これまで,BSCを用いたインタンジブルズ・マネジメントの統合化を検討 してきた。インタンジブルズ・マネジメントの統合化には統合思考を持ち,コ ネクティビティとマテリアリティを確保する必要があった。本節では,インタ ンジブルズ・マネジメントの統合化に期待される効果を 3 点述べる。
第1の効果は,外部情報と内部情報の一致である。外部と内部の一貫性を持っ た価値創造プロセスは,ステークホルダーに適切な情報を提供する。さらに,
経営実態を反映した情報を受けたステークホルダーが企業に対して,評価を行 えるだけでなく,企業はステークホルダーの意思決定,行動や意見を戦略に役 立てる情報利用を行うことができる。
第 2 の効果は,組織間のアライメントである。統合思考に基づいて,コネク ティビティとマテリアリティを確保したBSCを構築することは,戦略管理に 役立てることができる。価値創造プロセスが明確になれば,一人一人の従業員 が,自分の仕事が戦略や価値創造とどのように結びつくかが明確になる。戦略 会議においても,あらかじめ価値創造プロセスを可視化しておくことで,戦略 を検証する際に現状値と目標値のギャップがだれにでもわかるようになり,取 るべきアクションが明確になる。つまり,BSCで価値創造プロセスを可視化 し組織成員で共有することで組織を戦略へと方向づけことができる。つまり,
アライメントを図ることができる。その結果,戦略のPDCAを適切に回すこ とができる。
第 3 の効果は,マテリアリティ情報の企業内外への提供である。インタンジ ブルズ・マネジメントの統合化は,価値創造と価値毀損の抑制の 2 つの側面か らマテリアリティに基づいてインタンジブルズに関する戦略目標を設定し,レ ディネスで評価しBSCを構築する必要がある。マテリアリティを基準とする
ことで,経営者は自社の真の強みや今後どのようにインタンジブルズを構築す べきかが明らかになる。また,ステークホルダーにとっても,このような情報 は意思決定の重要な情報となる。レディネスで測定し,戦略マップで他の指標 と因果関係で結び,資本と結合することで,ステークホルダーは価値創造プロ セスに対してより一層の理解を深めることができる。
まとめ
本研究では,ケース・スタディを通じて,インタンジブルズ・マネジメント の統合化を提案した。本章の貢献は,以下の 3 点である。
第 1 に,インタンジブルズ・マネジメントの統合化におけるBSCの有用性 を明らかにした点である。IIRC(2013)が推奨するオクトパスモデルは,概念 的であるため戦略との関係性が不明瞭という欠点があった。また,オクトパス モデルは,外部報告に焦点が当てられているため,企業内部の戦略管理には不 向きである。そこで,BSCの戦略マップで価値創造プロセスを示すことを提 案した。戦略マップは,戦略を価値創造プロセスとして可視化したものである ため,外部に戦略と価値創造プロセスを開示することができる。また,BSC は戦略管理のためのマネジメント・システムでもある。
第 2 に,ケースを用いて,インタンジブルズ・マネジメントの統合化によっ て,統合思考,コネクティビティ,マテリアリティが担保されることを明らか にした点である。コネクティビティには,財務指標と非財務指標の結合および 資本と価値創造プロセスの結合という 2 つの論点があった。A社の統合報告書 とインタビュー結果から,現状の戦略マップを構築し,コネクティビティにつ いて検討を行った。BSCを用いることで,財務指標と非財務指標は,戦略目 標を因果関係で結んだ戦略マップによって結合することができる。さらに,価 値創造と価値毀損の抑制の 2 つの側面から戦略目標を設定することで,マテリ アリティを確保することができる。
資本と価値創造プロセスは,レディネス評価によって結合される。インタン ジブルズをレディネスで評価することで,現状の資本と期末の資本が明らかに
なると同時に,インタンジブルズの構築を戦略目標とした戦略マップを構築す ることで,資本と価値創造プロセスを結合することができる。ケースをもとに,
現状の戦略マップを提案したが,同社は今後の戦略としてAIを活用した新た なビジネス・モデルを模索している段階にある。そのため,提案した戦略マッ プは,このような戦略を反映することができない。AIを活用した新たなビジ ネス・モデルを反映した戦略マップの構築が待たれる。
第 3 に,インタンジブルズ・マネジメントの統合化による効果を明らかにし た点である。インタンジブルズ・マネジメントの統合化のためには,BSCに よって価値創造プロセスを示すことで,いかにして価値創造すべきかが明確に なる。結果として,適切なインタンジブルズ情報を開示することができ,コミュ ニケーションに繫がる。さらに,組織内で,価値創造プロセスを共有すること で,組織成員を戦略へと方向づけることができる。外部報告のための価値創造 プロセスと戦略管理のための価値創造プロセスに一貫性を持たせることで,ス テークホルダーは,企業に対して適切な評価を下すことができ,ステークホル ダーの意見を戦略管理に役立てることができる。このような好循環を生み出す ことで,企業の持続的な企業価値創造が期待される。
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