1.4 美容教育の実態調査
1.4.1 インドネシアにおける美容教育
インドネシアの美容サロン
インドネシアの美容室あるいは美容サロンは、大きく、「一般大衆向け」、「中間層向け」、
「富裕層向け」の3つの階層に分けてとらえられる。「一般大衆向け」の美容室は、数は多 いがいずれも小規模で、機能的にはシャンプー、カット、パーマを中心とした「ヘア」の 処理がメインである。利用料金は、1回当たり約数百円~2,000円程度である。一般大衆層 の平均月収が2万円前後(200万ルピア前後、100ルピア=1円として計算)と言われてい るので、いわゆる貧困層ではなかなか利用できない料金設定であるが、経済成長と共に、
徐々に利用者は増えている。
「中間層向け」の美容サロンになると、ヘアだけでなく、スキン(メイクアップ)、ネイ ル、スパのサービスのそれぞれが受けられる専門サロンが中心となり、中間層の中でも「ア ッパーミドル」層の利用が伸びている。平均的な利用料金は、幅は大きいが、3,500 円~
7,500円程度と言われている。
「富裕層向け」の高級サロンになると、ほとんどすべての美容サービスを高度な水準で 利用でき、1回の利用料金も1万円~5万円になるが、近年、利用者が非常に増加しており、
人気のある高級サロンは予約がなかなか取れないほどである。インドネシアの上流階級で は、結婚式をはじめ、さまざまなパーティへ参加する機会が多く、月に3~4回高級サロン へ行く人も多い。
インドネシアの学校制度と職業高校における美容教育
インドネシアの基本的な学校制度は、図 8に示す通り、わが国と同様、6-3-3制である。
インドネシアの美容教育は、主に、職業高校(SMK12)において実施されている。わが国の 場合、美容師の国家試験は基本的に、高等学校の卒業生に対して、実質2年間(2010時間)
学習しないと受験できないが、インドネシアでは、中学校を卒業後、SMK での 3 年間の学 習でLSKに合格し卒業資格を得て、さらに、LSPを取得すれば、美容師になれる 13。
インドネシアでは、日本の「美容師法」に相当する法律がなく、LSP を取得していなく ても美容室を開業・運営することは可能であるが、現状では、LSP の意味を国民の多くが 理解しており、LSPを取得した美容師がいる美容サロンを信頼している。その意味で、LSP は日本の美容師免許に近い機能を持っているといえよう。
12 SMKはsekolah menungah kejuruanの略で、専門高校あるいは職業高校を意味する。一 般の高等学校はSMA(sekolah menengah atas)と称する。
13 LSKはLembaga Sertifikasi Kompetensiの略で、専門高校卒業程度の能力水準を公的に 定義したものである。この能力水準試験をパスしないと、SMKを卒業できない。また、LSK に加えて、LSP(Lembaga Sertifikasi Profesi)という資格があり、この資格を取得すれ ば、プロとしての美容技術を持っていると評価される。LSPの内容については、「1.7 美 容教育の質保証・向上策の実態調査」で取り上げる。
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図 8 インドネシアの学校制度 14
SMKの実態
SMKで美容学科を持つ学校は全国で143校(うち、国立の学校は15校)である。
本調査では、これらのうち、国立ジャカルタ第27職業学校の美容学科を訪れ、高校長、
美容学科長に対するヒアリングを実施した。
14 外務省、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/h11gai/h11gai019.htmlよ り引用
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-ヒアリングの様子-
基本属性
· 学生数
表 10の通り、全部で171名が学んでいる。
表 10 国立ジャカルタ第27職業高校の美容学科の生徒数(人) コース 1年生 2年生 3年生 合計
ヘアコース 30 28 28 86
スキンコース 25 30 30 85
合計 55 58 58 171
· 教員・教育の状況
専任の教員は、ヘアコース 3名、スキンコース3名、計6名で、全員が UNJ(国立ジャ カルタ大学)出身である。
美容サービスは成長産業であるが、現状では学校のほうがそれに追いついていない。そ の結果、次のような弱点があると認識されている。
①技術が古い ②設備が古い
③教員の数が不足しているため、十分な教育が行えているとはいえない ④民間からの支援が少ない
· 学費
この学校については無料である。一般的に、公立の高校は、入学料 2 万円(2,000,000 ルピア)~8万円(8,000,000ルピア)、授業料(月あたり)2千円(200,000ルピア)~3 千5百円(350,000ルピア)で、私立の高校は、入学料15万円(15,000,000ルピア)、授 業料(月あたり)2千円(200,000ルピア)~2万5千円(2.500,000ルピア)と幅が大き い 15。
15 金額の例示は外務省ホームページ「諸外国・地域の学校情報」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/world_school/01asia/infoC10200.html
より引用したが、実際の金額は、この例示よりも幅広いと思われる。
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· 受験者数
競争率は高くなく、入りやすい。その一般的な理由として、SMK は大学進学という面で 不利なため、優秀な学生が集まりにくいという点が挙げられる。
