「経営哲学の浸透~ JAL 再生を題材として~」
とき:2016年 2 月14日 ところ:鹿児島大学 稲盛会館
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開会挨拶 2
吉田 浩己(鹿児島大学稲盛アカデミー長)
皆さん、こんにちは。本日は第 3 回稲盛アカデミー公開シンポジウムを開催いたしましたところ、こ のように多数の方々にお集まりいただきました。誠にありがとうございます。心から御礼申し上げたい と思います。
鹿児島大学の稲盛アカデミーは稲盛経営哲学の浸透をテーマに、初めて一般向けの公開シンポジウム を昨年の 2 月に開催いたしました。たいへん好評をいただいたことから、さらに稲盛経営哲学の理解を 深めようという目的で、昨年の 9 月に第 2 回目を開催いたしました。今回は JAL 再生における稲盛経 営哲学の実践に焦点を当て、このシリーズの締めくくりの開催と考えておるところでございます。
それでは前にお座りいただきました方々をご紹介したいと思います。まず右手より、先ほどご挨拶を 賜りました本学の前田芳實学長。次は理事の方々でいらっしゃいます。手前から、清原貞夫教育担当理 事。次が島秀典総務担当理事。次が企画担当理事の高松英夫先生でございます。お忙しい中ご列席を賜 りまして、本当にありがとうございます。
そして、一番右に座っておりますのが、第 2 部でパネリストを務めます、稲盛アカデミーの吉田健一 准教授でございます。
それでは左手のほうに移ります。私の一番近くに座っていらっしゃるのが、日本エアコミューター社 長の安嶋新様でございます。きょうは、「いかに高い目標を達成するか~ JAC における稲盛経営哲学の 実践~」という題で基調講演をいただきます。さらに第 2 部のパネルディスカッションにおいては 4 人 のパネラーの方々とともに稲盛経営哲学の組織への浸透をテーマに、その理論と実践ということについ てご議論をしていただきます。
次は、本日パネラーを務めていただきます、京セラ株式会社取締役執行役員常務で本稲盛アカデミー 客員教授の大田嘉仁様でございます。大田様には第 1 回の公開シンポジウムで、稲盛名誉会長と一緒に JAL の再建に携わった体験に基づき、基調講演をしていただきました。
次はパネルディスカッションで進行役を務めていただく、大和総研常務執行役員で稲盛アカデミー客 員教授の引頭麻実様でございます。引頭様には前回のシンポジウムで、「なぜ人は、企業は変われたの か~ JAL 再生における稲盛経営哲学の浸透~」というテーマで基調講演をしていただきました。
次はパネラーを務めていただきます、京都大学経営管理大学院教授の若林直樹先生でございます。先 生は企業組織に関わるネットワークと信頼関係の変動とそのマネジメントについて、組織間、組織内、
その社会的基盤の 3 点について社会科学的研究をされている方でございます。
次は本日、特別発言をしていただきます、稲盛アカデミー客員教授のお二人の先生でございます。ま ずお一人目は、京都大学名誉教授で、現在、公立鳥取環境大学経営学部教授の日置弘一郎先生でござい ます。先生は、会社で働く人々の会社人類学、経営人類学という新たな視点でとらえて、時代、時代に おける企業の会社経営の手法や社会との関わり方についてご研究をされておられます。
お二人目は、立命館大学 MOT 大学院教授の青山敦先生でございます。先生は昨年、立命館大学に開 設された稲盛経営哲学研究センターのセンター長も務めておられます。立命館大学のセンターでは稲盛 経営哲学を、経営学・哲学・心理学・社会学の分野から総合的に研究をし、経営哲学の普遍化、一般化 に取り組んでおられます。今後は稲盛アカデミーと更なる連携の強化をお願いし、稲盛経営哲学の研究 をともに進めてまいりたいと思っておるところでございます。
今後も稲盛アカデミーへのご支援、ご理解をお願い申し上げまして、また、本日の公開シンポジウム が皆様方の益々の活躍に資する実りあるものになりますことを心より祈念いたしまして開会の挨拶とさ せていただきます。きょうは本当にありがとうございます。
司会 アカデミー長、ありがとうございました。それではパネリストの皆さん、元の席にお戻りくだ さい。
それでは、これより第 1 部を開催いたします。本日のご講演は、先ほどご紹介のありましたとおり、
日本エアコミューター株式会社社長の安嶋新様です。それでは安嶋様、よろしくお願いします。
第 1 部
◎基調講演
いかに高い目標を達成するか
~ JAC における稲盛経営哲学の実践~
日本エアコミューター株式会社 代表取締役社長 安嶋 新(やすじま あらた)
皆様、こんにちは。只今ご紹介にあずかりました安嶋でございます。破綻直後の2010年に日本エアコ ミューターの社長を拝命いたしまして、まだ社長経験はわずか 6 年でございます。そのようなわずかな 社長経験の中で、このような場でお話をさせていただくというのは、はなはだ僭越と申しますか申し訳 ない気持ちがありますけれども、一生懸命お話をさせていただきたいと思いますので、何卒よろしくお 願いいたします。
まず、本日お話しさせていただく内容にいきたいと思いますが、まず話に入る前に、我々が、本日、
事業を継続させていただけているのは、本当にここにいらっしゃる皆様をはじめ関係されたすべての皆 様のおかげでございます。お話を始めさせていただく前に、最初にそのことについてお礼を申し上げた いと思います。本当に皆様、ありがとうございました。
それでは早速内容に入らせていただきます。これが今日お話しする内容でございます。弊社の概要、
経営破綻前はどんな状況だったのか、それからその後の取り組み、また起こった変化等についてのご説 明、それから最後に、弊社が現在努力しております企業価値向上への取り組みにも若干触れさせていた だきたいと思っています。
