図5.4 磁化密度とキュリーの法則 χ = ∂M
∂H =β ∂
∂h 1 Z
∂Z
∂h =β
1 Z
∂2Z
∂h2 −
1 Z
∂Z
∂h
2
= 1
kT [M2−(M)2] = 1
kT(M −M)2 (5.20)
この関係式は,磁場中での磁気モーメントのもつ位置エネルギーが(5.15)の形になってさ えおれば,磁気モーメントの間に相互作用のある強磁性体のような場合にも適用できる。
5.4 イジングモデル *
ベクトル量の磁気モーメントmの代わりに,±1の2つだけの値をとる変数(イジングス ピン)σ (しぐま)ギを用いて簡単化したものをイジングモデルという。元々は合金のモデルで あって,磁性体だけでなく気体の格子モデル3 としても用いられる。
相互作用がなく各スピンが独立な場合,磁場Hのもとで1スピンが持つエネルギーを
H1 =−σH (5.21)
とすれば,1スピンあたりの磁化mは,σ = ±1に対応するボルツマン因子e−βH1 = e±βH をかけた期待値
m =σ= eβH −e−βH
eβH + e−βH = tanh(βH) (5.22)
で与えられる。tanhx= sinhx/coshxである。磁化率は χ0(T) =
∂m
∂H
H=0
= C
T (ただし,C = 1/k) (5.23)
3 格子点iに分子が居る場合にはτi = 1,居ない場合はτi = 0となる変数τiを用いてσi = 2τi−1とすれ ばよい。分子が大きさを持つこと,すなわち斥力の効果が格子空間で表される。一方,分子間の短距離引力 は,隣りあう格子点(i, i)上に分子対が居るときだけエネルギーが低くなるとすればよいから,相互作用
−K
(ii)
τiτi
(τi=τi = 1のときだけ−K,それ以外では0)で表すことができる。
と,ここでもキュリーの法則の形となる。
ある種の磁性体では,隣り合う2つの磁気モーメントの間に,互いに同じ方向(あるい は逆方向)を向こうとする相互作用(交換相互作用)が働く。これは,イジングモデルで はハミルトニアン
H =−
i
Hσi−J
(ii)
σiσi (5.24)
で表すことができる。iはスピンを配置した格子上の各点,(i i)は隣接する格子点の対を 表す。J >0の場合を強磁性,J <0の場合を反強磁性という。
1次元系 1次元環状にN個のイジングスピンが並べられた系を考えよう。この場合の 全系のエネルギーは以下のハミルトニアンで表される。
H=−N
i=1
Hσi−JN
i=1
σiσi+1 , ただしσN+1 =σ1 (5.25)
分配関数は
Z =
{σi=±1}
exp
βN
i=1
(Hσi+Jσiσi+1)
=
{σi=±1}
!N i=1
exp
βH σi+σi+1
2 +Jσiσi+1 (5.26)
となる。ここで正方行列に関する公式
対角和(トレ−ス)
s
Ass = TrA (AN)ss =
s2
s3
· · ·
sN
Ass2As2s3· · ·AsN−1sNAsNs
により,(5.26)は2行2列の行列 A=
{+1,+1}成分 {+1,−1}成分 {−1,+1}成分 {−1,−1}成分
=
exp[β(H+J)] exp[−βJ]
exp[−βJ] exp[β(−H+J)]
(5.27) を用いて
Z = Tr AN (5.28)
で計算することができる。(転送行列の方法)ここで行列Aの2つの固有値をλ1,λ2(ただ しλ1 > λ2)とすれば,行列の対角和は固有値の和で与えられることから
Z = TrAN =λN1 +λN2 =λN1 [1 + (λ2/λ1)N]
5.4. イジングモデル* 55 したがって,N 1のとき
logZ =Nlogλ1 (5.29)
となる。2行2列の行列Aの固有値は簡単に計算できて λ1 = eβJcoshβH+ e−βJ
1 + e4βJsinh2βH (5.30) である。今の場合,1スピンあたりの磁化すなわちσは,βH =hとして
σ= 1 N
∂logZ
∂h = ∂logλ1
∂h = 1 λ1
∂λ1
∂h から計算することができ,磁化率は
χ= ∂σ
∂H = e2J/kT
kT (5.31)
となる。高温ではキュリーの法則が成り立つが,T →0ではT−1よりも更に急激な発散を 示す。互いに平行になろうとする交換相互作用のため,低温ではわずかな磁場でもスピン が整列するからである。2次元以上の格子上にイジングスピンが配置された系では,ある有 限温度TCで磁化率が発散し,2次相転移を示す。TC以下の温度では自発磁化(lim
H→0σ = 0)
が現れる。
このように最も簡単化されたイジングモデルであっても,スピン間の相互作用が入った とたんに計算は圧倒的に難しくなり,2次元系の計算には更に高度な職人芸を要し,3次元 系では今のところ厳密な解法はお手上げの状態である。
平均場近似 1次元系の解で見たように,スピン間の交換相互作用は結果的に磁場を強 める相乗効果を持つ。このような現象を一般に協力現象という。このことを計算に積極的 にアイディアとして取り込むのが平均場近似(または分子場近似)である。スピン(磁気 モーメント)の間の交換相互作用は,普通,格子上の最近接スピンの間にだけ働くとして も差し支えない。この場合,格子点iにある1つのスピンσiのエネルギーは
Hi =−(H+J
i
σi) σi (5.32)
と書くことができる。iは格子点iに隣接する格子点を表し,2次元正方格子では前後左右 に4個,3次元立方格子では前後左右上下に6個の最近接点がある。スピンσiの期待値を求 める際に,その周りのσiを,(これから求めるべき)期待値m = σで置き換えてしまおう というのが平均場近似の基本的な考え方である。すなわち,最近接格子点がz個あるとし て,(5.32)の( )の中を
H =H+zJm
図5.5 平均場近似 で置き換え,(5.22)を用いて磁場H中でのσiの期待値mを
m= tanh(βH) (5.33)
で与えれば,未知数mが満たすべき方程式 m = tanh
H+zJm kT
(5.34) が得られる。まず,磁場Hしたがってmも微小として,(5.23)を用いて(5.34)の右辺を展 開すれば
mχ0(T)(H+zJm) (5.35)
となり,これをmについて解きなおして磁化率 χ(T) = m
H = χ0
1−zJχ0 = C
T −TC (TC =zJ/k) (5.36) が得られる。これをキュリー-ワイスの理論という。TCをキュリー温度といい,磁化率は有 限温度T →TC+ 0で発散し,TC以下では自発磁化(lim
H→0σ = 0)を生じる可能性がある。
実際,(5.34)はHをm,T の関数4 として解くことができて,今の場合の状態方程式 H(m, T)
kTC = T
2TC log 1 +m
1−m −m (5.37)
が得られる。図5.5(a)のように,確かにT < TCではH = 0でm= 0の解(•点),すなわ ち自発磁化をもつ。自発磁化mS(T)の温度依存性は,(5.37)でH = 0と置くことにより
T
TC = 2mSlog 1 +mS 1−mS
4 y= tanhxの逆関数は,x= tanh−1y= log
(1 +y)/(1−y)である。