また、専門高校では、美容学科よりも、食物学科、観光学科に人気があるという理由も ある。特に、男性の入学者はほとんどいない。美容師の社会的地位はまだ高いとは言えな いため、親の反対が大きいという理由と、美容師の仕事の収入が不安定であるというイメ ージが強いという理由からである。
実際、一般的な傾向として、卒業後の収入にバラツキが見られる。
近年の傾向
しかし、経済成長によって、美容サービスも大きな成長を遂げてきている近年、その傾 向に合わせた状況の変化も見られる。たとえば、次のような変化が挙げられる。
· 卒業後に、メイクアップアーティストとスタイリストとしての成功者が輩出されてき た(SMK の修了者の多くは、一般大衆を対象にした美容サロンに就職するが、各種の 専門サロンに入社して、その後頭角を現す者も出てきた)
· 成績優秀な生徒が大学に進学する割合が増えてきた
· テレビ局でのアルバイトが増えてきたため、将来の可能性や社会的地位の向上の可能 性が見込まれてきた
生徒とのインタビュー結果
国立ジャカルタ第27職業学校の訪問では、授業の様子を見学すると共に、そこで学ぶ生 徒たちにインタビューする機会を得た。
そこではまず、美容師を目指した理由についてたずねた。主な回答は以下の通りである。
· 今は美容院の数が増えてきたので、確実に就職できる
· 学校を卒業して、すぐに就職できる
· 美容の仕事が好きであるし、自分に向いていると思う
· 高い技術が身につき、資格が取れれば良い収入が得られる
· 親(母)も美容師だったことで、この仕事のことをよく知っている
· 将来自分の美容院を経営したい
· 一生の仕事としてやっていける
· 学費が要らない
· 女性の仕事として向いている
· 優秀な成績をおさめれば、UNJ(国立ジャカルタ大学)の美容学科に進学できる
· 結婚しても仕事ができる
· ファッションの流行(K-POPやJKT48のような)に関係した仕事がしたい
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-授業(実習)の様子-
また、同時に、学校に対する不満もたずねてみた。主な回答は以下の通りである。
· 新しいスタイルのヘアが学びにくい
· 自由に使える化粧品の材料が少ない
· 自由でおもしろいヘアスタイルへの挑戦ができない
· 国際的でない
· もっと生徒間の競争があったほうがおもしろい
· 外国人との交流がまったくない(人気がある食物コースなどに比べて)
· 基礎の勉強ばかりである
· 大学に進学するコースがない
· 先生の数が足りない
美容専門学校の実態
インドネシアの学校制度では、図 8(85ページ)に示した通り、高等学校の上に大学と 専門学校が位置づけられている。SMK は基礎的なことのみを学習する高等学校で、卒業生 の多くはそのまま一般の美容サロンに就職してしまい、後述するように、大学の美容学科 は、基本的にSMKなどで働く教員の養成学校である。したがって、わが国の美容専門学校 に相当する美容教育は、専門学校に委ねられることになる。しかし、わが国と異なり、高 等学校を卒業した年齢を前提にした厳しい規制がないため、わが国の美容専門学校と同様 の位置づけを持った専門学校は、実質的に存在しない。
その代わりに、インドネシアには、大きな化粧品メーカーが展開する美容学校があり、
さまざまなディプロマコースを開いている。今回の調査では、インドネシア最大の化粧品 メーカーである「マルタ・ティラアール(Martha Tilaar)社」と、同社が運営する「プス ピタ・マルタ国際総合美容専門学校(Puspita Martha International Beauty School)」を 訪れ、本格的な専門的美容教育の実態を調査した。
インドネシア最大の化粧品メーカー マルタ・ティラアール社
マルタ・ティラアール社は、30年以上の歴史を持つ、インドネシア最大の化粧品メーカ ーであり、現在、次の9つの化粧品ブランドを持っている。
SARI AYU、BELIA、Mirabella、BIOKOS、CARING、
Rudy Hadisuwarno、DEWI SRI SPA、PAC、CEMPAKA
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同社は、インドネシアの伝統的な漢方薬である「ジャムー(jamu)」の効能を化粧品に応 用する技術を持っており、これは国際的にも高い評価を得ている。1996年には、インドネ シアの企業として初めてISO9001の認証を取得し、2000年にはISO14001も取得した国際 的な大企業で、2011 年には国連が認定する国際指導企業 55 社の一つとして認定されてい る。
マルタ・ティラアールグループは、
化粧品会社、製薬会社、美容学校、サロン・スパ・エステ、
ウェディング・オーガナイザーなど
を手がける9つの会社を有しており、グループ全体の従業員数は約5千人にものぼる。ち なみに、インドネシアには、マルタ・ティラアール社の他に、
第2位 ムスティカ・ラトゥ社 第3位 ワルダー社
という化粧品の大手企業があり、国産メーカーとしては、上位3社の寡占状態になってい る。
-マルタ・ティラアール社の研究所-
-マルタ・ティラアール社の専門販売店-
プスピタ・マルタ美容学校
プスピタ・マルタ美容学校は1970年に創立された、トータル・ビューティをコンセプト とする、インドネシアで最も有名な総合美容専門学校である。現在、学校は、ジャカルタ、
スマラン、スラバヤ、バンドンの4都市にある。ジャカルタ校の現在の在籍学生数は約600 人で、学生の年齢は14~45歳に分布しており、1年間の卒業生は約700名である。
プスピタ・マルタ美容学校は、専門学校と言っても、日本の専修学校制度における専門
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