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カニクイザルの精巣温浴障害モデルにおける miRNA プロファイルの評価

1. 序論

第2章では,カニクイザルのEGME誘発精巣毒性モデルを作出し,EGME投与により精 巣において miR-34b-5p 及び miR-449a の発現が低下することを示した。しかし,前述した

miRNAの発現低下はEGME投与時に限って認められる反応であり,精巣毒性を直接反映す

る現象ではない可能性も考えられる。そのため,EGME 投与とは異なる方法でカニクイザ ルに精巣障害を惹起し,miRNA 発現を詳細に検討することで,前述の miRNA が精巣毒性 マーカーとして妥当であるかを検証する必要があると考えた。また,EGME 投与モデルで は血漿中におけるmiRNAの発現上昇が認められなかったが,第1章で発見したカニクイザ ルの精巣特異的miRNAを含め,他の手法により作成された精巣毒性モデルにおける血漿中

miRNAの挙動をより詳細に解析する必要があると考えた。

近年,Lueらは,カニクイザルの精巣を43ºCの温水中に1日1回30分間,6日間連続で 浸漬することによりパキテン期精母細胞及び円形精子細胞のアポトーシスを特徴とした精 巣障害が惹起されることを報告した(26)。本モデルでは,温浴開始6~8週後に精液中の精子 がほぼ消失し,その後回復することが知られている(26)。精巣で産生された精子が精巣上体 で貯留された後,射精されるまでに約1~2週間の時間差を有することから,温浴開始から 約4~6週目に精巣障害が最も重篤となる可能性が推測される。また,精巣温浴モデルの最 大の利点は,精巣に限局的な障害を誘発することが可能である点にある。薬物誘発性の精 巣毒性モデルでは,EGME で報告されている血液毒性や肝毒性(19),及びニトロベンゼンで 報告されているメトヘモグロビン血症(4)などのように,他の臓器に対する毒性を併発する。

以上のことから精巣温浴モデルは,精巣障害に特異的なバイオマーカーの探索を行う上で 最適なモデルであると考えられる。

本章では,精巣障害に関連するmiRNAを発見し,精巣毒性機序を解析するためのツール

としてのmiRNAの有用性を検討するため,カニクイザル精巣温浴モデルを用いて精巣中及

び血漿中におけるmiRNAの変動を,miRNAマイクロアレイ解析又はRT-qPCRにより検討 した。

2. 実験材料及び実験方法

本実験は,第一三共株式会社の動物実験委員会の承認下で(動物実験承認番号:A1302542)

実施した。

2. 動物

2.1. 動物

健常な成熟雄性カニクイザル6例(インドネシア産,7-10歳齢,体重4.3-6.6 kg)を用 いた。動物は,温度24ºC,湿度60%,照明12時間/日(7:00-19:00),照度150-300ルク ス,換気回数10-20回/時間に設定した試験室にて,ステンレス製ケージ内で個別飼育し た。給餌は,カニクイザル用固形飼料(PS-A,オリエンタル酵母工業株式会社,東京)を1

日1回,約100 g与えた。精巣温浴実施日にはさらにリンゴ1/2個を給餌した。給水は,塩

素添加水を給水ノズルから自由に摂取させた。

2.2. 精巣温浴障害モデルの作出

精巣温浴の方法には,Lueらの報告(26)で用いられた方法に一部修正を加えた方法を用いた。

3 例のカニクイザルに塩酸ケタミン(ケタラール®筋注用 500 mg,第一三共株式会社)10

mg/kgを筋肉内投与した後,43℃に設定した恒温槽の温水中に陰嚢を浸し30分間静置した。

対照群の3例についても同様に塩酸ケタミンを筋肉内投与し,空の恒温槽に陰嚢を30分間 静置した。精巣温浴を行った初日をDay 1と規定し,5日間連続で温浴を実施した。血漿中 miRNAの評価のため,温浴前2回(Days -11及び-4),Day 12,及びDay 25にそれぞれ末梢

