オープン 英プレミア リーグ

英下部リーグ 欧・スーパーリーグ

英・サポーター トラスト MLB 大リーグ野球

独・伊・仏・

西1部リーグ

4)そこで、英国プロサッカークラブの経営の方向性の一つとして、プレミアリーグのト ップクラブ(Manchester United,Arsenal他、数クラブ)は、ヨーロッパのイタリア、ド イツ、フランス、スペインの一部リーグのうちのトップクラブと組んで、例えば国境を超 えたスーパーリーグ(Supra-Regional)を創設し、参加する方向が考えられる。限られた 数のビッグクラブが参加する一種のクローズドモデルである(Vrooman(2007)と同様の方 向性である)。地域的にはオープンであるが、リーグの運営としてはセミ・クローズドとな る。いわば、現在の英国内でのプレミアリーグ(PL)対その他クラブのリーグであるサッカ ーリーグ(FL)をヨーロッパに拡大するものである。それらのクラブは、クラブ強化のため の資金調達に関しては、外国人オーナーの資金力に頼る方法をとっているが、クラブの利 害関係者は株主だけではない。またオーナーがクラブ経営から退いた場合のリスクが残る。

したがってクラブのより良いガバナンスのために、自ら資金調達するべきである。前章で 詳しく論述した通り、株式に代わる債券(証券化)での調達はクラブガバナンスの強化の ために、大きな効果がある。ArsenalやManchester Unitedの事例で証明されている。企 業規模としては、中小企業にしかすぎないプロサッカークラブは、そのビジネスモデル、

ブランド価値によって、大規模資金調達を公募で実施することができる。その見返りに、

非上場クラブ、または開示の必要がないベンチャー市場企業であるサッカークラブが、一 般大衆に企業内容を開示するのである。また、一般投資家にクラブが発行する債券の信用 度を格付け取得の過程で、第三者の格付機関からそのビジネスモデルに対して、厳しい(信

用)格付審査を受ける。これによって、クラブはクラブ経営に対して、社債権者のみなら ず、一般大衆の監視を受けることになり、ガバナンスの強化が図れ、ゴーイングコンサー ンとして事業を継続する基盤が出来る。

企業経営に対するガバナンスは、社債権者の関与は最終段階にならないと可能ではなく、

通常では株主こそガバナンスの主人公であるとの主張がされている。一般上場企業であれ ば、その議論は理解しうるが、そもそも収益性が低いサッカークラブへは、機関投資家の 投資ニーズは期待できない上に、個人投資家はファンであるので、収益を期待しないで、

株式を売買せず持ちきる状態では、株主にガバナンスを期待できない。さらにサッカー業 界ではサッカークラブが上場廃止にまで進んでいる以上、株式での資金調達は難しい。そ こで債券発行によるガバナンスは重要性を増す。特に公募債での債券発行の企業ガバナン ス効果は、不測の事態になる以前に警告が出るシステムが契約書に規定されており、ガバ ナンス効果は大きい。

ビッグクラブの欧州スーパーリーグが創設されれば、クラブ経営者は特異なルールを勘 案しながら、幅広い利害関係者の利害を調整する課題を担う。名実ともに大企業として脱 皮するためには、企業収益を目的として株主の期待に応える必要がある。高度で複雑な経 営管理が行える人材が必要とされるであろう。そこでは証券化、債券発行、銀行借入、リ ース等の負債での資金調達はレバリッジ効果による経営効率向上(ROE 自己資本利益率 等)の側面もあり、サービス産業としての魅力を総合的に強化し売上を伸ばすことが要求 されるであろう。プロサッカー企業から、一般企業への脱皮が要請される。

5)もう一方の方向性は、ファンがクラブに出資して資金支援を行い支えるサポータート ラストである。プレミアリーグの中の一部ビッグクラブ以外の大多数のクラブに該当する 方向性である。欧州の他のリーグでも、クラブ経営のガバナンスが効果的になされている のはドイツと、国の支援が強いフランスである。英国では基本的に、政府は民事不介入が 原則であるので、フランス型は導入難しい。そこで参考になるのが、ドイツの非営利会員 制組織であろう。

現在のプレミアリーグは選手増強のための資金需要を、一部入場料値上げで賄っている 状況がある。入場料値上げは、重要な利害関係者であるファンを排除する結果となってい る。クラブの成績とクラブ財政という二律背反の課題を解決する一つの有力な方法が、サ ポータートラストである。クラブ株主の立場を持ち、同時にクラブのファンで試合の消費

者を兼ねる相互会社組織(サポータートラスト)はクラブ経営のガバナンス強化のために は有効であろう。サッカーは地方にあっては特に、地域のソーシャルキャピタルの位置づ けが大きく、従って、政府が危険防止のため、有事として例外的に介入しスタジアム整備 に乗り出した経緯がある。元来、北部イングランドの工業都市(マンチェスター、リーズ、

リバープール等)の工場労働者のために奨励された歴史的経緯もあるので、再び地域のプ ロスポーツとして再スタートすることが出来る。そこでは、地域のファンの資金援助(出 資、貸付、寄附)を確固たるものにするために、サポータートラストは重要な役割を果た す。

21 世紀はじめまでプレミアリーグ(旧一部)で活躍した Wimbledon FC(現 AFC

Wimbledon)は、外国人によるクラブ買収、本拠地移転、クラブ分裂等を経て、現在 Slue

Square Premier League(5部)に所属しているが、サポータートラストが経営するクラブ として少数ながらも熱狂的なファンがクラブを支えている。有名プレーヤーが全くいない チーム間の試合であっても、地域対抗、また同じ都市のライバルクラブ間の試合(ダービ ーマッチ)も、それなりに盛り上がる。結果が最初から予想されるビッグクラブとの試合 とは別の楽しみ方がある。まさに競争バランス(competitive balance)があるので、盛り 上がるのである。AFC Wimbledonの総会の議論でも、必ずしも将来プレミアリーグ復帰 を目標とするかどうかでは、株主会員の意見は分かれている。このクラブに限らず、地域 密着のプロクラブとして、ファンが経営参加することによって、クラブ経営のガバナンス がなされることが大多数のプロクラブの経営の方向性であろう。