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アグロフォレストリーでのコーヒー生産事例―エクアドルインタグ地区

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第 4 章  日陰栽培とアグロフォレストリー

4.6 アグロフォレストリーでのコーヒー生産事例―エクアドルインタグ地区

 

ここで 1 つの事例を取り上げることにする。それはエクアドルのインタグ地方で行われ ているアグロフォレストリーによるコーヒー生産である。ここのコーヒーは認証を受けて いるわけではない36が、フェアトレード企業(株)ウインドファームが取引を行っており、

32 増井、前掲書、p.124参照。

33 現在日本の林業は停滞しているが、この理由のひとつは日本の森林の多くが急傾斜地にあるからである といわれている。傾斜地の林業は平坦地に比べて林道の整備も難しく、手入れや木材搬出に大変な労力を 要す。

34 冨田教授も述べているように、アグロフォレストリーだからすぐ有機栽培が容易にできるというわけで はない。組み合わせや量も重要である。論文を集める限り、アグロフォレストリー研究の最大のテーマは その組み合わせで、研究が続けられている。相性がよいものと悪いものとがあるので、組み合わせを間違 えれば逆効果になることもあるからである。また、量についても冨田健太郎氏はコスタリカにおける木材 用樹種とコーヒーとの組み合わせの研究から、haあたりの木材用樹種の植栽密度が多すぎるとコーヒー、

木材双方において経営的にマイナスになることを明らかにしている(冨田健太郎氏、トミケンのアグロフ ォレストリー研究ホームページ  http://www.tuat.ac.jp/~tropical/agroforestry/report9.htm  200312 11日参照)。

35 小農は自分が労働者であるので、健康面から農薬はなるべく使いたくないという切実な事情がある。

36 先ほど述べたように、認証にはJAS法の壁がある。認証費用や手続きが小農には難しいとウインドファ ームは説明している(ナマケモノ倶楽部、前掲書、p.54参照)

日陰栽培(森林栽培37)かつ無農薬栽培であるとして販売しているものである。販売価格は 200gあたり640円である。有機コーヒーのときに試飲してもらった友人、大学祭のアンケ ートでもかなり高い評価を受けた。また、エクアドル産のプレミアムつきコーヒーとイン タグコーヒーとでゼミにおいて先生、学生に比較してもらったところでもインタグコーヒ ーの方がおいしいという評価を受けている。

 インタグ地区は標高1000m〜1800m、年間雨量 2000mm〜2700mm、気温 20℃〜25℃

とコーヒー栽培に最高の環境にあり、細々とコーヒーが他の農産物とともに育てられてい たところである。コーヒー栽培の適地であると同時に、そこはコロンビアの西側からエク アドルの北西部にまたがる「チョコ生命地域」と呼ばれるところに属していて、世界で 10 本の指に入る多様な生態系の宝庫であった。その地域の多くはすでに牧草地やバナナ、パ ーム油などのプランテーションにされていた。エクアドルは銅資源が豊かなことから、1991 年からJICA(国際協力機構)の委託で大手商社が試験採掘を始めていた。試験採掘の段階 でも、ヒ素やカドミウムなどの重金属で唯一の水源が汚染され始めていた。日本では足尾 鉱毒事件があったように、銅山開発は自然環境に多大な悪影響を与える。地域住民はこれ に対抗するため、DECOIN(Defensa y Conservación Ecológica de Intag:インタグの生 態系の防衛と保護)という環境保護団体を結成した。この団体は欧米の森林保護団体の支 持を得ていった。運動は大きく取り上げられ、賛否双方から議論が巻き起こった38。  開発賛成派の理由はインタグ地区の経済的貧しさであった。地区の一部では国連の調査 で、46%が食べていくのに十分な収入がなく、89.6%が国連の定める貧困ライン以下であ るとされた39。よって単に自然を子供たちのために残したいというのでは開発を止められな い。代替の発展手段を提示する必要があった。そこで提示したのが、エコツアー40、民芸品 作成、コーヒーを含めた有機農業の推進である。森林で有機コーヒーを生産することは経 済、社会、環境の課題のすべてに対応できた。そして1998年3月にインタグコーヒー生産 者協会が設立される41

37 ここでは日陰栽培というよりも森林栽培と呼ぶほうが適切と思われる。なぜならば、既存の深い熱帯林 の中にコーヒーが植えられているからである。

38 矢野、前掲雑誌第7号、2001年、pp.1-6参照。

39 貧困ラインは機関や国によっても異なる。国連の調査なので、UNDP(国連開発計画)の指標を用いて いると思われる。UNDPでは途上国の貧困状態にある人々を所得の面から数量的に捉えることだけでは貧 困に接近出来ないとし、所得以外の生活の質的・社会的側面において捉えようとしている。1996年までは、