血約3.2 mLを大腿静脈から採血した。また,末梢血の一部は,全身臓器への影響及び性ホ ルモンへの影響を確認する目的で,それぞれ血液化学パラメータ及び血中テストステロン 濃度の測定に供した。さらに,Day 26に塩酸ケタミン(ケタラール®筋注用500 mg)の10

mg/kgを筋肉内投与した後に,イソフルラン(Escain®,Mylan N.V.,PA,USA)を濃度1.0

~1.5%で吸入させて全身麻酔を施し,左側精巣直上の陰嚢を切開して精巣を露出させた。

精管及び精巣動静脈を 2 ヵ所で結紮した後に結紮糸間を切断し,精巣及び精巣上体を無菌 的に採材した。摘出した精巣は速やかに短軸方向に2分割し,一方を病理組織学的検査に,

他方をmiRNA解析に使用した。試験期間中,一般状態は毎日観察した。

2.3. 血液化学検査

2.2.項で採取した末梢血のうち0.6 mLを,ヘパリンリチウムがコーティングされたマイク ロテイナ®(Becton, Dickinson and Company)に注入し,遠心分離(3,000 回転/分,10分間,

4ºC)して血漿を分離した後に,自動分析装置(TBA-2000FR,東芝メディカル株式会社)

を用いて血液化学検査を実施した。項目を以下に示す。

血液化学検査:AST,ALT,ALP,LDH,CK,T.BIL,D.BIL,T.CHO,TG,GLU,T.PRO, ALB,GLB,A/G,UN,CRE,Ca,IP,Na,K,Cl

2.4. 血中テストステロン濃度の測定

2.2.項で採取した末梢血のうち1.4 mLを,ヘパリンリチウムがコーティングされたマイク ロテイナ®(Becton, Dickinson and Company)に注入し,遠心分離(10,000 回転/分,5分間,

4ºC)して血漿を採取し,測定まで -80℃で保存した。測定にはテストステロン測定キット

(DELFIA® Testosterone Reagents;PerkinElmer, Inc.)を用いた。

2.5. 病理組織学的検査

2.2.項で採取した左側精巣をホルマリン・ショ糖・酢酸固定液で固定後,パラフィン包埋

及びHE染色を実施し,光学顕微鏡で観察した。精細胞数の減少については,重篤度に応じ

て1+(軽度)~3+(重度)にスコア化して評価を行った。

2.6. miRNAマイクロアレイ解析

精巣毒性により精巣中で発現量が変動する miRNA を網羅的に検索するため,miRNA マ イクロアレイ解析を実施して対照群と比較した。

2.6.1. Total RNA抽出

2.2.項で採取した左側精巣の一部(50~100 mg)を速やかに液体窒素で凍結し,total RNA の抽出まで -80℃にて保管した。凍結した精巣サンプルを株式会社LSIメディエンスに送付 し,miRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてTotal RNAを抽出した。抽出したRNAの品質

は,Agilent2100バイオアナライザ(アジレントテクノロジー株式会社)を用いて確認した。

2.6.2. miRNAマイクロアレイ解析

抽出した精巣由来のRNAサンプルを,第2章の2.6.3.項と同様の方法によりmiRNAマイ クロアレイ解析を実施した。対照群と比較して温浴群で発現量が上昇(> 2.00倍)又は低下

(< 0.50倍)し,かつpresentコールを示したmiRNAを変動miRNAとして抽出した。

2.7. RT-qPCR解析

miRNA マイクロアレイ解析によって発現変動がみられた精巣 miRNA について発現確認

を行うと共に,精巣毒性のマーカー候補である血漿中miRNAの有用性について評価を行う ため,RT-qPCR解析を実施した。

2.7.1. Total RNA抽出及び逆転写反応

2.2.項で採取した末梢血のうち 1.2 mL を,EDTA-2K 添加マイクロテイナ(Becton,

Dickinson and Company)に注入後に氷冷した。遠心分離機(10,000 回転/分,5分間,4ºC)

を用いて500 µLの血漿サンプルを得た。サンプルはRNA抽出まで冷凍庫で -80ºCで保存

した。Total RNAの抽出は第2章の2.6.1.項に準じて実施した。また,精巣については,2.6.1.

