コ ン セ プ ト 設 計 3.2 コンセプト設計
3.1.6 フィールドワークおよびインタビューのまとめ
同じ視覚障害者といえど,症状が異なる3人にフィールドワークとインタビュー をした.様々な意見や観察結果が得られたが,筆者が着目した点は以下の内容で ある.
• 歩行時に新しい情報を音や振動で伝えるのは,周りの環境に意識を向けてい るために困難である.
• 白杖の使い方は人や状況によって様々である.
• 白杖を使っていても歩行時に直接地面から足で情報を取得することは位置や 道を把握する上で大事である.
• 点字ブロックは積極的に利用しており,白杖を使って探した上でちゃんと足 でブロックを載せる.でも足で踏んでいてもブロックを感じれないことが ある.
これらの着眼点から次章で本研究のコンセプトを設計する.
コ ン セ プ ト 設 計 3.2 コンセプト設計
ンタクトレンズのように純粋に触覚を拡張する技術を応用すれば地面の情報をよ りわかるようになると思われる.ただ,その体験は一時的なものではなく,日常 的な使用に耐えられなくてもならない.
上記を踏まえて,本デザインでは以下の要件が必要であると考える.
要件1 地面からの情報をより多く伝えられること 要件2 日常生活で普通に歩けること
要件1 地面からの情報をより多く伝えられること
視覚障害者のフィールドワークを経て,点字ブロックを積極的に使うこと,ア スファルトやコンクリートなどテクスチャの違いを自分の位置の確認に使ってい ることなどがわかった.
また,一方で点字ブロックが磨り減ったり,踏みかたによっては点字ブロックを 踏んでも気づかない場合があるという問題や,より地面の情報を理解できれば自 分の位置の確認に役に立て,道間違いを防げるのではという仮説が生まれた.そ こで,本研究では上記の問題解決を図る上で,地面からの情報をより多く伝える ものであるということを第1の要件とする.
要件2 日常生活で普通に歩けること
また,日常的に使えることは靴をデザインする上でとても大事な要件である.
日常的に歩くと考えた場合,参考になるのは既存の靴のデザインである.
『足と靴の科学(おもしろサイエンス)』((株)アシックス 2013) によると,
靴に求められる機能は大きく分けて「衝撃緩衝性」「安定性」「通気性」「フィット 性」「軽量性」「グリップ性」「耐久性」「屈曲性」の8つあり,それぞれの機能を 考えるための靴の設計対象部位が異なる.
• 「衝撃緩衝性」とは接地開始時の地面反力の緩和がいかにできるかというこ
コ ン セ プ ト 設 計 3.2 コンセプト設計
• 「通気性」はシューズ内の温湿度を制御することであり,アッパーが設計対 象になる.
• 「フィット性」ははき心地の向上のことであり,アッパーが設計対象になる.
• 「軽量性」はシューズ重量の軽減であり,ソールとアッパーが設計対象に なる.
• 「グリップ性」は路面環境を問わず,スリップによるケガの抑制のことであ り,アウターソールが設計対象になる.
• 「耐久性」はシューズの使用可能期間の増大のことであり,ソールとアッパー が設計対象になる.
• 「屈曲性」は蹴り出し時(かかと上昇時)の足沿いの良さであり,ソール前 足部が設計対象となる.
上記の機能を要件1が壊さないためにも,できるだけ既存の靴のデザインを使っ てそこに要件1を入れることを目指す.
そこで,触覚コンタクトレンズのように触れているものの感覚を拡張し,かつ 既存の靴の性能を壊さない靴としてスケッチを用意した.これにより地面からの 感覚を拡張することで,より地面の情報を伝えられると考えた.その際にはアウ トソールとインソールを一つにつなげなければならない.なぜならつなげること で初めて地面の情報が足裏に伝わることができるからである.インソールだけ,ア ウトソールだけ触覚コンタクトレンズを使っても意味がないので,一体型の靴の デザインが必要である.
こうして,本コンセプトを「Solense:足裏の感覚を拡張して視覚障害者の安心な 歩行体験を実現する靴」とした.
コ ン セ プ ト 設 計 3.3 ユーザーエクスペリエンスデザイン
図3.8: Sketch