出生児平均余命、識字率と就学年数、一人あたりGDPや購買力を元に算出した人間開発指数(HDI)で測っ ていた。しかし、1997年からは人間貧困指数(HPI)を導入した。HPIはその国の中で人間貧困がどの程度 発生しているかを示し、全人口中に占める40歳未満での死亡率、社会医療サービス・安全な水へのアクセ ス率、5歳未満の低体重児の割合、成人非識字率等の合成指数を使用する。すべて合わせると、途上国人 口の4分の1以上がいずれかに相当するとしている(国際協力機構ホームページ  

http://www.jica.go.jp/global/poverty/report/020101.html  20031028日参照)。

40 動植物などの自然に恵まれた地域で、自然への影響を極力少なくし、自然体験活動を行う滞在型の観光。

周辺地域住民に収入をもたらし、貧困などが原因となっている破壊されている熱帯林の保護を実現する効 果が期待されている(地球環境研究会編、前掲書、pp.172-173)

41 矢野、前掲雑誌、第7号、p.1-6参照。

 以前述べたように、仲買人を通すと高くは売れない。また、生豆と焙煎豆の価格は大き く異なる。そこで焙煎豆を売ることになる。ところが、国内ではすべてを売りさばくこと ができない。しかし、国外市場ではどんなに社会的環境的意味があろうと、そのままでは ただのコーヒーでしかない。そこでインタグコーヒーの趣旨を理解する企業とフェアトレ ードするという運びとなったのである42。2000 年からこのコーヒーは販売された。買い取 り価格は国際相場の約3倍である43が、3倍でようやく生産原価が回収できる44。コーヒー の販売によって生活を支え、自然保護への基金にできるのである。

 この試みで興味深いのは、1つは森林保護のためという積極的理由で森林栽培無農薬コー ヒーが栽培されていることである。外からの保護圧力やただ慣例の栽培方法に則るだけの 消極的森林栽培ではないのである。そしてもう 1 つはコーヒーにとどまらず、知事が率先 して「参加型民主主義」の手法で、条例を定めて「生態圏保全自治体」となって広範囲の 取り組みを行っていることである。銅山開発という出発点があったものの、エコツアーで コーヒー園をめぐる、焼畑農民にやめるよう促すなど、森林保護のための行動範囲は拡大 しているのである。雇用が得られるという点で賛成している銅山開発派の住民も説得して いる。エクアドルの対外債務は国家予算の50%を超えるほど莫大なものである。国やIMF、

世銀の政策に従えば、自然を破壊してでも債務返済のための目先の利益と外貨獲得に走る のが普通である。ところが、地方自治側がが具体的な対抗策を提示することで、この流れ をはねのけたのである45。この取り組みによりインタグ地区コカタチ郡は、2000 年に国連 人間居住センター(HABITAT)、アラブ首長国連邦ドバイ市から、社会参加と透明性のあ る自治により世界で最もすばらしい試みをした地方自治体として「ドバイ国際賞46」が授与 された47。確かにモデルケースとしては最良の事例であろう。

 彼らにとってコーヒーは森林保護のためのひとつの選択肢でしかなかった。彼らは生態 系と近代的開発とをはかりにかけ、生態系と昔ながらの生活を選択したのである。彼ら自 身によって地域で選択したという点は重要である。アグロフォレストリーと外貨獲得がで きる良質のコーヒー栽培の組み合わせは、このケースからは非常に希望が持てるのである。

彼らは有機栽培であることよりもずっとアグロフォレストリーであることが大事であると 語っている。日陰樹があり、鳥がやってきてクモを食べ、糞が土に返る。落ち葉も肥料に

42 この場合は偶然ともいえるフェアトレード企業と有機コーヒー生産者協会との出会いがあった(矢野、

前掲雑誌第3号、p.2参照)。フェアトレードは企業が常に探し当てるのではなく、時にめぐり合わせも必 要なようである。

43 矢野、前掲雑誌、第7号、p.1-6参照。

44 同上、第8号、20024月、p.17参照。

45 同上、第7号、p.1-6参考。

46 「2年ごとに環境保護や貧困削減、平等な社会づくりなどに貢献している自治体やNGO、メディアなど 10団体に贈られるもの(同上、第8号、p.14より引用)」。

47 同上、第7号、p.1-6参照。

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