項で抽出したtotal RNAをそのまま使用した。なお,逆転写反応は,第2章の2.7.2.項に準 じて実施した。

2.7.2. Pre-Amplification

2.7.1.項で得られた2.5 µLのcDNAに,preAmp reaction mix(12.5 µLの2x TaqMan PreAmp Master Mix,3.75 µLのPreAmp Primer Pool[10 µLの20x TaqMan MicroRNA assays(2.6.3.項

に示す各 miRNA)を加え,最終液量が 1000 µL となるよう 1x TE で希釈],6.25 µL の

Nuclease-free water)を添加した。氷上で5分間静置した後,サーマルサイクラー(GeneAmp

PCR System 9700,Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて,95ºCで10分間,55ºCで2分間,

72ºCで2分間反応後,95ºCで15秒間及び60ºCで4分間を12サイクル実施して,最後に

100ºCで10分間反応させた。サンプルはRT-qPCRに使用するまで -80ºCで保管した。

2.7.3. RT-qPCRによるmiRNA量測定

精巣のmiRNAマイクロアレイ解析により温浴群で発現変動が認められたmiRNAのうち,

第1章および第2章の結果を考慮し,miR-449a,miR-34b-5p,及びmiR-34c-5pの3種につ

いてRT-qPCRを実施した。血漿については,上述の3種のmiRNAのうち、miRNAマイク

ロアレイ解析により温浴群で発現量が最も低下したmiR-34c-5p,及び第 1 章で精巣特異的 な発現が確認されたmiR-202-5pに限定してRT-qPCRを実施した。

定量的PCR解析は,第2章2.6.3.項に準じて実施した。精巣中miRNAは対照群に対する 相対値,血漿中miRNAは個体ごとの投与前値(Day -11及び-4)に対する相対値をそれぞれ 算出した。

2.8. 統計学的解析

血液化学パラメータ,血漿中テストステロン濃度,miRNAマイクロアレイデータ,及び

RT-qPCRの各測定値は,測定時点ごとに群別の平均値±標準偏差(SD)で示した。対照群

と温浴群間における平均値の有意差検定にはF検定を用い,等分散の場合はStudentのt検 定を,不等分散の場合はAspin-Welchのt検定を実施した。有意水準は5%とした。

3. 実験結果

3. 動物

3.1. 一般状態,体重,及び摂餌量

試験期間中,対照群及び温浴群ともに軟便及び麻酔の影響と考えられる吐物が散見され たが,体重や摂餌量には変化がみられなかった。

3.2. 血液化学検査

試験期間を通じて,血液化学パラメータには顕著な変化が認められなかった。

3.3. 血中テストステロン濃度

結果をFigure 7に示す。試験期間を通じて温浴群と対照群の間に有意な差はみられなかっ

た。

3.4. 病理組織学的検査

精巣で認められた個体別の病理組織学的所見をTable 3に示し,代表的な変化をFigure 8 に示す。

温浴群の 3 例では,全例で精母細胞,円形精子細胞,及び伸長精子細胞数の減少が認め られた。精母細胞及び円形精子細胞の減少は軽度から中等度であり,伸長精子細胞数の減 少は 3 例全例ともに重度であった。また,温浴群の全例で精母細胞及び精子細胞の変性像

が認められた。対照群では前述の変化は認められなかった。

3.5. miRNAマイクロアレイ解析

温浴群の精巣では,対照群と比較して 11種のmiRNA量が上昇(>2.00倍)し,13種の miRNA量が低下(<0.50倍)していた(Table 4)。発現量が低下したmiRNAのうち,miR-34/449 ファミリーに属する miR-34b-3p,miR-34b-5p,miR-34c-3p,miR-34c-5p,miR-449a,及び

miR-449b-5pは,対照群と比較して温浴群で0.23-0.42倍の低下を示した。一方で,精巣特

異的miRNAであるmiR-202-5pの発現量には,2群間で差は認められなかった。miR-508-3p

については,本マイクロアレイ解析では検出できなかった。

3.6. RT-qPCR解析

精巣中miRNAの測定結果をTable 5及びFigure 9に,血漿中miRNAの測定結果をFigure 10にそれぞれ示した。

精巣では温浴群でmiR-34b-5p及びmiR-34c-5pの発現量が対照群よりも低値を示した(P <

0.05)。miR-449aの発現量には群間有意差は認められなかったが,対照群と比較して約13%

の低値を示した(Figure 9)。温浴群の3例における個体別のmiR-34b-5p及びmiR-34c-5p発 現量は,共に動物番号005 が最も低値を示したのに対し,動物番号006 は最も高値を示し た。血漿では,対照群におけるmiR-34c-5p量の変動幅が約4倍と大きかったため,温浴群 では対照群の変動範囲を超える顕著な上昇は観察されなかった。miR-202-5p についても,

対照群と温浴群の間に有意差は認められなかった。

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