前回、 2 回目のシンポジウムは、どちらかというと意識とか心といったようなものが中心のディス カッションだったと思います。ここで私がいただいている役割は、その心、意識といったようなものを ベースに、実際にどのような施策その他が実践されていったのか、ここのところをお話しするのが私の 役割だと認識しておりますので、そういったお話を中心にさせていただきたいと思います。
JAC の概要
弊社の概要につきましてはお手元の資料にございますので、ここでは簡単に触れるだけにさせていた だきたいと思います。
社員数456名、売上高252億円、年間にご利用いただいているお客様163万人、 1 日大体4,500人という 規模の事業を運営させていただいているということでございます。
保有機材ですけれども、この写真にございますとおり、Q400という飛行機を11機、サーブ10機、計 21機を保有しています。ここに記載はございませんけれども、航空機を含みます資産の規模は、2015年 末で大体220億円。そういうようなバランスシートの大きさの会社であるというふうに、最初の時点で はご認識をいただければと思います。その後、中ほどで必要に応じてご説明いたします。
経営破綻前の状況
経営破綻前の状況でございますけれども、JAL グループが経営破綻いたしましたのは、2010年 1 月 19日、まだわずか 6 年前のことです。われわれ JAC は直接的には会社更生法の適用は受けませんでし たが、当時キャッシュフローのほとんどすべてを親会社である JAL に依存しておりましたので、JAL がキャッシュが回らなくなった時点で、われわれも実質的には完全に破綻状態になったということでご
ざいます。
では、経営破綻前の状況を少し具体的にお示ししたいと思います。
まず、経営破綻前の JAL グループにおける JAC 社の役割ですけれども、一義的な使命はもちろん安 全運航を大前提として、離島を中心とした生活路線を維持していくこと。これがわれわれの主なミッ ションだったわけですが、それ以外に、じつは親会社がジェット機を飛ばして非常に赤字を出していて、
ある意味、親会社の持て余していたような内陸の路線を、われわれが持っているプロペラ機に置き換え ることで、黒字にはならないまでも多少は赤字が減るだろうと。こういったかなり消極的な理由から、
わが社は親会社からの路線移管を脈絡なく受けていました。
元々、ジェット機がやっていたような路線ですから、当然、需要構成と申しますか、運んでいるお客 様の客体の性格などもジェット機に即した需要客体ですので、それはいきなりプロペラ機に置き換えて も、なかなか黒字になることもなく。それからまた意識の中で、親からやってくれと言われてやった路 線なんだから赤字でいいんだと。黒字になるはずはない。逆に親会社から赤字を押し付けられるという ような実態でございましたので、もしキャッシュが回らなくなれば、そこは親が面倒を見るので、これ また別に赤字でもいいんだと。やはりこういうような意識があったことは、どうしても否定できないと 思います。
換言しますと JAC の側に、こういう路線ネットワークを構築して、これだけの利益を上げるんだと、
そのために資金をためて飛行機を買うんだというような、自立的、能動的な意志が欠落していたという ことに尽きるのではないかと思います。
経営12ヵ条第 1 条に、「事業の目的、意義を明確にする」と書いてあります。ところが当時の JAC は、
一体、我々は何のために何の事業をやっているのかという、この第 1 条の基本すらできていなかった。
こういう状況にあったということが、破綻前の状況であったと認識せざるを得ないところでございま す。
これは破綻前の JAC のネットワーク図です。一見すると全国にネットワークが広がって、何だか ちょっと良さげに見えるかもしれません。しかしながら先ほど申し上げたとおり、多くの路線は親会社 の赤字路線をそのまま引き継いでいますので、しかも、元々、ジェット機路線だったために我々が持っ ているようなターボプロップ機、職制に全く合わないマーケットも多く含んでおりました。これが会社 の収支を圧迫していたということです。
翻って、JAL の国際線ネットワーク。ここには図はありませんけれども、同じように示すとすれば、
当時、破綻前の JAL の国際線ネットワークは(このように)、中南米も飛んでいました。パッと見る と、世界にいっぱいネットワークが張られていて、なんか一見かっこいいなと思うようなネットワーク 図だったのではないかと思います。しかしその多くは利益を生んでいませんでした。つまり利益を生ま ない部署、こういったものを会社で抱えていていいはずはないのですけれども、そういった利益を生ま ない部署というものをかなりの部分持っていて、なおかつそこにリターンを生まない投資をしてきてい た。これが破綻前の状況だったと思われます。これが JAC の絵を描いてもこうですし、もし JAL の国 際線の絵を描けば同じような、一見かっこいいけれども、実は利益を生んでいない路線をたくさん抱え ていた。そういう路線図がここに出てきているわけでございます。
次は経営破綻前の社員の意識ですね。今までに申し上げたとおり、赤字でもいいんだ。いざとなれば 親会社がお金を貸してくれるんだ。あるいは、離島路線、生活路線をつないでいるのだからつぶれるわ けがない。大事なことは親が決めてくれるんだ。あるいは、装置産業だから借金が多いのは当たり前だ よね、と。代表的な社員意識はこれです。
私が社長就任当時は、これはほんの一部の社員ではありますけれども、私が後で出てきます黒字とか 利益目標を申し上げた時に、「今までの経営者は、JAC は赤字がちょうどいんだと言っていました。今 度の社長は利益と言うんですね」と言われて、大変お恥ずかしい話ですけれども、正直私もびっくりし ました。利益を上げなくていい会社があるはずはない。しかしそういう意識が、全部の社員ということ ではありませんけれども、あったという現実を、非常に恥ずかしい事実ではありますけれども、やはり 破綻を語るにあたっては皆さんにお知らせしなければならないかと思います。